ホーム > インタビュー&レポート > 『Loading…』=バンドはまだまだ読み込み中! 変化を厭わない姿勢で2025年を突き進む Dortmund Moon Sliders・PETASが考えていること
バンドのあらゆるクリエイティブを
自分たちで手がけることは決めていた
――ぴあ関西版WEBでは初めてのインタビューです! よろしくお願いします。
「よろしくお願いします!」
――今日は2ndアルバム『Loading...』のエピソードを中心にお話を聞きたいのですが、Dortmund Moon Slidersというバンドについてもいろいろとお話しいただけるとうれしいです。まず、バンドの始まりから伺えますか?
「大学時代のバンドが元になっています。当時はUKのインディーロック的な音楽をやっていたんですけど、卒業と就職のタイミングで活動ストップしてしまって。やりたいなぁと思いつつ動きもないまま、個人的にはいろんなフェスやライブに行っていました。それである年に友人たちとフジロックに行った時、TRAVISのライブを見た後で酔っ払いながら"やっぱりバンドっていいよね、やりたいよね"とか話をしていて」
――いいライブを見て盛り上がって。
「そうそう。友人たちも"バンド、やった方がいいよ!"とか言ってきて。TRAVISのライブがすごく天気も良くてちょっとアコースティックな優しいサウンドで、その余韻に包まれたまま勢いでバンドやろう、じゃあ名前を決めようっていうところまで話がいっちゃった。酔っぱらいの戯言として出てきたのが、今のバンド名なんです」
――現メンバーも全員苗場にいたんですか?
「いや、僕以外は誰も(笑)」
――じゃあそこにいたお友達全員がDortmund Moon Slidersに加入する権利は持っていたわけですね(笑)。
「そうそう。でも最初はこの名前で、今やっている音楽とは全然違うことをしようとしていました。アコースティックでちょっとフォーキーな感じで音楽をやりたいなぁと。その時に誘ったのは今も一緒にやっているギターのMARUくんと、他は今はいないメンバーでした。ただ始めてみたらメンバーの熱量が全然違ったからうまくいかなくて、立ち消えみたいになってしまったんです」
――せっかくやる気になったのに...!
「でもそんな時に、僕らの大学の時のバンドの曲を店内でかけてくれていた渋谷のロックバーの存在を知ったんです。僕らの曲がめちゃくちゃ店で盛り上がっているから、前のバンドで再結成ライブをしてくれないかとその店から依頼が来て」
――すごく意外な角度からのオファーですね。予想ができないところからの、というか。
「でしょ? にわかには信じられなくて。今更昔の自分のバンドがウケているなんて、そんなことないだろうと。でもいざライブをやったら、お客さんみんなが僕らの曲を知ってくれていて信じられないくらい盛り上がって。久々に当時の4人が集まってライブハウスに立った時に、"またやっていきたいね"という話になったんです。アコースティックでフォーキーなDortmund Moon Slidersは立ち消えたけど、大学時代にやっていた音楽をアップデートさせて今のモードもちゃんと反映させて、新・Dortmund Moon Slidersとして曲を作り始めたのがバンドの始まりです」
――大学時代の4人が再び集まったというと今は社会人としての生活もあるわけで、音楽をやりたい熱量が同じぐらいとは限らないのでは? とも思います。
「そうなんです。新・Dortmund Moon Slidersとして始まってから、活動が本格化したことでドラムがメンバーチェンジしていますから」
――それがコロナ禍ですか?
「ギリギリ手前でした。でもジャズもやってきたドラムが加わったことで、楽曲の幅も広がってバンドの方向性が固まってきたのが2020年頃でしたね」
――なるほど。今の4人でメンバーが固定されて、"こういう音楽をやっていこう"みたいな方向性の共有はされたのでしょうか。
「いや、全く! 僕がデモを作ってみんなで合わせてく時にこういう感じかな? とかその程度のやり取りはしますけど、具体的な話は全くしていないですね。今も(笑)」
――ただ先ほどからDortmund Moon Slidersを便宜上バンドと言っていますけど、ご本人たちは『メンバー全員が一般企業に勤めながら、音楽活動を両立させている"二刀流" 4人組クリエイティブチーム』と名乗られているのも特徴的です。スタート時から全てのクリエイティブを自分たちで手がけることは決めていたことですか?
「決めていました。今、映像なども自分たちで手がけているアーティストは多いと思いますけど、僕らは本当に角度高めになんでも自分たちでやります。例えばミュージックビデオだとプロデュースしてディレクションして、編集も、完成まで全てやります。自分たちが出演するとなるとどうしても撮影はできないので、カメラマンだけは入ってもらって。本当に自分たちが100%映像制作部隊として作って、アートワークも手がけます。作る音楽と映像をビジュアル的な面できちんとリンクできるのは、僕らにしかない特色だと思いますね」
自分自身もバンドも
Loading...="まだまだ読み込み中"
――この春Dortmund Moon Sliders2枚目となるフルアルバムがリリースされたわけですが、今回約3年ぶりのアルバムとなりました。この3年の間に次作に関して考えていたことはありましたか?
「実は3年のうち1年ほど停滞してしまっていたんです。息切れしちゃっていたというのが正しいんですけど...。2022年に1曲出して、2023年は1曲もできていないような状態で。ステージには立っていたのでライブに対する意識は高まっていましたけどね」
――息切れしてしまった理由は...?
「このプロジェクトでやるべきことって...僕個人の思いなんですけど、社会人をやりつつこっちも本気でやるから面白いと思うし、二足のワラジがどうとか言い訳をせず、そこに甘えないということが僕の中では一番にあるんです。ただ誰にも求められるかどうかもわからずに好きな曲をやるっていうことであれば、もういよいよリリースする必要もないし、ミュージックビデオなんて作る必要もないので、"ちゃんと届ける意識"が大切だと思うんです。そこに意義があると僕は思って曲を作っていたんですよ。でもバンドって1人のソングライターがいるとすると「その人が頑張っていれば進んでくんでしょ?」って結構思われがちなんですけど、全然そんなことはなくて。やっぱり最初のリスナーであるメンバーのリアクションが悪いと進まないんですよ。だから停滞していた時は、僕の書く曲にメンバーが全然ピンと来ていなくて。メロディーの断片にも全然ピンと来ないし、だからセッションも盛り上がらない、みたいなことが2023年はずっと続いてしまって。煮詰まった先に作り方を変えてみたんです。スタジオに立ち返ってセッションでまずやってみる。本当に昔自分たちがやっていたバンドのやり方に立ち返ったみたいなところはあって、2024年でようやく戻って来られた感じがありました」
――じゃあそのやり方が、今のDortmund Moon Slidersにはフィットしていたんですね。
「...そうなのかなと思っています」
――そうしてまた動き出せるようになって、2枚目のアルバムに向かっていこうと。
「そうですね。当初はアルバムにするかEPにするか迷いましたけど、曲も出揃ってきたので頑張ってアルバムにしようかという流れでした」
――今回のアルバムはどのように構築されていったのでしょうか。
「今回で言うとアルバム収録曲を仮にレコードのA面・B面で分けるみたいなイメージをしてもらえたらわかりやすいかな。A面はバンドバンドしている曲...僕らも今後やる機会がすごく多いであろう5曲というイメージで、B面というか後半はいろんなサウンドが入り乱れた感じになっているんです。後半に関してはほぼスタジオワークだけで完結した曲もあるので、ちょっとライブでのやり方がわかんないぞという曲もあったりして。こういう構成を狙ったわけではないけれど、ライブで生きてくる曲と盤で生きてくる曲が並行してどんどんできていった感じがありました」
――アルバムの曲を曲順通りに聴いてみたり、シャッフルするような形で聴いてみたりいろいろしてみましたが、一貫して心に残ったのは"これは本当に同じバンドの曲なのだろうか..."と思えるほど、バラエティーに富んだ楽曲が収録されていることでした。
「ありがとうございます。特にB面にあたる後半には意識して曲のバリエーションを聴かせられるような楽曲を入れ込みました」
――ちなみにライブで生きてくる曲と盤で生きてくる曲があるということに気がついたきっかけはありましたか?
「曲単位で作っているうちに気がついた感じですかね。あ、アルバムはこんな感じに仕立てられそうだぞというか」
――なるほど。今回のアルバムにはすごく詳細なセルフライナーノーツをいただいたので、そこで気になった部分について伺っていきたいと思っています。「Climber」のライナーノーツで、「2025年現在のDMSを表す曲となりました」という一文が心に残りました。それを一言で言うとどんな曲など言葉にできますか。
「この曲は僕らからすると昔に立ち返っている感じで、ド直球なロックソングを当時と違うアプローチで...シンセを入れて作りました。この曲の歌詞の中にはアルバムタイトルの『Loading...』という言葉が入っているんです。バンドが始まった当時と比べてもそうだし、家族だって周囲の友人だって時間が経てば環境も含めていろいろなことが変わっていく。バンドメンバーたちも変わっていったしバンドとしても変わっていった中で、"あくまでまだまだ僕ら自身が読み込み中なんです"という意味を込めて、アルバムタイトルに『Loading...』とつけました。それもあって「Climber」はアルバムそのものをすごく表している曲なんです。そうなった理由としては...僕が昨年の夏に転職を決意しまして、それはそれは個人的に大きな決断だったんです」
――うん、転職は大きいですよね。
「バイトでもなんでも1カ所で長くやる方だった自分にとってはすごく大きなことでした。そういう大きな決断をしたタイミングだったので、自分自身も変化することに対して"恐れるな!"じゃないですけど、奮い立たせるような歌詞になっていったんです。そういういろいろな意味も内包して、アルバムを象徴する曲になったなと思っています」
――今の自分と今のバンドの状態が反映できた曲だったのですね。そして「Oh What A Night」という曲では、ポストコロナのライブシーンを強く意識してアレンジをしたと述べられています。実際、ポストコロナに当たる今のライブシーンをどのように捉えていますか?
「元に戻ったようなそうでないような、僕もまだ掴みきれていないところはあります」
――いろいろなアーティストに取材をしていると、コロナ中ライブができなかったからこそ、コロナ後の今は「踊りたい/踊らせたい」というお話をよく聞きます。
「そういう思いは「Oh What A Night」にも反映されていると思います。曲の中でめちゃくちゃ声を重ねていたりもしますしね。コロナ禍ストレスからの反動ですかね(笑)。僕らもコロナ禍で活動を始めて、ライブができなかった期間の方が長かったくらいですから。だからこそライブで映える曲を! という思いはありました。...そもそも1stアルバムの時には、ライブで映える曲を作ろうという視点すらなかったですから」
――環境がなかったですしね。
「はい。だからこそ今回はライブの現場で鳴らしたらどうなるかということに意識がいったことと、さっきもお話ししたようにスタジオワークでできた曲もあったので、スタジオからの延長線上にあるライブシーンみたいなところにどんどんどんどん気持ちが向かっていったのもありましたね」
――なるほど。このセルフライナーノーツには「G.C.M」や「Monkey Mind」や「Compass」でJ-POPという言葉を使って曲の解説をされていることも目立ちましたし、「どうにもこうにも」ではJ-POPではなく"日本のポップス"と表現されていますが、日本で流行してきた音楽に対するさまざまな視点が込められた曲が数多くあることも印象的でした。
「中でも「G.C.M」と「Compass」はJ-POPを意識して作った楽曲です。J-POPというとアレですけど、"幅広く受け入れてもらえるポップソングを作りたい"という感じでした。それを意識しすぎたがゆえにスランプに陥っちゃったところもあるんですけど(笑)」
――スランプに陥った原因としては、取り組んだことのない楽曲だったからなのか、幅広く受け入れてもらえるポップソングを作ることの難しさゆえだったのか...。
「自分自身そういうポップソングを演奏したこともなかったし、既存の音楽のようになってもしょうがないから自分の中での色付けみたいな作業に苦戦したのかなと思うことはありますね」
――PETASさんが考える"J-POPに必要な要素"というと?
「ややこしいコード感ですかねぇ」
――あはは!
「最近だと例えば星野源さんやKing Gnuの常田さんもそうだと思うんですけど、すごく難しいコードをすごく展開させてくじゃないですか。ああいうのを見ていると、結構ドメスティックに日本の音楽って発達していったんだなぁと思っているんです。フラットにどの国の音楽だろうと聞かれる世の中になった今J-POPはガラパゴス的に発達していったものがあるなとずっと思っていて。かといってそれは今に始まったことではなくて、僕らの子供の頃からDNAに刷り込まれているみたいな音楽であって、そういうところに一度トライしてみて世間に受け入れてもらえるかどうかやってみたかったのはありました。で、そういうことに僕があまりにも躍起になっているものだから"いつまでやるんだ"ってギターのMARUくんがそれに対するアンチテーゼ的な感じで曲を作ってくれたのが「Monkey Mind」でした」
――視点は違えど、J-POPへのまなざしがなければ生まれなかった3曲ですね。
「そうですね、3曲はある種紐付いていると思います」
ーーDortmund Moon Slidersの最新のモードが色濃く反映されているアルバムに仕上がっているとご自身でも表現されていますが、リリースして作品を俯瞰してみられるようになっているであろう今、何を感じられていますか?
「10曲のラインアップを見て、鳴っているサウンドも本当にこういう音楽を聴いてきたし、やりたいと思ってきたし、歌詞で言いたいことも自分の環境の変化も含めて曲に反映されているということもリリースして少し作品と距離ができたからこそ見られるようになってきたなと思います。まぁ今は作品のことよりも、これをライブでどう演奏するかということに意識が向いていますね、アルバムのB面は打ち込みもいっぱい使っているので...ステージの上では4人だけでどう音を出すかというか。同期を使えばできるんだろうけど...「Flare」とかは、ドラムが2〜3本入っていたりするんでねぇ」
――それは悩ましいですね。何本も腕がないと!
「「Waterfall」もピアノとシンセだけで7〜8本も重ねてしまったので、まだどうやるか自分たち自身見えていないところはありますけど、どうやるかを考えるのも楽しみです」
――ライブを重ねることで曲も育っていく感じがよりありますね。ちなみにこのアルバムでDortmund Moon Slidersに出会う人に、ぜひ見てもらいたいというMVを伺えたらと思います。
「一番見てもらいたいのはやっぱりアルバムを象徴する「Climber」のMVですね。ライブのステージングに近い構成でストレートに作りました。アーティスト写真もこのMVと紐付いていますし、僕らの今のビジュアルイメージを一番表現しているMVになっています」
――一旦「Climber」から入ってもらえばDortmund Moon Slidersについてわかってもらえるようにも思えますね。アルバムのリリースで最新のモードを提示した上で今年をどういうふうに走っていくか、プランはありますか?
「まずは4/18(金)にリリース記念のライブが控えています。素晴らしいアーティスト2組とご一緒出来るので、良い刺激を受けてステージに上がりたいなと。普段よりも少し長い尺で演奏する機会になるので、サックスのサポートメンバーも入れて、今作の雰囲気や今の僕らのモードを表現する場にできたらなとは思っています。あとは今回のライブハウスはプロジェクターでの映像表現が出来るライブハウスなので、全ての曲の映像を自分達で制作して演奏と一緒に流すことが出来たらと思っています。ライブにおいてもビジュアル面も含めて一貫して表現出来るのが自分たちの特色だと思っているので!そしてゆくゆくは年内にさらに長い尺のライブができたらうれしいですし、関西でもぜひライブが出来たらと思っています。」
取材・文/桃井麻依子
(2025年4月 3日更新)
発売中&配信中
2640円
DMST-10406
405 PRODUCTION
[TrackList]
01. Climber
02. Oh What A Night
03. G.C.M
04. Foggy Night
05. Hold Me
06. どうにもこうにも
07. Flare
08. Monkey Mind
09. Waterfall
10. Compass
ドルトムント ムーン スライダース=JIPON(Ba&Syn)、PETAS(Vo&Gt) TATSU、(Dr)、MARU(Gt)の4人全員が一般企業に勤めながら、音楽活動を両立させている二刀流4人組クリエイティブチーム。リスナーを〈週末の非日常〉へ誘うサウンドに乗せて、〈日々の生活〉を綴ったリリックを歌う〈日常と非日常を行き来する〉独自の世界観が特徴。楽曲・映像・アートディレクションと音楽活動におけるクリエイティブ、活動におけるマネジメントも含め全てメンバー自らDIY=Do It Yourselfで制作している。〈社会に出て仕事をしていたとしても、自分のやりたいことに制限はない〉と価値観が日々変わり続ける昨今、活動を通して新しい生き方を提示している。サウンドは海外インディーバンドを中心に、洋邦問わずこれまでメンバーが触れてきた幅広い音楽ジャンルを取り込み、自分たちのオリジナルのサウンドを追求している。2022年5月に1stフルアルバム『Life Is Beautiful』をリリース。地上波の音楽番組でもピックアップされ〈キャッチーなメロディーに仕掛けがある〉〈生音にこだわる多彩な表現力〉と評された。
【東京公演】
▼4月18日(金) Spotify O-nest
[出演]Dortmund Moon Sliders/Deep Sea Diving Club/Pablo Haiku
Web Site
https://www.dortmundmoonsliders.tokyo/
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