インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「66歳のこれからもリアルに現代を歌っていきます」 令和の世相を切り取り巷の悲喜劇をユーモラスな歌にする ニューアルバムを携えて、ツアー開催 嘉門タツオインタビュー

「66歳のこれからもリアルに現代を歌っていきます」
令和の世相を切り取り巷の悲喜劇をユーモラスな歌にする
ニューアルバムを携えて、ツアー開催
嘉門タツオインタビュー

オリジナルアルバムとしては6年半ぶりとなる『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~』を3月19日にリリース。今作には1990年代に社会現象を巻き起こした『鼻から牛乳』をアップデートした『鼻から牛乳~令和篇~』や、芸能界きっての“万博通”と言われる嘉門タツオが大阪、関西万博を祝して制作した替え唄『大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~』など計16曲が収録されている。1983年のデビューから40数年を経て、現在でも尽きることがない創作意欲はどこから湧いてくるのか? 新作誕生の背景と原動力を各曲のエピソードと共に真摯に語ってくれた。

制限があればあるほど
その制限からはみ出るギリギリのところを表現する


――ニューアルバム『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~』完成おめでとうございます! 新曲はもちろん、これまでの代表曲も令和の現代版にアップデートされて収録されています。今作はどういったきっかけから制作がスタートしたのですか。

「去年3月のライブの時を、ビクター時代にずっと一緒に制作していたプロデューサーが観に来てくれて、"『鼻から牛乳』のニューバージョン、面白いですね"とお声がけいただいたんです。それがきっかけで今回のプロジェクトのやり取りが始まって、まずできたのが『鼻から牛乳~令和篇~』(M-3)です」

――その『鼻から牛乳~令和篇~』もそうですが、『ハンバーガーショップ~カフェチーノ篇~』(M-1)も、元の1989年版『ハンバーガーショップ』からニューバージョンになっていますが、時代の変化と共に歌にするのが難しいと感じることはありますか?

「それは全くなくて。制限があればあるほど、その制限からはみ出るギリギリのところを表現できるので困ることはないですね。商標登録の関係で、"カフェチーノ"っていうのは造語ですが、カフェで女の子が複雑なオーダーをして、それに対応する店員さんのやり取りっていうのは現代ならではだなと。元々の『ハンバーガーショップ』は客が店員さんに絡んでいく内容ですが、今ではそれがカスタマーハラスメントになるということも含めてメッセージすると総合的に面白いんじゃないかということで作りましたね」

――『インバウンド・ブルー』(M-2)も軽快な曲調とは裏腹に、インバウンドの影響でオーバーツーリズムなどの問題も出てきている国内状況がコミカルに歌われてますね。

「今、街に氾濫するインバウンドの影響力をモチーフにしてますが、これはかつて30年前に日本人がパリに行ってものすごく散在するっていうテーマで作った『無敵の日本海外旅行』の逆パターンですね」

――『ギャーシリーズ』(M-4)は子供達の無邪気な笑い声が入ったキッズライブバージョンで収録されています。

「これはずっとライブでやっている定番曲で、今回はお友達の家のリビングに集まった9人の子供たちの声が入ったとても新鮮なトレトレのイワシのような音源が録れました」

――『なごり寿司(さびマシマシ)〜なごり雪〜』(M-6)も既発曲のアップデート版ですね。

「『なごり寿司』を15年前に初めて発表して、そこからじわじわ歌われるようになって。カラオケに入る前は『なごり雪』にこの歌詞をはめて歌ってたけど、今は『なごり寿司』としてカラオケにも入ってておじさんたちがこぞって歌う人気曲になってます。今回はその続編を付け加えた<さびマシマシ>っていうのにしてみました」

――『焼き鳥バカ一代』(M-7)のモチーフとなっているお店は嘉門さんが奥様ともよく通っていたそうですね。

「この15年くらいで200回ぐらい行ってます。人気が高い名店で、今は予約も取れないんですけど、ここの店主がこの10年間に日本の焼き鳥のレベルをグーっと上げたくらいで、カッコよくてみんなこの人に憧れてるほどスター性も実績もあるし、カッコよくて焼き鳥愛がすごいし、そういう熱量のあるものは歌いたい!という思考回路が本質的にあるんで、これはなんとかそのうち歌にしたいなと思ってね。生前、妻にもいろいろ相談しながら一緒に作ったんですけど、完成した曲を聴かせたときも一発合格でした」



宇崎竜童へのリスペクトと万博愛から誕生した替え唄
『大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~』


――『大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~』(M-10)は、昨年12月に先行配信もされていてまさにタイムリーな一曲ですね。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの大ヒット曲の替え唄にした理由は?

「僕はまさに万博の申し子なんでね。茨木市で生まれ育って、(1970年の大阪万博は)11歳の時に21回行って、建設地を壊すときまでいれると150回ぐらい千里中央までチャリンコとかバスで行った(万博)原体験と今年の万博と、さらにその中に大阪の笑いと食べ物のことを盛り込んでいます。去年3月に僕のライブで宇崎竜童さんにゲストで来ていただいて、これの原型になる曲を一緒に演奏したんです。せっかく宇崎さんがゲストで来てくれるから、『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』をやりたいし、万博のこともやりたいなっていうその両方があって。本当によくできたドラマチックな歌で、宇崎さんもご自分の万博体験をこれに乗せて歌ってくれました。それをベースによりわかりやすくしたのが今回の『大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~』です。宇崎さんに対するリスペクトもありますし、やっぱりいろんな人がカバーしてきた名曲ですから。僕がゼロからオリジナル曲作るよりも伝わるなと...」

――そうだったんですね。

「はい。やっぱり伝わるかどうかがすごい大事なんですよね。『なごり雪』があって『なごり寿司』ができたようにね。それプラス、そこをそう切っとるかっていう、ちょっと技術的なところも含めて感じてもらいたいなっていうのがあるから、今回の万博の曲は『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』でやりたかったんだと思います」

――『小市民~昭和篇~』(M-11)は現代から昭和を振り返っての「違和感」を歌ったとのことで。

「これも元は30数年前の楽曲ですが、元々"そういうことやるやる"、"私もやるやる"っていうのがコンセプトでしたけども、今回のニューバージョンはさらに昭和を振り返ることによって、"そんなことやってたやってた"、"でもなんであんなことやってたんやろう?"という作りになってますね」

――弦楽カルテットが入った『バイバイ笑瓶ちゃん』(M-15)は一昨年に逝去された笑福亭笑瓶さんに捧げられています。

「(笑福亭)笑瓶、(桂)雀々、北野誠、スターダスト☆レビューの(根本)要さんと僕の5人は、元々みんなヤンタン(※MBSラジオ『ヤングタウン』)から世の中に出てきたので、本当に仲が良くて、しょっちゅうみんなでご飯食べたりしてた仲間なんです。この曲も僕と笑瓶さんとの繋がりがあるから生まれた曲です」

――身近な人が亡くなっていく中で、嘉門さんの死生観は何か変わってきましたか?

「そうですね...、うちの妻や昔の同級生も見送ってきてますし、前のアルバムの『HEY! 浄土~生きてるうちが花なんだぜ~』なんかは終活3部作ということで、どう送るか、どう送られるか、送った後にどう思うかっていうことを歌っていて、その頃から自分はどういうふうに決着つけてこの世を後にするのかなっていうのはすごい考えてて。現存するアーティストでは横尾忠則さんの活動を見てると、枯れずに最後まで表現できる人はできるんやなと。なんとかそこまでは行きたいなっていう気持ちと、もしこの世にいなくなっても、死んでからも笑わしたいっていうひとつのコンセプトがあって」

――そうなんですね。

「はい。死んでからも笑ってもらえるという実感はあるんですよ。まだ死んでないけど(笑)。(自分の)2、30年前、40年前の音源を今聴いて笑う人もいるし、今またサブスクでその頃の曲を新曲として捉える人もいっぱいいてくれてるから。ライブでそこにいる人を楽しませるっていうパフォーマンスもするけども、音源とパッケージにして形に残して積み上げてきたことが間違ってなかったなということをさらに感じているので。それを今後も続けていけたらなって感じですね」



ツアーでは新作からはもちろん
より今を反映した内容に


――今回のアルバムが完成してどんなことを実感されていますか。

「総じて自分にしか歌えない世界というものがより明確になってきた。かつて世の中にアピールできたものを現代にアップデートして新たなレコード会社からリリースすることで結果的に、"66歳のこれからもリアルに現代を歌っていきます! 自分にしか歌えない世界をさらに確立していきます!"という意思表示になったかなと。レコーディングでもプロデューサーが的確に方針を示してくれたので無事に出来上がりました。このプロデューサーとは28年ぐらい前に一緒に仕事をしてきた土壌があった上で、お互い違うフィールドでいろんな仕事を重ねてきて、今改めてタッグと組むことで生まれた面白さが盛り込まれていると思います」

――そんなニューアルバムのリリース後に開催される「嘉門タツオ 至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」ツアーどのようなステージになりますか。

「今回は新作の中からも当然やると思いますけど、過去に評判の良かったもののダイジェストとか、あるいは今後発表したいこととか、今のテレビ業界に関するメッセージとか、あるいは4、5年前のコロナの状況をちょっと振り返るようなことも歌ってみようかと。『小市民~昭和篇~』では昭和を振り返ってますけど、4、5年前のコロナの時の常識って、今から思うとなんであんなことやってたんやろうかっていう違和感なんかもあるので。時代とともに、その時は当たり前だったことも、だんだん違和感が出てくるっていうことを指摘していきたいし、より令和7年の現代を反映するようにしたいと思っています。ライブが終わってからCDにサインしたり一緒に写真を撮ったりしてコミュニケーションもとっていただけます。ぜひ皆さんにきていただけたらと思います」

Text by エイミー野中




(2025年3月26日更新)


Release

Album『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~』
発売中 3300円(税込)
KICS-4187

《収録曲》
01. ハンバーガーショップ~カフェチーノ篇~
02. インバウンド・ブルー
03. 鼻から牛乳~令和篇~(アルバムバージョン)
04. ギャーシリーズ(キッズライブバージョン)
05. どんなんやねん(ライブバージョン)
06. なごり寿司(さびマシマシ)~なごり雪~
07. 焼き鳥バカ一代
08. カッコ良く言ってみるシリーズ
09. 言うたらアカンがな
10. 大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~
11. 小市民~昭和篇~
12. 60なかば
13. 知らんけど
14. うまい事言うなぁ
15. バイバイ笑瓶ちゃん
16. ギターパラダイス

Profile

かもんたつお…1959年3月25日生まれ。大阪府出身。1970年大阪万博に魅了された小学生時代を経験。中学生になりMBSラジオ「ヤングタウン」と出会い、1975年高校在学中に落語家の笑福亭鶴光師匠に弟子入り。1978年笑福亭笑光として「ヤングタウン」のレギュラー出演を果たしたが1980年に破門、放浪の旅へ出る。その後、サザンオールスターズ桑田佳祐氏と出会い、桑田氏の別名"嘉門雄三"から姓を受け、『嘉門達夫』と命名される。そして、嘉門達夫としてヤングタウンのレギュラー出演に復活。1983年「ヤンキーの兄ちゃんのうた」でレコードデビュー。YTV全日本有線放送大賞新人賞、その他レギュラー出演、受賞経験多数。1991年発売『替え唄メドレー』、1992年発売『鼻から牛乳』が大ヒット。同年、NHK「紅白歌合戦」出場。笑いと音楽の融合した独自のジャンルを確立した。主な作品は、アルバム『天賦の才能』『怒涛の達人』『HEY!浄土』、シングル『小市民』『替え唄メドレー』『鼻から牛乳』『さくら咲く』『明るい未来』など。現在は「嘉門タツオ」と名を改め、音楽活動、執筆、YouTubeなど表現の場をますます幅広く展開し続けている。
2024年12月18日、「大阪・関西万博エキスポ~港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ~」を配信。
2025年3月19日、オリジナルアルバムとしてはメジャーレーベルから28年ぶりのリリースとなるニューアルバム『至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~』リリース。
当日「リミスタ」も実施。YouTubeでも参加できる。
3月22日から「嘉門タツオ 至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」ツアーを開催。

嘉門タツオ オフィシャルサイト
http://www.sakurasaku-office.co.jp/kamon/


Live

「嘉門タツオ 至福の楽園~歌と笑いのパラダイス~」

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中
▼3月30日(日) 16:00
なんばHatch
全席指定 大人-6000円(ドリンク代別途要)
全席指定 小中学学生-2500円(ドリンク代別途要)
※3歳以上はチケット必要。3歳未満でもお席が必要な場合は有料。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は3/22(土)10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

【愛知公演】
▼4月12日(土) ボトムライン

チケット情報はこちら