ホーム > インタビュー&レポート > “音楽を続けられたのは、自分たちの音楽が好きやったから。 その気持ちは変わりなく、好きが増していって今日があります” Bye-Bye-Handの方程式、結成10年目に地元大阪で叫んだ愛と決意 『最高密度のLOVEツアー』ライブレポート
開演時間の少し前、OSAKA MUSEに到着すると、フロアは人でぎゅうぎゅうに埋まっていた。オーディエンスは皆タオルやTシャツなどバイハンのグッズを身につけ、ワクワクした様子でライブの開始を待つ。1本目の名古屋も非常に良いライブだったそうで、引き続き会場にはポジティブな空気が充満していた。
本ツアー会場では、2月5日に配信リリースされるEP『nostalgic lovers』のCDが先行販売されていたのだが、フロア後方では同作品のジャケットのイラスト原画が展示されていた。EPには、バイハンが初期の頃に出した自主制作音源からの大事な5曲の再録バージョンが収録されており、3rdミニアルバム『Flowers』(2020年9月)までのジャケットを担当した汐田の同級生のイラストレーターが、約5年ぶりにイラストを手がけた。幼子がソフビ人形や腕を外したロボットのおもちゃで楽しそうに遊ぶ絵は、『ソフビ人間』や『ひかりあうものたち』にも見られる少年性や初期衝動が詰め込まれていて、10年間でサウンドは進化しようとも、心の中の情熱は今も色褪せていないことを示しているようだった。
ステージ上に吊られたバックドロップには「Bye-Bye-Handの方程式 OSAKA TOYONAKA」の文字。定刻になり、真っ赤に染まったステージに清弘陽哉(ds)が現れ、1人ドラムを打ち鳴らす。やがて汐田泰輝(vo.gt)、岩橋茅津(gt)、中村龍人(ba)もジョインし、シームレスに『妖艶さん』へ。ライブハウス特有の距離の近さもあるが、この日はメンバーの姿がより大きく頼もしく見えた。力強く丁寧に、Bメロまでを歌い上げた汐田は「OSAKA MUSEへようこそー! 大阪やれんのか!」と咆哮。そこから一気に加速、爆発力を伴って激しく音の塊を解き放つ。容赦なきパフォーマンスにスイッチを入れられたオーディエンスは、負けじと拳を上げて喰らいつく。始まったばかりなのに、クライマックス感すら漂うほどの熱量と迫力。"ぼーっとしてたら置いていかれる"と直感的に思う。これがバイハンのワンマンだ。
転がるように『darling rolling』をかっとばし、より激しさを増して『風街突風倶楽部』、ショートチューンの『風鈴』『ソフビ人間』を2連発で投下。さらに『romance tower』『ひかりあうものたち』と続けて、あっという間に後方までを巻き込んでいく。時にクールに時に笑顔でメロディアスなギターを奏で、フロアとの距離を近づける岩橋、お立ち台でバッチリソロをキメつつオーディエンスを見つめる中村、三つ編みにタンクトップ姿で途切れることなくビートを刻み続ける清弘、「大阪もっとこいよ!」と煽り、前へ前へと歌声を放つ汐田。メンバー1人1人が自由にステージを動き回り、好きにやっているように見えるが、ブレないサウンドとアンサンブルの分厚さはさすが。キャリアに裏付けられた演奏力が土台にあることがよくわかる。ライブ開始から15分で7曲。豪速球のパンクロックに乗せて魂を燃やす彼らの気合いは、推して知るべしだ。
MCでは汐田が改めて「俺たちがBye-Bye-Handの方程式です! ありがとう来てくれて!『最高密度のLOVEツアー』へようこそ!」と歓迎する。どうやら汐田は、同日にZepp Osaka Baysideで行われていた『フリ放題コーリング』が気になる様子。名古屋のロックフェス『FREEDOM NAGOYA』、大阪のサーキットフェス『見放題』、東京のライブハウスサーキットフェス『TOKYO CALLING』がタッグを組み、若手バンドが東名阪のZeppを廻るというイベントで、バイハンと交流の深いバンドが多数出演していたのだ。主催者もよく知る関係性であることから、悔しさと愛の混ざったいじりが止まらぬ汐田に「喋りすぎ」と岩橋がツッコむ。汐田は、どっちに行くか悩んだ人もいるだろうとして「ハシゴしてでも来た方が良いなと思ってくれた人たちがここにいてくれると思うと、そこに甘えるんじゃなくて、しっかりそれ以上のものを返して、なおかつお釣りまで返したい気持ちなのね。俺たちのワンマンライブ、今日は10周年メモリアル。俺たちはここで育ってきた大阪のバンドなんで、めちゃくちゃ楽しいとこに行きたいんですけど調子どうですか! 一緒にいきましょう!」と早口で語り、『midnight parade』へ。キャッチーなメロディーラインが疾走すると、クラップが自然発生。サビでは見事なシンガロングもあり、尊い瞬間を作り出した。
この後も、息つく間もなく新旧織り交ぜた楽曲を投下していくが、曲が披露されるたびにその良さを認識する。グッドメロディーの良曲揃いで展開も練り込まれ、楽器のリフやフレーズもクセになるものが多い。作詞作曲を担う汐田のメロディーメーカーぶりを改めて思い知った。また、「このバンドで初めて作った音楽、初めて出した音源。大切な日に歌いに来ました(汐田)」と言葉を添えてEP『nostalgic lovers』にも収録されている『Flower Dance』をプレイ。当時を思い出しているのか、初期メンバーの汐田、岩橋、清弘は満面の笑みを浮かべて楽しそうに演奏していたのが印象的だった。
2度目のMCでは『nostalgic lovers』についても言及しつつ、オーディエンスに2015年の流行曲クイズを出すなど、和気藹々とした雰囲気でトークを進行。10周年ということで汐田は「この10年の中で皆に話してないことを話したいなと思って」と、「バイハンの活動の中で起きた1番面白かったこと」を話し始める。高校生当時、清弘がどこへでも(豊中から梅田までも!)自転車で行っていた頃のエピソードを、「シャーン、バキッ!」と関西人らしいオノマトペ満載で臨場感たっぷりに披露。会場を爆笑の渦に巻き込んだ。
そして、昨年10月に東阪で行われたanica、Re:name、バイハンのスリーマンライブ『REUNION/REBLEND』で、全持ち曲の中からくじ引きでセットリストを決めるという企画をした際に取りこぼした曲がある、と2018年リリースの1stミニアルバム『誤春の共通点』から『フォーマルノーマル』をプレイ。イントロから歓喜の声が上がり、リズム隊の地を這う低音とノイジーなギター、まくしたてる早口ボーカルがパワフルにフロアを揺らした。
ここから再び勢いを加速して『nostalgic lovers』にも収録の初期曲『熱帯夜と遊覧船』、中村のスラップが炸裂した『タヒ神サマ』、ループするリフが中毒性たっぷりの『降り立つ天狗は中華街』、ノスタルジックでストーリー性のある『自論文』、切なくキャッチーなメロにきゅっとなる『小さな怪獣』、いなたさと熱と眩しさを孕んだ『待ってくれないわ』までノンストップで7曲を駆け抜けた。
汐田はギターをつま弾きながら、「色んなことを思って、色んなものを感じて、その時をひたすら切り取ったのが、俺たちが10年間で作ってきた曲です。今日は大阪なので、少し俺たちのエゴ強めで。皆が求めてきたセットリストを組めてたらいいなと思います。聴いてくれてありがとうございます」と楽曲への想いを語る。「あの頃はただひたすら前だけ見て、上だけ見て走ってきて。その中で一緒に続けていられなくなったメンバーがいて、抜けたと思ったらこのバンドに入りたいって奴に出会って。そこからまた5年。その10年で今日があります。あの時の感情そのままを思い出すことは全くできなくて。だけどあの時感じていたものは、俺は確かに曲の中に入れてたんやなって。『nostalgic lovers』を作っていた期間で、ワンマンのセットリストを歌ってる中で気付きました。あの頃は何のためにライブをやってるのか、何のために音楽を続けてるのか、そんな理由もなく、ただ楽しいから(やってた)。演者しか見てないフロアで音楽を続けられたのは、自分たちの音楽が好きやったから。今日もその気持ちはずっと変わりなく、好きが増していって今日の1日があります」とバンドの道のりを振り返り、自分たちの音楽愛をハッキリと口にした。
2019年リリースの1stシングルに収録されたバラード『湿恋』の前には「この曲を歌う決意が変わったのは、自分の心の中をさらけ出すことが誰かを救うことになるし、何かに繋がってるんだなと思いました。それが当時は全くわからなかったし、俺は自分の精一杯を出して書いたつもりやったけど、この曲が色んなところに届いて、誰かの近くにいてくれたんやなと思うと、やっぱりこの曲に感謝しないといけないし、対等に他の曲とも向き合わないといけない。自分のエゴだけで作ったEPじゃなくて、誰かがこの曲を聴きたいと言ってくれたから、この曲があったから、『nostalgic lovers』ができたと思ってます。今日もそんな気持ちが皆の中にありますように」と述べ、大切そうに歌声を響かせた。メンバー全員によるコーラスパートでは、フロアもシンガロング。とびきりエモーショナルなハイライトシーンを作り上げると、「大事な曲やります!」と『ラブドール』を投下。一気にフロントマン3人が前に出て音を爆発させる。岩橋はお立ち台に乗ってクールに、中村は大きく開脚して腰を下げて弾きまくる。全てを受け止めたフロアは言わずもがなの大盛り上がり。汐田の「今日まで歌ってきて良かった!」という叫びが、心にぎゅっと届いたのだった。
でっかい声で「来てくれてありがとうございます!」と叫んだ汐田は、OSAKA MUSEに初めて足を運んだのは、2015年3月11日だったと回顧する。「俺が豊中LIP2ndに出会うキッカケになった先輩、音×AIRというバンドがワンマンライブをしてました。中学の卒業式の後、飯行くかと話してた全員を振り切って、全ボタンをあげまして......ちょっとモテたんですよ(笑)。学生服で来たのを覚えてます。その時のライブが忘れられなくて、音×AIRとやりたくてライブハウスに行ったようなもんですよ。バイハンを組んだのがその2ヶ月後。音×AIRは19歳でMUSEをソールドさせて、20歳にはBIGCATワンマンをソールドさせてました。対バンしたこともあったけど、数年後に解散することになっちゃって。そこから"何で好きなバンドがいなくならなきゃいけないんやろう"という不思議な気持ちになって。僕の中に残ったのは、悲しみよりも怒り。"ほな続けたるわ。俺たちを応援してる奴が悲しまないバンドにしたるわ"みたいな。今日ここに迷い込んだ奴らは、俺の大事な奴ら。今日は目撃してくれて本当にありがとうございます!」と感謝を述べる。
10年分の想いは止まらない。自分たちでお金を出してレコーディングをし、近所の書店のコピー機で何枚も失敗しながらジャケットを印刷し、手作業でCDに入れて100円という破格の値段で売った『Flower Dance』。「あの時のCDがどうなっているのか、今誰の元にあるのか、どこかに眠っているのかもわからない。どこかで価値が生まれてそれを取り戻したのが、今回『nostalgic lovers』を作った意味だと思う。自分のためにやってた音楽が、もう綺麗事じゃなくて、確かに誰かの音楽になってると思ってます!」と声に感情を乗せる。
そして「今まで"どこかに立ちたい"とか、"何かをやりたい"とか、"何かを成し遂げる"と言うのがすごく怖かった。それは成し遂げられなかった自分が怖いから。だけど俺は言っていこうと思う。ワンマンライブでZepp Osaka Baysideにも立ちたい。大阪城ホールに俺は立ちたい! ずっと"バンドを続けるためにバンドやってます"と言ってきたけど、もうやめる! 俺はあそこに連れていく! 大阪駅から何十分で行けるあの場所に、何年かかっても俺は行きたい! あいつらみたいな綺麗なのぼり方じゃなくていいから、今日いる奴らを全員連れて行けなくてもいいから、1人でも連れて行きたい。続けていれば俺たちはやり直せる。俺たちは俺たちのまま、ずっと俺たちの音楽を鳴らしていくので、いつだって会いにきてください!」と叫ぶように想いを伝え、『君と星座の距離』を渾身プレイ。汐田の熱い想いを演奏に乗せ、最高の照明の中で堂々とステージに立つメンバーの姿はどこか誇らしげで、貫禄すらも感じさせた。
アンコールでは、代表曲でFM802 2024年5月度の邦楽ヘビーローテションにも選ばれた大アンセム『ロックンロール・スーパーノヴァ』を披露。「一緒に歌ってくれますかー!」との声に応え、フロアはのっけから大合唱。汐田は「BIGCATでもなんばHacthでも大阪城ホールでもワンマンやるぞー!」と叫び、「これからもよろしくお願いしまーす!」と力強く愛を歌う。さらに鋭いカウントから『swamp(沼)』を投下して、もうひと暴れ。思わぬ展開に湧き上がったフロアは懸命に拳を突き上げる。ステージの空気からメンバー間の絆も垣間見えた、まさに最高密度の時間だった。
こうして初の東名阪ツアー、大阪ワンマンライブは素晴らしき大団円で幕を閉じた。メンバーは達成感に満ちた清々しい表情で各々ハイタッチをし、名残惜しそうにフロアとコミュニケーションをとる。そんなメンバーを見つめるオーディエンスの瞳もキラキラと輝いていた。
もがきながら楽しみながら、10年という時間を地元大阪で積み上げてきたバイハン。彼らはこれからも"大阪豊中"を背負ってステージに立ち続けるだろう。3月29(土)・30(日) には、心斎橋・BIGCATで行われる自主企画フェス『Bye-Bye-Handの方程式 pre. "秘密蜂蜜フェス -2025-"』も控えている。既にラインナップも発表され始めているが、今年は2days開催だ。きっと今年もドラマと愛のこもった、彼らにしかできない濃密なフェスになるに違いない。
Text by ERI KUBOTA
Photo by 瀧川まどか
(2025年2月 7日更新)
01. 妖艶さん
02. darling rolling
03. 風街突風倶楽部
04. 風鈴
05. ソフビ人間
06. romance tower
07. ひかりあうものたち
08. midnight parade
09. 閃光配信
10. ぷらねたりゅーむ
11. Flower Dance
12. ラブユー・シーユー
13. フォーマルノーマル
14. 熱帯夜と遊覧船
15. タヒ神サマ
16. 降り立つ天狗は中華街
17. 自論文
18. 小さな怪獣
19. 待ってくれないわ
20. 湿恋
21. ラブドール
22. 君と星座の距離
EN. ロックンロール・スーパーノヴァ
EN2 .swamp(沼)
▼3月29日(土) ・30日(日)
BIGCAT
1DAYチケット 一般-6000円(スタンディング)
1DAYチケット 学割-5000円(スタンディング)
※未就学児童は入場不可。小学生以上はチケット必要。
※入場時ドリンク代別途必要。
※学割対象者は小学生・中学生・高校生・大学生・専門学校生となります。小学生は年齢を証明できるものを、中学生以上の方は顔写真付きの学生証を当日ご持参ください。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
▼4月5日(土) 11:50
大阪城音楽堂
全自由-1000円(整理番号付)
[出演]Enfants/osage/3markets[ ]/なきごと/Bye-Bye-Handの方程式/First Love is Never Returned/muque/yutori/LET ME KNOW [オープニングアクト]月追う彼方
※雨天決行・荒天中止。
※小学生以上有料。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
Web Site
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YouTube
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