ホーム > インタビュー&レポート > 隙間を作らず音をぎっしりと詰め込み 濃密な音像を作り出した全13曲のニューアルバム! 11枚目の作品で見えた“ネオfox capture planサウンド”
悪ノリすらも楽しめる空気が
今のfox capture planにはある
――年の瀬のインタビューということで、1年をふりかえっていただくところからスタートできればと思っております。
「そうですね、今年はとにかく忙しくさせていただきました。制作で家に閉じこもることもライブも多かったし、海外へも行けて。去年(2023年)の紅白に出演をしてから1年も経つなんてちょっと早すぎますね」
――いや、早いと思うしかない仕事量ですし! テレビを見ているとあれもfox? あ、これもfoxの仕事だと、fox capture planの音楽が世の中に溢れた1年でしたが、中でも個人的に大きかった出来事を挙げるとすると?
「この後話に出てくると思うんですけど...fox capture planの3年ぶりのアルバムを作るというのは、やっと実現できたので大きかったです。今回のアルバムの構想は2023年末ぐらいにはありました。次のアルバムに向けてという形でシングルもリリースしていたし、2023年にレコーディングをしていた曲もいくつかあったんです。今回のアルバムで言うと「Delight」、あとは「Step'n」と「Unlock the Future」もあったかな。そうやって徐々に曲を作り始めていたので、いろいろアイデアはありましたが、いつも通り"自分たちがやってきたことを更新していきたい"ということばかり考えていました」
――"自分たちがやってきたことを更新していきたい"とは、これまでのインタビューでもおっしゃっていました。
「周りのインストバンドとか、特にギターレス系のバンド、ピアノやキーボードが入っているバンド...国内外含めたアーティストに対して、自分たちもどうオリジナリティーを出していくかは常に考えているテーマですね」
――ちなみに今回のアルバムの中で、その思いに基づく新しいチャレンジというと...?
「アルバムトータルでというよりは、この曲はこんな感じでというような曲単位でのチャレンジはありましたね。例えばカワイ(ヒデヒロ)くんが作った「GOLD&TURQUOISE」は、90sアシッドジャズサウンドを前面に出しているんです。これまでもそういう要素がある曲はありましたけど、思い切りそっちに寄せてそういうカラーをより強くしたというのはチャレンジだったと思います」
――そういうふうに今思い切ったことができたのはどうしてだったのでしょう。
「なんででしょうねぇ? どこかfox capture planらしさや今までやってきたことを大事にしてきた部分があったので、そこに引っ張られていた部分もあったと思います」
――長く同じメンバーでやってきたからこそというか。
「そうですね。今までのサウンド感みたいなものを、いい意味で気にしすぎなくなっているかなという感覚です。「Vortex」もカワイくんの曲ですけど、これもめちゃくちゃ後半がブラストビートというスラッシュメタルの技法を取り入れているんです。この曲はレコーディング中に笑いが起こったりして」
――笑い?
「なんかふざけて悪ノリでやっているようなことも、そのまま出しちゃおうぜって楽しむような空気があって」
――それって数年前ならやっていないノリですか?
「やってないと思います。まぁ、僕が止めていた可能性もありますねぇ。"fox capture planの音楽のコンセプトとしてはどうなん?"とか言ってたのかなぁ。それが今回はもっとやろうぜ! ぐらいの感じで3人とも振り切っていましたね。あと「Deep Inside」にも挑戦はありました。以前洋楽カヴァーの作品(『COVERMIND』シリーズ ) 作った時に、アークティック・モンキーズやスリップノットの曲をやったんですけど、それをライブで披露したらすごく好評だったんです。そこにヒントを得て作ったのが「Deep Inside」です」
――なぜ好評だったのか、自己分析できますか。
「僕らの緊張感(笑)? 曲のスリリングな感じにお客さんがワクワクしている感じがよかったのかな。緊張感あるけどアグレッシブでもあって、独特の空気があったんです。まさにそういう曲を作りたいと思いました」
―― "アグレッシブ"ということで言うと、今回のアルバムは全曲アグレッシブだなという印象を受けました。曲が進んでもいっさい手をゆるめない感じだし、ゆったりとした曲でさえも息をつかせない圧がありました。
「はいはいはい。そこはあれかもですね、僕らの取り組み方として単純に静かにやりすぎず、ある程度ビート感は残したいっていう意識だったのかなと思います」
――そういうアグレッシブさを2024年の『TRICOLOR』のツアーを拝見した時にもすごく感じていたので、そこからの流れがこういうアルバムにつながったのかなとも思いました。あのツアーでなにかアルバムにつながるヒントは得られましたか?
「まぁ「Deep Inside」は『TRICOLOR』のライブで演奏しつつ変化させていきましたし(ライブツアーの中で公演を重ねるごとにオーディエンスと共に楽曲を育てるという手法が取られた) 、「Delight」もライブで先に披露してからレコーディングに挑みましたし...。やっぱりこの2曲のテンションはすごく高いし、ライブでやることを前提に作った曲でもあります」
――ちなみに「Deep Inside」の"観客と一緒に育てていく"というやり方を採用されたのは初めてだと伺っているのですが、そもそもなぜこのやり方をやってみようと思われたのでしょう。
「前回のツアーは、いわゆるリリースツアーではなかったんですね。わざわざ来てくれた人への手土産というか、次の作品への布石を見せたかったというのが大きな理由です。あとは、次の曲どうする? ってなかなかアイデアが浮かばなかった状況を打破して曲を作りたかったんです。フルバージョンでできていなくても、ライブで演奏することで次のアルバムの方向性も見えてくるのでは? と。そういう積極性を持っての取り組みでした」
――ちなみに「Deep Inside」の始まりから完成までの全ストーリーというか、どういう状態でライブをスタートさせてどんな変化を経て完成したのかを聞きたいと思っていました。
「なんとなく全編考えてはいたんですけどライブを録音したものを聞くと、ドラムのパターンは後半に行くほどまとまってきていました。要はライブの録音データを元に再構成していくというか。途中でドラムが半分のテンポになったり、ピアノのみになったりもするんですけど、その辺をどこまで落とし込んでいくかとか。あと、曲の始まりは結構悩みました。ピアノだけから始まるのかどうか。今までのfoxだとピアノだけから始まって、2人が後から乗ってくる形がスタンダードですけど、オープニングの時点で3人の音が鳴っているのもよりインパクトがある始まり方をしたいと試行錯誤した表れですね」
――観客と一緒に作り上げていく手法のよかった点はありましたか?
「ライブで初めてお客さんの前で演奏してその反応を得てレコーディングに持っていくことで、新しいアルバムや新曲をガンガン作っていこうというモチベーションにつながったかな。よりバンドらしい作り方でもあったのかなとも思います」
――なるほど。最初に数曲が存在していたうえで、どんなアルバムを作ろうかというような方向性はどう考えられていたのでしょう。
「直近のアルバムで展開していたサウンドの幅をもっと広げるというテーマがあったので、今回はよりサウンドやリズム、それらのジャンルも含めて広くしたいとは考えていました。まあでも「Deep Inside」や「Delight」は、従来のfox capture planとはそこまでかけ離れていないというイメージもあるんです。こういう曲があったからこそ、その他の曲でもっといろんなことにチャレンジできたというのはあるかもしれません。この2曲をアルバムの始まりと終わりに収録しているのはやっぱりこの2曲がアルバムの方向性を決めてくれたし、自分たちの中で安心感もあってアルバムを象徴する曲だと思ったからだろうなと」
――この曲順を見ても、2曲のどっしりとした柱感をすごく感じます。ちなみに前回のインタビュー時、次のアルバムの構想をお伺いした際には「世界に向けてインパクトのあるものにしたい」とおっしゃっていました。
「そんなこと言ってました? あーでも、アルバム全体的にポップで聴きやすい内容だし、1曲1曲個性が際立っていていい意味で飽きさせない構成は世界を意識した感じありますよ(笑)。サブスクだと海外の方...特にアメリカのリスナーの再生数が多いこともあって、常に海外には目が向いています。あと、アルバムに「Tokyo」という曲を作ったのはアレですよね、おそらくいろいろ示したかったんでしょうねぇ」
――あはは! アルバムの資料に「これまでのfox capture planの楽曲にはなかった雰囲気の新曲が多数収録され、新たなフェーズに入ったfox capture planを感じることができる。」とあるんですが、これをヒシヒシと感じるアルバムだなと思いました。全曲強い、全曲シングルになり得る、全曲インパクトが大きくて、いい意味で攻撃的な構成だと。
「"fox capture planのアルバムならあんな感じかなぁ"というみなさんの想像を、いい意味で裏切っていきたいという意識は毎回持っていますね。それが過去イチ出た作品になったと思っています。3年という長い間にメンバーそれぞれ考えていることに変化があったり、聴いている音楽が変わったりしていますし。まぁそれよりもさっきお話した"やりすぎなんじゃない?"というところを抑制するのではなくて、むしろ自由にやっていこうという意識が芽生えたのは大きかったかもしれないです。...7枚目の『Capturism』というアルバムがある意味自分たちのセルフタイトル的一枚なんですが、ここで僕ら独自のスタイル的なものは一度完結したと思っているんですね。そして8枚目以降はずっとサウンドの幅を広げ続けてきているイメージなので、11枚目に到達してそれが当たり前にできたなという思いもあります」
――ちなみに今回のアルバム制作中、岸本さんの個人的なモードがどんな感じだったのかも知りたいなと思うのですが、心を掴まれていたモノ・コト・ヒトを聞かせてもらえますか。
「うーん、なんだろう? タイトなリズムのものとか、スタイリッシュだけどちょっとクセのある音楽が好きだったかなぁ。そこから派生するようにfox capture planの王道サウンドではないものを作りたいと考えていたのかなと思います」
――個人的には「Strange Disco」に"fox capture planの王道サウンドではないもの"をすごく感じました。
「ベースやバスドラムの音って一番下にドスンといるというイメージなんですが、「Strange Disco」ではあえてステレオっぽいちょっと広い感じにしてみたり。なんていうのかな...音圧かなぁ? 音に関して、今までどこか隙間を作っていたんです。そういう作品は今も好きですけど、今回は音を隙間なくぎっしり。なんかちょっと濃い感じの音像っていうのかな。うん、なんかそういう形になりましたね」
――曲が畳み掛けてくるように感じたのは、音に隙間がないこともあるのかもしれませんね。ちなみに、今まで音の隙間をあえて作ることで表現していたことというのは?
「曲の立体感や奥行きですね。あとこれもよく言っていることなんですけど、4作目のアルバム以降はゲストミュージシャンを交えて一緒に作っていたんです。でも今回は完全に3人だけで制作をしまして、初期の1作目、2作目、3作目以降、3人だけで作るのが11作目まで空いたんです。でも今回、3人で作ったことでうまくいったなと思います。でもこれは最初にコンセプトとして決めたというわけでもなく、たまたま3人とも3人だけで完結できる曲を作っていたというか。なんかネオfox capture planサウンドが生まれた感じかもしれないですね。最初は完全にアコースティックな楽器だけで作っていましたけど、3人だけでやっているとはいえ電子楽器とかいろんなことに対応できるようになってきていて。そういう意味では今回のアルバムコンセプトはネオfox capture planサウンドだったのかなと思いますね。それが新レーベルからの1枚目になったというか」
――その7月に立ち上げられた新レーベルなのですが、バンドとして何ができるようになるとか、便利になる点はあるのでしょうか。
「そもそもずっと所属しているPlaywrightでこれまでフル・アルバムを10作作ってきて、自分で言うのもおこがましいんですけど...僕らが筆頭アーティストのようになってきているんです。僕らの後に集まってきたアーティストたちの旗振り役でもあったというか。その立ち位置で歩み続けるより、後輩が育ってきているし安心して後進に任せようと。設立したレーベルでは音源リリースはもちろんアーティストのプロデュースなんかもしていけるかなと考えています。あと今よりもっと幅広く...メンバー的にはアパレルや飲食もやりたいよねとも話しています」
――おぉ! マルチですねぇ!
「そうそう、総合商社的な感じで音楽に関わらず面白いことを発信できたらと思います。なんていうのかな...総合商社っていうよりはコレクティブ、っていう感じかな」
――メンバーがみんな一緒に年と経験を重ねてきたことで、やりたいことも広がっていきますよね。そちらも楽しみです。そして今日、1年を振り返ってくださいと始めたインタビューでしたが、劇伴制作も今年のfox capture planを振り返る上では欠かせません。中でもドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』は話題になりましたね。
「ドラマ、めちゃくちゃよかったですよね」
――とても良質なストーリーと脚本の"静のドラマ"だったし、音楽の存在が際立ちました。
「音楽もめちゃくちゃ主張しない形でいい感じに使っていただいていたんですけれども、視聴者の方にはすごく音楽が印象に残ったみたいで。ドラマの力で、僕らの音楽も話題に乗せてもらえたのはうれしかったです。今年も劇伴制作はたくさんやらせてもらいましたが、"fox capture planさんの得意な感じでお願いします"と言っていただけるようにもなって、それもうれしいことですね」
――クールが変わっても、「あれ? この作品も音楽がfox capture planだ」なんてことが当たり前に起こっているので驚きます。いつオリジナル作ってるんだろう? って(笑)。今も劇伴制作を当たり前に抱えているんですよね...?
「そうですね、制作中です。これからレコーディングをやって、年内また次の制作に取り掛かるかなという感じです」
――そういう目の回るような忙しさを抱えつつ、『DEEPER』のリリースツアーも行われます。今考えていることはありますか?
「全国的にほとんどの会場ではスタンディングのライブになるんですけども、大阪・名古屋・東京だけは椅子を出して、僕がグランドピアノを弾くんです。バナナホールにいいグランドピアノがあるんですよ。大阪でグランドピアノを使うのは初めてではないんですが、かなり久々なのでぜひお越しいただけたらと思います」
取材・文/桃井麻依子
(2025年1月17日更新)
発売中
3000円
CPRM1
CapturisM.
《収録曲》
01. Deep Inside
02. Tokyo
03. Step’n
04. Waterfilm
05. Vortex
06. Unlock the Future
07. GOLD&TURQUOISE
08. アンメット
09. December
10. Strange Disco
11. The curtain of night
12. Across the Reef
13. Delight
配信リンクはこちら
フォックス キャプチャープラン…それぞれ違った個性を持つ岸本亮(Piano)、カワイヒデヒロ(Double Bass)、井上司(Drums)が未踏のピアノトリオサウンドを目指し、2011年に結成。これまで10枚のオリジナルフルアルバムを発表し、国内外の大型フェスの出演やドラマ、映画、アニメ、ゲームの楽曲制作やアーティストへの楽曲提供などまで、活動のフィールドは多岐にわたる。2024年は4 月から “TOUR 2024 TRICOLOR”を全国 8 カ所で開催、7 月には新レーベル 『CapturisM.』 設立したのちに積極的に新曲の配信リリースし、12月18日に11枚目となるオリジナル・フルアルバム『DEEPER』を発売した。また、オリジナル作品の制作と並行して、さまざまな映像作品の劇伴制作も担当。TVドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』、『アンメット ある脳外科医の日記』、ドラマ&映画『【推しの子】』など話題作に数多く楽曲を提供。2025年1月に放送がスタートしたバカリズムが脚本を担当することでも話題のTVドラマ『ホットスポット』(主演/市川実日子)、そして向田邦子の最高傑作として名高いドラマシリーズで、是枝裕和の監督・脚色によりリメイクしたNetflixシリーズ「阿修羅のごとく」の音楽を手掛けている。今年2025年2月からキックオフ公演含め、アルバムタイトルを銘打ったライブツアー、TOUR 2025 ”DEEPER”が全国12ヶ所で開催することが決定している。
【東京公演】
▼2月11日(火) 17:00
SPACE ODD
▼3月21日(金) 19:00
梅田BananaHall
一般-6500円(ドリンク代別途要)
U23チケット-4500円(当日要身分証、ドリンク代別途要)
※小学生以上は有料。【U23チケットについて】
※23歳以下の年齢対象のチケットとなります。
※公演当日は、年齢を証明できるIDをご持参ください。(小学生の方は、各種健康保険証・母子手帳・住民票など)確認が取れない場合、一般指定席との差額2,000円をお支払いいただきます。
※上記ご持参いただくものは、コピー及び、写真データは不可となります。有効期限内の現物をご持参ください。
[問]GREENS■06-6882-1224
【石川公演】
▼3月23日(日) 金沢GOLD CREEK
【広島公演】
▼4月5日(土) 福山・Cable
[ゲスト]ALTER EGO
【香川公演】
▼4月6日(日) sound space RIZIN’
【北海道公演】
▼4月20日(日) SPiCE
【愛知公演】
▼4月25日(金) ボトムライン
【東京公演】
▼4月27日(日) 日本橋三井ホール
【福岡公演】
▼4月29日(火) INSA
【群馬公演】
▼5月10日(土) 前橋 DYVER
【新潟公演】
▼5月11日(日) GOLDEN PIGS BLACK STAGE
【宮城公演】
▼5月16日(金) 仙台MACANA
オフィシャルサイト
https://www.foxcaptureplan.com/
X
https://x.com/foxcaptureplan
Instagram
https://www.instagram.com/foxcaptureplan/
YouTube
https://www.youtube.com/c/foxcaptureplan