ホーム > インタビュー&レポート > ジャニスの〇〇と〇〇シリーズ 2024年のラストを飾ったkoboreと時速36kmの2マンをレポート
【時速36km】
台湾のインディーロックバンド、透明雑誌の曲『ノラネコ』の疾走するサウンドを背に時速36kmがステージに現れた。東京の江古田にある武蔵大学で知り合った仲川慎之助(g&vo)とオギノテツ(b&throat)、松本ヒデアキ(ds)で結成。2018年にそれまでサポートだった石井 開(g)が加入し現在の布陣に。この日はオギノに代わりHammer Head Sharkの後藤 旭(b)がサポートを務めた。
仲川がひとつ息を吸って「東京江古田、時速36kmです。よろしくお願いします!」と声を張り、『スーパーソニック』でライブがスタート。間を置かずに『動物的な暮らし』へ続く。仲川の震えるような歌声が、歪んだ爆音に乗ってフロア後方にいる自分のもとまでぶつかるように飛んでくる。強い力を保ったまま突き刺さって五体に染み渡っていく。フロアは無数の拳でステージに応え、真っ赤な照明も4人の演奏の熱を、会場の温度を上昇させるのに一役買っているように映った。
「調子どうすか? 良くても悪くても、終わる頃には何かが上向きになっているように、俺らとkoboreがそうします」と最初のMCで仲川は言う。koboreとはこの日が初対面だけれど、共通の知り合いがいてお互いを知っていた。けどまさか大阪で2マンをするとは思ってもみなかった、と仲川が笑顔を見せる。
ベースのうねりが激しくも心地よい『スーパースター』は、コーラスを歌うお客さんの声が大きく響き、『花束』ではクラップが沸き起こる。それを受けて仲川が顔をほころばせ「ありがとう」と伝えた。『花束』の2コーラス目は石井(g)がボーカルをとる。とてもいい声をしている。フロントの仲川は終始スタンドマイクでギターをかき鳴らして歌い、ステージを右に左に動くようなことはない。が、大きくは動かないボーカリストとは違い、仲川の全身から放出される歌は、ジタバタと這いずり回り盛大に暴れる。その歌は誰かを傷つけてしまうかもしれない鋭い刃も、傷つきやすいナイーブさを秘めてもいる。仲川の代わりにというわけではないが、石井は大きく動き『花束』以外もライブ中ほとんどずっと仲川とともに歌っていた。マイクを通さずに。
この日は時速36kmにとって2024年最後のライブで、「大阪に来れてよかったですわ。会えてよかったです」(仲川)とフロアに心からの感謝を伝える。破天荒なセンスが炸裂したバンド名とは裏腹に、とても丁寧な挨拶。2月20日にツアーの大阪公演があり、それはa flood of circleとの2マンであることも告知。最後の3曲は、10月に配信リリースされたばかりの『ここに立つ』、そして『銀河鉄道の夜明け』『ハロー』。感情の揺れ、喜怒哀楽の全部が混ざり溶け合わないまま、激しいドラムとベースとギターに乗せて吐き出したような怒涛のキラーチューンでライブを締め括った。
時速36kmの公式サイトのフッターには、「誰にも勝てない音楽を」という一文がある。「誰にも負けない」ではなく、「誰にも勝てない」。わずか10文字に強く深い意志が息づいているのを感じる。時速36kmは仲川とオギノの2人のソングライターを擁していて、歌詞もそれぞれに書く。MCの時は髪をかきあげるなどして顔を見せるが、歌っている間は長い前髪が顔の半分くらいを覆っていて仲川の表情はよくわからない。よくわからないが、「気取って見えるかい けど必死で立ってるんだぜ」(「動物的な暮らし」)や、「誰にだってあることだからって苦しくないわけじゃないでしょう」(「銀河鉄道の夜明け」)といった飾らない言葉、日常的な会話の端々に漏れ出てくるような生々しい言葉で綴った歌詞を歌う声はどこまでも真っ直ぐに飛んでくる。わかりやすい前向きさとは距離を置いた時速36kmの歌はしかし、確実に聴くものの心臓を撃ち抜いていた。ライブ後、物販にできた列もそれを物語っていたように思う。
【kobore】
2025年に結成10周年を迎えるkoboreは、東京都府中市のライブハウスFlightをホームとする4人組。セットチェンジするスタッフにまぎれて4人がステージに現れてサウンドチェックを始め、てっきり一旦ステージ袖に引っ込んで再び登場するのかと思いきや、歪んだギターが鳴り響いたのが合図のようにライブへ突入した。これはkoboreファンにはおなじみのオープニングなのだと後から知った。1曲目は『爆音の鳴る場所で』。爆音のなる場所=今いるこのライブハウスだ。歌う前に佐藤 赳(vo&g)が「一気にピークに持って行きますから」と話した通り、わずか1分余りの爆裂ナンバーにフロアは沸点に到達したような熱気に包まれる。「そんなもんじゃねえだろ」(佐藤)と、さらにフロアを焚き付けた『パーフェクトブルー』。koboreには夜を歌った曲が多いが、続く『HEBEREKE』はハッピーな夜が描かれた曲でフロアの歌声も大きくなる。なんといっても、「この夜が永遠に続けばいいと思う」という歌詞にはこの場にいる誰もが共感しているに違いない。
11月27日に発売されたばかりのニューアルバム『FLARE』から、「うまくいかないヤツ、悩みに悩んでるヤツに響けばいい」と言葉を添えて『エール!』を。打ちひしがれている肩をグッとつかんで上向かせるように、ストレートに"頑張れ!"と歌いかける強力な応援歌だ。2025年1月25日の千葉を皮切りにスタートするアルバムを携えたツアーに先駆け、嬉しいライブ初披露となった。MCでは、「あんなに音デカくてカッケー激情的なバンド、久しぶりに見た。すげーアガりました」(佐藤)と時速36kmへのリスペクトを述べる。「36キロ」か、それとも「36キロメートル」か、田中そら(b)や安藤太一(g)とプチ議論が繰り広げられたこともお伝えしておく。
『夜に捕まえて』の間奏で、佐藤がフロアに向かって「会いたい人、いる?」と尋ねた。この曲は女性目線で歌詞が書かれている。不意に投げかけたその一言は、聴く人ひとりひとりを曲の主人公に変えてしまう魔法のフレーズのようだった。冬の曲でもある『ドーナツ』はひときわソフトな歌声でたっぷり思いを込め、それをふちどるように温かみのある演奏が鳴り響く。「あなたにとって幸せはなんですか?」とストレートに歌う『幸せ』に、フロアは拳を突き上げ歌声を轟かせて応える。「明日が来なくても 昨日がなしになっても 僕らには生きている"今"がある」とこの曲は続く。「今しかねえんだよ!」と叫んだ佐藤の声に刹那的なものはなくて、その"今"はこの先の未来につながっていくと信じられる頼もしさがあった。
圧巻だったのはラストの『この夜を抱きしめて』。ぶ厚い轟音とともに「生きるのが不安になった夜はあるかい?」、「ステージを降りると死ぬのが怖くなる」─あまりにも真っ正直なフレーズが心をとらえるこの曲を歌いながら佐藤は、「俺も眠れない日があるよ」「一緒なんだよ」と言葉をはさむ。歌詞の一部を変え、「でも寂しい気持ちがあってよかった この気持ちがkoboreと大阪をつなげた」と叫ぶように歌った。
「お前の探してるもんは、インターネットにもSNSにもないよ。全部ここにある」とフロアを指し、「また待ってる」とこの曲の最後のフレーズを歌い、この夜を締め括った。立ち上がった伊藤克起(ds)はスティックを持ったままピースを掲げる。4人とも、全てを出し切って燃え尽きたような幕引きだった。
アンコールを求める声を聞きつけ、佐藤が1人ステージに現れた。今日のライブは両バンドとも50分一本勝負でアンコールはやらないことを告げ、「体力余ってるならツアーに来てよ!じゃあね」と晴れやかにステージを後にした。初対バンとなったkoboreと時速36km。簡単には消えない確かな手応えとともに、なんとも晴れやかな後味の良さを残すライブを全身で味わうことのできた夜だった。
Text by 梶原有紀子
Photo by 松本いづみ
(2024年12月28日更新)
2024.12.23 Mon at 心斎橋JANUS
●時速36km
01. スーパーソニック
02. 動物的な暮らし
03. ポップロックと電撃少年
04. スーパースター
05. 花束
06. シャイニング
07. stars
08. ここに立つ
09. 銀河鉄道の夜明け
10. ハロー
●kobore
01. 爆音の鳴る場所で
02. パーフェクトブルー
03. HEBEREKE
04. エール!
05. 夜に捕まえて
06. ドーナツ
07. リボーン
08. 幸せ
09. 君にとって
10. STRAIGHT SONG
11. この夜を抱きしめて
PK shampoo主催イベント「千日前オルタナティヴサミット」
SOLD OUT!!!
▼3月29日(土) 18:00
味園 ユニバース
スタンディング-4500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]山田亮一とアフターソウル/時速36km
※再入場時1Drink代別途要。
※飲食物持ち込み不可。
※飲酒される方は年齢の分かる身分証を必ずご持参下さい。
[問]GREENS■06-6882-1224
全国ツアー「FLARE TOUR 2025」
【兵庫公演】
チケット発売中 Pコード:283-119
▼2月8日(土) 18:00
神戸 太陽と虎
スタンディング-4000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]オレンジスパイニクラブ
※3歳以上は有料。
※再入場不可。
※販売期間中は、インターネットのみで販売。1人4枚まで。チケットは、2/1(土)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224
【京都公演】
チケット発売中 Pコード:283-119
▼2025年2月24日(月) 18:00
KYOTO MUSE
スタンディング-4000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]SHE’S
※3歳以上は有料。
※再入場不可。
※販売期間中は、インターネットのみで販売。1人4枚まで。チケットは、2/17(月)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224
【大阪公演】
▼3月29日(土) 18:00
梅田クラブクアトロ
スタンディング-4000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
※3歳以上は有料。
※再入場不可。
※販売期間中は、インターネットのみで販売。1人4枚まで。チケットは、3/22(土)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224