ホーム > インタビュー&レポート > 盟友ドミコをゲストに迎え、ヘヴィでラウドなステージで魅了した 拍謝少年 Sorry Youthジャパンツアーの大阪公演をレポート
最初に登場したドミコも、Sorry Youthもなにはさておき凄まじい音圧。まずドミコは、登場するなり振り下ろした『なんて日々だっけ?』の轟音で、フロア全部を一息に彼らの音楽に引き込んでいった。縦横無尽にギターを弾きながら「大阪〜!」と、さかしたひかる(g&vo)が咆哮を上げる。さかしたの歌声には怪しげな艶があって、それに長谷川啓太のドラムが噛み付きまくる。なんというか、容赦ない爆音と照明の光、会場の熱気、それら全部が一緒になって猛烈な勢いで全身に注ぎ込まれてくる。
そのまま『ペーパーロールスター』へ。曲の後半、恒例の長尺セッションに差し掛かったところで、さかしたが手招きする仕草で長谷川を煽り出す。ドラムセットを挟んで距離を詰めたと思えば、半歩下がってギターの音量を抑えたりテンポを変えたり。応戦する長谷川は、時折椅子を蹴散らす勢いで立ち上がってドラムを叩きまくる。観客の拍手と歓声は、火に油を注いでいるようだった。
エスニックなのかオリエンタルなのか、ダンサブルな『のらりつらり』ではボーカルの存在感がグッと色濃くなる。そこからのラスト2曲は、これぞライブの醍醐味といった瞬間の連続。『問題発生です』のアウトロで、先の『ペーパーロールスター』を上回る熱量のセッションを繰り出したかと思えば、続く『深海マリアナ海溝旅行にて』ではそれがさらにエスカレートする。原曲よりもテンポアップした曲に、極彩色に鈍色を二、三滴落としたような色をしたさかしたの声が、独り言のように歌を吐き出す。
音源でも後半にセッションパートが用意されているが、この日のセッションは10分ほどのロングバージョン。両者が向き合い、さかしたは先ほどまでとは違い両手を伸ばし「もっと来い!」というように思いっきり長谷川を挑発する。一度や二度じゃない。その度にドラミングが激しさを増す。長谷川が振り下ろすスティックがさかしたの暴走をそそのかし、2人の放つ音がくんずほぐれつの大格闘を繰り広げる。それにつられるように歓声の音量も上がる。2人の演奏に熱が加われば加わるほどフロアの温度も上昇する。このままいけばどうにかなってしまうんじゃないか?いつ針がメーターを振り切ってもおかしくないんじゃないか...というところまで上り詰めた快楽?いや酩酊感?を味わったところから、一気に着地へ向かう。振り切った先を見たいような、怖いような、けどその先へ行けるんじゃないかと思わせる熱をはらんだままクライマックスがやってくる。思わず、肩で息をしていた。なんというカタルシス。
会場のSOCORE FACTORYはステージの位置が高く、目が眩むようなギターとドラムのアンサンブルが頭上から降り注いでくるように感じる瞬間が何度となくあった。文字通り、全身で轟音を浴びていたが、それでもまだ聴いていたいと思わされた。演奏を終え、さかしたは機嫌良さそうに「センキュー」と言葉を残してステージを後に。続いてステージを降りる長谷川の顎から汗がしたたり落ちたのがはっきりわかった。
今年で結成から20年を迎える拍謝少年 Sorry Youth。彼らの音楽の土台にあるのは、バンド名の由来でもあるソニック・ユースをはじめとしたグランジ、オルタナティブ、UKロックやポストロックetc.。これまでの作品ではベッドルームミュージック的な風合いやブルースも聴けたが、新作『噪音公寓/Noise Apartment』はエレクトロやトリップホップなどを取り入れ表現の領域がさらに広がった。来日も回数を重ね、この夜も待ちわびたファンの温かい拍手と歓声が彼らを迎えていた。Sorry Youthのグッズである地元台湾中南部の魚、虱目魚(サバヒー)を描いたタオルを掲げるファンの姿もちらほら。
ライブはアルバム『噪音公寓/Noise Apartment』の1曲目『Intro』からスタート。維尼(ウェニ)の歪んだギターがうなりを上げ、そこへ宗翰(チュンハン)のドラム、薑薑(ジャン・ジャン)のベースが連なり、重心は低く奥行きのあるサウンドが織り上げられてゆく。目の前の扉をこじ開けて進んでいくような曲にわくわくする。
ジャン・ジャンが日本語でMCをした後、ウェニがフロアに視線を向け「Ready to dance?」。その言葉に続いて聴こえてきたのは、キャッチーなメロディーに乗せた『歹勢中年(Sorry No Youth)』。台湾ではお客さんも一緒になって踊り歌うライブの定番曲だ。この夜も観客は体を揺らし手を上げて楽しみ、メンバーの顔にも笑みが浮かんでいた。
ライブ前半のハイライトは「very very special guest!」と紹介され、まさかのサプライズでオリビア・ツァオ(曹雅雯)が現れたこと。登場するなり「日本の皆さん、こんばんは!私はオリビアさんです」と手を振り人懐っこい笑顔を見せるが、思いもよらないゲストにフロアは興奮の声がなかなか鎮まらない。オリビアもSorry Youth同様に台湾の公用語である中国語でなく台湾語で歌うシンガーで、これまで音楽賞にも輝いている。彼女と共に聴かせた『袂赴啊 / 遅かった feat. 曹雅雯』では、まっすぐで凛としてたオリビアの歌声と、何かに抗うように感情をほとばしらせるSorry Youthの歌(彼らは3人全員がボーカルを兼ねる)、力がみなぎってくるようなバンドの演奏が一体になる。オリビアは歌が終わった後も声をかける観客とにこやかに言葉を交わし、ステージを後にした。
本編最後のMCでチュンハンが「大阪で公演できてとても嬉しい。日本語があまり上手に話せないから音楽に語らせます」と。そう言った後に「生ビール好きやねん」と茶目っけたっぷりに言うと他の2人も「大阪好きやねん」と嬉しいMCを聞かせてくれ和やかな笑いが広がった。
盛大なアンコールに応えて再び登場した後は、ハイライトしかなかった。アンコールの1曲目、「next song is for you,『暗流』」とウェニが渋い声でアナウンスすると、曲名に反応して拳が上がり大きな歓声が飛び交う。小さな波が徐々に大きな波へと移り変わるような前奏、そこからチュンハンが歌い始めるとフロアの声が重なる。彼らの公式YouTubeチャンネルでは、フェス会場で『暗流』をお客さんが一緒に歌っているライブ映像が公開されているが、それと同じことがこの夜に起きた。
楽器の音が小さくなり歌声だけになるラストまで声は途絶えることなく、そのままこの日最後の曲『兄弟沒夢不應該(男は夢を捨てるな)』へ続く。この曲もバンドの代表曲で、イントロのコーラスを口ずさむ声がすぐ近くから聴こえてくる。変拍子を駆使したプログレッシブロックなこの曲は10分を超える。悲哀も悔しさもわずかな希望も全部握りしめ、一滴も残さず振り絞るように思いの丈をそのまま歌声に託すウェニ。見れば、彼はイヤモニをはずし体を大きく揺らしてギターをかき鳴らしていて、ジャン・ジャンも時折目を閉じ体全部で音楽を奏でているよう。ソロのたびに大きな拍手と歓声が会場に響き渡る。チュンハンがMCで話していた「音楽に語らせる」とはこういうことなのだろうか。気迫のこもった演奏と歌が生み出すダイナミズムが、聴く者を一人残さず釘付けにして離さなかった。
Sorry YouthのオフィシャルYouTubeチャンネルで公開されているミュージックビデオは、日本語訳詞の字幕付き。歌詞を知らないままでも彼らの楽曲を楽しむことはできるが、より深く彼らの音楽を味わい尽くしたいリスナーにはぜひチェックすることをお勧めしたい。
Text by 梶原有紀子
Photo by Riku Kawahara
(2024年11月 6日更新)
HAIKHAU CO., LTD.
[Track list]
01. Intro
02. 噪音公寓 / 騒音アパート
03. 我佇驚惶中騎車 / 不安の中にバイクを駆ける
04. 共身軀完全放予去 / 共に身を捨てる feat.鄭宜農
05. 踅神夢 / 白昼夢
06. 袂赴啊 / 遅かった feat.曹雅雯
07. 我閣有偌濟時間 / まだ時間はどれくらいある
08. 愛是啥貨 / 愛とは何か
09. 世界第一戇 / 世界一バカ feat.謝銘祐
視聴はこちら
拍謝少年(ソーリー・ユース / Sorry Youth)…ギタリストの維尼(ウェニ/ Weni)、ベーシストの薑薑(ジャン・ジャン/ Giang Giang)、ドラマーの宗翰(チュンハン/ Chung-Han)によって結成されたパワー・トリオだ。台湾語の歌詞は彼らのソングライティングの重要なベースであり、拍謝少年の特徴でもある。そして曲のアレンジはライブパフォーマンスの雰囲気を強く捉えている。彼らは台湾のインディーズバンドでは数少ない、全編台湾語で歌詞を作るバンドである。
【北海道公演】
▼11月8日(金) mole
【広島公演】
▼11月14日(木) Reed
【高松公演】
▼11月15日(金) DIME
▼11月22日(金) 19:30
味園 ユニバース
オールスタンディング-4800円(整理番号付、ドリンク代別途要)
※4歳以上は有料。3歳以下は保護者同伴の元、鑑賞可能な場合は無料で入場可能。
※スタッフの指示に従って頂けない方は入場をお断り致します。
※会場内の写真や映像が公開される可能性がございますのでご了承ください。
[問]GREENS■06-6882-1224