ホーム > インタビュー&レポート > 音の耳触りも楽しいローファイ・アルバム第二弾! Night Tempoがニューアルバムで表現した “つながり”を紐解く、いくつかのエピソード
9月にアメリカツアーを経験して
考え方に起こった大きな変化
――今日はよろしくお願いします! 大阪に来られるのは久しぶりですか?
「2カ月ぶりですね。プライベートでもたまに来ています。昔仕事で大阪に3週間ほど滞在していたこともあるんです」
――そうでしたか! よく行かれていた場所もありますか。
「心斎橋のホテルを拠点にしていたので、御堂筋線沿線はいろいろ行きました。なんばの喫茶アメリカンとか動物園前の店とか喫茶店もいっぱい回ったりして。新世界の千成屋も好きだし、その近くのお寿司屋さんもお気に入りです。あ、天王寺のやまちゃんでたこ焼きを食べたりもしました」
――めちゃくちゃお詳しい...! 今年、Night Tempoのプライベート・ニュースとしては日本への移住が大きかったのかなと思うのですが、実際に生活を始めて半年ぐらいですかね。
「そうですね。まぁお仕事でずっと日本に来ていたのであまり大きな変化はないですが、日本で帰れる場所があるという気持ちの安定感はあります」
――ちなみに日本に住みたいと思っていた一番大きな理由は何だったのでしょうか。
「日本の文化が好きというのもありますし、もっと日本のアーティストとセッションしたり近くで仕事をしてみたいと思っていました。そのためには日本に拠点を持ったらもっとチャンスができるのではということが大きかったですね」
――日本に住むまで、日本のアーティストとのセッションに関してはzoomを使われていた?
「いや、そもそもセッションをしていなかったといいますか...」
――じゃあどういう形で音楽制作を進めていたのでしょう。
「ひとりで部屋に閉じこもってパソコンに向かってやっていましたね。だからこそこれからはいろんなアーティストと一緒に音楽制作ができるかもなぁと期待しています。日本に来てから一緒にセッションができるいろんなつながりはできてきています。お名前はまだ出せませんけど、ジャズの演奏家の方、いろんなバンドのバンマスをやられている大先輩、作詞家の方...たくさんいます。自分が見たいアーティストのライブに行くと、同じく見に来ていたみなさんが僕のことをご存知で"ご飯行きましょう!"と声をかけてくださって」
――リアルな現場でつながっていっているんですね。それは日本にいないと難しいことですね。
「はい。それが引っ越したかった最大の理由です。現場に行ってこそ会える人がたくさんいますから。そういうところで自分の世界観が広がっていくのを感じています」
――確かに日本のアーティストのライブが見たいと思っても、韓国にいたら簡単に見ることはできなかったわけで...。
「そうなんです。わざわざ飛行機に乗って...となるとスケジュールも合わないし。まぁ最近は韓国で公演する日本のアーティストはすごく増えましたよ。韓国では今バンドブームもきているので」
――そうなんですね。そうやって両国の音楽のブームを見つめながら活動されてきたわけですしね。
「んー、でも最近は日本と韓国は見ていないかもしれないです」
――え、目線はどこに?
「アメリカですね。9月にアメリカツアーを回ってきたので、そこで学んだことも多くて、もうちょっと広い視野で物事を見た方がいいと思うようになりました。ちょっと自分自身で検証してみようという思いも生まれて」
――検証、ですか?
「今、自分がいいと思っているものが本当にいいものなのかどうかを検証してみようと思っているんです。例えば日本に長くいるようになってくると、それはそれで見えないところも多くなってくるんです。みんなと一緒でいることがよしとされるところもあるので、その文化から一歩外に出てみたらその考え方だけが全てじゃないし、凝り固まっていてはダメだと思いました。考え方が変わったんですかね。安定している音楽だけでは、世界には出ていけないなと思いました」
――それは今までは安定している音楽を作っているなと、自分で思われていたということでしょうか。
「前は違ったと思うんですけど...日本で活動を広げて邦楽的な要素を取り入れたりいろんなことをやってみたことで、自分が見ている世界が"ここだけ"みたいに凝り固まっていってしまって。いつの間にかドメスティックな人間になっているなぁと思うようになったんです。それがいいとか悪いとかではなくて、元々ネット音楽とかもう少し広い意味を持つ音楽を作りたくて始めているので、ここで慣れてしまってはダメだとわかりつつ、やはり見えなくなってしまっていました。周りが"こういう音楽"で盛り上がっていると、じゃあこういうのがいいんだ! と思えてくる。初めて日本に来た頃は邦楽にとてつもない新しさを感じていたのですが、俯瞰してみてみると、日本人は"これしか知らない"という印象もあることがアメリカツアーで見えてきたのはすごく大きかったですね」
――大きな収穫のある渡米だったんですね。帰国してすぐ、カレーを食べられているのをSNSで拝見しました(笑)。
https://www.instagram.com/p/DAqKGiRPYpt/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==
「ご飯は日本が一番美味しいですよ。ご飯というか日本のお米と日本のカレーが世界で一番美味しいですからね!」
自分自身が自由に表現したからこそ
聴く人にも自由であって欲しい
――今日はニューアルバム『Connection』についてお話を伺いたいのですが、この作品は前作の『Concentration』の続編となっています。そもそも『Concentration』はどういう始まりで作られたのでしょうか。
「ずっとどんな作品を作ろうかと考えていたんですが、コロナ禍の間に考えが固まりました。実はコロナ中、アジアの歴史をはじめ韓国と日本の関係など勉強を重ねていたんです。日本と中国・台湾・韓国の関係性とかも含めて学んでいくと、いいところと悪いところが見えてきて、どんどん学びたい欲が湧いてきました。過去から現在へ、アジアの国々の歴史を辿っていく中で、僕が一番エキサイティングに見えたのが高度経済成長期の頃。自分が一番興奮した時代にフィットする作品をと制作したのが前作の『Concentration』です。例えば当時のニュースの音を使ったり、そういうことを試してみた作品でもあります。それを経て今作では、活動を始めてからの自分の考えの変化を音楽で表現したいと思っていました。そこで考えたトピックスが"つながり"でした」
――つながり。
「人の縁や過去の自分と今の自分、ここにいる自分と世界のつながり、いろんなつながりを表現したいと思いました。曲順に関しては本を読むように聴ける作品をイメージして展開しました」
――なるほど。そして前作と今作の共通点というと、"ローファイ"というキーワードが挙げられると思います。それを制作のキーワードに掲げたのも、先ほどお話に出た高度経済成長というのは関わっているのでしょうか。
「それはそんなに関係ないですね。特に日本の方は音が綺麗かそうじゃないかで音楽を評価しようと思っている方が多い気がします。でもそこを"ローファイだよ"と強調したら、すごくいいねと言っていただける方が増えて(笑)。言葉の提示の仕方ひとつでそんなに変わるんだ! と驚きました」
――特に前作で使われていたローファイな音を聴いて思ったんです。昭和の時代は今ほどの技術がなかったからこそ、作品に使われたようなざらざらした耳障りの音が存在していたと思うんです。でも今は技術が進歩して綺麗な音であることが当たり前なので、この時代にあえてローファイな音作りをするのは難しさしかないのでは...?と。
「そこを難しいと捉えるか、楽しいと捉えるかなんですよね。僕は後者です」
――おぉ! ああいう"当時のような耳障りの音"はどのようにして作られたのでしょうか。
「いろんな方法があるので説明するのは難しいのですが、ひとつはサンプリングです。街の中の音を録ってきたり、当時のビデオテープ...例えばホームビデオを購入して、その中の音だけを抽出したり。これがめちゃくちゃ当時そのままの音なんです。そういうものを普段からデータ化しておいて使っていました」
――その『Concentration』ができた後、次はこういうことやってみようかななど気づきはありましたか?
「そうですね、もっと自由に表現してもいいんだろうなというのはありました。今回は曲のジャンルもバラバラなんです。音もずっと独特なものが鳴っていて。そういうことをしてもいい、もっと自由に表現しようということは考えていました。いろんなことを試しても、自分の目標さえ見失わなければ大丈夫だと思ったんです。あとは必要以上に周りの意見を聞かないようにしようと思いました」
――いいですね!
「自分の音楽は自分のために作るものですから。周りがこうした方がいいと思いますよとか言うんですけど、じゃああなたが作りなさいよって(笑)」
――あはは! 「こうした方が...」とは、スタッフさんたちが?
「世間というかスタッフというか...いろんな人が、というか。でも潔く無視することにしました!」
――潔いですねぇ。そして『Concentration』から『Connection』へとつながっていくわけですが、最初から"続編を作ろう"という始まりだったのでしょうか。
「はい。前作ではアルバムを自由に遊べた感覚を得られたので、そこからつながるものを作りたいと思っていました。制作の準備は割とすぐに始められたんですけど、なかなか考えがまとまらなくて...。制作を前に自分が納得できる考えに辿り着くまでにかなり時間がかかってしまいました」
――考えがまとまらなかった理由としては、やりたいことがたくさんあったからですか。
「...というよりは、じっくりと考える時間がなかったんです。コロナが明けてライブへの出演で忙しくなったこともあるし、日本への移住準備、音楽以外にも展示や勉強したいこともあって考えがなかなかまとまらなくて」
――考えがまとまったのは、どんなきっかけで?
「きっかけというよりは、今年頭くらいから世界観が描けるようになってきた感じでした。そこから曲作りに至るまでは、時間はかからなかったです。つながりというキーワードは少し前からあったけど、内容が決まるまで時間がかかっちゃいました」
――お話に出ている二作にはローファイという共通のキーワードもありますが、前作は昭和をイメージさせる音が割とダイレクトに使われているという印象でした。でも今作はどうも雰囲気が異なりました。昭和を"イメージさせる音"に溢れていたといいますか...。私のこの捉え方は、正解ですか?
「捉え方は...自由だと思います。自分の頭の中の考えを説明しても、しょうがないのかなと思っていて。なぜかというと、本を読むと書かれていることや考えを受け入れると思うのですが、どう受け入れるのかは読者それぞれで違うんですよね。同じ本を見ていいと思う人もよくないと思う人もいる。僕が詳細を話すことで、こんなふうに聴いてほしいと示してしまう気がして。僕自身も自由に表現したわけだから、聴く人にも自由でいてもらった方がいいのかなと思うようになりました」
――なるほど。確かにそういう考え方もありますね。ちなみに前作との違いとしては、南野陽子さん、広末涼子さん、土岐麻子さん、竹内美宥さん、中園亜美さんと、ゲストアーティストをたくさん迎えている点が挙げられます。
「今までいろいろやってきてみて、できた曲を何か別のやり方でも表現してみたいと思いました。そこでゲストアーティストのみなさんと新しい表現をしてみようと。でも全て歌ってもらうわけではなく、演奏してもらったり朗読をしてもらったりいろんな表現を採用しました」
――中でも一緒に制作をしていて印象的だった方はいらっしゃいましたか。
「みなさん印象的でしたけど...南野陽子さんですかね。台本みたいなものを書いてくださいとトピックスを投げたら、ササーっと書いてくださって。渡して1時間後ぐらいには戻ってきたんです。読ませてもらったらすごくよくて、そのままオッケーです! となりました」
――早! そもそも南野さんとのご縁というのは?
「韓国のテレビ番組の収録で出会って、仲良くさせてもらっています。初めましての時に何か曲を作る際にはぜひご一緒しましょうというお話はしていて。その時期が思っていたより早く来ました」
――あと、個人的には竹内美宥さんの歌声に驚きました。令和の女の子の歌声に、ここまで昭和感というか懐かしい感じを覚えるなんて...! と。こんな歌い方ができる人がいることにびっくりしました。
「僕の3年前の作品にも参加してもらっていて、その時は彼女も韓国にいたので歌い方となど直接お話しできていたのも大きかったかもしれないですね」
――今回、竹内さんにはどんなリクエストを?
「この曲はそもそも彼女の声を想定して作った曲なんです。どこか寂しさを感じる声が魅力なので、それが出ればいいなと思って作りました」
――寂しさ...それが私も感じた"懐かしさ"なんですかね。
「そうだと思います。特に昔の日本の映像をいろいろ見ていると、寂しさみたいなものを感じるんです。それに、当時のアイドルはもっと切なげで寂しげな曲をもっと歌っていたなとも思います。今のアイドルの曲にはダンスが伴うのが大前提だから、ポップな曲が多いのもわかりますけど。美宥ちゃん自身、曲を書いたり歌もすごく努力を重ねていて、歌い方がよくなっていて驚きました。ちょっと喉の力が弱くなっているかな...と感じているんですけど、僕としては逆にそこに魅力を感じでいて」
――と、いうと?
「声が揺れる感じがするんです。表現するうえでいい素材を持っているなと思います」
――あぁ、すごくわかる気がします。そしてまだ気になることがあるんです。つながりをテーマにしたアルバムですが、曲のタイトルに「End Point」や「Digital Detox」といった終わりやシャットダウンとも取れるようなワードも並んでいますよね。
「つながる以上、つながりを切ることも大事だと考えているんです。つながっていくことだけが全てではないというか、関係を構築するからこそ離れることもあるというか」
――どうですか、ご自身にはデジタルデトックスは必要だと思いますか?
「1日30分ぐらいそれができたらいいなぁと思いますよね。誰もがそれすらできない環境になっていてしまって。TikTokとか1日中ずっと見ていますし。それもあって短くて刺激的なコンテンツばかりを見ているから、みんな何かに対して集中もできないですよね。何ひとつ待てないし。そう思ったらデジタルデトックスは本当に必要だなと思いますよね」
――そしてラストソングの「404」にもタイトルにどのような意味があるのか気になります。
「"意味は何もないよ"という意味です。ノットファウンド(404 not found=サーバーがリクエストされたページやリソースを見つけることができないこと)っていうただの単語じゃないですか。タイトルの意味としてはあまりなくて、僕の意図としてこのアルバムの終結は「404」のひとつ前に収録している「New Age」に担わせているんです。そのラストソングと1曲目の「Foreword」つなぐ役割として「404」を置いています。「404」を経て、また元に戻るイメージです」
――あぁ、そうだったんですね。それを伺ってからまたアルバムを聴くとまた違った楽しみがありそうです。そしてこの作品は、11月にレコードとカセットテープが香港のレーベルから出るとアナウンスされています。香港のレーベルからというのは何か理由が?
「友達がやっているレーベルでインディーズの時からずっと一緒にやっているので、いつも通りという感じですね」
――そこで作るよさは何かあるのでしょうか。
「例えば新しいアイデアや新しい仕組みでやりたい! と言った時に、日本では"前例がないから"と断られることが多いんです。僕は特殊仕様も好きだし、パッケージまでが作品だと思っているので、とにかく新しいアイデアを試したいんです。それを一緒にやろうと言ってくれるのが香港のレーベルというわけです」
――それを聞くとどんな仕様なのかも含めてリリースが楽しみになります。そして11月にはレコ発のライブがビルボード東京と大阪の2カ所で開催されます。これはどんなライブになる予定ですか?
「音を流して歌ったり、バンドとやったりの半分半分のスタイルになる予定です。土岐麻子さんと竹内美宥さん、中園亜美さんが両公演とも参加してくれます」
――めちゃくちゃ豪華ですね! そしてツアーが終われば2025年も見えてきますね。
「そうですね、もう次のアメリカツアーが企画段階に入っているんです。来年はもっとアメリカでの活動が増えていくと思います。僕の音楽をもっといろんな人に聴いてもらいたいと思っているので、今年以上に海外に目が向いていくことになると思っています」
取材・文/桃井麻依子
(2024年11月 5日更新)
New Album『Connection』
CD発売中&配信中
3400円 VICL-66013
Victor Entertainment
《収録曲》
01. Foreword
02. Lil Bit (feat. Asako Toki)
03. Truth? (feat. Ami Nakazono)
04. Hyper Experience/
05. End Point
06. Digital Detox
07. Sunset in Tokyo [Interlude]
08. Deep Breath (feat. Ryoko Hirosue)
09. Sigh
10. Breezy
11. Sweet Lies (feat. Miyu Takeuchi)
12. Regret
13. Rainforest (feat. Yoko Minamino)
14. Possession
15. New Age
16. 404
ナイト テンポ…1986年2月・韓国生まれのプロデューサー/DJ。80年代のジャパニーズポップスをダンス・ミュージックに再構築したネット発の音楽ジャンル「フューチャー・ファンク」のシーンから人気に火がつき、アメリカと日本を中心に活動する。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をリ・エディットした作品がネットを中心にバイラル・ヒット、昨今のシティポップブームへとつなげたことも記憶に新しい。角松敏生とダフト・パンクをこよなく愛する、昭和カセット・テープのコレクターでもあり、昭和ポップスをアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを2019年に始動。Winkを皮切りに、杏里、 1986オメガトライブ、松原みきなど、これまでに19タイトルを発表。2021年12月には初のメジャー・オリジナル・アルバム『Ladies In The City』を2023年9月に2ndアルバム『Neo Standard』をリリース。それと並行し、日本国内でのツアーやフェスへの出演など精力的に活動。現在は日本を活動拠点としながらも、グローバルな活動を視野に制作とパフォーマンスを展開している。
Night Tempo オフィシャルサイト
https://nighttempo.com/
【東京公演】
▼11月10日(日) ビルボードライブ東京
チケット発売中 Pコード:281-509
▼11月23日(土・祝) 16:00/19:00
ビルボードライブ大阪
サービスエリアS指定席-8600円
サービスエリアR指定席-7500円
カジュアル指定席-7000円(ドリンク付)
[共演]Yasutaka Mizunaga(g)/Kuroji(b)
[VJ]MIKURU YAMASHITA
※未就学児童入店不可。18歳未満/高校生は成人(高校生不可)の同伴が必要です。飲食代金は別途お支払いください。店内全席禁煙(周辺喫煙スペースをご利用ください)。お申し込み前、ご来場前にビルボードライブWEBサイトのAttentionをご確認ください。出演者については、必ず公式サイトをご確認の上お申し込みください。
※販売期間中は1人1公演につき4枚まで。取り扱いの席種が限定される場合がございます。座席位置によりご相席になる場合がございます。お申込み後の変更・キャンセル不可。
[問]ビルボードライブ大阪■06-6342-7722