ホーム > インタビュー&レポート > コンポーザー・アレンジャー・プレイヤー… いくつもの顔を持つアーティストNEWLYが アルバム制作を前に見つけた“自分がやりたい音楽”
音響学とトラックメイク
ふたつの側面から進める楽曲制作
――今日はよろしくお願いします! 1stフルアルバム発売のタイミングで初めてぴあ関西版WEBにご登場いただくので、NEWLYの始まりのきっかけを含めお話聞かせてください。
NEWLY「よろしくお願いします」
――そもそも音楽に興味を持ったきっかけから伺えますか。
NEWLY「そこがイマイチ曖昧なんですけど、音楽を始めたのは小学4年生で地元のギター教室に通い始めたことでした。そこはマンツーマンの教室で、先生がジャズギタリストとしても活動していた方だったんです。先生の影響もあって中学生くらいの時からジャズやインストも聴くようになりました」
――ギターを始めた理由は覚えています?
NEWLY「叔父がギターを弾いていたので、憧れもありました。親には自分からギター教室に行きたいって言ったらしいです。中学に入った頃に聞いていたのはペトロールズやジョン・メイヤー、あとは教えてもらったジャズを聴いていたんですけど高校に入ってからソウルクエリアンズ辺りを聴き出して、音楽を作るようになったのはそれからですね」
――中学の時にギターを習っている間はコピーをしていたような感じですか。
NEWLY「はい、コピーをしつつちょっとずつ曲作りはしていました。でも部活がバレーボール部だったし"ちょっとギターが弾ける中学生"という感じで」
――意外です。その頃からガンガン曲を作っていたのかと!
NEWLY「全然ですね。その時に組んでいたバンドのライブ用にアレンジを全部自分でやりたくて、高校の時に音楽制作ソフトを手に入れたんです。こういう音が鳴ったらいいなというのが頭の中にあったけど、自分たちで演奏してみたらガンと来て欲しい楽器の音が思うように出なくて音楽制作ソフトを使い始めました。そのためにベースもドラムも独学で勉強していって。そこから思い描いていた音を出したい欲が出て、音響に興味を持ち始めました」
――え、音響ですか?
NEWLY「はい。興味がどんどん広がって、大学では音響を学ぶことに決めました。高校卒業前くらいから自分でも楽曲制作やトラックメイクをし始めて、NEWLYとしても活動がスタートしました。とにかく自分が聴きたいものを作ってはSoundCloudにアップしていた頃です」
――ちなみにその"曲として自分が聴きたいもの"を言葉にすることはできますか。
NEWLY「うーん...高校の時、音楽を質感重視で聴いているところがあったんですね。このドラムのこの質感の音がかっこいいなとか、ザラザラした感じがいいなとか。当時好きだったトラックメーカーたちはレコードからドラム音をサンプリングしたような楽曲制作をしていて、レコードノイズが入っていたりちょっと不安定なピッチになっているのも本当にかっこよくて。それを自分もやりたいと思いました」
――じゃあその理想の質感の音を出すためには自分で楽器を弾くのではなくてパソコンを使ったり音響を学ぶ方が重要だ、と。
NEWLY「楽器を自分で弾いてその音を加工する上で、音の広がりについても知っておきたいと思ったことが大きかったです」
――今のお話を聞いていると、音響学を学んでからNEWLYを始めたということであればすごく理解できるなと思ったんですけど、実際は音響学を学ぶ前にNEWLYを始めていたんですよね。
NEWLY「自分の中でそのふたつは別軸でした。音響学を学んでPAやミックスエンジニアになる道も考えていたんです。それとは別で音楽家になりたいという気持ちも強くありました。NEWLYと名乗り始めたのも、SoundCloudに作品をアップするうえで名前が必要だっただけで意味もテーマもなくて。ただそこをきっかけにアーティストへの楽曲提供が始まって、NEWLYが今に至りますね。BASIさんへ曲を提供してからNEWLYも広がったと思っています」
――なるほど。先ほど音響学の話が出ましたけど、音響学を学びつつ制作するメリットはありましたか?
NEWLY「それはすごくあります! 片方のレベルが上がると両方のレベルが上がっていくというか。音響学ってちょっと音楽の魔法が解けちゃうようなことが学べるんです。例えば"この曲のここがいいんだよな〜"って言うと、音響学に詳しい方は説明ができる。それがいいところでもあり、言語化されてしまうのがちょっと残念なところでもありますけど、音響学を学んだからこそ知るべきところと感覚的でいたところを自分で分けて、制作のしやすいポイントを探っていけるんです。その音がいいと思えた理由が知りたい時は制作しながら探していって、音響学を使って答え合わせをする楽しさもあります」
――自分の理想の音や頭の中で鳴っている音が、自分である程度まで作れるということでもあります?
NEWLY「それはそんなこともないです。なので、今回のアルバムもエンジニアさんにお願いして、教わったり一緒に遊んでもらったりしながら作り上げていきました。まだまだ自分なりにわかっているところとわからないところがいろいろありますね」
制作の初期段階で書き上げた
アルバムで伝えたい物語のシナリオ
――そして今回リリースされる1stアルバム『Not About All』ですが、これ以前の作品制作を通して次にやってみたいことや思い描いていたことはあったのでしょうか。
NEWLY「トラックメーカーとして曲を提供することは楽しいし好きだけど、自分のアーティスト活動とフィットしているかどうかという面では正直に言うと疑問に思うこともありました。でもまた作品を出したいという気持ちはあったので過去のものも聴いていくと自分がやりたいスタイルがまだ固まっていないということに気づいたんです。その問題を突き詰めていったら"インストでやりたい"という答えに行き着いたので、そこからはスムーズに動き出せました」
――インストでやりたいと思えた理由というのは...。
NEWLY「ずっと音楽や映画、本にある"言葉"がすごいと思っていて。それにすごく嫉妬していたところがあるというか。...いや、嫉妬していたっていうのは違うな、羨ましいなと思っていて。言葉で何かを伝えるということをやってこなかったので、そこにギャップも感じたりしていたんです。身近な話で言うと、落ち込んでいる友人とがいても簡単に"大丈夫だよ"と言えるタイプではなくて。大丈夫じゃないと思うし、無責任に強い言葉をかけるのが苦手なんです。友人を集めてご飯会を開くけど友人の悩みには触れずに1日を過ごすとか雰囲気や空間を作りたいと思う。何も言わないのは相手を信じることというか。自分の思っていることを伝えることもすごく大事だけど、相手を信じて黙って待つ時間も同じくらい大事だと思うに至って...今回はインストにしようと思いました」
――今、時代的に言葉を発することが強すぎる場面もあります。
NEWLY「僕は友人や家族らとの狭い世界の中でどうしたいかを考えました」
――その流れで"インスト"というキーワードが見えたのは大きいことでしたね。
NEWLY「すごくよかったし、腑に落ちた感じがしました」
――インストという方向性が見えた経緯があるうえで、今回アルバムというパッケージを選んだことに理由はありますか? EPという方法もあったかなとも思います。
NEWLY「コンセプトよりも先に、アルバムを作ろうというアイデアの方が先でした。前にまとまった作品として出したのが『GOLFF』なんですけど、それはビートテープといって、スケッチっぽいものを収録することも良しとしていたので、次に作るなら通しで聴けて没頭してもらえるものを作りたいと思っていました。だからこそフルアルバムを作るというのは決めていました」
――トータルで聴いて欲しいということは、コンセプトや中身を自分の中でしっかりと組み立ててから曲の制作に入っていったイメージですか?
NEWLY「そうですね、最初1曲は自分がインストで本当にやりたいかどうかを考えながら作っていったところがありました。今回はループをあまり使わずどんどん展開していく作品にしようと思っていたけど、そういう展開の作品には結構限界があるというか手法を選ばないとグチャグチャになってしまうと思いました。なので、最初にシナリオを書いたんです」
――シナリオ!?
NEWLY「言葉じゃない手法で言葉以上のものを伝えることになるので、少なくとも自分自身は本当に伝えたいことを明確にしておくべきだと思いました。なので、1曲目から9曲目までの物語を書いたんです。この主人公にこういうことが起きてこういう景色で、こういう時間帯でこういう人がこんなことをしてということを全部」
――それがあると音楽的にもどういう展開が必要か、明確に見えてきますね。
NEWLY「その物語自体が聴く人に直接伝わることではないけど、自分がそれくらい思っていないと言葉以外の方法でコミュニケーションを取るのは難しいと思いました。まず、やってみようと」
――1曲目に収録されている「Poppy Field」に自然の中にいるような鳥の声や風の音などが入っていて、すごくプロローグ的に感じたのはシナリオがあったからこそなんですね。
NEWLY「この曲がアルバムを作ろうと思って制作した最初の曲でした。テーマとしてはメランコリックというかちょっと暗い話をイメージする曲になっているんですけど、これを友達に聴かせたら"すごくいい!"って言ってもらったことが、ちょっと自分の首を絞めて」
――というと?
NEWLY「いいと言われたがために、このちょっと暗い気持ちで作品を通していかなきゃいけないかなと思ってしまって。暗い気持ちで書いているところがいいと言ってくれたんですけど、それを9曲通さないといけなくなっちゃうのかな...って」
――よくも悪くも1曲目に「Poppy Field」ができたことはかなり大きな道標になった。
NEWLY「なりました。この曲ができたことで、これがすごく今の自己紹介的になったとも感じたんです。なので「Poppy Field」ができてから本格的にシナリオを書き始めて、こういう特徴にしようとか場面展開を考えました。ちなみに「Poppy Field」のイントロは沖縄の名護でフィールドレコーディングをしてきた音なんです。すごく自然の音にパワーがありました。この曲ができて、次の曲を書こうと思った頃にかなり頻繁に海に行くことが続いて。それで海や川、森林や牧場などの音を石垣島に録りに行ってそれを使ったり。1個1個の曲にコンセプトやシナリオはあるけどそこに付随させているテーマとかはまた別で、いろんな軸で1曲を成り立たせているところがあります」
――作品を全体通して聴かせていただいて、基本インスト曲で構成されたアルバムがBGMになってしまわないことが素晴らしかったです。音のインスタレーションのようだと思いましたし、そう感じられたのはフィールドレコーディングを採用されたこともありそうです。
NEWLY「そうですね、フィールドレコーディングまではいかなくても割と日常的に音を録音しているんです。いいぞと思える瞬間があったらiPhoneのボイスメモでも録るし。ハマるものがあれば、その音源を引っ張り出してくるということは常にしています。インスタレーション的と言ってもらえたのは、音色や楽器ごとの音の距離感をエンジニアと詰めたところがあったのでそういうところで感じてもらえたのかなとも思います」
――後付けでもいいからこの作品と、立体の造形作家や映像作家がコラボレーションしての展覧会になったらすごく面白そうだなと思いました。目からの刺激も欲しいというか。
NEWLY「他の作家の皆さんも触発できたら、それもそれでうれしいですね」
――ちなみにアルバムの制作を通して、ご自身的にハイライトだったことはありましたか?
NEWLY「普段制作はほぼひとりの作業なんですけど、この制作中は友人に会う機会もあって。制作中の曲を聴いてもらったら"すごくいいよ"と言ってもらえたりしたんですね。その時に、その瞬間の自分を信じるのも大事だなと思うようになってきて。今までは理論的にもいろいろ考えてこねくり回して考えてきたんです。それもいいことだけど、思いつきを愛することも大事だなと。今出たものがいいと思えるのは、ちゃんと今と向き合っている証というか。それがずっとできていなかったんだなと気づきました。そういう精神状態になれたのは自分の中でも新鮮でした」
――シナリオを書いてから曲を作ったり新しい発見ができた1stアルバムに『Not About All』というタイトルをつけた意図を伺えますか。
NEWLY「シナリオの冒頭がメランコリックな感じで始まってしまったがゆえに、そこから書いたシナリオが生き方や生活の仕方としてハッピーに終わっていくところがあったんです。最終的に釈然としちゃったけど、これは正解でもないしこの先ずっと人生の中でこうやって問題って解決していくんだよって誰かに言いたいわけでもない。だからこそこのタイトル『Not About All』(すべてではない)にしようと思えました」
――なるほどなるほど! なんだかすごく腑に落ちました。先ほどちょっとお話出ましたけどアルバムという作品にも関わらずトータルタイムの短さに驚きました。アルバムとは勝手に60分ぐらいと思っているせいか、9曲もあるのに30分って! と。トータルタイムの短さは意識して?
NEWLY「すごく意識していました。短くしたかったんです。集中してその中に入り込める時間内にしたかったというのもありますね。あとキュッとまとまっている感じも、1stアルバム的未熟さがあっていいなと思っています」
――そしてこの作品リリースの後、関西でも11月3日にCreative Center Osakaでのイベントに出演されます。どんなライブになる予定でしょうか。
NEWLY「大阪のタソガレコーヒーさんの周年イベントなんです。普段からスタッフの皆さんと仲良くさせてもらっていて、関西に行くと必ず寄るお店なんです。このアルバムもデモの段階で聴いてもらっていました。今回のライブはバンドセットでいこうかなと考えています。今回のアルバムの曲はもちろん、今までの曲も再編集していたりライブ用にリアレンジしているので、いろいろ楽しんでもらえたらなと思っています」
取材・文/桃井麻依子
(2024年11月 1日更新)
2024年11月1日(金) 配信開始
《収録曲》
01. Poppy Field
02. Waterscape
03. Dear. Ocean
04. Freefall
05. Proust
06. Until Healed Pt.1
07. Until Healed Pt.2
08. Sour Around
09. Moda
視聴はこちら
NEWLY(ニューリー)…2000年生まれのコンポーザー/アレンジャー/プレイヤー。ベースをメインにギターやキーボードなども駆使しマルチ・インストゥルメンタル奏者としても人気を博す。 2020年に自身初となるビートテープ自主制作作品を制作後、『GOLFF』をリリース。さまざまなアーティストのプロデュースをはじめアパレルブランドや企業CM への楽曲提供や リミックスに加え、サポートミュージシャンとしても楽曲やライブに参加するなど活動の幅を広げている。2022年には1stEP『NEUE』をリリースし、 ボーナストラックを追加収録したアナログ盤も発表。
▼11月3日(日・祝) 12:00
Creative Center OSAKA
前売-7500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]唾奇/MINA OKABE/PES/柊人/Skaai/ZOMBIE-CHANG/空音/kojikoji/ニューリー/さらさ/Sincere < RAFAERO >TOCCHI/HANG/TORAUMA/電波少女/Ace the Chosen onE/RAITAMEN/サトウユウヤ
[DJ]矢部ユウナ/RYU-G/SHOTA-LOW(lit)/cazbow(FULLHOUSE)/KINPON/miyau-D/FUMIYA(PARKiiiNG)/Banchan/GIRO/Youk/A-don(PARKiiiNG)/hinako/SHIBUYA
[FOOD]GAKUYA BURGER/THE MUSEN IN SHOCK/THAT’S PIZZA/DOCORICE/BOND'S CAFE/お料理横目/-遖-
[SHOP]Final Weapon Company/seeq/THE MAN DESIGN/FRO CLUB/PARKiiiNG/MYTH/FNL/不眠東京
[DECORATION]共振異空間住居阿波座ハウス
※雨天決行(天災時除く)。未就学児童は入場不可。中学生以下は保護者同伴に限り入場無料(保護者1名につき2名まで)。但し、ドリンク代は必要。イベント中止の場合を除き、ご購入いただいたチケットの払い戻しはいたしませんので、予めご了承ください。本イベントでは映像収録および写真撮影用のカメラが会場内に入り、ご来場のお客様の様子が媒体・商品映像に映りこむ場合がございます。収録された映像・写真は商品化やプロモーション等に使用される可能性がございますので、予めご了承ください。
[問]株式会社CICT■info@tasogarecoffee.jp
【東京公演】
▼11月9日(土)・10日(日) 12:00
池袋PARCO 本館屋上
※入場無料
※NEWLYは10日に出演
【10日(日)】
[LIVE]maya ongaku/NEWLY
[DJ]yuji wada/TOMA
[SHOP]HOME ECONOMICS EXPERIMENT(インテリア)/abilitysurfculture(アパレル)/ムラサキスポーツ池袋パルコ店
[FOOD/DRINK]PIZZANISTA(ピザ)/The Daps(チキンオーバーライス)/BAJA style tacos(タコス)/GP COFFEE ROASTER(コーヒー)/ルービーラボ(クラフトビール)/OOTONG RUM HALL(カクテル)
[映画上映]『mid90s ミッドナインティーズ』
詳細はこちら
https://ikebukuro.parco.jp/event/detail/?id=29813
【東京公演】
▼12月7日(土) 17:00
笹塚ボウル
Web Site
https://newly-official.com/
Instagram
https://www.instagram.com/newly_____/
YouTube
https://www.youtube.com/@newly5428