ホーム > インタビュー&レポート > 安田レイが抱えていた漠然とした不安 「自分はまだ30代に似合う大人になれていない」 そんな気持ちを楽曲に素直にあらわすことで前向きに
――2023年にソロデビュー10周年を記念したカバー動画企画「through my VOICE」が注目され、2024年8月にはカバー曲も織り込んだ『Rei Yasuda "through my VOICE" Premium Live 2024 at Billboard Live TOKYO』を開催されました。同ライブは、これまでとはまた違った感触があったのではないですか。
Billboardという私にとって大切な会場で、自分がすごく影響を受けた曲をカバーさせてもらったことは、本当に特別な時間になりました。カバーは難しい部分がたくさんあるのですが、特に試行錯誤したのは、皆さんのなかに原曲の印象が強く印象づけられていること。7月にCharaさんの「やさしい気持ち」のカバー音源を配信リリースしましたが、Charaさんの歌声、楽曲はまさに唯一無二。「through my VOICE」で歌うことになったときも、リスナーさんからどんな反応がくるのかすごく気になりました。動画公開後はたくさんのリアクションがあり、なによりCharaさんご本人がご感想を発信してくださって。そのとき、力んでいた体から力がふわっと抜けました。「これがベストアンサーだ!」って。
――そういったことも経て、11月からツアー『Rei Yasuda Live Tour 2024-2025 "Invisible Stitches"』がスタートします。これまでのツアーはアルバムのタイトルをモチーフにしたものばかりでしたが、今回の"Invisible Stitches"はオリジナルのツアータイトルですね。
今まで自分が訪れたことがない場所、ワンマンライブをやったことがない場所へ行って、まだ出会えていない皆さんにお会いする旅になります。ひと針、ひと針、丁寧に時間をかけ、思いを込めてライブを縫い合わせていくイメージです。12月には中国ツアー(『Rei Yasuda Live Tour 2024-2025 "Invisible Stitches" in CHINA』)もありますが、こんなに長期間、そして大きな規模感でツアーをやるのは初めてのこと。「私たちは常に音楽という線で繋がっている」という実感を繋ぎ合わせていきたいです。
――なるほど。
あと私は、手刺繍されたものを集めるのが好きなんです。現在は刺繍も機械で便利に出来上がりますし、その良さもあるのですが、やっぱり時間をかけて作られ、たくさん量産できないものには貴重さを覚えます。それはライブも一緒だなって。そこで"Stitches"というワードが浮かんで、私が大好きな透明="Invisible"をくっつけました。
――関西公演は11月1日に京都・磔磔、2025年1月19日に大阪・梅田シャングリラで開催されます。会場の雰囲気もガラッと変わることで、安田さんのいろんな表情を見ることができそうですね。
磔磔ではピアノ1台で歌を届ける予定です。8月のBillboardでのライブでは、バイオリン、ピアノの編成でしたが、より洗練した構成で、自分自身の気持ちをどんどん裸にしていくつもりで歌いたいです。ですので、お客様も普段抱え込んでいるものを脱ぎ捨ててもらって、皆さんのコアな部分に触れていきたい。逆に梅田シャングリラはラグジュアリーな空間ですから、いろいろ重ね合うように、音数を分厚くして一緒に弾けたいです。京都、大阪の両方へ来ていただいたら「安田レイ、全然違うじゃん!」となるはず。
――2024年2月にはEP『Ray of Light』もリリースされましたが、同作は安田さんのこの先の人生の駆け抜け方を想像させる内容でしたね。
2023年に30代に突入して、その前後で未来をちょっとだけ不安に感じる瞬間があったんです。周りと自分を比べたり、自分の居場所だったり。現実を見て「これからどうしようかな」と漠然と考えることが多かったのですが、いざ30代になって「この『どうしようかな』を歌詞にしていこう」と思うようになりました。そこで抱えていた不安をマイナスに捉えることもなくなり、「この経験も、この感情も、自分の歌に生かせるものなんだ」とポジティブになれました。あとアーティスト仲間といろいろ喋って、気持ちが軽くなることもたくさんありましたね。「いやあ、苦しいね!」「大変だね!」と話して、お酒を飲んで。「でもさ、不安な気持ちって曲にすることができるんだよね。それって最高じゃん!」って。
――安田さんは早い時期にデビューされて、長く第一線でご活躍されていますし、そういう未来への不安とは縁があまりないと思っていました。
ソロデビューして11年目ですが、さらに長く続けられる人は一握り。私の場合はソロデビュー前の活動も含めると約17年、音楽の世界にいます。やっぱりいろいろ考えたり、感じたりすることが増えます。でも今現在は、曲に昇華させることで「すべての経験に意味があったんだ」と捉えることができます。
――楽曲制作にもそれがあらわれてきた、と。
たとえば歌詞も、自分自身のなかにある粗(あら)を生かせるようになってきました。芸能活動を始めた10代の頃は周りが大人ばかりで、「ちゃんとしなきゃ」というマインドが強すぎて、粗を隠したいタイプだったんです。でも「Turn the Page」(『Ray of Light』収録)でまさにそういう気持ちを歌っているのですが、力んでいくのではなく、ちょっと力を抜いて、抱えている荷物を置いて、軽やかにスキップできる余裕が自分には必要だって言い聞かせるようになったんです。「人生いろいろあるけど、気楽に生きていきたいな」って。
――安田さんのそういった心情は、これまでのアルバムタイトルや楽曲内容にもあらわれている気がします。2014年『Will』、2016年『PRISM』には失恋曲がたくさんあり、物事を引きずる様が描かれていました。2020年『Re:I』は、安田さんの名前や"I"というワードもタイトルにありますが、自分自身と向き合うタイミング。2023年のコラボレーションアルバム『Circle』ではそういう自分を踏まえた上で迷ったり、いろいろ探し回ったりしている印象でした。そしてEP『Ray of Light』で「やっと光が見えた!」みたいな。メンタリティがきわめて素直に作品に出ていますよね。
あ、なんか完全にいろいろ言い当てられた気がしています(笑)。たしかに20代前半の頃は、あまり前を向けていなくて、後ろばかり振り向いて生きていた気がします。今は「いろいろあるけど前にしか道がないよな」と。あと20代から30代に近づくにつれて、ゾーンが変わっていく感触があったんです。そして「じゃあ私はなにをしていけば良いんだろう」って。29歳中盤に差し掛かったくらいからなんだか分からない不安に駆られ、「20代と同じことをしていてはダメだな」って。そういう方って意外と多い気がします。だけど30歳になってみると「なんだったんだ、あれは?」くらいの感覚なんですけど。やっぱり29歳から30歳という、一つ上の段をのぼるのが怖かったんでしょうね。「自分はまだ30代に似合う大人になれていない」と感じていましたし。
――そうやって視野を広げている安田さんが、これからどんな楽曲を制作し、ライブを見せてくれるのか楽しみでなりません。
たとえば恋愛の曲でも、シンプルにラブソングとして受け取ってもらっても良いし、それを家族の話、友だちの話に置き換えて聴いてもらっても良い。いろんな捉え方ができる楽曲を作っていきたいです。今回の『"Invisible Stitches"』ツアーでもまたいろんな発見ができるでしょうし、そこでパワーをもらって、2025年も進化していきたい。今後はもっと英語をたくさん入れたものや、全編英語の歌詞とか、グローバルを意識した曲も作ってみたいですね。
Text by 田辺ユウキ
(2024年10月28日更新)
安田レイ(ヤスダレイ)…1993年生まれ。13歳で音楽ユニット『元気ロケッツ』に参加。2013年7月、「自身の歌声をもっともっとたくさんの人々の心に直接届けたい』という強い想いを胸に、シングル『Best of My Love』でソロデビュー。その後も、ドラマやアニメ主題歌、CMタイアップ曲など、話題の楽曲を次々とリリース。2021年2月リリースの「Not the End」が、ドラマ「君と世界が終わる日に」挿入歌として劇中で使用され、自身最大の配信ヒットとなる。THE FIRST TAKEでは、その表現力と歌唱力が評価され話題に。2022年8月、THE CHARM PARK作曲&アレンジ、安田レイ作詞による新曲「風の中」(TVアニメ「ラブオールプレー」エンディングテーマ) をリリース。2023年、2月8日アルバム「Circle」をリリース。JQ(Nulbarich)、TENDRE、熊木幸丸(Lucky Kilimanjaro)、Yaffle、THE CHARM PARK、VivaOlaといったリスペクトするアーティストとのコラボレーションにより新たな音楽性を表現。2024年2月7日、E.P「Ray of Light」をリリース。タイトルトラックはドラマに続き『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』挿入歌として起用され、シーンに込められた感情を力強い歌声でよりエモーショナルに引き立てている。
オフィシャルサイト
https://www.yasudarei.net/
▼11月1日(金) 19:00
磔磔
全自由-5500円(ドリンク代別途要)
[メンバー]安田レイ(Vo.)/クレハリュウイチ(key.)
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
【北海道公演】
▼11月15日(金) 札幌市時計台ホール
【福岡公演】
▼11月22日(金) LIV LABO
【愛知公演】
▼11月29日(金) Live&Lounge Vio
【宮城公演】
▼12月1日(日) 17:00
誰も知らない劇場
▼2025年1月12日(日) 17:00
Shangri-La
全自由-6600円(ドリンク代別途要)
[メンバー]安田レイ(Vo.)/クレハリュウイチ(key.)/江渡大悟(Gt.)/藤谷一郎(Ba.)/稲田一朗(Dr.)
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
【東京公演】
▼11月24日(日)14:30・17:30
コニカミノルタプラネタリアTOKYO DOME1(有楽町マリオン9階)
[メンバー]安田レイ(Vo.)/クレハリュウイチ(key.)