ホーム > インタビュー&レポート > 台湾インディーロックシーンの旗手、Sorry Youth拍謝少年 グランジ、オルタナを経由した激情溢れるライブが まもなく日本に上陸
長い歴史のある台湾語と、新しい時代の感覚を掛け合わて
僕らにしかできないものを生み出したい
――新作『噪音公寓 / Noise Apartment』はとても聴きごたえがあります。激情と冷静がせめぎ合うようなインストゥメンタル『Intro』(M-1)が始まった瞬間、アルバムの世界にグッと引き込まれました。今作は「バンドの原点を振り返る作品になった」とコメントされているのを読みましたがどういう経緯でそのコンセプトになりましたか?
維尼(ウェニ)「前作『歹勢好勢 / Bad Times, Good Times』(2021年)を発売した頃は、ちょうど新型コロナウイルスで世界中が混乱している状態でした。それから2023年に4枚目のアルバムを作るために動きはじめた頃は、世界的にもうコロナが収束に向かい良い方向に転換していき、その頃僕らには自分たちの練習スタジオを作る計画がありました。運命的と言っていいぐらい防音設備も環境も自分たちの理想通りの物件に出会うことができ、そのスタジオで4枚目のアルバム制作に着手しました。自分たちのスタジオで楽器を鳴らしアルバムを作り始めたら、かつてバンドを組んだばかりの頃のことが蘇ってきました。僕らは大学を卒業した後、3人でアパートを借りて一緒に住んでいた時期がありました。"あの頃、毎晩のようにこんなふうに楽器を演奏してバンドに夢中になっていたなあ"と思い出したりして。周りの部屋から"うるさい!"と苦情がくることもありました。そんなことを思いながら『噪音公寓 / Noise Apartment』(M-2)という曲を作りました。その曲をスタートに、アルバム『噪音公寓 / Noise Apartment』で聴ける曲は全部そのスタジオで生まれました。あの頃の騒々しくて、素敵で、他の何にも代え難い日々が僕たちの原点で、そういった経緯から今回のアルバムが誕生しました」
――これまで以上に手応えを感じているのではないでしょうか。
薑薑(ジャン・ジャン)「Sorry Youthは結成から20年間いろんなことがありましたが、今も3人一緒に練習することは変わらずに大好きなバンドです(笑)。今回自分たちのスタジオを作ることができて、そこで作った今回の新作は音色とかアレンジとか、たぶんこれまで別の環境で作ってきた3枚のアルバムとはまた違った感覚で、より新しい僕らの音楽を作ることができた自信があります。これまでの作品よりも自由さとか、僕らの中のちょっとした余裕みたいなものもこれまでのアルバム以上に感じてもらえるんじゃないかな。アルバムを作っている時は、1st『海口味 / Seafood』を作った時と似ているように感じることもありました。制作にかかった時間は1stを作った時より短かったです(笑)」
宗翰(チュンハン)「今回のアルバムを作る前に僕らのバンドにマネージャーを迎えました。アルバムのコンセプトを考えている時にマネージャーと話す中で、"Sorry Youthがいかに他のバンドと違うか"という話になりました。僕らはバンドを結成した頃から今もずっとインディーズで、ライブやアルバムの制作など、他のバンドが周りの人の力を借りるところも全部自分たちでやってきました。確かにそういうところは他のバンドと違うなと思います。僕らは台湾国内だけでなく日本など海外でもライブをするようになりましたが、他の国に行っても僕たちと他のバンドの違いを感じることがあります。台湾の音楽業界は日本ほど発達していないところもあり、家庭や日頃の生活のストレスやプレッシャーでバンドを続けるのが難しい人たちもいる中、Sorry Youth は20年続けてこられて、今でも毎週必ず1回集まって練習することを続けています。今回のアルバムは、そうやって僕らがずっとやり続けてきたことの証のひとつだと思っています」
――初期衝動的な熱とともに、サウンド面において成熟味を感じるのは、Sorry Youthが20年間積み重ねてきたものが音楽に落とし込まれているからなのかもしれません。
3人「(日本語で)ありがとうとうございます。」
――『踅神夢 / 白昼夢』(M-5)の「浮浮沈沈的人生 像電影搬袂煞(浮き沈みの人生は終わりのない映画みたい)」という歌詞は特に響きました。悲しみや孤独も織り込まれた曲ですが、この曲のメロディーや軽やかなサウンドは聴き手を広い世界に連れ出してくれるようです。また、誰の人生も映画のようにドラマチックなのだというエールにも感じます。
チュンハン「この曲を作ったきっかけは、3人で一緒にドキュメンタリー映画『神人之家』(原題)を観たことです。これは盧盈良(ルー・インリャン)監督自身の実話を元にした話で、ギャンブル中毒で家庭を顧みず体を壊してしまった父と、無一文だけれど子どもの頃から霊能力者だった兄。その家を監督は20年前に出て行きました。残った家族を支えてきたのは母です。監督は20年ぶりに故郷を訪れ家族と向き合い、その記録を映画にしました。実は母にはある願いがあって、それは海を見に行きたいということでした。台湾は海に囲まれた国ですが母親は産まれてからこれまで一度も海を見たことがありませんでした。監督はその願いを叶えるため、お母さんを連れて汽車に乗り海を見に行きます。それが映画のエンディングです」
――歌詞に「坐早起七點的區間車 我?你來去海岸(朝7時の電車で海岸へ連れてゆく)」とありますね。3人も海を見るのは好きですか。
ウェニ「はい。プライベートで3人で海に遊びに行くこともあります」
チュンハン「前に日本へ行った時に鎌倉の海へ遊びに行きました。日本の海も綺麗だなと思いました」
――4曲目の『共身軀完全放予去 / 共に身を捨てる feat. 鄭宜農』のミュージックビデオを見ました。誰かに憧れたり好意を抱くことはとてもシンプルなことなのに、それが年齢や立場や性別というフィルターが加わるととても入り組んだものになってしまうことを描かれているように感じました。この曲にはゲストボーカルでエンノ・チェン(鄭宜農:Enno Cheng)さんが参加されていますね。
ジャン・ジャン「この曲は脚本が原作の漫画『優しい夜まで』(夜がやさしくなるまで)からインスパイアされて作りました。コミカライズもされている作品なのですが、物語を通して作者は読者に、年齢とか性別とか体型とかその人のアイデンティティとされているものの制限がなくなったら、その人が抱いている愛情や感情は形を変えてしまうだろうか?と投げかけています。曲を作っている時にたまたまこの作品に出会いました。この曲はエレクトロなアレンジを効かせた曲です。シンガー・ソングライターのエンノ・チェン(鄭宜農:Enno Cheng)はさまざまな曲を歌っていてその中にはエレクトロな作品もあったので、今回この曲を一緒に完成させました」
――この曲もとてもドラマチックでポップさもあり、これまでのSorry Youthにないテイストです。逆にあまりロックを聴かないリスナーの耳にも届きやすい曲でもあると思いますし、これまでにないサウンド面の広がりは、これからSorry Youthに出会うリスナーへの幾つもの入り口になっているように感じます。
ジャン・ジャン「そうですね。『愛是啥貨 / 愛とは何か』(M-8)はフォーキーな感じもあるし、曹雅雯(ツァオ・ヤーウェン)をゲストボーカルに迎えた『袂赴啊 / 遅かった feat. 曹雅雯』(M-6)はトリップホップの要素を取り込んでいます。今作は、曲のデモの段階からプロデューサーと僕らが一緒に作っていました。僕らがふだん創作をする時は台湾の公用語である中国語ではなく台湾の古く長い歴史のある言語である台湾語を使っています。曲を作る時は自分たちの周りの人の物語とか実際にあったことや、さっきも話に出ましたがドラマや映画などの作品にインスパイアされて詞を書くことも多いです。台湾語は古い言語なので今っぽくない表現もまれにありますが、そういう言葉と新しい時代の感覚や自由な発想を掛け合わせたりして、僕らにしかできないものを生み出したい。あらゆる形で表現したいと思っています」
僕らは、自分の声を探し続けている
――皆さんにとって曲を作る原動力になっているもの、自分を音楽に駆り立てるものは何ですか?
ウェニ「僕の考えを言いますね。『噪音公寓 / Noise Apartment』(M-2)の歌詞に「走揣家己的聲音(自分の声を探し出す)」というフレーズがあります。アルバムのパッケージにも書いているフレーズですが、僕はずっとそれを探し続けているんだと思う。Sorry Youthはこの20年ずっとメンバーも変わらずにやってきて、音楽レーベルの契約もスポンサーの縛りもなく自分なりの音楽を自由に作ってきました。台湾は多言語社会でいろんな言語が使われていて、僕らが使っている台湾語は歴史の長い言語ですが過去には政治的にさまざまな背景があって、一時期は使用することを禁じられていました。僕たちは、音楽を人生のアプトプットに変えたいと考えています。自分の声を探し出すのは容易なことではないですが、ある先輩にも言われました。"いついつまでに探し出す"という制限を設けるのではなく、時間をかけて自分の目の前にある道を進んで行けば、いつか自分の声を探し出すことができるんじゃないかって。僕もそう思います」
――これからSorry Youthに出会う日本のリスナーのために、この曲は特に聴いてほしいという曲を1曲ずつ教えてください。
チュンハン「前作『歹勢好勢 / Bad Times,Good Times』に収録している『歹勢中年 / Sorry No Youth』ですね。とても明るいテンポの曲で、僕らのライブに初めて来る人や初めてSorry Youthを聴く人にとって、とても親しみやすくて楽しい曲だと思います。台湾では、この曲のミュージックビデオで踊っているダンスをライブの時にお客さんが一緒に踊ってくれています(笑)」
――私もミュージックビデオを見ました(笑)。楽しい曲です。
チュンハン「ありがとうございます」
ジャン・ジャン「僕がおすすめしたいのは、さっきも触れた『共身軀完全放予去 / 共に身を捨てる feat.鄭宜農』です。僕らの作品の中でエレクトロを取り入れた曲はそれほど多くないからぜひ聴いてもらいたいのと、台湾はアジアで初めて同性婚を正式に国が承認しました。もし音楽が人に力を与えることができるなら、この曲で同性愛者の方に力を送りたい。そういう方達へのある種の応援ソングでもあると思っています」
ウェニ「僕は『世界第一戇 / 世界一バカ feat.謝銘祐』(M-9)ですね。この曲のゲストボーカルの謝銘祐(シェ・ミンヨウ)は台湾音楽シーンでとても影響力のある大先輩のシンガーで、台湾のグラミー賞といわれる金曲奨も受賞し、インディーズ音楽を対象とした金音奨では最優秀台湾語男性歌手賞も獲得しています。この曲を作る上では『THE FIRST SLAM DUNK』劇場版にもすごく影響を受けたので、日本のファンの方には特に入り込んでもらえる気がします(笑)」
――『噪音公寓 / Noise Apartment』の最後を飾る曲ですね。聴いていて温かいような泣きたいような気持ちで胸がいっぱいになる曲です。
ウェニ「ありがとうございます」
――まもなく日本でツアーが始まります。台湾では5000人規模のアリーナ会場を埋めるSorry Youthを日本では手を伸ばしたら届きそうなライブハウスで聴けるのもとても貴重です。日本のファンにぜひメッセージをお願いします。
チュンハン「みなさんと一緒においしい生ビールを飲めるのを楽しみにしています(笑)」
ウェニ「僕らはもともとお客さんが数人、数十人のライブハウスでライブをしていました。それから何年も経ちましたが、その頃と今で自分の中にある音楽への気持ちや熱意、そういう芯の部分は変わっていないと思っています。ちょっとネタバレになりますが、今回のツアーのセットリストはすごく盛りたくさんの曲を準備しています。新作の曲はほとんど演奏するし、これまでの3枚のアルバムからベストな曲をチョイスしました。ぜひ皆さん楽しみにしていてください」
ジャン・ジャン「これまでも何度か日本のさまざまな音楽祭やフェス、イベントに出演しましたが、僕らを初めて知ったリスナーがライブを見た後に物販にCDを買いにきてくれたり、ライブの感想を伝えてくれた人もいました。音楽には国境がありません。今回皆さんと会えることをすごく楽しみにしています!」
――2019年のMegaport Festivalでの『暗流 Undercurrent ft. 安溥 Anpu』のライブ映像がYouTubeで公開されています。ラウドで胸を打たれる演奏とお客さんの大合唱が目と耳に焼き付いています。日本でもああやって一緒に歌えたら良いなと思うのですが、ライブで一緒に歌える曲やフレーズがあったら教えていただけますか?
ウェニ「さっきおすすめしたい曲で挙がった『歹勢中年 / Sorry No Youth』でしょうか。歌詞でいうと、「看無未來 揣袂著過去啊 未来は見えないし 過去も見つからない」のリフレインのところはどうでしょう?覚えやすいんじゃないかなと思います」
――『歹勢中年 / Sorry No Youth』のミュージックビデオに日本語訳詞の字幕がついていますね。ライブまでにガン見して覚えます!
チュンハン「頑張ってください(笑)」
Text by 梶原有紀子
(2024年10月11日更新)
HAIKHAU CO., LTD.
[Track list]
01. Intro
02. 噪音公寓 / 騒音アパート
03. 我佇驚惶中騎車 / 不安の中にバイクを駆ける
04. 共身軀完全放予去 / 共に身を捨てる feat.鄭宜農
05. 踅神夢 / 白昼夢
06. 袂赴啊 / 遅かった feat.曹雅雯
07. 我閣有偌濟時間 / まだ時間はどれくらいある
08. 愛是啥貨 / 愛とは何か
09. 世界第一戇 / 世界一バカ feat.謝銘祐
視聴はこちら
Sorry Youth(ソーリー・ユース / 拍謝少年)…2005年結成。メンバーは維尼(ウェニ / Weni、Gt)、ベーシストの薑薑(ジャン・ジャン/ Giang Giang、Ba)、ドラマーの宗翰(チュンハン / Chung-Han、Dr)。台湾インディーズシーンの牽引者であり精神的支柱的な存在。台湾のインディーズバンドでは数少ない、全編台湾語で歌詞を作るバンド。台湾語の歌詞は彼らのソングライティングの重要なベースであり、拍謝少年の大きな特徴でもある。曲のアレンジはライブパフォーマンスの雰囲気を強く捉えており、国内のライブは毎回ほぼチケットが完売。本国の「Megaport Festival」をはじめアメリカの「SXSW」や日本の「SUMMER SONIC2015」「森、道、市場2019」など国内外の音楽フェスに出演。今年8月には5000人を収容する台北ミュージックセンターで過去最大規模のワンマン公演を成功させた。これまでにアルバム『海口味 / Seafood』(2012年)、に『兄弟沒夢不應該 / Brothers Shouldn't Live Without Dreams』(2017年)、『歹勢好勢 / Bad Times, Good Times』(2021年)をリリース。
【大阪公演】
▼10月12日(土)・13日(日)・14日(月・祝)
club vijon/hills パン工場/SUNHALL/FANJtwice/DROP/VARON/BEYOND/AtlantiQs/ANIMA/Pangea/BRONZE/CLAPPER/BIGCAT/CONPASS/OSAKA MUSE/FootRock&BEERS/OSAKA RUIDO/JANUS/soma/なんば Hatch(12日のみ)
※拍謝少年 Sorry Youthは13日(日)20:00~Pangeaに出演。
Pコード:275-473
▼10月14日(月・祝) 18:00
SOCORE FACTORY
オールスタンディング-6500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]ドミコ
[問]GREENS■06-6882-1224
【東京公演】
Pコード:275-473
▼10月16日(水) 19:00
LIVE HOUSE FEVER
オールスタンディング-6500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]Cody・Lee(李)
[問]GREENS■06-6882-1224
Pコード:270-696
▼10月19日(土) 15:30
服部緑地野外音楽堂
一般-5000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-1500円(高校生・大学生・専門学校生対象、整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]the band apart/DOPING PANDA
[ゲスト]Sorry Youth
※学割チケットの方は在籍が証明出来るものを受付に提示下さい。中学生以下は入場無料です(ドリンク代のみ必要です)。ただし、保護者の管理の元お願い致します。雨天決行/荒天中止。会場内での傘/日傘の使用は禁止です。パラソル/テント類も持ち込み禁止です。イベント専用駐車場はございませんので、公共交通機関をご利用下さい。客席を含む会場内の映像・写真が公開されますので予めご了承ください。
[問]GREENS■06-6882-1224
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