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「ガールズロックの先駆者」と呼ばれた白井貴子
名盤『FLOWER POWER』が誕生した1985年を振り返る
「勝ち組、負け組と言われる“振るい落とし”がおこなわれた」

1984年リリースのシングル曲「Chance!」のヒットにより、「ロックの女王」と呼ばれるようになった白井貴子。その印象をより強めたのが、1985年に白井貴子&THE CRAZY BOYS名義で発表した5thアルバム『FLOWER POWER』だ。11月1日、デビュー45周年に向けたキックオフライブとして同アルバムを完全再現する公演『白井貴子&THE CRAZY BOYS アルバム『FLOWER POWER』完全再現!11月1日デビューアニバーサリー45周年キックオフライブ!』を大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホールで開催。当時『FLOWER POWER』でさらに評価を高め、音楽シーンのメインストリームにさらに食い込んでいくかと思われた白井だが、その後、彼女は自分が信じる道を選択した。そして音楽を軸にしながら、環境問題、人権活動などに精力的に取り組んだ。そんな白井に、あらためて“『FLOWER POWER』以後”について話を訊いた。

ーー『FLOWER POWER』がリリースされた1985年は、男女雇用機会均等法が成立(1986年施行)した年でもあります。結果的な言い方ですが、同盤で「ガールズロックの先駆者」と呼ばれるようになった白井さんの存在と重なるものがあります。

おっしゃる通りなところがあると思います。当時は音楽的にざわつきがあった時代でした。というのも、MDが出てきて、レンタルレコードが流行するなど、媒体が分かれてチャートの収集がつかなくなってきたときだったんです。そんななか、私は売上が強いられるタイミングになっていました。「ベストテン入りを目指せ」となり、気持ちの面でも大変でした。そのあと媒体の中心はCDに変わり、その波に乗ったアーティストの皆さんが登場した。そうやって景気や時代が移り変わっていきました。

――『FLOWER POWER』は全体的に前向きな内容でした。収録曲の「It Must Change」「Chance!」などは、新しい価値観を手にしようとしたり、社会を切り開いていこうとしたりする曲内容でしたし。そしてまさに日本社会もバブルを迎えました。回想すると、作品と社会の風潮に重なりが感じられます。

女子がバンドを率いて曲を全部作り、男性社会にも切り込み、引っ張っていくようなことはそれまで少なかったですからね。私も「なかなか大胆なことをしたな」と自分で感じます。だけどそうやって前に進んでいこうとしたけど、壁にぶち当たった。学歴と数字が求められる社会になり、勝ち組、負け組という言われ方がされるようになった。現在の「8050問題」(80代の親が50代の子どもの生活・経済を支えること)は、当時のそういった"振るい落とし"が背景にあるのではないでしょうか。

――白井さんが先ほどおっしゃった「売上が強いられた」という話にも通じますよね。そういったことに挫折して、結果として振るい落とされた人もいたと思います。

もちろん音楽もビジネスなので売上を求めるのは当然のこと。だけど当時、女子というのは30歳近くになると、どれだけ仕事を頑張っていても「あなたはどうするつもりなの?」と迫られて、肩を叩かれることも多かった。これは私の意見ですが、1970年代のアイドルのみなさんやヒット歌手が表舞台から次々去ったのも、そういった時代を察したからだと思えるんです。だから1985年に男女雇用機会均等法が成立しても、女子が本当に平等だったかと言われるとそうではなく、それらもまた男性社会の中である意味、作られたものだったと考えられます。そういうこともあって私は1988年、ロンドンへ渡ったんです。

――ロンドン行きにはそんな理由があったんですね。

もちろん、私が好きなビートルズの存在も大きかったです。ただこれは決して批判的な意味ではなく、自分が疑問を感じるような音楽性の楽曲がチャートを占めるようにもなっていたのも理由としてありました。自分には、目指したい世界があった。でも当時の日本でそれができるかどうか、考えたんです。もっと視野を広げて、お客さんが減ってもいいから世界に向けて歌いたかった。いろんな意味で「ここにいたら死んじゃう」と危機感を覚えました。20代後半になると、あの頃の日本はまだまだ「結婚するの?この先どうするの?」と会社から暗黙の排除の視線というか、肩を叩かれ「これからも社会のなかで生きていくためには、英語を身につけて、手に職をつけキャリアアップして自立しなくては!」と願い渡英した女子が沢山いたことを、私はその後、NHKテレビ「わが心の旅」で、再び自分が通った英語学校を訪れた時、知りました。

――なるほど。

あと『FLOWER POWER』の収録曲で言えば、自分にとっては「Foolish War」の存在が大きかったです。私が生まれる14年前、日本は戦争をしていた。たった14年前なんです。ということは、その恐ろしい時間が、いつ、またやって来てもおかしくない。「Foolish War」にはそんな思いを込めました。でも目先の利益や数字ばかり追うと、そういう未来のことが見えなくなりますから。私は、自分も、地球も幸せになることをやっていきたい。利益は少ないかもしれないけど、「そんなこと関係ないや」と思って生きる方が幸せなんです。だからこそ、もっと広い世界を見てみたくなりました。

――1994年にドキュメンタリー番組『世界ウルルン滞在記』(TBS系)でアフリカ・セネガルを訪問されましたよね。現地のミュージシャンらと交流し、利益ではなく純粋に音楽を楽しむという体験をされました。当時のセネガルは決して経済的に恵まれた国ではなかったと思いますが、白井さんにとって必要な旅になったのではないでしょうか。

『世界ウルルン滞在記』の旅は私に大きな気づきを与えてくれて、自分の明日が変わりました。ロンドンから日本へ帰ってきたとき、また当たり前のように数字の世界に足を突っ込みそうになっていたんです。「これはダメだ」というときにアフリカへ行く機会を与えてもらいました。日本では、曲がヒットしたら全国ツアーに出られる。でもアフリカは違って、「さあ音楽やるぞ」といろんなところで演奏して、そこにお客さんが集まってきて、すごく楽しそうに踊って、歌い出す。ミュージシャンは演奏が終わったら「良かったらカセットを買ってね」という感じでした。日本とは順番が違うんだな、と思いました。

――それから白井さんはアコースティックでのライブが増え、独立した活動を強めていくんですよね。

そうなんです。アフリカへ行って「これだったら私も明日からできる」と思ったんです。しかも私が『ウルルン滞在記』で行ったゴレ島は、ブルースなどの黒人音楽のルーツと言われているところ。楽しいことも、苦しいことも、音楽であらわす。そして救われる。「すべての音楽のルーツがここにある」と感じました。

――11月1日に、デビュー45周年に向けたキックオフライブ『白井貴子&THE CRAZY BOYSアルバム『FLOWER POWER』完全再現!11月1日デビューアニバーサリー45周年キックオフライブ!』が大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホールで開催されます。そんな白井さんのこれまでの経験が感じられるライブになりそうですね。

3時間もロックショーをやるのは、身体的にも気持ち的にも大変なこと。だけど、THE CRAZY BOYSがずっと私と一緒にいてくれて、バンドとしても個々としても素晴らしい成長を遂げています。みんながどんなプレイをするのか、ステージに立つ私も楽しみだし、お客の皆さんもそれを存分に受け取って楽しんでもらいたいです。また、1125日まで京都佛立ミュージアムで展示会『白井貴子 母 TSUNAGU 未来展 2024 Rock Queenの宝物』も開催しています。私の母がかつて作ってくれた手作りの衣装、ダメージ満載のジージャン。「ロックの女王」と呼ばれる私の思い出の品がたくさん展示されているので、ぜひそちらもご覧いただきたいです。

Text by 田辺ユウキ




(2024年10月28日更新)


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Live

白井貴子&THE CRAZY BOYS
未来へ咲かそう!『FLOWER POWER 2024』
アルバム『FLOWER POSER』完全再現!
11月1日デビューアニバーサリー45周年キックオフライブ!

PICK UP!!

【大阪公演】

▼11月1日(金) 18:30
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
全席指定(一般)-8800円
全席指定(中学生以下)-3000円
[出演]白井貴子(vo)/本田清巳(g)/南明朗(g)/岡部晴彦(b)/片山敦夫(key)/河村“カースケ”智康(ds)
※未就学児童は入場不可。大阪限定オリジナルバンダナ付き。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

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白井貴子&THE CRAZY BOYS
'86 西武球場 再現ライブ!「NEXT GATE 2025」

【横浜公演】
▼2025年1月19日(日) KT Zepp Yokohama

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