ホーム > インタビュー&レポート > 森恵のストリングスコンサートが大阪で初開催 普段とは違う演奏スタイルや音楽制作のなかで気づけること 「私が本当に好きなのものってこういう音なんだ」
ーー毎年恒例のストリングスコンサートは、やはり歌唱に専念する森さんのパフォーマンスが一番のみどころですよね。
基本的に私はいつもギターと一緒にステージに上がっていますが、おっしゃるように、ストリングスコンサートでは演奏をお願いしているミュージシャンに身を任せて歌に没頭しています。綿密にリハーサルをするものの、本番では自分で演奏面を動かせない部分もあるのでやはり不安も出てきます。ただその臨場感もストリングスコンサートならではのもの。緊張感が高まることで、歌に凛とした空気感を含めることができるんです。
――でも、なるべく緊張って味わいたくないじゃないですか。しかし毎年開催されているということは、あえてご自身をそういう場面へと追い込むわけですよね。そういったある種の刺激を自分に与えることが、音楽活動の上で必要なのかなと思いました。
確かにそれはあるかもしれません。どのライブも緊張感は持っていますが、ストリングスコンサートは別の種類の緊張や不安に襲われます。ただ、普段とは違うスタイルで音楽を表現することで自分の可能性を広げられたり、「こういう歌い方ができるんだ」と発見できたり。そういうことがミュージシャンとしての成長に繋がる気がしています。ストリングスコンサートをやり始めて、特に歌い方についての気づきがたくさんありました。「ギターを置いて歌うと、こんなに良い意味で力が抜けて柔らかく歌えるものなんだ」とか。それはレコーディングなど制作面でも生かされます。
――ストリングスコンサートでは、普段とは違ったサウンドの味わい方もできるのではないでしょうか。その点でストリングスコンサートは、森さんにとってのさまざまな音の探究でもあると感じます。ちなみに森さんの1stアルバムのタイトルも『いろんなおと』でしたし。
自分なりに音を発見しながら活動していて、「テンションが上がる音」「柔らかい気持ちにさせてくれる音」とか、そういうものをレコーディングやライブで発信し、みなさんがどう感じてくれるかというキャッチボールを楽しんでいます。でも自分は「めっちゃ良い音」と思っても、スタッフに聴いてもらったらイマイチな反応でショックを受けることもあって(苦笑)。ですので、自分にとっての良い音と、みんなが求めている良い音の違いについていつも考えたり、すり合わせたりしています。
――そういう意味では2024年6月にリリースされたアルバム『WORDCLOCK』は、森さんにとって実験的な音作りがなされた作品になりましたよね。
打ち込み系のトラックを作ったので、音を探す時間がとても多くて。ドラムのキック音だけでも何千、何万以上も存在しますし、「めっちいいじゃん」と感じた音があっても、曲に合わせてみると他の楽器によってその効果が薄れたり。いろんなドラムのキックの音を何個も組み合わせたり、「こういう音は誰も出していないんじゃないか」とアイデアを膨らませてみたり。自分は今まで「ギターを持って歌うこと」を第一に考えてやってきて、今もその根本は変わっていませんが、でも新しいことを始めていかないと同じ場所で立ち止まってしまう。特に、自分が苦手なこと、やったことがないことをやるのは本当に大事。そこであらためて「私が本当に好きなのものってこういう音なんだ」と気づけるんです。
――なるほど。
打ち込み系の曲を制作してみると、どうやっても人間では再現できない音の種類も知れますし、逆に「あのミュージシャンはライブではこの音を生身で演奏しているのか」と驚くこともあります。「そう考えるとこの音色ってめちゃくちゃおもしろいんだな」と。それを人間の力で強引にやってみたら、また別のおもしろいサウンドが生まれるかもしれない。『WORDCLOCK』を制作したことで音楽を楽しむ幅がすごく広がりました。
――2025年にはメジャーデビュー15周年を迎えられますね。音楽性などの変化は感じられますか。
根本は大きく変化していませんが、歌うことの意味みたいな部分はすごく変わったと思います。特に、誰に対して歌うかというところ。当時も一生懸命やっていましたが、視野は今ほど広くはなかったはず。だからこそ、そのときにしか歌えなかった歌もたくさんあり、それはそれですごく尊いもの。ただ、当時はどうしても自分の気持ちを歌っている傾向が強かったです。だけど自分が経験できることって限られているので、もっといろんな人の言葉や経験談を聞いて、それを歌に生かしていくことを意識するようになりました。
――2012年リリースの楽曲「世界」はそういった森さんの模索がうかがえました。
社会性というものをそこまで意識して楽曲を作っているわけではないのですが、ただ聴いてくださる方が結果的になにかを考えるきっかけになって欲しいとは思っています。あと私は小さい頃から人とコミュニケーションをとるのが苦手で、「なぜ自分は人とうまくやれないんだろう」と悩みを抱えていました。でも音楽を介したら、人と共有できるものがたくさんできたんです。いろんな人と関われるようにもなり、気づきも増え、たくさん歌を書くことで社会と繋がることができました。
――森さんにとって音楽がコミュニケーションの手段になったわけですね。
それこそストリングスコンサートでも、演奏を担当してくださるミュージシャンの皆さんは、私が「こういうことをやりたい」と話すと、惜しみなくいろんな情報を出してくださるんです。本当に「なんて良い方々なんだ」と感動するんです。でもそれはやっぱり、みんなで良い音楽を作りたいという気持ちがあるから。相手の気持ちを理解すること。一緒に目標に向かって進んでいる人を支えること。私の周りには「自分さえ良ければいい」という人がいなくて、だから自分もちょっとずつ成長できている。「どれだけ人間性が悪くてもステージ上で完璧だったらいい、作る曲が良ければOK」とか絶対違うでしょって思います(笑)。
――ハハハ(笑)。そうやって信頼するミュージシャンのみなさんと、森さんがどんな音を聴かせてくれるのか。11月9日の大阪でのストリングスコンサートへの期待が膨らみます。
2025年でメジャーデビュー15周年。その間、自分のなかでの音楽形態も、作っていくものも変わってきました。これからもっともっと新しいことをやっていこうと考えています。大阪での初めてのストリングスコンサート開催は、その第一歩になると思います。
Text by 田辺ユウキ
(2024年10月22日更新)
▼11月9日(土) 18:00
心斎橋パルコ SPACE14
全席指定-6500円
※未就学児童は入場不可。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400
▼2025年1月13日(月) 16:00
Yogibo HOLY MOUNTAIN
自由席-5600円(整理番号付、ドリンク代別途要)
※8/31(土)の振替公演。
※3歳未満入場不可。3歳以上からお一人1枚ずつチケットが必要になります。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400