ホーム > インタビュー&レポート > アルバム『Botanical Note』で魅せる純度100%の世界観 新居昭乃の願いと表現
自分が聴きたい音楽を作り続けてきた
ーー現在約2年ぶりの全国ツアー真っ只中ですが、感触はいかがですか?
「感触は良いです。神戸VARIT.ではトラブルもあって、オケが途中で止まった曲があったんですけど、そのままアカペラで歌って。そしたらみんなが"ヒューヒュー"って(笑)」
ーーハプニングは案外ライブのスパイスになって、盛り上がりますよね。地方のお客さんと直接会える機会はいかがですか?
「聴いてくださる方のお顔が直接見られるので、貴重な機会だと思って。"皆さんに会いに来る"という気持ちで来てます」
ーーライブ演出もこだわっていらっしゃると思いますが、ライブならではの譲れないポイントはおありですか?
「セットリストとツアータイトルは全部自分で決めていて、映像演出は20年ぐらいずっと同じプロデューサーが考えてくれているんですけど、セットリストを見て、大体どういうイメージというのをわかってくれていますね」
ーーなるほど。1986年のデビューから38年キャリアを重ねてこられて、曲作りに対する気持ちの変化や、作り方の変化はありました?
「基本的には自分が聴きたい音楽を作りたいと思っていて、最初からずっとそれを続けてる感じです」
ーーご自分の楽曲の1番のファンはご自分であるという。
「そうでありたいですね。やっぱり自分がワクワクしながら作れるものでないと、つまらないなって。」
ーーお仕事の時はどのように曲を作っておられるんですか?
「アニメの仕事が多かったので、アニメありきでEDやテーマソングを作っていて監督さんやプロデューサーさんが何を求めているかが大事なので。私にオファーをくださったということは、私の世界観の中で考えていいんだなと。あとはどこで折り合いをつけて着地点を見つけるか、どういう気持ちになれる曲がいいのかな、ということは考えますね。そこからイメージして、そこへ到達するように頑張っています」
ーーアニメにおける音楽の存在はとても大きいと思います。それこそ私は『ぼくの地球を守って』が世代で。原作ファンの方もおられますし、アニメ制作陣の意見を汲みながら作るのは大変でしたか?
「『ぼくの地球を守って』は菅野よう子さんが音楽を担当されていたので、よう子さんの曲を歌わせてもらって。なのでそういう意味では何の苦労もしてないんです(笑)ただ、『Moon Light Anthem~槐1991(1988年)』に関しては、コミックスのイメージアルバムのために作ったのですが、お話しが面白かったのですぐに曲ができました。当時ポップス畑で挫折していた時で、その曲ができたおかげで、また音楽を作っていこうという気持ちになれたので、『ぼくの地球を守って』は特別な作品です」
純度高く、自分が良いと思うものにフォーカスして作れた1枚
ーー今作『Botanical Note』は、先にツアーをやりたいというお話があって、それに合わせてアルバムを作ろうとなったとnoteで拝見しました。
「そうなんです。ツアーの方が先に決まってしまったので、絶対そこに合わせないといけないということにはなりましたけど、前からアルバムは作りたかったので、お尻を叩かれた感じで取り掛かりました」
ーーいつも時間をかけて楽曲を作られるんですか?
「そうですね。私はマイペースに活動してきてしまって。曲が溜まったら"アルバムにしましょうか"という感じで甘やかされてきたので、ほぼ何もない状態からアルバムを作ったのは今回が初めてでした。あとコンセプトが先にあったのも初めてでした」
ーー全曲書き下ろしですか?
「1曲目のウクレレで弾いてる『Henichesk』だけは前からライブで歌ってたんですけど、他の曲は全部今年になってからの書き下ろしです。なのでもう迷ってる時間がなく、"良いと思ったら進む!"みたいな。"自分が良いかどうか"にフォーカスして作れたので、ある意味すごく純度の高いものができたなと思っています」
ーー考える時間があると迷いますよね。
「やるかやらないか、入れるか入れないか迷うみたいな」
ーーご自分の決断で進めるとなると、気持ち良かったですか?
「いや、苦しかったです(笑)。もちろんずっと一緒に音楽を作ってくれている保刈久明くんと相談しながらではあるんですけど。たとえば『Flora City(M-7)』は私が放っておいたモチーフを、彼が救済して作ってくれたりしました」
ーー収録されている11曲の他に候補の曲はあったんですか?
「なかったです(笑)。」
ーーサブスクにはまだ上がっていないですね。
「ビクターから出ている曲はサブスクで全曲聴けるんですけど、前作『ミツバチの羽音』と今作『Botanical Note』は自分のプライベートレーベルで出していて。本当に大事に聴いてくれる人に先に届けたい気持ちがあって。何年かしたら出してもいいかな、と思っています」
楽曲に込めたイメージと願い、祈り
ーー今作にはたくさんのミュージシャンが参加されていますね。
「曲を一緒に作ってもらったのは保刈くんとYuji Onikiさんです。Onikiさんは、私が20年ぐらいずっとファンで、20年前の未発表音源を『Separate Peace』というタイトルで、私のレーベルから発売させてもらった経緯もあって、今回協力していただきました」
ーー『Separate Peace』はOnikiさんのいちファンとして、"これを世に出さねば"みたいな使命感もあったりされたんですか?
「20年聴いても飽きなかったので、本当に良いものじゃないかなと思ったので、世の中にシェアしたいなと」
ーーOnikiさんの音楽のどういうところに1番グッとこられますか?
「言ってみれば全部なんですけど、まずサウンドがカッコ良いのと、声がちょっと特殊で魅力的なところと。歌詞は英詞なんですけど、想像するに哲学的な内容で、Onikiさん独自の視点で世の中を見ているのがすごく面白いなと思っています」
ーーOnikiさんのお話になると表情がひとつ明るくなられたので、本当にお好きなのが伝わってきます。
「大好きなんです。アルバムを聞いて新たにファンになってくださる方も増えています」
ーーそんなOnikiさんとの共作が、今作には『Sprout(M-5)』『Cosmos(M-9)』『Garden Gate(M-10)』の3曲収録されています。『Sprout』は曲がOnikiさんで、歌詞を新居さんが書かれたんですね。
「はい。そこからOnikiさんに少し手直ししてもらったというか、"こういう言い方が英語としては伝わるよ"と教えてもらって。Onikiさんの言葉も入っているので共作になっています」
ーーどんなふうに制作されていったんですか?
「『Botanical Note』というアルバムを作ろうと思った時に、歌詞の内容はもう頭の中にあって。双葉を付けた種が飛んでいって、廃墟で花を咲かせていくイメージがあったので、『Sprout』のデモをいただいた時にピッタリの曲だなと思って歌詞を書かせてもらいました」
ーー<すべてがなくなってしまったら もう育つ緑はない>というフレーズは、環境破壊というか、地球の緑が消えていってしまうことへの風刺も込められていますか?
「その一文はOnikiさんの言葉です。"色んな紛争や戦争がある中で、そういう場所にも希望が芽生えていくといいのに"という気持ちを、Onikiさんがちょっと具体的に言葉にしてくださったので、それはそれで良かったなと思います」
ーー戦争というと、1曲目の『Henichesk』はウクライナについて歌われています。ウクライナの国花がひまわりなんですよね。平和への願いが込められているのかなと。
「ウクライナの国旗は、ひまわり畑と青空を表しているそうです。せめて歌では祈っていたいと思いますね」
ーーその気持ちはずっとお持ちなんですか?
「デビューのキッカケにもなった『美しい星』という曲は、"核戦争で地球がなくなる夢を見た"という内容なんですね。40年ぐらい前に作った曲なんですけど、"いつかそういう歌を歌わなくてすむような世界になるといいのに"という気持ちはずっと持っていますね」
ーー優しいですよね。希望を歌に込めていらっしゃる。
「絶望しかないような暮らしをされてる人もいると思うので、せめてその人たちの代わりに希望を持っていたいと思いますね」
"自分がなぜ生まれてきて、何をしたらいいのか"を知ったキッカケ
ーー『Cosmos』はお花ではなく宇宙の"Cosmos"ということで、新居さんの世界観が表れている曲だと思います。
「前半部分をOnikiさんが作ってくださって、私は後半部分と、歌詞を書きました。訥々とした曲だったので、日常の風景から"こうしている時でも宇宙とは繋がっている"というイメージが歌えるといいなって」
ーー"銀河系の太陽系の地球の中の1人"みたいな感覚ですか?
「そういうのもありますし、それぞれの人の中にある"内なる宇宙"みたいなイメージもあります。」
ーーそれを楽曲で表現できたなと思われますか。
「日常の風景は言えたなという気はしてますけど、それが宇宙へ繋がっていくんだとか、境界を超えていけるんだというのは......歌詞に"ブランコを漕いで垣根の向こうに行ったら違う世界に行ける"という暗喩を盛り込んではいるんですけど、伝わるといいなと思います」
ーー次の楽曲『Garden Gate』でも、境界線を表現していますね。
「そうだと思います」
ーー『Garden Gate』は作詞作曲、編曲がOnikiさんで、1番音数が多く、最後にふさわしい楽曲でした。日常と異世界の境界線は、ずっと感覚としてお持ちだったんですか?
「小さい頃から神秘的なことが好きではあったんですけど、スピリチュアルなことは敬遠する気持ちが強かったんです。でもアロマテラピーでカウンセリングをされていた女性に出会って、"なぜ生まれてきたのか、何をしたらいいか"、その方によって明確になりました」
ーーミッションビジョンのようなものですか。
「そうです。もともと人前に出るのがすごく苦手で、センターで歌う自分なんて想像できないぐらいだったのが、何十年もそこで歌わせてもらって。不思議だなとずっと思ってて。その理由が、その方によって少しずつわかってきて。"じゃあやらなくちゃ、これが私のやることなんだ"と。世界には不思議なことが満ち溢れていて、"その時刻にこれが起きてた"みたいなシンクロにも気付けるようになって。どうなりたいか、どうなっていくかも自分次第だということがだんだんわかってきました」
ーー直感が働きやすくなったみたいなことですか?
「直感が正しいことがわかってきたというか」
ーーなんだかすごいお話を聞いた気がします。
「そんな話をするつもりではなかったんですけど(笑)」
ーー『Garden Gate』を作る時、Onikiさんとそういう感覚についてお話されたんですか?
「Onikiさんもそういったことを感じておられるみたいで。"打ち合わせの時に、"境界"についてお話しされてた記憶があって。『Garden Gate』の歌詞を見て"こういうことを考えていらしたのかな"と思いました」
ーーこの曲はデュエットで歌われていますね。
「それは願望でもありました。歌ってみて、意外と合うんじゃないかなと私は思いました(笑)」
ーー一緒にブースに入って歌われたんですか?
「最初にOnikiさんに全部歌ってもらって、それを聴いて合わせて歌うようにしました。自分の魂がキラキラして喜んでました(笑)」
ーーアルバムの中でもこの曲は輝いていました。
「そうですか! Onikiさんにも伝えさせていただきます(笑)」
世界観が広がりきらめく、アーティストとの化学反応
ーー『Orlaya(M-4)』と『Clover(M-11)』にコーラスで参加されているHello1103のykさんは、すごいお声の持ち主ですね。
「たまたまCMを見て声が気になったmarucoporoporoさんという方と知り合いになることができて、その方からHello1103につながって、ykさんのお声を知りました」
ーー出会いはいつ頃だったんですか。
「前作『ミツバチの羽音』のリリースライブにはHello1103のおふたりが来てくださっていたので、3年くらい前かな」
ーー今回はykさんに歌ってほしいメロディーを作った形ですか?
「そうです。ykさんの声をイメージして曲を作りました。今までアーティストの方に曲を書いたりしたことはあったんですけど、自分の歌で、他のお声をイメージして作ったのは初めてだったかもしれないです」
ーー実際に歌ってもらって、いかがでした?
「想像以上の嬉しさがありました。デモとして仮歌を自分で歌ったんですけど、やっぱりykさんが歌ってくださった時の広がりが全然違いました」
ーー『Orlaya』は静かなイメージもありましたが、『Clover』は美しいですね。kidlitさんのピアノも入って
「"時が止まる瞬間の歌"だったので、最初は静かなイメージだったんですけど、kidlitさんがキラキラってピアノを弾いてくださって、やりたいことが変わったんです。"やっぱりこの世界のキラキラを歌おう!"みたいな」
ーー素敵ですね。『Clover』には<ミツバチが羽を止める>という歌詞があり、前作とのリンクが見られますね。『Colony(M-8)』にも<羽音の森>という歌詞が入っていて。
「そうですね。『Colony』は何となく鳥の羽音なんです。『Clover』はミツバチ。よく気付いてくださいました(笑)」
"こんなアルバムが作れて良かった"という1枚になった
ーーそしてハープとギターのデュオ・tico moonは『Hoshi no mi(M-6)』と『Colony』に参加されています。
「tico moonのおふたりのイメージとしては『Hoshi no mi』が近いと思うんですけど、『Colony』みたいな曲もすごく得意とされている気がしました」
ーー実際に一緒にやられてみていかがでした?
「本当に研ぎ澄まされた素晴らしい演奏をされると新ためて感動しました」
ーーおふたりの演奏に声を乗せるところで、意識されたことはありました?
「オケに引っ張られてただ歌う感じでした」
ーーどんな気持ちになりましたか?
「『Hoshi no mi』はファンタジーで、枯れ木に星が成って、それが落ちてきて拾って、自分が昔子どもの頃に傷つけた友達に渡したいという気持ちを書いた歌詞なんですけど、その世界に集中することができました」
ーー研ぎ澄まされた演奏で、解像度が上がるような感覚ですか?
「確かにそうですね」
ーー『Colony』はいかがでしたか?
「『Colony』は宇宙を生命の種か菌が旅をして、惑星に降り立ってコロニーを形成していく。自分たちもそうやって生まれたのかもしれない、というイメージがありまして。種や苔の質感がほしいと思っておふたりにお願いしました」
ーーMVも今お話いただいた通りのストーリーになっていますね。想像力がかき立てられる楽曲ですね。
「嬉しいです」
ーー改めて今作、どんな1枚になったなと思われますか。
「"こんなアルバムが作れて良かったな"という1枚になったと思います。純度高く、自分自身が好きなものを詰め込めました。短期間で作った割には納得のいくものができたなと。『Botanical Note』というタイトルだけは以前からあって、コンセプトというか自分にとっての植物の存在や、そのイメージに沿って勢いで作った感じでしたが、結果的にすごく良いアルバムになったと思ってます!」
ーー長いキャリアの中でも初めてのことがあるんですね。
「やればできる!(笑)」
ーーそして11月4日(月・祝)には心斎橋Music Club JANUSでライブがあります。なんとゲストはOnikiさんです。どんなライブになりそうですか?
「Onikiさんのライブで歌ったことはあったんですけど、自分のライブにお呼びするのは初めてなので舞い上がらないように気を付けたいです。そして来てくださる方にOnikiさんの良さが伝わるように、最善を尽くしたいなと思っています。 もちろん『Botanical Note』の世界も楽しんでいただけたら嬉しいです」
Text by ERI KUBOTA
(2024年10月23日更新)
3000円(税込)
【収録曲】
01. Henichesk
02. Vine
03. Black Beanstalk
04. Orlaya
05. Sprout
06. Hoshi no mi
07. Flora City
08. Colony
09. Cosmos
10. Garden Gate
11. Clover
3000円(税込)
【収録曲】
01. Veil
02. Halo
03. Skid
04. Zone
05. Dusk
06. Mono
07. Film
08. Rain
09. Tarp
10. Wave
新居昭乃(アライアキノ)…1986年ビクターよりシンガーソングライターとしてデビュー。以来数々のアニメーション、ゲーム、CM、手嶌葵を始めとする他アーティストへの楽曲、歌唱等を提供する傍ら、透明感の中に孤高を感じさせる歌声と保刈久明、菅野よう子らとの斬新な音作りで独自の世界観を確立して来た。海外からの評価も高く、パリ、ベルリン、香港、台北でのソロライブの他、モナコ、サンティアゴで開催されたイベントにも参加。2024年、自身が主催するPure Heart Labelよりオリジナルアルバムとしては2作目となる『Botanical Note』をリリース。また、Yuji Oniki オリジナルアルバム『Separate Peace』も同日リリースした。
公式サイト
https://araiakino.com/
【福岡公演】
▼10月27日(日) ROOMS
▼11月4日(月・祝) 17:00
心斎橋JANUS
自由席-7000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]オニキユウジ
※小学生以上有料。未就学児童は1名まで無料。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400
【東京公演】
▼11月23日(土・祝) TOKYO FMホール
[ゲスト]tico moon(Harp.吉野友加/Gt.影山敏彦)
【東京公演】
▼11月24日(日) TOKYO FMホール
[ゲスト]yk(Hello1103)/オニキユウジ/tico moon(Harp.吉野友加/Gt.影山敏彦)