ホーム > インタビュー&レポート > 「Overdose」で大ブレーク・なとりが初の映画主題歌を担当 バリアをはって生きること、そして自身が抱き続ける 「空虚さ」の正体 「僕には『なにか』がない、その『なにか』を見つけたい」
――なとりさんは2021年に活動を開始して以降、ハイペースで楽曲をリリースしている印象があります。
2023年は「フルアルバム(『劇場』)を出す」という目標があったので、それに向けてリリースが多くなったのですが、2024年は「たくさん作っていこう」というより、今まで以上に一曲一曲、丁寧に向き合いながら作っているイメージです。表現に隙間がないように、という意識で作っています。それができるようになったのは昨年までハイペースに作っていたおかげなんです。曲の作り方が変わった気もしていて、これまでは打ち込み系が多かったのですが、生音の良さにもちゃんと気づけるようになってきました。デモでもちゃんとギターを弾くなど、より良い形を追求しています。そういう作業を通して、自分の音色の好みもはっきり掴めるようになってきました。
――たしかに「糸電話」は、映画の世界観も絡めつつ、人間の心情を繊細にあらわした楽曲になっていますね。
『傲慢と善良』を事前に鑑賞して、思ったことをそのまま曲にしていきました。現代の恋愛情景を描いているような物語で、観終わったとき、人と人の距離感について考えるところがありました。最近の人と人との距離感はあくまで「他人同士」の距離感であるというか、主人公の架と真実はその葛藤によるじれったさ、痛さを持っている気がしました。
――「他人同士」の距離感とはどういう意味ですか。
今の若者の多くに当てはまるかもしれないのですが、一枚、バリアを隔てている感覚がしたんです。みんなそのバリアを破ったり、奥には行かなかったり、つまり踏み込まないようにしている。なにより僕自身、顔を出さずに活動している点で、そういう人間だと思います。でも架と真実は、その距離感に対して葛藤を抱くようになる。僕自身がバリアをはって生きる人間だからこそ、二人のそういう迷いや苦しみがまぶしく、そして美しく映りました。
――「顔を隠して活動する」というのは、たしかに分かりやすいバリアのはり方ですよね。
バリアをはる良さもあれば、そうじゃないところもあります。自分はマッチングアプリを経験したことがないし、架と真実のような感情も自分個人としては経験していない。それでもこの物語に共感できたのが、そういう人間同士の距離感が生々しく描かれていたからかもしれません。
――マッチングアプリって、相手探しの段階でAIが「相性が良い相手」を探してくれますよね。「糸電話」には、「きっとね、思いは同じじゃなくていい」という歌詞がある。つまり「相性」は大事だけど、それだけではないということ。結局、「相性が合うかもしれない」とマッチングしても、それからは「自分たち次第」なんですよね。
想いの分量って決して同じじゃなくていいと思うんです。一方で、お互いがどこを見ているかは大事な気がします。「私と違うあなた、あなたと違う私がいて」という歌詞があるのですが、自分的に「真理はそこに行き着く」と感じて書きました。架と真実は愛に対しての質感が違う。結局、なにごとも「人それぞれ」なんですよね。すごく普通のことを言ってしまうのですが、「こうすることが幸せなんだ」という形にとらわれず、お互いに満足していれば良いんじゃないかなって。だから「思いは同じじゃなくていい」し、「きっと私と違うあなた、あなたと違うわたしがいて」なんです。このあたりは、自分のことながら「よく書けた言葉だな」って(笑)。
――本当にそう思います!
理想を言えば、同じ思い、同じ考え方が良いはず。でも全部を受け入れる必要はお互いないし、違いを認め合う方がより良い関係になれる気がしています。とは言っても僕は人と関係性を築くのが上手くないから、そういう部分で自分を照らし合わせたりもしました。
――他人と関係性を築くのが上手くないんですね。
自分のパーソナルな部分に興味がないんです。"なとり"の話をするのは好きなんですけど、"なとり"ではないときの自分については、なんとも思ってない。だから特に喋ることがないんですよね。
――そういう意味では、8月にリリースした「メロドラマ」で共作したimaseさんは、なとりさんにとってちょっと特別な存在なのかなって。
音楽の作詞・作曲は、自分自身のことが反映されるもの。そこに他者が介入、介在するのは怖さがある。だからもともと共作にはあまり良いイメージを持っていませんでした。でもimaseくんは良い意味でフラットな人。僕もなにも考えずに話せる相手だし、だからこそ共作も「楽しい」と感じられました。
――「メロドラマ」には、なとりさん、imaseさんの個性がはっきり出ていて、でもそれが絶妙にブレンドされています。
僕の曲の特徴って、一つは声があると思います。日本のポップスで、このあたりの低音域で歌う曲は意外と少ないんです。そういう自分の個性や世界観は、音楽を作る上で大事にしたい。あとなにより自分のなかにこだわりがあるのが、歌詞。できるだけシンプルな言葉を使いながら、遠回りして伝えていきたいんです。変な言い回しをするというか、真っ直ぐに捻くれているというか。
――なとりさんの曲の伝え方って、たしかに「もう一回、言いますよ」「あらためて言わせてもらいますよ」という感じがします。
今、おっしゃってくださったことが自分の楽曲の真理の一つかもしれません。「メロドラマ」ではimaseくんと自分がバースごとに分担して歌詞を書いたから、それぞれ違いが出ているんです。imaseくんは「こういうことを言います」と真っ直ぐに表現する。一発で分からせる説得力を持っている。でも僕は「面倒くさいけど、言うわ」みたいな感じ。「メロドラマ」は、そういうお互いの個性が如実に出ていました。
――でも「メロドラマ」に流れている「空虚さ」は、なとりさんのものですよね。振り返れば「フライデー・ナイト」(2023年)、「劇場」(2023年)、「Overdose」にも、「空虚さ」を感じ取ることができました。メロディや言葉の表現の仕方で曲として受ける印象に違いはありますが、それでも「虚しさ」は一貫している気がします。
「フライデー・ナイト」の「過剰も不足もないはずなのに なんか要らないし なんか足りない」は、自分にとってまさにその通りのこと。実際、環境的にはきっといろいろ足りているんです。でも「なにかがない」と言うか。そしてその「なにか」も見つからない。そういう虚しさがずっとあり、それが自分の根幹にある価値観に繋がっています。
――なるほど。
これが虚しさなのかは分からないですけど、僕は去年、上京してずっと家で曲を作っていたので、ライブ活動をほとんどしていませんでした。だけどimaseくんのインスタを見ると、たくさん夏フェスに出ていて、「ずっと頑張ってるやん!」と思ったんです。メディアにもたくさん出ているし、すごいなって。そこで自分の足りなさを再確認したところもありました。そうやって常に誰かに対して羨望を抱いているから、自分に虚しさがあるのかもしれません。
――インスタはツール的にも、「自分」と「他人」を強調的に見比べてしまうものではありますね。
これはあくまで僕の勝手な印象ですけど、imaseくんはそこまで他者とバリアをはらないタイプじゃないかなって。「そういう人間になりたい」という憧れがあるんです。だけどバリアをはっていないと自分は失うものもたくさんある。だから、その部分では一生満たされないんですよね。
――ただ、2024年はたくさんライブをおこなっていらっしゃいますし、少しずつ満たされつつあるのではないですか。10月には大阪、神奈川で『2nd ONE-MAN LIVE「劇場〜再演〜」』も開催されます。
春に大阪、東京で実施した『1st ONE-MAN LIVE「劇場」』は、初めてのワンマンだったからこそ課題や反省点もありました。ただそれから、楽曲提供、コラボ、映画の主題歌など、自分の表現の幅をしっかり広げることができ、なとりとしての進化を感じますし、前回の『劇場』よりも強くなれた気持ちもあります。だから「パワーアップして帰ってきたぞ」との意味を込めて、「再演」と名づけました。きっと良いものが見せられると思っています。
――2ndワンマンを経て、なとりさんの表現はますます冴え渡りそうですね。
成長できる機会はたくさんあるはず。ただ、そこで自分がどのように物事と向き合っていくかが重要だと思います。良いものを見せる自信はあります。自分はきっとそれができる、と信じて活動していきたいです。
Text by 田辺ユウキ
(2024年9月28日更新)
チケット発売中 Pコード:274-410
▼10月10日(木) 19:00
オリックス劇場
全席指定(一般)-7000円
全席指定(U-22割)-6000円(当日22歳以下対象/公演当日要身分証)
※3歳以上はチケット必要。3歳未満は入場不可。開場/開演時間は変更となる場合がございます。客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。【U-22割チケット】は、ライブ当日に22歳以下のお客様が対象のチケットになります。ライブ当日に、顔写真入りで生年月日が確認できる本人確認書類(マイナンバーカード・学生証等)、または顔写真付き本人確認書類をお持ちでない場合は生年月日が確認できる本人確認書類(保険証等)をご持参ください。年齢が確認できる書類をご持参いただけない場合、一般料金との差額を頂戴いたします。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は10/7(月)10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
【神奈川公演】
チケット発売中 Pコード:268-049
▼10月18日(金) 19:00
パシフィコ横浜 国立大ホール
全席指定(一般)-7000円
全席指定(U-22割)-6000円(当日22歳以下対象/公演当日要身分証)
※3歳以上有料。3歳未満入場不可。開場/開演時間は変更となる場合がございます。客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。1公演につき4枚まで。発券は、10/15(火)10:00以降となります。