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リベラル × ynkmr.
NEW EP『IN City』でふたりが目指したのは
「より多くの人に聴いてもらえるヒップホップ」

8人組ジャズ/ヒップホップ・グループSANABAGUN.のMCを務める岩間俊樹のソロプロジェクト・リベラル。SANABAGUN.の活動を始める以前の2009年からソロとしての活動は始まっていたものの、ソロ作品は2016年・2019年にアルバムを一枚ずつリリースし、マイペースに活動を続けていた。そして2024年9月、SANABAGUN.が期間限定での活動休止に入るのと同月に5年ぶりとなる作品――NEW EPをリリースした。今作『IN City』 はリベラルとBLU-SWINGの中村祐介がタッグを組み、「リベラル × ynkmr. (読み:ワイナカムラ)」という共同名義での作品制作となった。JAZZ、ネオソウルのエッセンスが散りばめられたynkmr.の都会的なサウンドに、リベラルの人間味が溢れるラップが溶け合った唯一無二の作品となっている。今回ぴあ関西版WEBでは、リベラルとynkmr.とzoomをつなぎインタビューを敢行。制作の舞台裏について、話を聞いた。

どうしても祐介さんと一緒に
曲を作りたかった(リベラル)



――今日はよろしくお願いします! まず...別トピックスとも言えますが岩間さん、SANABAGUN.の活動休止が目前ですね。活動休止のメンバーコメントを読んで、これから個々で成長するための休止なのかなと捉えたのですが、正しいですか?

リベラル「僕としては、SANABAGUN.8人それぞれの活動の集合体みたいなイメージなので、個の活動をしっかりやってチャレンジするという意味合いはあります。ここからバンドとしてまだ上を目指すためには、もっとそれぞれがアーティストとして認知されてしっかり結果を出したりリスペクトされるような楽曲を作ることが重要だと思っていて。期間を決めて活動休止するのは、それまでにみんなパワーアップしていきましょうという感じはありますよね」

――ちなみにSANABAGUN.とリベラルとしてのソロ、自分の中で棲み分けみたいなものはあるのでしょうか。

リベラル「明確なのはリリックかな。SANABAGUN.は実体験も元なんですけど、メンバーの意見を代弁するような表現やショーというかエンタメっぽいものが多いんです。SANABAGUN.の方がエンタメかつファンタジー要素が多めですかね。自分としては作家っぽくもあるというか。一方でリベラルは人としてのメッセージや思想が反映されていると思います。音の面だとSANABAGUN.はみんなでひとつのサウンドを作っていくイメージですけど、ソロはチャレンジングなことがたくさんできるので毎回コンセプトを持ってやることも多いですね。ただソロの時はサナバのメンバーにも演奏で入ってもらうこともあるので、ソロでやった前衛的なことをサナバに持っていけるメリットもありました」

――なるほどなるほど。今回お話を聞く新作EPの『IN City』はSANABAGUN.活動休止目前でソロとしての動きだし的1枚になるのかなとも思うのですが、このリリースはリベラルとynkmr.の共同名義となっています。まずはおふたりの出会いのきっかけから聞かせてください。

リベラルSANABAGUN.で『BALLADS』というアルバムを出した時に、収録した2曲のプロデュースを祐介さんにお願いしたのがきっかけです。もっと遡れば、祐介さんがKan Sanoさん、SANABAGUN.のドラムの澤村一平とLast Electroというバンドをやられていて。それがスタートですかね?」

ynkmr.「そうだね。一平くんから声をかけてもらってSANABAGUN.で2曲やりませんか? と。そこでSANABAGUN.の面々とは初めましてでしたね。もちろん彼らのことは知っていたけど、当時のアー写が結構怖い感じで(笑)。でも音楽はジャズな要素もありつつホーン隊がいたり、ヒップホップとして成り立っていつつも唯一無二な感じがありました。その時は僕が入ることで何か今までと違う感じを出したいなということと、ライブでどういうふうに曲が機能するかということを踏まえていろいろな提案をさせてもらいました」

――SANABAGUN.の活動を通じて出会われて、なぜ今回は共同で制作を行うことに?

リベラル「僕からラブコールをさせてもらいました。サナバでの初共演の時に、祐介さんのサウンドとラップの相性がすごくいいことに気づいたんです。それと祐介さんにプロデュースしてもらった2曲はかなりエレクトロ要素が強くて、今までバンドがスタジオに入って録っていたようなサウンドではなかったんです。それを一緒に作らせてもらった時に、ソロでこういう曲が全曲並ぶアルバムを作りたいなと思いました。その"いつかやりたい"が初めに形になったのがEPに収録した「百色眼鏡」という曲で、どうしても祐介さんと曲を作りたいからプロデュースして欲しいんですと連絡をして。それが一歩目でした」

――最初はプロデュースを依頼する方向性だったんですか!

リベラル「うん、そうですね」

――でも実際のリリースは、おふたりの名前が横並びの共同名義なわけで...。

ynkmr.「 "連名でやりませんか?"っていう軽い感じで僕が提案したよね?」

リベラル「そうですね。「百色眼鏡」が完成するあたりで、吉祥寺の焼き鳥屋にふたりで飲みに行ったんですよ。焼き鳥を食べながら、なんかもっとアルバム全体を一緒にやりたいですよね〜みたいなことをこちらからお願いしたんです。そうしたら祐介さんが"じゃあ連名でやりませんか?"って」

ynkmr.「そんな感じだったかな? ぐらいですねぇ」

――作品に対してプロデュースで関わるのと、アーティストとして一緒に進めていくのでは全然変わりますよね。

ynkmr.「連名ならば自分の個性も出さなきゃと思うし、向き合い方が変わります。とはいえあり方としては裏方的な気持ちもあって。それが自分としては大事だと思っています」



ずっと探求してきたことが
音楽には反映されていく(ynkmr.)



――「百色眼鏡」以降、制作はどのように進んだのでしょうか。

ynkmr.「簡単なビートのループを"これはどうかな?"っていくつか渡して、それをリベラルくんが選ぶみたいな感じだったよね」

リベラル「そうですね。特に最初の2曲はいくつかデモをもらった中から僕がチョイスして、そこにラップを乗せて祐介さんに戻してブラッシュアップしてもらう。そういうことを繰り返しました」

――常にふたりでキャッチボールして曲が変化しながらできあがっていくという。

ynkmr.「まさにそんな感じでした」

――そのデモができるにあたっても、キーワードやおふたりで共有していたことはありましたか?

リベラル「売れるヒップホップの曲作ろうぜ! みたいなのが最初にはあったような気がしますね」

ynkmr.「あはは! あったね!」

リベラル「売れるヒップホップってちょっと言い方よくないかもしれないですけど、ふたりのクリエイティブな部分を合わせていいものを作ろうというよりは、聴き手のことをもう少し考えてより多くの人に聴いてもらえる作品にしたいということは共有していました」

――"より多くの人に聴いてもらえるヒップホップ"という視点で考えると、リベラルの前作リリースから約5年でヒップホップが聴かれる土壌が急激に広がったと思うんです。K-POPやアイドルが当たり前にヒップホップを取り入れるようになったりして。そういうことも環境としては大きいですよね。

リベラル「まさにそれはあると思います。あとはフリースタイルのムーブメントもありますし。ラップはダンスとも一緒だと思うんですけど、自分のマインドさえあればすぐ始められるものというか、間口が広いものだと思っていて。そういうところもすごく進歩したと思うんです。日常的にヒップホップが聴かれるようになっていますし。ちょっと前までは怖そうな人がYO YO言ってるんでしょ? ぐらいの知識だったわけじゃないですか。今は日常的にヒップホップが聴かれるようになってきたなというのは感じます」

――そういう土壌が育ってきている中での"より多くの人に聴いてもらえるヒップホップ"とは、また事情が変わるのかな? とも思うんです。ロックバンドのアーティストにインタビューさせてもらうと、日本人に曲を届ける要素として大切なのがサビだとおっしゃる方がたくさんいらっしゃるんです。そう考えると、ヒップホップをよりたくさんの人に聴いてもらうためにもサウンド面が重要なのかな? とも思います。

ynkmr.「作曲部分においては聴きやすさとは違う表現かもしれないけど、今回は"いい曲だよね"という感覚は大事にしました。ビートとしてのグルーヴ感はもちろん重要な視点ではあるけど、その中にハーモニーの厚みを持たせたりその中で酔える音楽でありたいというのは作曲家の観点としてありました。それはリベラルくんの歌詞にソロの時はすごく哀愁漂う感じがあるというのも大きいと思います。そういう歌詞の雰囲気とマッチしたハーモニーをすごく意識しましたね」

――ハーモニー、ですか?

ynkmr.「フレーズがきちんとハーモニーを奏でていていい感じだなと捉えてもらいたいというか。フレーズの繰り返しの中で飽きずにグルーヴ感を感じてもらえる曲作りを目指しました」

――岩間さんはどうですか? リリックを書く時に意識したことというと。

リベラル「なるべく自分の実体験を元に書いているんですけど、聴いてくれる人ごとにその人の生活や経験してきたこと、見てきた景色が思い浮かぶようなリリックをと思っていました。そのためになるべく特定のワードを入れないようにしたことも、曲によってはありました。それが「Beautiful Day feat. おかもとえみ」と「Renovation feat. ケンチンミン」かな。「Beautiful Day〜」に関しては僕の実体験が強めで、コロナ禍を全世界で共有してからこそシンパシーを感じてもらえるような内容にできたらいいなと思ったり。あとは「IN City」も地方から都会に出た人なら共感してもらえる内容になってるんじゃないかな。そういうものを作品の全体に散りばめたいという思いがありました」

――ところが「GUMI」という曲にはたくさんの実在するグミの商品名が出てくるわけで(笑)。超詳細なリリックでした。そのギャップもすごいですね。

リベラル「ですね(笑)。EPを作る中で自分は今何が好きなんだろう? と考えたんです。好きなことなら無限に語れるだろうなと。そういう視点で自分内のトピックスを探しつつキャッチーでポップなものを...と考えていたら、グミってすごくポップだな。いいぞ、語ってみよう! とこの曲ができました」

――グミをフィーチャーするところに、すごく親近感を覚える人も多いのだろうなと思います。これまでのお話を聞いていると、『IN City』は事前にテーマやコンセプトをふたりで導き出したというわけでもなさそうですね。

リベラル「うん、なかったです。祐介さんと話していたのは、全てシングルっぽく作ってその曲たちをひとつの作品にまとめたいということでした」

ynkmr.「曲数を増やしていくイメージでいたので、アルバム単位で作ろうという意識はなかったですね」

――シングル的に曲を作り重ねていったものを1枚にまとめたのであれば、収録曲の中から共通点やテーマを見出してタイトルをつけるのもなかなか難しい工程だったのでは? と思います。タイトルはどのように導き出したのでしょうか。

リベラル「僕としてはサウンド感やリリックの細部もそうですけど、すごくシティっぽさや都会っぽさを感じていて。タイトルの『IN City』は街の中にいるという表現でもあるけど、岩間と中村でIN、ということで『IN City』はどうですかね? って」

――いろんな意味が込められる。

リベラル「はい。ただ今回のEP、制作が本当に始まったのは3年くらい前なんですよ。その頃にもらっていた祐介さんの曲は思いの外時間を重ねたこともあったので、もう少し別のものにしていこうかというアイデアも出たりして。ふたりで制作のキャッチボールを続けたら、元の曲とは全然違うものとして完成したり。あとはドラムループだけをいただいてそこから作ったり、曲単位で作り方もかなり変わりました。祐介さんにブラッシュアップしてもらうことでより華がある感じ、都会感も出たと思っています」

――確かにサウンドにはそこはかとなくシティ感が漂いますが、リリックで目立っていたのは人生やLIFEという言葉でした。これは意識して?

リベラル「同じワードばかり使って大丈夫かな? と思ったりしていましたけど」

――自分の中で人生というワードが芯にある時期だったということですか。

リベラル「やっぱりコロナ、結構死に近いところにみんなが一瞬いたじゃないですか。誰もが人生ここで終わってしまうかもしれない恐怖感を持ったり。それによって何か新しいことにもう一度チャレンジするなら今だという感じや、自分の人生を見直す機会にも感じました。音楽を生業にしている自分にとってコロナは衝撃的で、そこで自分の人生を見極めたいとか自分の生活に向き合う感覚があったので、自然に使っていた言葉だったのかなと思います」

――なるほど。中村さんも、制作面でコロナの影響を感じられています?

ynkmr.「コロナが明けたことで、単純にライブでいろいろなところに行けるようになったとかその回数が増えて前に戻りつつあるなとは思いますけど、それが曲につながっているかというとどうだろう? ただそういう時期も含めてずっと探求してきたことは音楽作りに反映されていっています。時間が経つと全然やれることが変わってくるんです。音楽制作ツールは日々すごい速度で進化していますから。個人的にはそういうものを使うのも試すのも好きなので、自然とサウンドは変化してきいますよね」

――確かにそうですね。ちなみに今回ふたりで制作する過程の中で面白かったことはありましたか?

ynkmr.「僕はプロデューサーという立ち位置ではなかった分、デモのビートにラップを乗せて僕がブラッシュアップして返す時にやりすぎちゃうことがあって。それをリベラルくんが軌道修正してくれながら曲が出来上がっていくのは面白かったです」

――やりすぎているという意識はありつつ、やりすぎた状態で返していた(笑)。

ynkmr.「はい。まさにどこまで大丈夫かな? みたいなイメージで。自分を出しすぎてもダメだし、かと言って気を遣いすぎても連名で出す意味がないなと思うのでそのさじ加減をはかるのは面白かったポイントですね」

リベラル「僕が面白かったのはドラムループが最初にあって、ラップを乗せた後にブラッシュアップしてもらうのは作り方としてやったことがなかったので、祐介さんのアレンジが乗った時にどうなるかという楽しみがありました。あと、ドラムループすらないアカペラとテンポだけを渡したところから始まった「百色眼鏡」は衝撃でしたね。思っていたものの2段階上のものが届く感覚というか」

――じゃあやりすぎも大歓迎ですよね。

リベラル「あはは! でも僕、やりすぎだと思ったことはないです!」

ynkmr.「やりすぎだよとは言われないけど、このトラックの感じだとリリックの内容を変えた方がいいかもとなると、ちょっとやりすぎちゃったなと思ったり。やはりラップありきの音楽だし、土台としてのトラックというのが大前提だと思うので」

リベラル「難しいところではありますけど、このEPを最初から短い期間でキュッと作っていたら、確かに祐介さんが言ったようにガラッと雰囲気が変わった曲に対して、元の方に戻しましょうみたいなのも確かにあったなと思って。でも時間をかけて作ったことでいろんなチャレンジができたのかなと思います」

――時間をかけたことが、カギになったんですね。そしてリベラル × ynkmr.の活動としては9月26日に『IN City』のリリースパーティーが控えています。

リベラル「リベラルでやる時は、サナバのドラムの一平とSaxの(谷本)大河とトリオ編成でやっているんです。今回もトリオでの演奏をメインにしながら、祐介さんにも乗ってきてもらえると嬉しいなと考えていて。打ち込みで作った曲が生のドラムに変わった時の面白みや二面性をライブで出せたらいいなと思っています」

取材・文/桃井麻依子




(2024年9月25日更新)


Check

Release

1st EP『IN City』

配信中

《収録曲》
01. IN City
02. Beautiful Day feat. おかもとえみ
03. Chaos Tokyo
04. GUMI05. Renovation feat. ケンチンミン
06. riyu
07. 百色眼鏡

視聴はこちら

Profile

リベラル…岩間俊樹(いわまとしき)、1990年青森三沢出身。 航海士、機関士という職歴を経てヒップホップへの夢を諦めきることができず単身上京。2013 年、平成生まれが集結したヒップホップチーム・SANABAGUN. を結成。バンドサウンドとトラックを自在に往き来し日本のHIP-HOPシーンにおいて、その架け橋として最も注目を集めるラッパー。座右の銘は「生涯とは最高のフリースタイル、人事を尽くし天命を覆す。」。今年春に、SANABAGUN.は9月のイベントを最後に2027年1月までの期間限定活動休止を発表。メンバーはそれぞれ個々の活動へと進んでいく予定にしている。

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ワイナカムラ…中村祐介(なかむらゆうすけ)・作曲家、音楽プロデューサー。2008年、BLU-SWING のメンバーとしてメジャーデビューを果たす。以降スクウェア・エニックス、SUZUKI、TOYOTA、資生堂、GINZA SIX等、TVCMや数々のメディアで音楽を担当。 2012年からはロンドン・ロイヤル・オペラ・ハウスのコンサートマスターでヴァイオリニストのヴァスコ・ヴァッシレフのサポートキーボードを務めるなど演奏家としても活動。ソロアーティストとしても、鍵盤演奏にフィンガードラミングをミックスした独自のソロパフォーマンスを行う一方で、前衛的でありながらジャズ、ソウル、エレクトロニクスを綿密に融合した作品をリリース。2019年よりKan Sano、Ippei(SANABAGUN.)らとLast Electro としても活動を開始。BLU-SWING では2023年、約8年ぶりとなるフルアルバム『Spectre』をリリースし、初の中国ツアーもソールドアウトとなるなどワールドワイドな活躍を見せている。

オフィシャルサイト
https://www.yusukenakamura.jp/

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https://x.com/yusuke_bluswing

Instagram
http://www.instagram.com/yusuke_bluswing/


Live

『リベラル × ynkmr. "IN City" Release Party』

【東京公演】
▼9月26日(木) 19:00
下北沢SPREAD
[出演]リベラル/Chancylemon
[DJ]LEGENDオブ伝説a.k.a.サイプレス上野/ynkmr. (BLU-SWING)/Oyukinasai/Ada
[ゲスト]おかもとえみ