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カシオペアの元メンバー櫻井哲夫、神保彰、向谷実による
かつしかトリオが魅せるスリリングでダンサブルな
宇宙遊泳ミュージック

70~80年代にフュージョンブームを巻き起こし、海外でも熱烈な支持を得たカシオペアのメンバーだった櫻井哲夫(b)、神保彰(ds)、向谷実(key)の3人が再集結。神保が毎年、東京かつしかシンフォニーヒルズで開催していたコンサートに向谷、櫻井がゲスト出演したのを機に、会場名にちなみ「かつしかトリオ」としての活動がスタート。iTunes Storeジャズチャート1位に輝いた前作『M.R.I_ミライ』に続く2nd『ウチュウノアバレンボー』が完成した。 40年以上に及ぶキャリアを持つレジェンド3人が、タイトル通り大人げないにもほどがある超絶技巧を駆使した演奏で大暴れ。これが最高に痛快で、聴けば自然に体が動くことは間違いない。同作を携えたツアーが10月5日(土)に大阪、11月9日(土)に京都で開催。演奏でトークで、お客さんを楽しませることにかけても天才的な3人。バンドを代表し向谷実(key)にじっくり話を聞くことができた。

神保彰が命名した『Osaka Romantica』も収録
タイトルに「Osaka」を持ってきたのは初めてです


――アルバム『ウチュウノアバレンボー』をワクワクしながら聴きました。「ウチュウ」とタイトルにあるように、きらめく音で作られた宇宙を冒険しているようで心が躍ります。中でもタイトル曲の『ウチュウノアバレンボー』(M-1)は、3人の超絶プレイが息つく間もなく激しい攻防を繰り広げるまさにアバレンボーな曲。ミュージックビデオの3人のプレイも凄まじすぎて目が釘付けです。

「ありがとうございます。ミュージックビデオはレコーディングしている時に同時にカメラを回していたので一発勝負みたいな感じでやっていましたね」

――アルバムの発売は9月11日ですが、すでに7月のはじめに向谷さんと神保さんのYouTubeチャンネルで『かつしかトリオ アルバム第2弾!絶賛レコーディング中★フライング!?新曲お披露目会』としてアルバムのほぼ全曲が公開されていました。3人が曲を解説しながらエアベース、エアピアノ、エアドラムでプレイしたり踊ったり。サービス精神旺盛といいますか太っ腹といいますか(笑)。

「できたてホヤホヤの音楽を皆さんに聴いてもらいたくて(笑)。前作『M.R.I_ミライ』でも同じことをやったんですよ。SNSで情報発信できることで反響もすごく頂けるし、それが自分たちの励みになるんですよね。皆さんの感想を聞いて、じゃあ次のライブにどう反映していこうかということも考えられますしね。そういうことをやっちゃうのがこのバンドの特徴の1つかもしれないですね(笑)。僕らは音楽演奏歴としては長いですけど、前作『M.R.I_ミライ』はかつしかトリオのデビューアルバムでした。おかげさまで評価を頂いてコンサートツアーも大成功できて、その1作目を経てじゃあ2作目はとなった時に "あれ?"と思われる作品には絶対にしたくない。自分の経験からも次のアルバムは重要だなという気持ちはあったし、さらに挑戦的なアルバムを作ろうと」

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――『M.R.I_ミライ』から1年を待たずにリリースという点にも勢いが感じられますが、今作は前作以上に挑戦的な作品にしようと。

「そうですね。レコーディングは6月に行ったんですが、そのために1月から毎月必ず1回私のスタジオに集まって、毎回最低2曲ずつは作ろうねということでやり始めました。それぞれがアイデアを出し合いながら作っていくんですが、僕たちのポリシーとして、曲は全員の共作でアレンジも我々3人でやる。そういう共同制作というやり方はずっと守っていこうと思っているんですね」

――そうなんですね。

「1番最初にできたのが1曲目の『ウチュウノアバレンボー』。あの曲は歯止めがきかなくなっちゃった曲といったらいいのか(笑)。メロディーはすごくわかりやすくて、最初作っている時は"この曲あまりにポップすぎない?"ってやや引いちゃうぐらいだったんですね。それがいざ作ってみるとそのメロディーのシンプルさに対して、どんどん難しいというか攻めに攻めまくったいろんなアレンジが絡み合いまして。3人で "これは相当な暴れん坊だね"なんて言い合っていて、そこから"暴れん坊っていいよな。じゃあ宇宙の暴れん坊がいいんじゃない?"となって。"暴れん坊"だと時代劇みたいだから、アバレンボーでいこうと(笑)。そうやってレコーディング前の第1回目の準備で交わした会話と、曲のデータの作り込みの中で自然にそのキーワードが発生して、アルバムのトータルコンセプトが決まっちゃいました。曲風はいろいろ違いがありますけど、3人とも頭のどこかに『ウチュウノアバレンボー』が残ってるんで、それをベースに作っていった結果こういうアルバムになっちゃったという感じですね(笑)」

――曲の冒頭でガンっと世界が鮮やかになる『Zero G』(M-2)や、スピード感と歌心を感じるメロディーが駆け抜ける『Moon Liner』(M-3)など、賑やかだったり華やかだったり曲風もさまざまです。『ピンクの仔象』(M-6)のようなジャジーな曲も聴けますね。

「全部が突っ走っている曲だと、聴いているみなさんも辛くなってしまうといけませんので(笑)。僕らとしても、とても綺麗な赤色があっても全部を赤色で塗ってしまったら絵にはならないし、いろんな色彩を持ったものがアルバムだと思うんですね。そんな中でも今回は特に関西を意識した曲があるので、ぜひ、ぴあ関西版WEBの読者の皆さんにも聴いて頂きたいんです。8曲目の『Osaka Romantica』で、これは神保彰さんが命名しました」

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――神保さんが。そうなんですね。

「この曲は僕らにとって初めてのレゲエなんだけど、ドラムは倍速のドラムンベースっぽくなっていてちょっと複雑なレゲエなんですね。だけどメロディーは歌謡っぽいというか。僕が、この曲のサビの部分に大阪の駅名をいっぱい入れて歌って遊んでたら、2人にすごくウケちゃって。確か配信でもやっていたと思うんですけど~西中島南方 堂島 京橋 淀屋橋~って(笑)」

――はい、歌われていました(笑)。

「曲名に"大阪"を入れたのは初めてですね。僕は鉄道も大好きなんですけど、大阪とか関西の駅名は橋がつく駅名が多かったり、特徴的なところがいっぱいあると思うんですね。難読駅も多いですよね。阪神の青木駅って書いて"おおぎ"なんてそうそう読めないですよ。ぜひ京都、大阪、奈良、和歌山、兵庫の皆さんはこの曲を聴いて『Osaka Romantica』を感じていただきたいですね」



「伝統的なフュージョン音楽」と受け取られるかもしれないけど
「伝統」ではなく「斬新」と置き換えてみてほしい


――ジャジーでメロウな『ピンクの仔象』(M-6)も歌心があるというか、インストゥルメンタルなので歌詞はありませんが、思わず口ずさみたくなるようなメロディーで。『Osaka Romantica』もそうですし、他の攻めまくっている賑やかな曲もどれもメロディーがすっと耳になじむものばかりです。

「メロディーラインはすごくこだわっていますね。それを支える演奏の中にも、自分たちの見せ場だったりこだわりはありますが、聴き終わった時にメロディーが耳に残るものであると何度も聴きたくなるものになるんじゃないかなと思うんですね。ソロの掛け合いで演奏技術を高めていくのも大事なんですけど、それだけだと音楽的には演奏家の自己満足になる危険性が高い。我々としては作曲、編曲、演奏っていう3つの要素をバランスよくやるためには、それを支えるメロディーが1番重要だと思っているんですね。必ず皆さんの耳に残るようなメロディーに、というのは結構こだわっていますね」

――3人のキャリアを考えると、長く聴き続けているファンの方たちが圧倒的に多いと思うのですが、ふだんJ-POPを聴いているリスナーにもこのアルバムに詰まったポップなメロディーはすっとなじむように感じます。『ウチュウノアバレンボー』のようなとんでもない展開の楽曲も、シンプルに"かっこいい!"と飛びつける間口の広さを感じます。

「そうですね。おっしゃる通り、もうかなり長く私たちの音楽を聴いていただいてるお客さんもすごく多くて、そういうお客様には、作品を聴くことで"なるほどね"と思ってもらったり、"え?"ってちょっとした驚き──ちょっとどころじゃない驚きを感じてもらいたいんですけど(笑)。そういうお客さんに納得いただける音楽を提供するのももちろん。それだけじゃなく、最近巷で耳にするポップスの中にフュージョン的なアレンジをしていたりフュージョンのエッセンスが入っているものが増えているなって感じるんですね。ということは、若い人たちも興味を持ってくれているんだろうなと感じていて」

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――はい、そう思います。

「僕らのコンサートに来てくれるお客さんもすごく幅広くて、僕らに近い年代の人もいれば、若い人たちも多くて。そういうお客さんの層の広さにも刺激を受けていますね。今回のアルバムも、音楽の好きな人だったら世代を超えて楽しめるものになっているんじゃないかなと思いますね。聴きやすいんだけど、よくよく聴いてみてどんどん掘っていくと実は相当難解で厄介なことをやっている音楽だった──となると、見方によっては伝統的なフュージョン音楽というふうに受け取られるかもしれないけど、それは伝統でなくて斬新であるというふうに置き換えてもらえたら。じゃないと懐メロみたいになっちゃうんで(笑)」

――向谷さん、神保さん、櫻井さんは50年近くにわたって音楽界を牽引してきたレジェンドです。みなさんが、さらに自分を超えるというかさらなる高みを目指して音楽に取り組まれつつ、今回の、宇宙服のような衣装で嬉々として写るアーティスト写真を拝見していると3人のキャラクターにも親しみやすさを感じます。

「前作では"大人げないオトナたちの音楽"っていうキャッチコピーを自分たちで考えたんですけど、僕たち3人の中には、音楽でどれだけ遊べるかという遊び心のようなものが絶えずあると思うんですよ。今回の衣装もいろんな提案をいただいたんですけど、この宇宙服みたいな衣装もすぐに"いいね!"みたいな感じで(笑)。その場に居合わせた一人として感じたのは、出された提案で自分たちがどのくらい遊べるかなというのを、3人ともが直感的に同じような意識で感じてるんですよ。"この衣装は恥ずかしいんじゃない?"みたいな声はまったくなくて、"これでステージに立ったらいいね!"みたいな(笑)。そういうちょっとミーハーなところがあるんですよね。コンサートツアーももちろんこのラメの入った宇宙服みたいな衣装で出るんですが、写真撮影の時もお互いを見合いながら、"いいねえ!"とか言っていて」

――いいですね(笑)。

「そういうところは大事だなと思うんですね。音楽とかさまざまな演出だったり、そういうクリエイティブなことというのは、理詰めで考えたりするよりも一瞬のひらめきが大事だったりするんですよね」

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――キャリアを重ねながらも柔軟であり続けていらっしゃるんですね。

「そうですね。さっきミーハーといいましたが、子どもっぽいところというとありきたりかもしれませんが、人間の中には一生の間に大人になるために必要な子どもの心が残っていると思っているんですね。それは、これから生きていく上で必要なモチベーションだと思うんです。何かもっと新しいことをやりたいとか、遊びたいとか、面白いことをしたいというのは、子ども時代に培うことのできるすごく重要な要素。ただ、社会の枠組みや人生のいろんな局面で、それを全面的に押し出しすぎて常識を外すような行動をとってしまえば、それはたしなめられます。人によってはそれをすごく大きな制約とか、自由に対する束縛だと考えて反発する人も出るかもしれない。でも、すべての人に共通するのは、反発だろうがそうじゃないものであろうが、どこか心の片隅にそういう子どもの気持ちが残っている。音楽はまさにそうで、"こうしなきゃならない"という曲を作っていたら、本当に"こうしなきゃならない音楽"しかできない。だけど、"どんな音楽ができるだろう?"って取り組むのは、いたずら心や遊び心と同じなんですよね。"ウチュウノアバレンボー"なんてタイトルも、もうめちゃめちゃ子どもっぽいいたずら心の塊みたいな言葉じゃないですか(笑)」

――ものすごくそう思います(笑)。

「私たち3人の中に、その言葉を否定しないでいられる子どもっぽさが確実に残っているんでしょうね。とはいえ大人だから、いろんなことはちゃんとやりますよ(笑)。そのベースにそういう気持ちがあることをお互いに感じられるのがすごく嬉しいですね」

――かつしかトリオがやっているインストゥルメンタル音楽は、言語(歌詞)を必要としない分、よりダイレクトに国境を超えて聴き手に届く音楽なのだと思います。YouTubeのお披露目配信にも、海外のリスナーからたくさんコメントが寄せられていましたが、まさに音楽が言語や国境を超えて人に届いて、人を繋げる現場を目の当たりにするようでした。

「ありがとうございます。海外にもたくさん聴いてくださっている方がいて、そういう方たちも大事にしたい。"かつしかトリオ"というバンド名は海外だとちょっと通じにくいので、SNSでは海外向けに"K3"というハッシュタグをつけるようにしているんです。これからもより多くの人たちに聴いてもらう機会が増えたらとも思いますし、自分が過去に経験したような海外のジャズフェスティバルにも出てみたい。かつしかトリオが始まった時はメンバー3人とも中長期的な展望には立っていなかったと思うんですけど、今は3作目、4作目はどうするかということも話し合っていて、この先もいろんな挑戦をしていきたいと思っています」

――最後にツアーを楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

「アルバムを出したアーティストの最高のエビデンスは、そのアルバムをお客さんの前で演奏すること。僕らはシーケンサー、クリックで演奏することをしないで手弾きにこだわっているバンドなので是非会場で味わっていただきたいですし、やっぱりね関西のお客さんって独特のノリなんですよね。僕はコンサート中によく喋るんですけど、特に大阪は喋りに対するレスポンスもあるしツッコミも多い(笑)。皆さんのそのコンサートにおけるノリの良さに私たちは刺激されて相乗効果で盛り上がる。それは関西のライブならではなんですよね。なので、ぜひ皆さんに私たちを煽っていただいて。もちろん私たちも煽りますから、ギブアンドテイクの関係で盛り上がっていただければ(笑)。お待ちしています!」

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Text by 梶原有紀子




(2024年9月11日更新)


Check

Release

2nd Album『ウチュウノアバレンボー』
2024年9月11日(水)発売
3300円(税込) YCCS-10119

《収録曲》
01. ウチュウノアバレンボー
02. Zero G
03. Moon Liner
04. Banana Express
05. Brand-New Morning
06. ピンクの仔象
07. Spaceman’s Shuffle
08. Osaka Romantica
09. 天ノ川
10. Living In The Universe
※メンバー3人によるライナーノーツ掲載のブックレット付き

https://www.yamahamusic.co.jp/s/ymc/discography/1172?ima=0000

Album『M.R.I_ミライ』
発売中 3300円(税込)
YCCS-10118

《収録曲》
01. M.R.I_ミライ
02. Red Express
03. Bright Life
04. a la moda
05. Shining Blue
06. 柴又トワイライト
07. Katsushika De Ska
08. Moon Town
09. Route K3
10. MAJESTIC
※メンバー3人によるライナーノーツ掲載のブックレット付き

Profile

櫻井哲夫(b)、神保彰(ds)、向谷実(key)。2021年結成。櫻井は1976年~1989年にカシオペアに在籍。神保は1980年にカシオペアでプロデビュー。向谷は1979年にカシオペアでメジャーデビュー。神保彰が毎年、東京かつしかシンフォニーヒルズで開催していたワンマンオーケストラコンサートに向谷がゲスト出演し、翌年櫻井がゲスト出演したのを機に、会場名にちなんでかつしかトリオを結成。全国5か所でライブを行い往年のファンから若者まで、あらゆる世代の観客を熱狂の渦に巻き込む。2022年7月に3曲入りアルバム『かつしかトリオ』をリリースしiTunes Storeジャズチャート1位に輝く。2023年7月『M.R.I_ミライ』、8月『a la moda(ア・ラ・モーダ)』、9月『Bright Life』と3か月連続配信リリースし、全曲がiTunes Storeジャズチャート1位を獲得。同年10月に1stフルアルバム『M.R.I_ミライ』をリリースし、三度目の全国ツアーも各地でチケットが完売。前作から1年を待たず2024年9月に2ndアルバム『ウチュウノアバレンボー』をリリース。同作を携えて9月28日(土)かつしかシンフォニーヒルズを皮切りに『ウチュウノアバレンボー(仮) かつしかトリオ LIVE TOUR 2024』がスタート。関西は10月5日(土)なんばHatch、11月9日(土)京都テルサホール。1stフルアルバム『M.R.I_ミライ』のアナログLP盤(重量盤)が9月25日に発売 (数量限定生産)。

オフィシャルサイト
https://www.katsushika-trio.com

X
https://x.com/Katsushika_Trio

Instagram
https://www.instagram.com/katsushika_trio/

YouTube
https://www.youtube.com/@Katsushika-Trio


Live

かつしかトリオ LIVE TOUR 2024
『ウチュウノアバレンボー(仮)』

【東京公演】
▼9月28日(土)
かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:269-177
▼10月5日(土) 17:00
なんばHatch
全席指定-8000円(ドリンク代別途要)
[メンバー]向谷実/櫻井哲夫/神保彰
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中は1人1公演4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【北海道公演】
▼10月20日(日) 共済ホール

【愛知公演】
▼11月4日(月・祝) 中日ホール

Pick Up!!

【京都公演】

チケット発売中 Pコード:269-177
▼11月9日(土) 17:00
京都テルサ テルサホール
全席指定-8000円
[メンバー]向谷実/櫻井哲夫/神保彰
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中は1人1公演4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【福岡公演】
▼11月10日(日) JR九州ホール

【東京公演】
▼11月26日(火) 東京国際フォーラム ホールC

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