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デビュー35周年を迎えたピアニスト、榊原大
最高のメンバーとともに記念コンサートを開催

1989年、東京藝術大学音楽部の在学中にインストゥルメンタルバンド、G-CLEFでデビューし、1990年にはインストバンドとして初めてNHK『紅白歌合戦』に出場するなど多方面で活躍。1994年の解散後はソロアーティストとして活動を行い、ピアニスト、作編曲家として数多くの音楽を手掛けてきた榊原大。今年デビュー35周年を迎える彼に、2022年から始まった日本の四季から生まれる風景をテーマにした四季シリーズ、そして9月14日に行われる大阪公演などについて話を聞いた。

――今年デビュー35周年ということで、おめでとうございます。

「ありがとうございます。ソロになってからは35周年じゃなくて、26、7年くらいなんですけど、G-CLEFというバンドでデビューしてこの業界に入ったので、そこから数えて35周年ということでやっています」

――感慨深いものはありますか?

「正直に言うと、あまりないんですよねぇ(笑)。そんなに意識はしていないんですよ。先輩たちでめちゃくちゃ長くやっている人がいて、元オフコースの鈴木康博さんは来年デビュー55周年って言っているくらい先輩たちが頑張っているので、35周年といってもまだまだっていう感じなんですよね(笑)」

――とはいえ、やはり35周年もすごいことだと思います。活躍し続け、オリジナル曲も多く作られていますが、その源泉はどこから来るのでしょうか?

「なんだろう? 曲を作るよりも、今でもピアノがうまくなりたいって思っています。一時期ちょっとさぼっていたというか、その気持ちが薄いらいだ時期もあったんですけど、年齢を重ねて、もっとピアノをうまくなりたいなってまた思っています。だから、もし作曲家とプレーヤーを分けるとしたら、プレーヤーだと思います。もちろん曲を作るのは好きだし、曲を作って表現したいんですけど、他の方の曲でも幸せだし、やる気になるし、やっぱり僕はピアニストのほうが強いんだと思います」

――やっぱりピアノがお好きなんですね。

「そうですね。楽器としても難しいので、まだまだ面白いですね」

――ちなみに、キャリアを重ねていく中で表現の仕方なども変わってきましたか?

「ソロになってからも変わっていますね。単純に、お客さんに寄り添うところもちょっと出てきたのかなって思います。めちゃくちゃ頑張ってピアノがうまくなったからといって、必ずしもお客さんが感動するわけではないのでなかなか難しいんですけど、若い時はとにかく自分の好きな楽器、音楽を突き詰めようとか、楽器がうまくなりたいということばかり考えているところがありました。だけど今は、お客さんが聴いてどう思うかなとかを考えたりするようになりましたね。『今日、コンサートに来てよかったです』とかそういう感想で嬉しくなったり、この年齢だからかもしれないけど、老人ホームじゃないけどそういうところや小さい子の前で演奏してくださいっていう仕事が昔と比べて増えてきたことにも喜びを感じるようになった部分もあるので、なんとなく自分も成長したのかもしれないですね」

――以前、『Dear Love Songs』というポップスのカバーアルバムも出されていますが、これもお客さんに寄り添うという部分が影響していたりするのでしょうか?

「そうですね。もちろん音楽家なのでピアノがうまくなったり、音楽の知識を深めていくことを目指したいんですけど、やっぱりなんだかんだ言ってもお客さんありきですからね。それをより意識するようになったと思います」

――なるほど。さて、デビュー35周年の節目に、四季をテーマにしたアルバムの最終章『夏のしらべ』がリリースされますが、この連作を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

「フルアルバムはだいたい11曲とか12曲ってフォーマットが決まっていて、それを3、4年に1回出すみたいな感じだったんですけど、もうちょっと気楽に5曲くらいのミニアルバムをターム短くポンポンポンと出そうと思って。いつも小説を書くつもりでアルバムを作るんですけど、短編集、ちょっとしたエッセイ集くらいの感覚で4部作を出そうと思って始めたんですね。四季をテーマにしたのは、春夏秋冬って連作で出しやすいなっていうのがまずあって(笑)。曲は全然できていなかったですけど、春夏秋冬のCDジャケットが4枚揃ったら1つの絵になるというのも面白いなとか、そういう感じでアイデアが一辺に出た感じですね。CDジャケットは僕の古い友人で切り絵アーティストの筑紫ゆうなちゃんに作ってもらって、4枚並べると鹿っぽいけど鹿じゃない謎の生物が出てきます(笑)」

――あれは鹿ではないんですね(笑)。面白いといえば、アルバムによってフューチャーしている楽器も違いますよね?

「これも安直といえば安直だけど、楽器をフューチャーしたら面白いなと思って作った感じです。冬はギターがあってバンドっていう感じでそうでもないんですけど、なんとなく秋はストリングス、弦とやりたいなとか、春はフルートをフューチャーして、みたいな。夏はサックスかなと思ってサックスにしました。トランペットも考えたんですけど、サックスのほうがやりやすいっていうのがあったのと、久しぶりにT-SQUAREにもいた宮崎(隆睦)くんと一緒にやりたいなっていう気持ちもあって、サックスにしました」

――そうだったのですね。四季がテーマということでヴィヴァルディの『四季』が思い浮かんだのですが、榊原さんのこのシリーズを聴いて、同じテーマでもやはり人によっていろいろなイメージがあるという面白さも改めて感じました。

「そうですね。四季は、古今東西、ポップスもフォークもクラシックもみんなテーマにしやすいんですよね。昔のヴィヴァルディが四季を書いたように情景を思い浮かべやすいので、書きやすいのは書きやすいです。冬なら雪、夏だったら日差しをテーマにしようとか、いろいろテーマがあったので」

――その四季シリーズですが、2022年リリースの第1弾は春ではなく冬をテーマにした『冬空』でした。

「思いついてすぐに創作しようってなった時に、『今から作ったら冬のリリースになるよ』って言われたので、じゃあ冬から作ろうってなって。だから順番は、冬の『冬空』、秋の『秋日和』、春の『あるいは春の情景』、そして今回の『夏のしらべ』という創作の順番になった感じです。なんだかんだ全部出揃うまで2年間かかったのかな。でも、『夏のしらべ』が出る8月21日っていうのが僕の35周年、デビュー日なのでちょうどよかったです(笑)。『夏のしらべ』は元気な曲もあるし、聴きやすいと思います」

――そういう経緯があったのですね。ちなみに、榊原さんの好きな季節は?

「俺は夏なんです。冬が一番嫌いなんです。寒いのがダメなんですよ。身動きが取れなくなるので。だから、『暑いな~』って言いながらも、暑い夏が一番好きです(笑) 寒いより全然いい!」

――四季シリーズを聴いた中で、『冬空』は厳しい寒さを表現しているというよりはキラキラした印象があったので、もしかしたら冬が一番好きなのかなと思っていました(笑)。

「一番嫌いです(笑)。でも、その反動かも。嫌いだから、音楽でちょっと明るくしようとしたのかもしれないですね。夏が一番好きです」

――そうだったのですね(笑)。では、その一番好きな夏をテーマにしたミニアルバム『夏のしらべ』を通して、どんなことを伝えたいですか?

「僕の曲自体というよりもこのアルバムと、あとはコンサートですね。僕はさておき、とにかくメンバーが素晴らしいんですよ。サックスの宮崎くんとベースの須藤(満)さんは、もともとT-SQUAREにいたメンバーで、ドラムの齋藤(たかし)くんは芸大の後輩ではあるんですけど、なんでもござれの人。本当にみんなすごく上手でしなやかで、どんなジャンルにもアジャストできるすごさがあるので、このアルバムに関してはそういう達人たちのプレイを見てほしいなっていうのがありますね。やっぱり音楽って生だと思うので、そういう人たちのアンサンブルをコンサートで見てほしいなって思います。それにスポーツとかだと、その人の背景、努力を想像して感動することがあるじゃないですか。僕は音楽もそういうところがあるなって思っていて、単純に歌詞がいいとか、メロディがいいとかではなく、"この人がこれだけサックスが上手なのは今までどういう人生を歩んできたんだろう?"まで見えてくるとちょっとグッと来たりするので、それをお客さんにも感じてほしいなって思えるメンバーなんですよ。それはやっぱりCDよりもライブの方が分かるし、人間的にも面白い人たちばかりなので、そういうところも見て、聴いてほしいなって思います」

――確かに音源とライブはまた違いますよね。

「全然違いますね。ライブはやっぱりいいですね。アレンジも入るし、"汚れ"があるからいいと思うんですよね。CDは直しちゃうけど、ライブって正確過ぎないじゃないですか。例えばお芝居だと、TVドラマや映画はセリフが詰まったりしたら撮り直したりするじゃないですか。でも生の舞台は多少噛んだりしてもやり直すことなくそのまま進むけど、それが熱さだったり、今演じているという勢いを感じる。音楽も似たようなところがあって、多少のミスタッチとかリズムのズレなんかがあっても関係なく感動することがライブではあるから、やっぱりライブのほうがいい気がしますね。今はデジタルが発達しているから、いろんなものが正確になりすぎて面白味がないような気が僕なんかはするんですよ。いろんな考えがあると思うんですけど、僕個人の考えとしては多少の"汚れ"とか"歪み"みたいなものがあるほうがいろんな感動を生んだり、良さだったり、味とか粋になったりするので、音楽はそういうほうが僕は好きですね。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、僕はちょっと雑味があったほうが好きです」

――その日にしか見られない光景と音楽を楽しめるのがライブのいいところですよね。その機会として、9月14日に大阪でコンサートが開催されます。今回は『夏のしらべ』が軸になるのでしょうか?

「そうですね。『夏のしらべ』が軸で全曲やりますけど5曲しか入っていないですし、35周年と銘打ってあるので、今までの代表的な曲とか今回のメンバー(宮崎、須藤、齋藤)でやってみたい曲を散りばめた、やや集大成的な内容になるかもしれないです。インストゥルメンタルをあまり聴いたことがない人もぜひ。初めて来ましたっていう人でも『良かったです!』と言ってくれたりするので、何か伝わると思いますし、クラシックのコンサートじゃないからMCももちろん入るし、なるべく飽きないような楽しいコンサートにしようと思っているので、ぜひぜひ来てもらえたら嬉しいですね」

――大阪公演で楽しみにしていることも教えてください。

「このメンバーで大阪のお客さんに聴いてもらうことは今までもなかったし、とにかくこのメンバーで大阪のお客さんと出会う、楽しませられるのはこの日だけなので、とにかく頑張って......頑張ってと言ったら変ですけど(笑)、楽しもうと思います。フュージョンファンの人、クラシックが好きな人、ジャズが好きな人にもぜひ来て聴いてほしいですね。いろんな人に聴いてほしいです。ピアノもジャズ、クラシック、ロック、それこそポップスとかいろんなジャンルがある中で、僕はクラシックやアカデミックなのをやってきたにもかかわらず、ジャズでもない、クラシックでもない、オリジナルの世界でやっているという変わった存在ではあると思うんですけど、こういうピアニストもいて、何をやってもいいんだなって思ってくれると嬉しいです」

――では、ぴあ関西版の読者へのメッセージもお願いします。

「いろんなコンサートだけじゃなく、スポーツ、お芝居、歌舞伎、落語といっぱいエンターテインメントがある中で榊原大を知らない人には引っかからないかもしれないですけど、ちょっとでも興味を持ったらぜひ来てください。ピアノとサックスとドラムとベースで楽しいことをやるので。デートにもいいと思いますし、あとお子さんにピアノを習わせたい方もぜひ! ピアノの先生が教えていることだけじゃなく、こういうピアノもいいんだって思ってもらえると思うので」

――榊原さんにとってピアノはどういう存在ですか?

「人として高めてもらえている存在だと思います。ピアノがあったから人とも出会えたし、自分も高められたし、楽しかったり苦しんだり、色々な事を経験させてくれる存在です」

Text by 金子 裕希




(2024年8月30日更新)


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Profile

榊原大(さかきばら・だい)…東京藝術大学器楽科ピアノ専攻卒業。1989年に在学中にインストゥルメンタルバンド、G-CLEFでデビュー。2001年からソロ活動をスタートし、映像音楽の分野でもNHK連続テレビ小説『ファイト』、映画『実りゆく』など数多くの音楽を手掛け、テレビ朝日系列『ANNニュース』、『ワイド!スクランブル』にも楽曲を提供している。オリジナルアルバムも多数発表。2022年の『冬空』から四季シリーズをスタートさせ、2023年に『秋日和』、今年3月に『あるいは春の情景』、そしてデビュー日の8月21日リリースの『夏のしらべ』でついに4部作が完成した。

オフィシャルサイト
https://sakakibaradai.com/


Live

「35th Anniversary 榊原大コンサート2024~夏のしらべ~」

PICK UP!!

【大阪公演】

▼9月14日(土) 17:00
心斎橋パルコ SPACE14
SS席-9000円(最前列(1列目))
S席-8000円
[共演]須藤満(b)/齋藤たかし(ds)/宮崎隆睦(sax)
※公演が延期・中止にならない限りチケットの払戻しはできかねますのでご了承下さい。
[問]GREENS■06-6882-1224

【東京公演】
▼9月21日(土) TOKYO FMホール

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