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音楽エンタメを支える3社のスタッフが
好きなバンドを呼んだら音楽愛が爆発した!
「ぴあクリミューズの夏初め」ライブレポート

8月1日にOSAKA MUSE、サウンドクリエーター、ぴあプレゼンツ「ぴあクリミューズの夏初め」がOSAKA MUSEにて開催された。この3団体に所属する若手スタッフ各1名が、この夏に見たいバンドをピックアップしたイベント。ライブハウスのブッカー、関西を代表するイベント制作会社のスタッフ、チケットを通して様々なエンタメを支えるスタッフと、異なる目線で集まった6組はキャリアや実績も地域もバラバラ。しかし結果を先に言うと新鮮な空気感に包まれ、お客さんにも出演者にとっても新たな出会いの場となっていた。このライブレポートでは、そんな充実した空気感をお伝えする。

【ロアの音返し】

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トップバッターはオープニングアクトを務める大阪スリーピースロックバンド・ロアの音返し。「盛り上がる準備できてますか、OSAKA MUSE!1曲目から盛り上がっていきましょう」と上田拓人(Vo.Gt)の問いかけから始まった1曲目は『満月トリップ』。早速フロアからクラップが起こり、サビでは拳も上がる。軽快でPOPなメロディと書くとありきたりだが、この3人にしっかり手を引っ張られて、しっかりワンダフルワールドへと連れてかれていく感覚の強さがあり、それはこのバンドにしかない特徴である。続いてユリナ(Ba.Vo)が「まだまだ熱くなれますか?」と問いかけて始まったのは『PONO』。先ほどと違ってユリナがメインボーカルに変わるこの楽曲。上田がギタープレイヤーに変わるため、またPOPの音色も変わる。ギターソロではフロアの1人1人を確かめるように鳴らすのが印象的だった。

MCで改めて挨拶をし「夏よりももっと熱い1日作る準備できてますかー!」と上田が叫ぶとフロアから拍手。そして3曲目はよりロック感がブーストしたイントロが鳴り『さよなら』がスタート。疾走感のあるバンドサウンドと、<駆け出した僕は君の背中追いかけて 何度も日々を思い出してる>というエモーショナルな歌詞と上田のボーカルによって、しっかりその鼓動ごとフロアに共有されていた。この共鳴の気持ち良さこそがライブの良さだ。そして最後はピアノの同期の音も加わったカラフルでリズミカルなナンバー『シークレットダンス』で会場をしっかり揺らし、見事にトップから会場を盛り上げた。

代表曲のバラードを初めて外し、軽快なロックチューンで20分を駆け抜けたロアの音返し。それでもどこまでも真ん中を外さず、キラキラしっぱなしだったのは、しん(Dr.Cho)の終始ブレないパワフルなドラムの存在感も大きかった。このキラキラは、ふと思い返した時に必ず微笑んでしまう、2024年の夏の思い出に追加された。

【斑】

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2組目は斑(マンダラ)。神戸のオルタナティブな4ピースロックバンド。本格始動は今年から。正直関西のライブシーンでもまだ名前が浸透しているわけではないが、サウンドクリエーター担当者が「ヤバい」と惚れ込んだダークホース。そのヤバさはリハーサルやSEで登場する雰囲気からも"危険な奴ら"の空気感を充満させる。

そして本編。「斑です。よろしくお願いします」とトキヤ(Gt.Vo)が挨拶すると、開始1秒で重厚なバンドサウンドが空間を震わす『アンヴェイル』からスタート。終始ディレイやエコーのかかったトキヤのボーカルに、激しくリズムを取りながら鳴らす岸良のギター、フロアに縦ノリを促すやまだのドラム、そして狂騒感がある中で不気味なくらいクールにベースをプレイするきばと、各々の個性を如何なく発揮し、1曲目でしっかり"事件性"のワクワク感がフロアに広まった。続いてやまだの「1、2、3、4!」のカウントで始まったのは『暴く』。先ほどよりさらにテンポが上がり、サウンドも歪みまくるこの曲の持つ衝動性によって、さらにボルテージが上がるフロア。シャウトをするトキヤの動きもさらに躍動感が増す。

圧倒された雰囲気の中MCへ。トキヤは「めっちゃ楽しいっすねー。ここが一番熱い場所にしましょうね」と優しく話す。ちなみにトキヤのギターにハプニングがあり、ここからはYOWLLの森のギターを弾いている(トキヤ曰く、格が違うギター)。ただもちろん遠慮なしに激しくギターを弾き出す『サイコアクション』から後半戦スタート。空間を削り取るようなガレージなロックサウンドが鳴り響く。続いて、きばのベースラインがリードして始まった『曼荼羅』。より一層熱を持って捲し立てるボーカルとサウンドの緩急で新しい顔を見せる。そして「ありがとうございました」と言って、ラスト『脳天ファズ』を投下。轟音重音のオルタナティブはこの最後まで勢い衰えず、結局最後まで神戸のダークホースに灘の日本酒、いやウォッカレベルの辛口の酒を飲まされ続けて酔いしれたフロア。演奏が終わるとある種「もうお手上げ」のような拍手に包まれた。

この日は恐らく彼らにとっても自信になっただろうし、これからの関西シーンに新たなロックンロールが始まった日になっただろう。

【ん・フェニ】

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3組目に登場したのは、バンド編成では初関西のん・フェニ。バンドメンバーは、ん・フェニ(Vo.Gt)とコアラ(Gt)とハト(Dr)のスリーピース。コアラとハトはそういうニックネームとかではなく、ステージ上にいるのもそのまんまコアラとハト。そこに彼女の雰囲気も相まって、ステージ上がなんとなく不思議の国のアリスの世界観だった。

そして鳴らされた1曲目は、ん・フェニとコアラのツインギターが爽やかな『FUNNY TATOO SEAL』。どこかドリームポップな要素が、その爽やかさを際立たせていて、朝の目覚めのように天然性の気持ち良さに会場が溢れる。そんな気持ち良さをそのままに時計の針を進ませて『MAKE』がスタート。軽快で、サビの持つ晴れやかな疾走感は、この夏のドライブナンバーにもピッタリ。気持ちよく朝目覚めた少女が車をかっ飛ばして海にでも向かっているのかな?フロアも自然と手拍子が巻き起こる。

MCに入り彼女はバンドで呼んでくれた主催者と来てくれたお客さんに感謝を伝える。メンバー紹介をした後、「今日は最後まで楽しんで帰ってください!」と話して、3曲目『Merry』を始める。ミドルテンポで穏やかなサウンドと透明感のある彼女の歌声の融合は、壁や天井を吹っ飛ばすような抜け感がある。聴いてるだけで意識を持ってかれてしまい、完全に無防備になってしまっている自分がいた。そんな隙だらけのフロアにどんな曲を次はやるのかとリラックスして待っていると、非常にヘヴィーなドラムのキックの音が鳴り、照明も暗くなって、軋むようなギターが鳴り響く。「POPだけでなく、これも私」とリリース時に語られた1曲、『SUGAR』だ。今までの空気感がどんでん返しされ、ドロドロとした世界に引きずり込まれるOSAKA MUSE。彼女の<アーアーアーア>と憂いのある叫びのパートは、そんな世界の中での唯一の光のように聴こえた。

「最後の1曲になってしまいました。本当はもっとやりたい曲もあるし、曲も作っていて、それもみんなに届けたいし。また大阪に戻ってこれるといいなと思ってます」と彼女が話すとフロアから温かい拍手が送られる。そしてラストは『今を燃やす』を披露。もがきながら、発狂しながらでも眩しい朝日を迎えて生きていく決意が込められた壮大なロックナンバー。彼女の命を削るようなステージングに、コアラも最後の力の振り絞ったギタープレイで支える。そして完全にバンドとしての強さ、そして彼女の強烈で雑食な音楽性を大阪のライブハウスに刻みつけ、ライブは終了した。

【Daisycall】

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4組目は京都のライブバンド・Daisycall。ジュディマリの『そばかす』のSEが鳴る中、登場した彼らは徐々に臨戦態勢モードに。そして爆音を一撃鳴らし「FROM京都、Daisycall始めます。OSAKA MUSEよろしく!」としゅんしー。(Vo)が叫び、1曲目『アカネイロ』がスタート。さすがに何本もライブをOSAKA MUSEで重ねている彼ら、照明もオレンジ色を照らして迎える。しゅんしー。は歌いながら「夏始めようぜ!」「後ろの人も良い顔してるよ!」とフロアとのコミュニケーションを欠かせない。1曲目からトップギアで終わると、すぐさま激しいストロボの照明に切り替わり『ありのまま』に繋げる。高速ビートと、<ありのままの君でいいから>というフレーズが会場の一体感をさらに高める。「俺たちだけの空間にしようぜ」という言葉と共に始まった3曲目は『タイムマシン』は、より"俺と君"の関係性を強固にするナンバー。しゅんしー。だけでなく、躍動感のあるフクロウのベース、人情味のあるアカサカのギター、叩くたびに熱量が上がるやなぎのドラム、そしてこの3人の熱いコーラスが、会場の温度を上げ、笑顔を増やしていた。

MCではフロアに「夏らしいことなんかした?」と聞く。ちなみにやなぎとアカサカは2人で天神祭に行ったとのこと。しゅんしー。は「夏ってたくさん思い出ができると思うし、楽しいのも寂しいのもあると思うけど、そんな思い出を歌にできるようにと作った曲です」と告げて『さよならレイディ』をスタート。じっくり各々の脳内の思い出に対して聴かせるような強くも優しいメロディが鳴り響く。アカサカの持ち味である"顔で弾くギター"もよりエモーショナルさを引き立たせる。<幸せを願っているよ>という歌詞には何も嘘がない。

しゅんしー。は「今日いるお客さんはみんな音楽好きなんだなと感じれて嬉しいです」と感謝を伝える。そして8月29日にはBIGCATのステージに立つことと、「自分の好きなものを好きでいられるように」を伝え、『オーバーブルー』を始める。ここも青に照らされたロックを信じる4人の姿が純粋にカッコいい。そしてラストは『アフタースクール』。「綺麗事上等!」と、この25分に全てを賭けるメッセンジャーとしての精一杯を見せた。シンガロングもこの時間一番のものが起こる。自分がDaisycallに抱きしめられ、きっちり幸せを感じていたことを実感した。

等身大のバンドへの愛を伝え続けた彼ら。今後何万人の前で演る機会があったとしても、少しでも音楽が好きという感情を持っている人の集まりであるならば、今日と同じような景色を間違いなく作ってくれるだろう。

【YOWLL】

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5組目はYOWLL。2023年結成で、鈴村(Ba)は出番前「まだまだ新人ですよ」と話していたし、森(Vo.Gt)は誰よりもライブを楽しんで見ていた。ただやはりそこは森、鈴村、芦原(Dr)という実力派が揃うバンド。SE中の落ち着いたステージ上での振る舞いはこれまでの4組とは違う雰囲気。

ライブは『Atrophia』からスタート。丁寧に歌と音を紡ぎ、解放感のあるサビでしっかりフロアをYOWLLの空間に染める。丁寧さや冷静さだけでなく熱のある間奏も刺激的なアクセント。2曲目は森の落ち着いたギターの音色と、それと裏腹にスピード感のあるリズム隊のサウンドが絶妙に混じり合う『Lazy Tone』。落ち着いたAメロとフレーズのリフレインに自然と引き寄せられていたら、サビの爆発力で一気に喰らってしまう。これを生で聴いて飛んで火にいる夏の虫にならないリスナーはいないだろう。そのままノンストップでサウンドにバイオレンスさが増した『酩酊』へと繋げる。"魔改造ベーシスト"鈴村の攻撃力の高い音が鳴る中、<死にたくなるのも分かる だけど君がいなくちゃ困るぜ ハローハローハローハローハローハロー>という生きる活力を与える歌詞が森の真っ直ぐな歌声によって輝いて届く。4曲目は深い青の照明も相まって、ここまでの温度を一気に冷やしたクールなショートチューン『Alice in apathy』。そしてすぐにクリアな緑の照明に変わり『新緑』へと続く。鈴村は雄叫びを上げるし、芦原も立ち上がってドラムを叩くなど、熱量は最高にハイだが、不純物のないサウンドに空気は透き通っていく。

ノンストップで来たがここでMC。森は「生きてると時々、審判になってしまう時がありますけども、みんなプレイヤーでいてほしいと思ってます。起きてることを分析したり考えたりしてる暇があったら、どんどん感じて飛び込んでいってほしいなと思います」と話し、ラスト『鳥』を披露。まず3人で向かい合って演奏してグルーヴを高め、一気に壮大なバンドサウンドを放出する。MC通り、頭の中のモヤモヤを大空へと吹き飛ばしてくれるサウンドで、今すぐにでも「飛んでいけ」と背中を押す楽曲だった。そして「最高でした」と告げ、YOWLLのライブは終了した。

さすがの実力者だと感じたのは、自分達の曲にこれまでの若手4組が残していった熱量も乗っけて、会場の隅々にまでバンドのエネルギーを渡り巡らせていたこと。加えて余計なものは全て強力なパワーで吸い取って空に還していたということ。音楽による最高のフロアコーティングと清掃だった。

【toybee】

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トリを務めるのは千葉県成田市発、toybee。板付の鍔本(Gt)、藤盛(Ba)、サポートのTomoki(Dr)の生演奏のSEを鳴らす中、冨塚(Gt.Vo)が登場。4人が高々と拳を上げ、冨塚の「オラ!」という叫びと共に『惑星ダブリス』がスタート。エモーショナルに1番を歌い上げ、冨塚が「toybeeです!よろしくお願いします!」と叫ぶと、さらにこの泥臭いロックバラードがパワーを増す。続いてPOPな明るいビートが鳴り出し、「まだまだ足りない!足りなーい!」という言葉で始まったのは『Super Imagination』。フロアも自然と頭上でクラップ。加えてどんどん中央にお客さんも引き寄せられているように見えて、このバンドが持つリスナーをサティスファクションに導くエネルギーに驚く。「一緒に頭壊していきましょう!よろしくー!」とファンキーな縦ノリのリズムで繰り出されたのは『ステルオンナ』。これまでの少年ヒーロー漫画のような瑞々しさとは違って、リアルな社会で働く人への応援歌。鍔本のギターも色気が増したように聴こえる。

「ふぃー、楽しーぜー」と思わず呟きMCに入る。和やかな会話と感謝をした後「つかぬ事をお聞きしますが、あなたの人生の黄金期はいつですか?」と問いかける。サッカー選手の例や、宮崎駿の言葉を引用して「黄金期は今だ」という気持ちで作った新曲『Golden Age』を投下。終盤に冨塚の捲し立てるボーカルから鍔本のギターソロに入るパートがカッコいい。続いて「みなさんには黒歴史はありますか?俺は黒歴史だらけです」と言って始まったのは『Teenage Black』。ピンスポットの下で冨塚がサビを歌い上げると、Tomokiの力強いドラムが鳴る。そしてそのまま疾走感のあるサウンドにフロアの手拍子と拳が合わさっていく。その結果、こんな最終盤でも新たに燃え盛っていく炎が会場に生まれていた。

そして最後のMC。主催者、出演者、お客さんに感謝を伝えた後、「このバンドは俺にとって人生の黄金期がこれからだ!と証明するためのバンドでございます。それは30代、40代、50代かもしれないと信じながら続けていきたいと思っているバンドです。今日出演したバンド見て、若さ、センス、熱量にやられたけど、俺は歩き続けるしかねぇと思ったし、何よりもかけがえないのは今日出たバンドが続いていくことだなと思います。俺も音楽を続けていくので、また俺らのことを見つけてください。そしてライブを見て私の、俺の黄金期はまだ先なんだと思ってもらえたら嬉しいと思います。今日はありがとうございました!」と告げると今日一番の拍手が起こる。そして「探しに行こうぜ、人生の黄金期!この暗い地下世界から!」と告げて始まったラストナンバーは『フロムアンダーランド』。<わかちあいたい歓びを わかりあえると願う日を 明日を待って眠れる日を 歌いたい>と絶唱する歌声と真っ直ぐなバンドサウンドは非常にパワフル。同時に1人1人と優しく確実に繋がった時間となり、ぴあクリミューズは終了した。

最初に書いた通り、バラバラな場所で働く3人が集めた、本当にバラバラな特徴を持つ6組。しかし「音楽が好き!」という強い気持ちだけは、かなり高いレベルで共通し合っていたと感じた。

プロの音楽好きによる音楽好きを集めた音楽がさらに好きになるイベント。これからの夏初めの定番になるかもしれないし、秋にも冬にも春にも始めてもらって、音楽好きを心斎橋から喜ばせ続けてほしいと思うイベントだった。

Photo by 圓札有柚
Text by 遊津場




(2024年8月 6日更新)


Check

SET LIST

●ロアの音返し
01. 満月トリップ
02. PONO
03. さよなら
04. シークレットダンス

●斑
01. アンヴェイル
02. 暴く
03. サイコアクション
04. 曼荼羅
05. 脳天ファズ

●ん・フェニ
01. FUNNY TATOO SEAL
02. MAKE
03. Merry
04. SUGAR
05. 今を燃やす

●Daisycall
01. アカネイロ
02. ありのまま
03. タイムマシン
04. さよならレイディ
05. オーバーブルー
06. アフタースクール

●YOWLL
01. Atrophia
02. Lazy Tone
03. 酩酊
04. Alice in apathy
05. 新緑
06. 鳥

●toybee
01. 惑星ダブリス
02. Super Imagination
03. ステルオンナ
04. Golden Age
05. Teenage Black
06. フロムアンダーランド