ホーム > インタビュー&レポート > a子にとって音楽は「最大の強がりなのかもしれません」 1stフルアルバム『GENE』では なぜ「愛」という言葉はたくさん使われているのか
――8月に大阪、東京で開催される『a子 Live Tour 2024 "Umbilical Cord"』はチケットも早々にソールドアウト。現在のa子さんへの期待値の高さがうかがえます。
今回は1stアルバム『GENE』を含めたツアーになるので、それだけでも自分にとってこのツアーは大事なものになります。なにより自分自身が楽しんでライブをすることで、もっとa子に興味を持っていただけるのではないかと考えています。というのも本来の自分は、人前で歌うのが苦手なタイプ。「あれをしなければいけない、これもやらなきゃいけない」と考えてしまい神経質にもなりがち。それよりもまず、ライブを楽しみ、お客さんとコミュニケーションがとれるようなものにしていきたいです。
――ミュージシャンという立場と、「人前に出るのが苦手」という性格に折り合いをつけるのはなかなか大変なことではないですか。
でも、エリック・クラプトンさんも「ライブが苦手」とおっしゃっていて、「ステージでは自分が一番上手い、ステージを降りたら一番下手だ」と思っていると何かのインタビューで聞いて、「あのクラプトンでさえライブが苦手なんや。じゃあ私もいけるやろう」と謎の安心を得ているというか。「どの視点で喋ってるねん」と怒られそうですが(笑)。それにステージに上がったら、なにがあってもやるしかない。初期の頃は「今、ここで逃げ出したらどうなるんやろう」と思ったこともあるのですが、今はそういう自分ともちゃんと向き合い、またそれも自分の表現の一つとして捉えることができています。
――そんな今回のライブの鍵を握るのが、先ほどお話にも出た1stアルバム『GENE』。収録楽曲では、「終わらせる」「捨てる」という言葉がたくさん出てくるところが特徴だと感じました。
前提としてあるのは「人生って必ずいつか終わる」ということ。誰でも最後は必ず死を迎えます。たとえどれだけ自分の存在価値を上げても、そうなってしまう。必ず終わりを迎えるのであれば、生きている間は好きなこと、やりたいことをやっていきましょうって思うんです。もし死ぬほどしんどいこと、つらいことがあったとしたら、そこで自分の人生が一旦終わったものとして捉えて、あとはオマケの人生として過ごしてもいいんじゃないかなって。自分自身は学生時代、ちょっと暗い毎日を送っていましたし、そう考えることが解決策にもなっていたので。「捨てましょう」という言葉も同じようなニュアンスがあって、どうせいつか死んでしまうんだから、できるだけ楽に生きるための手段としていろいろ捨てていけばいいんじゃないかなと思っています。
――たしかに断捨離ってすごく大切というか、自分に必要なものだけを残してあとは全部捨てると、いろんなメンタル面でも身軽に生きられますよね。
実は私もよく断捨離するタイプなんです。自分はちょっとヒネくれている性格なので、人間関係を面倒くさく感じることもある。面倒な物事を切りたくなるんですよね。一方、これも性格的なことなんですけど、そういう面倒くささよりも情が勝ってしまうことの方が多い。だから曲に「捨てる」「終わらせる」という言葉がよく出てくるのは、願望が込められているんだと思います。本当は切りたいけど、情があるからなかなか切れない自分がいるので。
――そんなにヒネくれているんですか?
人に対していろいろ勘ぐりがちなんです。たとえば「あの人はネガティブに私のことを捉えているんだろうな」とか考えちゃったり。あと「あのとき、自分はあんなことを言ってしまったけど、相手を傷つけたんじゃないか」と結構引きずったり。つまり人に嫌われたくないんです。ただ、全員が自分のことを好いてくれることなんて絶対ないし、人間関係がすべてうまくいくこともない。最近は「全員に好かれたい」と考えることはやめました。
――意外でした。作風的に。「みんなに好かれたい」という気持ちとは関係ないところで生きていると感じていたので。
音楽というものは、そういう私にとって最大の強がりなのかもしれません。「捨てる」という表現は特にそのあらわれかも。「私はなんでも捨ててしまえる」「私のことが嫌いだったらすぐ捨てるから」とか、まさに私の強がりです。
――『GENE』にはそういうa子さんのパーソナリティが感じられる作品ですが、でも決して独りよがりには聞こえない。リスナー側もちゃんと受け止められる...という点でとてもキャッチーかつポップな内容です。
そのあたりはすごくチャレンジした部分です。自分はもともとマイナーな音や曲調が好きなのですが、それでもいろんな人に聴いていただきたいので、ポップに捉えてもらうためにはどうしたらいいかと考えて作りました。その上で「自分にしかできないジャンルを作りたい」「誰も聴いたことがない音楽や世界観を表現したい」という目標があるので、そこへたどり着こうとする姿勢が示せたアルバムになっていると思います。もちろんそれが今回達成されてはいませんが、チャレンジしていることは伝わるんじゃないかなって。
――『GENE』の楽曲群でもう一つ共通項としてあげられるのが、「愛」をイメージさせる言葉や表現があることですね。
2nd EP『ANTI BLUE』(2022年)までは、「愛」という言葉は恥ずかしくて使えなかったんです。でも上京して活動するようになり、いろんな人と出会い、またコミュニケーションをとるなかで、自然と「愛」という言葉が使えるようになりました。『GENE』では「愛はいつも」とタイトルにまでその言葉を入れることができました。いろんな人と関わっていくなかで、自然と「愛」を受け入れることができたんです。
――なぜ『ANTI BLUE』までは、「愛」という言葉を使うことに恥ずかしさがあったのですか。
「愛」という言葉にミーハーな感じがしていたんでしょうね。でもそもそも私自身、めちゃくちゃミーハーだし、ミーハーってすごくいいことなのに。そういうところでヒネくれた自分が出てしまって、「愛」という言葉が思い浮かんでも使えなかった。あと、「愛」という言葉を自然に表現できる人への羨ましさもあったと思います。
――なるほど。
でも「愛」って全人類共通でなんとなく伝わる言葉ですし、音楽や映画などいろんなクリエイティブにも使われるもの。メジャーという場所で音楽をやらせてもらえるようになり、自分もそういったことをプラスな表現として使えるようになったのは大きな前進だと考えています。
――一方でa子さんが歌う「愛」って、決して「愛とは信用できるもの」「すばらしいもの」という感じではないですよね。むしろ疑いを持って「愛」を描いているというか。
それは確かに、その通りです。人を信用することは中々難しいと個人的には考えていますし、人に期待しすぎると裏切られたときに大きなダメージを負ってしまうから。「愛」という言葉を受け入れることができたとしても、「愛って信用できない」と予防線を張って生きた方がいいと自分は思っているんですね。それは、曲に出てくる「愛」にもあらわれているのではないでしょうか。
――人って、「愛」に裏切られた経験はなにかしら持っていますし。
私は一時期、フランス映画にハマっていたことがあるんです。フランス映画って恋愛の話が多いじゃないですか。で、結局最後は裏切られて一人になったりする。そのときこう思うんです。「ほらやっぱり、自分が一番大切だって気づいたでしょ」って。「愛」を信じて、そのままハッピーエンドというフランス映画はなかなかない。それは私の考え方と近いものがあります。
――そういったいろんな要素が詰まった『GENE』とツアーを経たとき、a子さんはどのような進化を遂げているでしょうか。
先ほどお話ししたように自分は新しいジャンルの音楽を作ることが目標なので、実現させるためのチャレンジをずっと続けて、今回の作品で出来ていない部分に到達できるようにしていきたい。そのために視野を広げ、いろんな物事を知った上で、俯瞰的に自分のことを見て、そして作品として昇華していきたいです。
Text by 田辺ユウキ
(2024年7月10日更新)
Album『GENE』
2024年7月10日(水)発売 Release
【CD+Blu-ray】
4180円(税込) PCCA-6311
【CD Only】
3080円(税込) PCCA-6312
《CD収録曲》
01. good morning
02. 惑星
03. あたしの全部を愛せない
04. miss u
05. ベージュと桃色
06. 天使
07. samurai
08. 情緒
09. racy
10. つまらん
11. LAZY
12. 愛はいつも
13. ボーダーライン
[Blu-ray特典映像「MACHINE」]
・Acoustic Live in LA
01. 惑星
02. good morning
03. ボーダーライン
『JOIN ALIVE 2024』
▼7月13日(土) いわみざわ公園
a子 Live Tour 2024 “Umbilical Cord”
▼8月3日(土) 梅田クラブクアトロ
▼8月9日(金) LIQUIDROOM
『SUMMER SONIC 2024 TOKYO』
▼8月17日(土) ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
チケット発売中 Pコード:266-021
▼8月24日(土) 11:30
三田アスレチック 野外ステージ
土曜1日入場券-8500円
土曜1日入場券+土曜場内駐車券-15000円
2日通し入場券-12000円
2日通し入場券+場内駐車券-19000円
2日通し入場券+場外はずかわ駐車券-19000円
手ぶら de CAMP券-20000円(最大5名まで。1名につき2日通し入場券1枚が別途必要。)
[出演]石野卓球/a子/大比良瑞希/グソクムズ/SPECIAL OTHERS ACOUSTIC/TENSAIBAND BEYOND/TOSH/Nagakumo/七尾旅人/FORD TRIO(Thailand)/モーモールルギャバン/ラッキーセベン
※2日通し入場券をご希望の方は、8/24の公演からお選び下さい。事前に必ずオフィシャルHP(https://www.onemusiccamp.com)の注意事項をご確認の上ご購入ください。【お問合せ】株式会社ONE:info@onemusiccamp.com
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。