ホーム > インタビュー&レポート > SLIDE MONSTERS・中川英二郎 天才と呼ばれた少年時代と谷啓との思い出を振り返る 「ステージでは先輩、後輩は関係なく一緒に音楽を作る」
「秋山和慶さんは83歳、北村英治さんは95歳。
自分はまだその半分しかきていない」
――2021年にリリースされたSLIDE MONSTERSの2ndアルバム『Travelers』は、ベートーベン、ジャコ・パストリアスなどクラシカルな楽曲も新鮮に捉えられていて素晴らしかったです。
クラシックやジャズはアートに近いところがあるからこそ、SLIDE MONSTERSとしては常に新しい音を出すことを意識しています。自分たち自身でそれを問いかけて音楽を作っているというか。私たちは4人全員がトロンボーン奏者であり、一つの楽器の音しか出すことはできず、そして最大でも4つの音しか出せないグループ。できることに限界があるんです。でもだからこそ、その制限のなかで最大のチャレンジをする。そして、本来のグループであれば、五人目、六人目、七人目が出すはずの音を、聴いている人の頭のなかで鳴らす。想像の音を与えるからこそ、いろんな風に聴こえ、新鮮に感じるのではないでしょうか。
――たしかに芸術表現において、制限があるなかで作られるものの方がおもしろくなる場合がありますよね。
特にトロンボーンは"際(きわ)の音楽"ですから。私自身もこれまでいろんなジャンルの方や、いろんな楽器の方と演奏してきましたが、「もうこれ以上は右にいけない」みたいな状況はたくさんありました。でも、そういう状況を生かすことを考え、「ここまでしかできないからこそ、じゃあどうしよう」と楽しんで音楽を作っています。SLIDE MONSTERSは特にそういう意識が際立っているグループです。
――常に新鮮さや刺激を求めていることが、中川さんはじめ、みなさんが長く活動できている秘訣な気がします。
でも、たとえば秋山和慶さん(指揮者)は83歳ですし、北村英治さん(クラリネット奏者)は95歳、うちの父親(トランペット奏者の中川喜弘)も82歳。みなさんと演奏すると元気がもらえるし、「自分もまだあと30年、40年はやれるんだ。じゃあ、もっともっと音楽を楽しまなきゃ」と思えるんです。たしかに周りからはベテランと言われますけど、自分の目の前でもっと上の先輩方が楽しそうにやっていたら、「自分はまだその半分しかきていないな」って。そうやって刺激を受けて、やりたいことをやり、その上でお客様に自分たちの音楽を問うていきたいですね。
『笑う犬の冒険』で見たお笑い芸人たちの本気「『いっせーの』で本番一発撮り」
――ただ中川さんは10代前半でデビューするなど、早くから脚光を浴びていました。しかも「天才少年」と言われていましたよね。当時はどういう感覚でそういった評価を受け止めていましたか。
そういうことを100万回くらい言われると、なにも思わなくなるものですよ(笑)。
――ハハハ(笑)。
自分は性格的に木に登らされるとすぐ天狗になるタイプですし、そうやって言われるのはちょうど良かったです。もちろん自分では天才だと思いませんでしたが、演奏を聴いてくださるお客様が喜んでくださったり、興奮してくださったりした結果「天才」と言ってくださるのであれば、それは褒め言葉としてありがたく受け止めたいなって。私は自分の役目を全うすることだけを考えていましたし。あと、今振り返ると少年時代から「みなさんが普段では味わえない空間を、演奏を通して作ることが自分の役目」と思ってやっていました。
――少年時代からそういう風に感じられるところがすごいです。でも幼少期から、たとえばハナ肇とクレージーキャッツら錚々たる方々と交流があったことを考えると、それも頷けます。
小さいときからハナ肇とクレージーキャッツのみなさんにはお世話になっていましたし、特に谷啓さんは同じ楽器をやっていましたから、よくお家にも行っていました。谷さんが天国へ行かれたときは、形見の楽器もいただきましたし。
――バラエティ番組『笑う犬の冒険』(1998年-2003年)でも、谷啓さんが率いる谷啓&ザ・スーパーマーケットの一員をつとめ、オープニングコーナーの演奏を担当していらっしゃいましたね。
あのオープニングは、アメリカのスタンダップコメディの手法を取り入れていて格好良かったですよね。あと出演されていたお笑い芸人さんたち(ウッチャンナンチャン、ネプチューン、ビビる、中島知子(元オセロ))が本当にすごくって。みなさんお題に沿ってなにかネタを言っていたのですが、ちゃんと自分たちで考えて、それから放送作家さんたちと打ち合わせをして。そして我々ミュージシャンと「いっせーの」で本番一発撮りをやっていたんです。カメラも止めずにやるからすごくライブ感があったし、もちろん予期せぬことも起こったりしました。でもミュージシャン側は、谷さんがお笑いの世界でもずっと第一線でやっていらっしゃったので、毎回とてもスムーズにできました。あの番組ではあらためて芸人さんたちのことをリスペクトできましたし、なにごとも真剣に楽しくやるという部分では通じるものもありました。
――中川さんは当時20代。谷啓さんと一緒に仕事をした最後の世代のミュージシャンかもしれませんね。
そうかもしれませんね、一緒にコンサートもやらせていただきましたし。でも実際、一緒にステージへあがったときは先輩、後輩とかは関係なく音楽を作っていました。楽しく演奏をする、という点においては同じ目線ですね。小さいときからクレイジーのみなさんにかわいがっていただいたり、淡谷のり子さん、ディック・ミネさんたちとも演奏会をしたりしていたので、リスペクトはもちろんありましたが、「この人はすごい」みたいな感覚で音楽はやっていないのかもしれません。とにかくみなさんと楽しみたいというか。
――だからこそSLIDE MONSTERSも成立しているのかもしれませんね。今回の日本ツアーはどんな公演になりますか。
実は今回のツアーをきっかけとして3rdアルバムのレコーディングもおこなうんです。そしてレコーディングした楽曲もコンサートで披露しようと思っています。もちろん2025年にはレコ発もやる予定ですが、今回のツアーはその布石にするというか、マグマをためるような内容にしたいと考えています。もちろん、そういった新曲を演奏することについて緊張感はかなりあります。というか毎回、なにか新しいものを作る瞬間は緊張します。それが評価されるかどうかではなく、「みんなが楽しんでくれるかな」という部分です。ただ常に、今までとは違うものを出したいと思って作っていますし、そうやって私たちがいつも向き合っている新しい壁をみなさんと共有できるコンサートにしたいです。
Text by 田辺ユウキ
(2024年6月19日更新)
スライド・モンスターズ…
日本を代表し名実共に音楽シーンの最前線で活躍する中川英二郎と、全世界の金管奏者が憧れトロンボーン界のトップに君臨するジョゼフ・アレッシが中心となって結成されたトロンボーン・ユニット。国境を超え、ジャンルを超えて集まったメンバーはアレッシが「今最も一緒に演奏したいトロンボーン奏者」として選んだ精鋭—— NYのジャズシーンを牽引するマーシャル・ジルクスとヨーロッパを代表するバストロンボーン/コントラバストロンボーンの名手、ブラント・アテマ。
トロンボーン4本のみという最もシンプルな編成で、オリジナル楽曲をレパートリーの中心に据えることで、その可能性を最大限に拡張している。
2018年のデビューアルバム「Slide Monsters」はクラシック/ジャズチャートを席巻。さらにiTunes、Billboard総合チャートへのチャートインを果たした。同年5月にデビューツアーを開催。2021年、2ndアルバム「Travelers」を発表。コロナ禍による2度の延期を経て2022年9月には計9公演に渡る最大規模の日本ツアーを行った。2023年7月にはアメリカで開催された「International Trombone Festival」に招かれ最終日のヘッドライナーをつとめた。同年9月にイタリア公演を成功させ、24年はオランダで開催される「SLIDE FACTORY」に出演予定。MVの総再生回数は現在までに100万回以上を超え、同ジャンルとしては異例の記録を更新している。
SLIDE MONSTERS オフィシャルサイト
https://slidemonsters.jp/
【東京公演】
▼6月21日(金) 恵比寿ザ・ガーデンホール
【愛知公演】
▼6月22日(土) メニコン シアターAoi
チケット発売中 Pコード:269-016
▼6月23日(日) 13:30
森ノ宮ピロティホール
指定席-7000円
※4歳以上はチケット必要。3歳以下は保護者様の責任の元、膝上鑑賞の場合チケット不要。但し、座席が必要な場合はチケットが必要となります。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は、6/16(日)朝10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888