ホーム > インタビュー&レポート > 柳井"871"貢インタビュー 【第22回】「自分の値段」って知ってる?
――前回は、アーティスやタレントにとってプロダクションやマネージャーとはどのような存在なのか、ということを871さんにお伺いしました。
871:久しぶりの連載再開にしてはかなり濃い内容の話になりましたね。あれから自分でも改めて考えたりしましたよ。
――マネージャーとは? みたいな。
871:そんな難しい感じではないんですけど(笑)、独立するにせよしないにせよ、マネージャーというか代理人的な人って大事だよなっていうのは思いますよね。だって、自分の代わりに様々なことの交渉をして、時には必要に応じて本人の代わりに謝ってくれたりもするんですから(笑)。
――たしかに(笑)。
871:アーティストが自分で自分達の活動のことを取引先に説明したり謝ったりするって、やっぱりしんどいというか、難しいと思いますね。謝るというのは、例えば遅刻したから「ごめんごめん」みたいな感じではなくて、仕事としてちゃんと成立させられるように相手とコミュニケーションをとらなければいけないですし、そこで生じた損失を別の価値として提供しないといけないわけですから。
――そうした交渉ごとのなかには、当然お金のことも含まれるわけじゃないですか。そこもなかなか本人が自分のお金について交渉するのって難しいですよね。
871:できる人は全然できるんでしょうけどね。でも特に日本のアーティスト、表舞台に出る人の場合は難しいのかもしれませんね。要は、自分に「自分の値段」をつけて、それをきちんと売り込めるか、ということなんですけど、欧米の場合はそこに何の忖度もないというか、言ってしまえば後ろめたさみたいなものがなさそうなイメージがあります。でも日本人ってどこかで謙遜みたいなものが入るでしょ? 特にそれがお金のことになると、あまり言い過ぎるとよくないっていう共通認識みたいなものがあるから。
――すごくよくわかります。
871:ちなみにライターさんの世界も同じですよね。単発でインタビューの依頼があって、3000字で原稿を書いてくださいと。原稿料はいくらくらいですか?って聞かれたらどうするんですか?
――それが一番困るんですよ、はっきり言って。向こうから提示してもらえたら、それに対して交渉しやすいんですけど、こっちに「いくら?」って聞かれたら、平均値で言うしかなくなってくるんですよね。あんまり高くも言えないし、かと言って安くもできないという。
871:ああ、なるほど。もしそこにマネージャーがいれば、どんな場合でも金額交渉しますからね。ちなみに僕はそういうことをずっとやってきているので、おっしゃった「平均値」の1.2~1.5倍で交渉できる自信があります。その仕事の目的としてお金をいただくことがある程度重要な場合は、ですが。
――マネージャーって大切ですね(笑)。それにしても、「自分の値段」という感覚は、何も創作に関わる職業だけじゃなくても、どんな仕事においても持っていないといけない感覚なんでしょうね。
871:本当にそう思いますね。もちろんそれが客観的に見ても納得できる値段じゃないと、交渉は成立しないわけですけど、いずれにせよ能力と時間を金額に変えることが仕事における一定の価値なわけですから。
――それで言うと、871さんは自分の能力と値段というのをどのように測ってきたんですか?
871:僕の場合は比較的わかりやすかったんですけど、HIP LAND MUSICに入ってからわりと好きなことばかりをやらせてもらっていました。要するに、自分の持ってきたような案件ばかりをやっていました。だから、その案件がマイナスなのかトントンなのかプラスなのかがすなわち自分の価値基準なのだと考えるようにしていました。もちろん若い頃は、マイナスなのに給料をもらっている状態で、「すみません、、、」という感覚だったし、それがだんだんプラスになって、ようやくいただいている給料に見合ってきたなと思ったり、さらに数字が上振れしたら、もうちょっともらってもいいのになって思うこともあったり(笑)。ただ、会社員の場合は当然ながら自分が取ってきた案件のなかだけで全てが回っているわけではないですし、仮にひとつのプロジェクトで結果が出たとしても、そこに何人の人が関わったかとか、そもそもその会社だから取れた案件でもあったり、実行できるだけのリソースがあったとか、個人の能力だけでは測れない部分もたくさんあるのも加味しなければいけないというのはあります。
――ちょっと話が飛躍するんですけど、CDからサブスクになってアーティストの作った作品の評価と金銭的な評価は釣り合っているんでしょうか? CDは1枚の値段が見えていたので、なんとなくそれを作った大元の人たちにこれくらいのパーセンテージが支払われているんだろうなっていう想像はつきやすかったんですけど、サブスクになってそこが見え辛くなったという印象があります。
871:サブスクは、ざっくり言えば按分方式ですからね。まずは決済業者を経由してプラットフォームに、そして再生回数を元に楽曲ごとに按分された金額がディストリビューターに、そこからレーベル、各プロダクションやアーティスト、というふうに分配されていきます。
――それを伺っていると、どんどん目減りしていっているような気がしますが(笑)。
871:目減りしてたのはCDの時も一緒ですから(笑)。CDショップから流通会社を経由してレコード会社に入った売り上げから各プロダクションやアーティスト、という流れは同じで。おそらく大きく違うのは購入(販売)時に1回売り上げが発生するのか、再生回数に応じて聴かれた(再生された)数に応じて売り上げが入るのか、の部分ですね。そして、世の中全体で楽曲自体が聴かれる回数や時間はCDだった頃よりも格段に増えているはずだと思います。また自国だけではなく他の国でバズったりする例もありますし、一概にCDとサブスクを比べてどちらがどう、というのは言いにくいですね。はっきりしているのは、チャートの上位にランキングされている曲やアーティストはたくさん聴かれているし、その分経済的にも見返りがきちんとあるということです。CDやレコードでは再生回数ではなく、販売時の売り上げのみが収入の原資となっていたので。
Text by 谷岡正浩
(2024年6月25日更新)
1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATIONマネジメントDiv.執行役員及び MASH A&R取締役副社長として、THE ORAL CIGARETTES、KANA-BOON、フレデリック、Saucy Dogなどのマネジメントを主に担当。
これまで数多くのイベント制作にも携わり、コロナ禍中にはリアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げ、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」の取り組みなども行っている。
そんな彼が様々なコンテンツや事象を、彼ならではの視点で語る不定期連載「No Border的思考のススメ~ミュージシャンマネジメント871の場合~」をお届けします。
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