ホーム > インタビュー&レポート > 柳井"871"貢インタビュー 【第20回】プロダクションってなに? マネージャーの仕事って?①
――お久しぶりです。
871:けっこう空いてしまいましたね。
――1年半ぶりの再開ということで。その間にコロナがあり、エンタテインメント業界もいろいろとありました。
871:そうですね。
――なかでもぜひ伺ってみたいのは、アーティストやタレントにとってのプロダクションとはなんぞや?ということです。音楽業界だけではなく俳優やアイドルなど所属事務所から独立して個人事務所を設立、活動していくケースが増えていますよね。
871:バンド界隈でもそのような流れは見かけますね。できる話とできない話がありますけど(笑)。
――(笑)。ではまず基本的なこととして、バンドが事務所に所属することのメリットはどういったところにありますか?
871:わかりやすく言葉にできることのひとつは、経済的サポートを受けられるということでしょうね。生活費・活動費の援助ということに始まり、レコーディングやMVの制作費、ライブでPAや照明、楽器などのスタッフをアサインしたり、そういう活動に関わる全ての面における経済的サポートは大きいですよね。単純にバンドの財布だけじゃなく、事務所の財布も使えるようになるということです。もちろんそれは契約の内容にもよるんですけどね。1ショットのレコーディングだけの契約といった場合もありますし、もっと(事務所から見たら)投資的な意味合いを込めた包括的な契約もありますし。
――なるほど。
871:大事なのは、バンドを主体として考えた場合、自分たちが将来どのようなヴィジョンを描いて、そこにどのくらいのスピード感で向かいたいのか、またそれをどれくらいマストに考えているかなんですよね。それによって事務所との契約の内容、要するに付き合い方が変わってくると思います。育成も兼ねた投資的な契約は、短期的にぱっと見はいいように思えるかもしれないんですけど、たとえば年間1千万円の投資を2年間受ける場合、契約期間内の2年間で会社はその後にその投資額を回収できるのかどうかをシビアに判断します。つまりそれって、結果を出すまでの時限装置なわけです。バンドとして、その2年間という期間で事務所の取り分も含めて利益を出せるのかの勝負が本当に自分たちにとって適正なのかどうかっていうのは考えなければいけない。
――確かに、何を目標にするのかによってどのようなパートナーシップを結ぶのかは変わってきそうですね。
871:そうなんですよ。
――経済的なメリット以外には何かありますか?
871:自分たちの活動のことを考える自分たち以外の人がいるっていうことですね。ここは、事務所の特色やそこにいるマネージャーの能力にもよるところが大きいんですけどね。たとえば、レコーディングにおけるプロデュース能力に長けているマネージャーとか、俳優部門もある大手事務所だからタイアップなどが取りやすいとか。あげるとキリがないくらいの種類があると思います。
――そこはもしかしたら経済的なこと以上に大切な部分かもしれませんね。
871:まさにその通りで一番大事な部分だと思います。むしろプロダクションやマネージメントの存在意義はそこにあると言ってもいいくらいですね。先ほど言った投資的な考え方ばかりが先行すれば、それはもしかしたら銀行や投資家でもいいのかもしれないというふうになってしまう。プロダクションやマネージメントの立場から言えば、自分の得意技というか能力をいかにバンドに提供できるかということを常に考えておかないと、バンドの経済圏だけで自走できるだけの経済力がついたときに、もういらないよって言われてしまうのは事務所やマネージャーですからね。まあ、そういう意味では僕がまだこうしてやらせてもらえているのも、今のところは必要としてもらえているからなんだろうなって思うようにしています(笑)。
――所属事務所を離れて個人事務所を設立、活動をしていくという流れをどのように捉えてらっしゃいますか?
871:結局はご本人個人の資質によるところが大きいのでは?と思っています。スケジュールやいろんなことの想像と調整ができて、コミュニケーション能力があって、金銭的なバランス感覚があって、判断能力の高い人であれば、またはそういうパートナーが個人的にいる人は、独立した方がいいという判断になると思います。ただ、もう一つ言うと良いマネージャーを見つける能力というのも実は必要で、それはアーティストやタレント本人に金銭感覚や時間感覚といった基本的な要素が高い次元で備わっている人が持っている場合が多いんですよね。個人でやる場合は、どうしてもそこの能力が本人にないと、結局はうまくいかないのではと思ってしまいます。もちろん例外もありますけどね。だからバンドなりアーティストなりが最初に事務所に所属する時に、そこで信頼できるマネージャーに当たるかどうか、みたいなことをガチャ的な発想でいるのに対して、最初から自分たちのプランと嗅覚を持っていてきちんとマネジメントを選んで契約できるか、ということと、独立することっていうのは、実は作業としてはあまり変わりないんですよね。逆に言えば、全く意見の合わない会社や、考えの合わないマネージャーと過ごすことほどお互いに不幸せなことはないですから(笑)。
――なるほど(笑)。
871:という考えもあって、僕は自分の個性を聞かれた時に"柔軟です"と答えられるようにいようとしています。何かひとつの能力に特化しているということではなく、柔軟です、と。要するに、バンドがバンドの目標に向かうために必要なサポートを一緒に考えていく、というスタンスですね。もちろんできないこともたくさんあるんですけど、だったらそのなかでこんな方法もあるんじゃないかっていう提案をしてお互いが納得できるようにプロジェクトを前進させることを心がけています。見方を変えれば、僕はいわゆる世間がイメージするような"マネージャーさん"であることにはあまりこだわっていないんです。例えばバンドと一緒に機材車を転がして物販を売って......みたいな、すでに存在しているマネージャーの定義みたいなものに自分から進んでハマりに行こうとは一切思ってなくて。というのも、そういう形式的なマネージャー像というのはずいぶん昔にできたものですし、それに合わせて仕事をしていると、絶対にどこかでバンドとの歪みが出来てくると思うんですよ。やっているうちにバンドも業界の仕組みや慣例などのことを知っていくようになりますし、横のつながりもできますからね。そうすると、あそこのバンドはずいぶん自由にやっているけど、うちらは何から何までマネージャーが決めてる......、あるいは、いつも一緒に汗をかいてくれているけど、このままやっていって大丈夫なのかな......みたいな感じになっていってしまうんじゃないか、、、という不安はあるので。だからこそ、守秘義務みたいなこともありますが、仮に内情を誰かと比較されるようなことがあっても自信をもって「僕はこういう考えです」と説明できる関わり方をしたいなと考えています。
――なるほど。果たして健全なバンドとマネージャーの関係とは? 次回は引き続きこのテーマを掘り下げていきます。
Text by 谷岡正浩
(2024年5月17日更新)
1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATIONマネジメントDiv.執行役員及び MASH A&R取締役副社長として、THE ORAL CIGARETTES、KANA-BOON、フレデリック、Saucy Dogなどのマネジメントを主に担当。
これまで数多くのイベント制作にも携わり、コロナ禍中にはリアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げ、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」の取り組みなども行っている。
そんな彼が様々なコンテンツや事象を、彼ならではの視点で語る不定期連載「No Border的思考のススメ~ミュージシャンマネジメント871の場合~」をお届けします。
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