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まばゆいまでに“今”を生きる
chilldspot・比喩根が同世代のリアルと意思を代弁
『まだらもよう』で描いた様々な愛の形

メンバー全員が2002年生まれの4ピースバンド・chilldspotが、1月19日に最新EP『まだらもよう』を配信リリースした。2023年は春に2nd フルアルバム『ポートレイト』をリリース、2ndワンマンツアーを敢行。夏には2度目の『SUMMER SONIC』に出演、秋には初めて対バンイベントを主催するなど積極的に活動を重ね、バンドとしての経験値を増やしてきた。その中で作られた最新EPには、映画『隣人X –疑惑の彼女-』の主題歌『キラーワード』をはじめ、mabanuaがプロデュース&アレンジをつとめた『まどろみ』、玲山(gt)がアレンジを務めた『遠吠え』、2年前に書かれた温かさ溢れる『シーン』、そしてリード曲となる『愛哀』の全5曲を収録。中でもとびきりの存在感と異彩を放つ『愛哀』は、21歳の比喩根が、ネット社会で今を生きる若者のリアルな想いを痛いまでに綴った1曲。MVの原作・総監督には、現役慶應生で歌舞伎町の社会学を研究する佐々木チワワが、主演は140万フォロワーを集める人気TikTokクリエイターのマリナが、ホスト役は実際に歌舞伎町で2億円以上稼ぐ一流ホストの湊叶迴が担当。Z世代のクリエイターが集結し、chilldspotの新境地を開いた作品となった。今回は比喩根に新作EPとリード曲『愛哀』について語ってもらった。衝撃作とも言える作品をぜひ聴いてほしい。



これまでで1番完成度が高い。EP自体がメッセージ性を持っている



ーー新作EP『まだらもよう』にどんな手応えを感じていますか?

「完成度は、今までの中で1番高い気はしています。完成度が高けりゃいいってわけじゃないんですけど、当たり前かもしれないですが自信を持って、"良い曲ですよね"と言える、納得できる曲たちが詰まった感じはあって。結構攻めてる曲もあるんですけど、攻めてるからこそ刺さる事柄が広くなるんじゃないかなと。自分では、EP自体がメッセージ性のある作品になったと思います。」

ーー完成度が上がったというのは、サウンド面においても歌詞においても?

「多分どっちもあると思います」

ーーEPがメッセージ性を持っているというのは本当にそうだなと。夜聴いて、衝撃でしばらく眠れなくなる体験をしました。

「ほんとですか。寝た方がいい(笑)」

ーー結果寝たんですけど(笑)。"これは!"となって、余韻で目が冴えてしまって。

「作った側としては嬉しいです。ありがとうございます」

ーー今回は、曲ごとに異なる環境や状況、その中で生きている登場人物の人生の一コマが描かれているように感じますが、前作のchilldspotの自画像的な『ポートレイト』を経て、どんなふうにEPを作っていこうとなったんですか?

「最初は特にコンセプトとか意識せずに制作していました。ただ今回色んな人と関わりながら楽曲を作って行った結果、タイトルを決める際にまだらもようというタイトルが浮かびました。タイアップ楽曲や共作など今までの私の視野だけでなく第三者目線でありつつも、自分の想いを入れこんだ作品になったと思います。」

ーー2023年は漫画家の鳥飼茜さんと『ひるねの国』をコラボされていましたね。共作はいかがですか?

「もちろん難しさは感じますが、ハマった時のピタッと感を共有できるのがすごく嬉しいです。あとは、歌詞のテーマやジャンルを共有できると、意外と作りやすいんじゃないかなと感じられました。これまではバンドメンバーと"こういう曲をやりたいね"と話してはいたけど、歌詞の部分においては結果自分のことというか。作品を通してのメッセージや色んな人の意見を交えて作る感覚はすごく新しくて楽しいです。人と一緒にやるのは良いなと思いました」

ーー比喩根さんは、お題をもらうと曲を作りやすいタイプなんですね。

「そうかもしれないですね。ずっと自分の実体験や知識をアウトプットするだけだったので。そうすると枯渇して、3倍ぐらいインプットしないとアイデアが出ないような気がしてて。共作やタイアップとなると突然インプットをくれる感じがして楽しいです」

ーー意図しないところからのインプットですね。

"そういうのもあったんだ"と感じることもたくさんありましたね」

ーー世界が広がったりもしてますか?

「すごく。お相手と一緒に曲を作る上での、リファレンスからのインプットの広がりもそうだし、"この言葉遣い良いな"とか、"この人こう思ってるんだな"とか、日常会話からも学ぶことが多いですね」

ーーピンと来たらメモったりされるんですか?

「その場によりますけど、メモできる時はメモするし、意外とメモしなくても、良いなと思ったものは記憶に残るので。思い出せるぐらい記憶に残ってるなら、歌詞に使った時に面白いかなと思いながら会話をしてますね」

ーー自分の発した言葉が曲になるのは嬉しいですね。

「それこそ1番最後の『シーン』という曲は、ジャスティン(ds)が夜散歩してる時に言った言葉と雰囲気も含めて曲にしました。曲調全体がその言葉に寄り添うイメージだったりします。私、仲良い人やお友達と一緒にいると、口癖や手癖が移ることが多くて。自分の中では、それぐらい会話での感触を大事にしているつもりですね」

ーー実は『愛哀』を聴いて眠れなくなったので、最後に『シーン』があって救われました。

「良かった良かった(笑)。『愛哀』でバコーンと打って終わっちゃえと思ったんですけど、"最後1つまとめた方がいいんじゃない?"と言ってもらって、そうしました」




成人して、色々な愛の形を知った



ーーライナーノーツに"愛というワードがキーになっているEP"と書いていらっしゃいましたが、それは制作後に感じられたんですか?

「結構後で感じました。今まで愛がテーマの曲は作りづらいなと思っていて。もちもん恋愛経験はありますけど、無償の愛だったり、大きな愛だったり、愛をテーマに書こうと思うと自分の中の事実として納得できないと失礼だなと思っちゃっていて。でも成人してから、メンバーやスタッフさん、お友達、成人後に付き合ってくれてる人も含めて、少しずつあたたかい愛を理解できた気がして少し愛について書いてみようかなと。『愛哀』は結構攻撃性があるけど、そこにあるのは本能的な愛だし、最近愛がわかるような気がしてきて書いたのが『遠吠え』だし、直接歌詞には出てきてないけど『まどろみ』も自己愛についての話だし。年齢と共に経験が積み重なって、並べてみたら愛についての曲を書くことが増えたのかなと思いますね」

ーー成人という言葉が何度か出てきましたが、大人になったことが影響しているんですか?

「20歳になって成人して、一人の大人として周りの人とより深く話せるようになった気がします。特にお酒を飲めるようになったのも大きいと思います。お酒を飲むと、自分もいっぱい喋るようになるんですけど、相手の人がちょっと緩やかになって、普段話さないようなことを話してくれて。一緒に仕事してるスタッフさんも、成人する前はそんなに深く話さなかったことも、すごくフランクに話してくれて。chilldspotがすごく愛されているなと感じたり、お友達と"いやー大人になったね"と言いながらお酒を飲んだりして、少し世界が広がったので」

ーーそれで、色んな愛の形や人間模様に触れるようにもなったんでしょうか。

「本当にそういう話もしてました」

ーータイトルの"まだら"という言葉には、混ざり合うカオスなイメージもあるのかなと思いますが、ジャケットはきらびやかでキラキラしていますね。

「『愛哀』や『キラーワード』は、あまり目を向けたくない部分や感情を歌っていて。『遠吠え』みたいに純愛を歌った曲もあれば、『愛哀』みたいに"愛なんて知らねえよ、くれよ!"と叫ぶ曲もあって、色んな感情が、私の中でも曲同士でもぶつかり合っているので、そういう意味でカオスな感じを表現したいなと思ってて。タイトルもインパクトのある名前にしたかったんです。1人の人間の中での感情の起伏もあるし、そこに生じる人間模様や世の中のまだらな感じも含めて、"まだらもようって良いんじゃないかな"みたいな話があって、そうしようとなりました」

ーージャケットはどのように決められたんですか?

『愛哀』がEPのリード曲なんですけど、『愛哀』の世界観から連想できるものを全部やってみようという話で私自身も、今作はもっとぐちゃぐちゃというか、暗いイメージを持ってたんですけど、頭から最後の曲『シーン』まで聴いてみればあたたかさを感じる。ジャケットではミラーボールの反射から織りなす色の重なりだったり、電球で描くまだらな表情ときらびやかさを再現してもらいました。聴けば聴くほど色んな捉え方ができるジャケットになってるんじゃないかなと、私は感じました」

ーーなるほど、『愛哀』がかなりのキーになっているんですね。

「『愛哀』はEPの中心ですね」



"ただそこに在る街"を舞台に、リアルな心情を描きたかった



ーー『愛哀』は比喩根さんの歌い方がいつもと違うなと思って、聴いた瞬間ぞわっとして。スケールの大きさと、秘められているものの深さを感じました。

「嬉しいですね。確かに歌い方は結構変えたんです。前に台湾のバンドのElephant Gymさんのアルバム『Dreams(2022年5月リリース)』で、『Shadow feat. hiyune from chilldspot』の日本語版の詞とボーカルをやらせていただいたんですけど、その時に中国語版を歌っていたのが9m88さんで。1枚のアルバムに中国版、日本語版で並ぶわけじゃないですか。歌のレコーディングが終わって再生してみた時に、"私、なんか色気が足りない!"と思って(笑)。それが良いのか悪いのか私にはわからなかったけど、色気のある歌い方もできるようになりたいと思って。『愛哀』ではいつもより口を縦に開いて、こもっている歌い方を意識したり。とにかく色気や深さを出そうとチャレンジしてみました」

ーー9m88さんは表現力の幅広さが素晴らしいですよね。

「声の表現力が本当にすごくて。"聴けば聴くほど素敵!"みたいな。刺激をもらいました!」

ーー「愛哀」はまず曲があって、それに対するMVを撮ろうとなったんですか?

「以前私の歌詞にはみんなが言いたくても言えない事、気づいていても気づいていない事を言っているような気がすると話してもらったことがあって。今回若い子の恋愛観の曲を書いてみようとなったときに、同世代として感情を曝け出した歌詞。"もう大人死ね"くらいの気持ちで書き上げました。そこからその気持ちにそってMVを考えました。」

ーーなるほど。MVの総監督に佐々木チワワさんが入られたきっかけはどうだったんですか?

「 曲のテーマがZ世代の若い子の恋愛観だったので、MVも同世代の若い人たちと一緒につくりました。さらにMVの世界観を深めたくて今回は佐々木チワワさんにお願いしました。」



彼らは自己表現としてそこにいる。『愛哀』で示した同世代の意思



ーー歌詞は、若い人の気持ちを代弁して書いたということですが。

「実際はそうなれているかわからないですがそういうイメージで書いてみました」

ーー21歳の比喩根さんの当事者意識も込められているそうですが、それは曲のどこに色濃く出ていますか?

「全編、私が思ってることをそのまま書いた感じがあって。サビは代弁者的なイメージで書いたんですけど、結構全部当事者意識かもしれないですね。ニュースでは社会問題として大きく取り上げられたりすることもあるけれど、ネットではごく身近に流れてくるし。誰かと繋がりたくて私もネットで知り合いを作って会ったこともありますし、俗に言われるZ世代として生まれて当たり前の体験や日常がこの曲にも滲み出てきているのかなと思います。」

ーーこの曲からは、本当は寂しいんだという叫びや、愛を求める痛々しさが感じられました。この曲を通してどういうことを伝えたいですか?

「伝えたいというよりかは、意思です。相手が曲をどう受け取るかは、それぞれの受け取り方なのでもう知ったこっちゃないというか。もちろん全員が全員当てはまるわけじゃないけど、ネットを見たり友達と喋ったりする1020代の同世代としては、恋愛と本当に同じで、周りに"その彼氏やめなよ、クズだよ"と言われても、"私はそれでも好きだからやるんだよ。好きだからお金出すんだよ。好きだからそこにいるんだよ。それの何が悪いんだよ"と。唾を吐くじゃないですけど、"こうなんだよ、ペッ! あとは知らない!"みたいな感じ。私はそういうつもりでこの曲を書きましたね」

ーー叫びが伝わってきますよね。MVの公開も楽しみにしてます。

「ぜひ。メンバーが大人になってます(笑)」



よりメンバーのことを知って、メンバーの曲を書いてみたい



ーーあと気になったのは、『シーン』以外の全曲の歌詞に<今>というワードが入っているなと。

「えーっ!(笑)」

ーーもちろんこれまでも<今>という言葉は使われてきたと思いますが、2年前に書いた『シーン』以外に<今>が使われているということは、今を表している楽曲で、目の前を見つめて生きているのかなと感じました。

「もう、意図してそうしましたと書きたいぐらいです」

ーー本当にそうなんですよね。『遠吠え』から順にいくと、<愛がね 何か分かるようになる気がしてる今>、<今はここにいたい>、<そんな今を作りたい>、<今が欲しいの>という。

「ほんとだ! 私は今を生きてるんですね!」

ーーそうそう。だからすごく眩しいなと思って。

「『シーン』を書いたのはコロナ禍が明ける前くらいなんですけど、コロナが明けてからは、ライブや制作や取材、色んなことが目まぐるしくなる中で、何かをしながら何かしなきゃいけない状況で。未来を考えるよりかは、"これも足りない、あれも足りない"と、確かにずっと、今とちょっと先と向き合ってる感じはしていました。全然意識していなかったです(笑)。読み取っていただいてありがとうございます」

ーー今のchilldspotはどんな感じですか?

「今は仲良く楽しく(笑)。前は本当に4人それぞれが天秤のように補ってて、ちょうど良いと思ってたけど、それぞれが前よりも大人になった分、皆意外ともっと何かあるんじゃないかって。よりメンバーのことを知りたいし、よりぶつかってみたい。喧嘩とかじゃなくて、より深いところを聞いて、いっぱい話し合ってみたいなと思うようになりました」

ーー良いですね。次の作品はさらに深いものになりそうですね。

「メンバーの曲とか書いてみたいですね。今ふと思いました。玲山くんの曲、小﨑(ba)くんの曲、ジャスティンくんの曲、書いてみてもいいかもしれない」

ーーまた違う"ポートレイト"になりますね。

「それぐらいメンバーが魅力的なんです(微笑)」

ーー2月には『3rd one man live tour "模様"』が行われます。大阪は211日(日)の心斎橋BIGCATです。3回目のワンマンツアー、どんなライブになりそうですか?

「前回のツアーが14公演で、色んな場所を廻らせてもらって。今回は5公演なので、前回で学んだお客さんとの一体感は忘れずに、1か所1カ所でより深く、色んな曲を演奏したいです。楽しむのももちろんですけど、"chilldspotはこうしたいんだよ。この曲はこうしたいんだ、伝えたいのはこうなんだ"と、お客さんの心により深く残るようなライブにできたらいいなと思ってますね」

Text by ERI KUBOTA




(2024年2月 1日更新)


Check

Release

chilldspotの新境地を示す最新EP

『まだらもよう』
配信中

【収録曲】
01.遠吠え
02.まどろみ
03.キラーワード (映画「隣人X –疑惑の彼女-」主題歌)
04.愛哀
05.シーン

Profile

比喩根(Vo&Gt)、玲山(Gt)、小﨑(Ba)ジャスティン(Dr)からなる、メンバー全員2002年生まれの東京都出身4人組バンド。chill , child , spot , pot を組み合わせた造語。2019年12月に結成し活動開始。2020年11月 1stEP を高校在学中にリリース。2021年1月にSpotify が今年躍進を期待する次世代アーティスト、「RADAR Early Noise 2021」に選出、7月にYouTube Music が世界中の注目アーティストを支援するプログラム「Foundry」 に選出され、 大きな注目を集めている。作詞・作曲も担当するVo. 比喩根から自然と溢れ出すグルーヴと、異なる音楽ルーツを持つメンバー全員で 形造る楽曲は、なぜか中毒性があり、一瞬で彼女らの渦に飲まれる。グルーヴとジャンルレスな感覚で自由に遊ぶネクストエージ。2024年1月19日にはデジタルEP『まだらもよう』をリリース。2月には『3rd one man live tour “模様”』を全国5都市で開催。

公式サイト
https://fan.pia.jp/chilldspot/


Live

「chilldspot 3rd one man tour "模様"」

【福岡公演】
▼2月2日(金) Fukuoka BEAT STATION
【愛知公演】
▼2月10日(土) ボトムライン

PICK UP!!

【大阪公演】

▼2月11日(日・祝) 17:00
BIGCAT
全自由-4500円(ドリンク代別途必要)
※未就学児入場不可(小学生以上チケット必要)。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【宮城公演】
▼2月17日(土) 仙台 darwin
【東京公演】
▼2月21日(水) Zepp DiverCity(TOKYO)

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