ホーム > インタビュー&レポート > メジャーデビューした社会人バンド (夜と)SAMPO・吉野が語る “承認欲求と客観性”、そして葛藤
メンバーの意見を取り入れた制作方法へシフトチェンジ
――約1年8ヶ月ぶりのインタビューですね。2022年2月に2ndミニアルバム『はだかの世界』をリリースされてから、バンド的にはどんな感じでしたか?
「『はだかの世界』をリリースして、その後数本ライブはあったんですけど、めっちゃ積極的に活動してる感はなかったと思うんですよ。2019年にバンドをスタートして約3年が経ち、"3年"って一般的にいろいろと見直す時期じゃないですか。僕たちも、良い意味でも悪い意味でも慣れてきてる部分があって。だからリリースの次の年は、改めてライブ1本1本や楽曲を、どういうふうに作っていったらいいか、みたいなことを結構メンバーと話し合った1年でした」
――なるほど。
「楽曲は、これまで僕とベースの加藤(秋人)が"大体こんな感じ"というのを作り込んで、メンバーがそこに対してアプローチする作り方をしてきたんですけど、そこも変えてみようと。僕たち一応セカンドキャリアのメンバーも多かったんですけど、意外とそういう基礎工事がないまま進んでたところもあったので、改めて土台を整えていた感じでした」
――2021年は吉野さんがバンド内の全ての作業を引き受けて、キャパオーバーになっていたというお話もありましたが、メジャーではスタッフさんがつくと思うので、吉野さんの負担も減っていきましたか?......あれ?微妙な顔(笑)。
「ふふ。その辺はいろいろ含みのある話でございまして。人間はわかった気になる動物ですので。できたところもできてないところもあって。こういうインタビューや楽曲のプロモーション、SNS投稿は結局、僕がメインでパパっとやってしまう部分が実情としてあるんですよ」
――やはりそこは吉野さんがブレーンだから。
「もちろん、そこを任せていけた方がいいよというアドバイスをもらうこともあって、それはそうやなとも思うんですけど、いきなり0が100にはならないので。でもその中で、制作に関しては、僕が1人でうんうん捻って考えるよりかは、"この楽曲をこうしたいなら、次の展開はこうした方がいいんじゃない?"と皆で意見を出し合うようになって。僕の実作業はそんなに変わってないけど、心持ちが全然違う。10の仕事を自分で10するんじゃなく、僕の仕事量は10のままだけど、楽曲を良くするために他のメンバー4人で仕事を割って2.5ずつ、皆が横にいてくれるから20の曲ができる。そういう感じかもしれないですね」
――10から20へということは、広がっていますね。
「そうですね。自分が思いつかなかった曲展開が出てきたり、ハッとさせられることもすごく増えました。それはそれで悔しいんですけどね(笑)。やっぱり殻に閉じこもってはいけない、音楽にもちゃんと客観性を持たないといけないなと思ったところはありました」
"この曲を『革命前夜』とは違った
めっちゃ良い曲にするにはどうしたらいいと思う?"
――今年3月末にリリースされたシングル『春』は、バンドの環境の変化も表されているのかなと思いました。
「今回の『変身』もそうですけど、自分の中だけで作る音楽と、メンバーやアレンジャーさんの力を借りて客観性が出た音楽では、すごく変化があって。プロデュース視点で見た時に、聴いた人がより曲を掴みやすくするアレンジや、自分たちでは考えつかなかったバンドサウンド、SE的に効果的に入ってくる音が新鮮で。そこが曲に如実に出てるのかなと思います」
――『春』があっての『変身』というところで、リスナーにはバンドの姿勢も伝わりやすいんじゃないでしょうか。『変身』は『春』と同時期にできてたんですか?
「いや、できてなかった気がします。『変身』はまあまあ難産やったんですよ」
――そうなんですか。
「元々エイトビートの曲で、僕がワンコーラスだけのデモを作って、形は良いなと思ったんですけど、"メジャーデビュー曲でバンドの象徴になる曲だ"と思った時に、僕たちの曲で結構再生されている『革命前夜』をやっぱり超えたかったんですね」
――なるほど。
「今聴いてくれてる人に複雑な想いをさせてしまったら申し訳ないですけど、『革命前夜』は自分の中では昔の曲なんです。曲を書いた当時に思っていた、青臭い衝動的なものが今の自分たちの中心にあるかと言われたら、そうじゃないんですよ。『変身』はこのままいくと『革命前夜』っぽいニュアンスになりそうだったので、"この曲を『革命前夜』ではない、めっちゃ良い曲にするためにはどうしたらいいと思う?"という問いをメンバー皆で考えたんですね。で、"ビートが大きく変わらないと、曲として間延びすると思う"みたいな意見が来たり、"そもそもどういう曲なのか教えてほしい"と言われて、ビジュアルイメージを固めたんです」
――へえ、ビジュアルイメージ。
「いくみちゃんがビジュアルイメージがあった方が歌いやすいらしくて。"これを歌ってるのは誰なの?"と言われて、"20代後半の黒髪ロングの女の子が歌ってる"って(笑)」
――ペルソナを設定したんですね。
「全体的な色味や、"Aメロでは箱の中にいるけども、Bメロはその箱がちょっと空いたり部屋自体が動いてるイメージで、サビでは部屋から出ていく"みたいな話をして、"そういうイメージがあるなら、アレンジはどうしたらいいかな"、"始めの方はビート展開じゃなくしよう"と喋りながら作りました」
――イメージはMVの展開とも繋がっているんですね。
「MV監督の加藤マニさんにもそのイメージを伝えて。裏にあるイメージがちゃんと曲にハマってくれた気がします」
――『革命前夜』という代表曲を超えるために。
「これは愛を込めて言ってるつもりですけども、メジャーデビュー作品にあれぐらいの立ち位置の曲が欲しいと言われて当然だと思いますし、絶対に求心力のある曲を作らないといけないと思ってる。でもクリエイターとしての自分には、"もっと別の良い曲が作りたい"というプライドもある。そういう問いに立ち向かってみた感じかもしれないです」
――結果、難産だったと。
「めっちゃ苦労しました。初めに作ったデモも全部分解して、だいぶ違う仕上がりになりました」
――Bメロに指パッチンのような音が入っていますよね。
「その辺がさっき言ってた、SE的な音が入るところ。アレンジャーの人に入れてもらいました」
――後半にいくにつれてパワフルになる展開ですね。
「そこが1番苦しんだところでもあるんです。この曲は曲の後半にピークが来るようになってるんですけど、多分現行のポップスの作り方と逆行しているんです。大体は頭のところでポンとピークを出すと思うんですよね。良いところを後に取っておいてバンッと持っていくのって結構難しいし、曲も長くなっちゃうんです」
――それでもセオリーを崩して作られたんですね。<理屈なんてとどのつまり~>から明るくなる展開は印象的です。
「<理屈なんてとどのつまり~>と、そこに向かう<かなしさなんて くやしさなんて みとめることで 役目を終える>の部分は、僕の中で言いたい全てのことなので、1番聴いてほしいところです。しかもそこから作ったんです。<理屈なんてとどのつまり~>が元々1サビで。でもこれを1番言いたいと思って、ラスサビに持っていきました」
時代の流れと共に輝き始めた、人々の"承認欲求"
――歌詞で1番最初に出てきたのが<理屈なんてとどのつまり~>ですか?
「そうです。そのくだりは1番初めにできてましたね」
――何かキッカケ的なことはあったんですか?
「なぜ自分がこれを歌おうと思ったかはわからないんですけど、『はだかの世界』で、"あるがままの自分でいいんだよ"というテーマを歌ったんですけど、もちろんその良さはあるし、そこで救われた自分もいるんですけど、"そう言われても、やっぱり変われない自分って何なんやろうな"と思ったりしてまして」
――ふむふむ。
「僕今年30歳になるんですけど、周りを見ていて、20代後半~30歳くらいから、言い方が難しいですけど、狂っていく人が結構多いなと思ってて。それは"自分が認められないことが耐えられないこと"を隠したり、認められたいと思ってるからついつい大きなことを言ってしまったり。そういう人がすごく増えた感じがしたんですよ。いろいろ理屈をこねてるけど、結局それは自分が認められたいことの裏返しなんやろうなと思って、"これは自分にもあるな"と思いながら歌詞を書きました」
――"自分を好きになりたい"、ということですかね?
「というよりは、"愛されたい"だと思うんです。この間SNSで"令和の3大欲求というのは、食欲と睡眠欲の次は承認欲求なんじゃないか"というのを見て、なるほどなと思って」
――承認欲求はSNS時代において、以前よりも強まりましたよね。
「今は生活の豊かさがある程度担保される世の中だと思うので、そういうフェーズを超えた次の欲望が、"社会的に認められたい"だと思うんですよ。それが多分時代の変遷によって、しかも簡単に誰しもがステージに立てる時代において、輝き始めたんじゃないかなという気がしてます」
――吉野さんのコメントで、"けものからニンゲンに変わり身する"という表現がすごく印象的で。獣は本能的な生き方をしていて、獣と人間の違いは何かと言うと、知能かなと思うんですけど......ここ、もう少し詳しく教えてください。
「そこを触れてもらえるのは、めちゃめちゃ嬉しくて。でも今言われた通りやと思うんですよ。本能的だったり、客観性が失われてたり、そういうことを言ってて。客観性がない状態でSNSを投稿してる人って、実は周りから"あの人うるさいよね"と思われたり、"いつも主語でかいこと言ってる"、と言われちゃってると思うんですよね。自分もそうだったという自戒も込めてですけども(笑)。そんなの普通わかると思うんですよ」
――自分を客観的に見れていたら、ということですよね。
「そう。でも"認められたい"という本能にコーティングされてしまって、そればかり追い求める獣になってる。理性がなくなって人間から離れていってしまっているんじゃないかなと思ったんです」
自分の中の欲求を素直に認められるかどうか
――サウンドはポップで聴きやすい疾走感のある楽曲で、メジャー第1弾にふさわしい楽曲だと思います。改めて『変身』を出した今のお気持ちは?
「"いろんな捉え方があっていい、余白は残したい"と思って作った曲でもあるので、それぞれが人生の中で、いいように取ってくれるポイントで共感してもらえたら嬉しいですね。あと本音としては、リリースしたらもっと再生してほしい」
――承認欲求が(笑)。
「やっぱり知ってほしい気持ちがあって、リポストする時にいつもその葛藤を抱えてます。"また何回もリポストしてると思われるやろな、でもほんまに聴いてほしいしな"と(笑)」
――毎日リポストしてもいいぐらいだと思いますよ。すごくしてるアーティストさんもいらっしゃいますからね。
「傍からそういうのを見てて、今は"認められたいですよね!"って肩を組みたい気持ちです(笑)」
――素直に欲求を出せるかどうか、ですね。
「それをちゃんと言えるようになろうと、今自分の中で気をつけてます。『変身』を通じて特に思ったんですけど、"結局ダメじゃないか"と思ってると、逆にそこから逃れられないと思うんですよ。"めっちゃリポストするやん。俺全然あかんやん"と思ってると多分ほんまにあかんくて。"そういう気持ちがあることはまず認めましょうね"と思えるかどうかで、結構違う気がしています」
――歌詞にもありますね、<みとめることで 役目を終える>。
「あ、そうそう。そこが言いたかったんです」
――認めることで、執着が外れるというか。
「そうなんですよ。あれ不思議ですよね」
滋賀に移住し、犬と暮らす生活
――ちなみに今年、吉野さんは滋賀に引っ越されて、トントゥちゃん(トイプードル)を飼われたと。
「そうなんです。よく調べていただいて。お見せしましょうか」
――犬を飼うのは念願なんですよね。
「そうなんですよ! ほんと可愛くて仕方ない。トンちゃんです(リモートにて登場)」
――こんにちは。おとなしく抱かれてる。可愛い。まだ子犬ですか?
「今6か月です。小さくて、1.4~1.5kgぐらいなんですよ」
――高槻から滋賀へ移住ということは、少し地方に行かれたという認識ですかね。
「おっしゃる通りです。今年(2023年)の8月に滋賀の大津に来て。それまでは甲賀でお試し移住していたんです。僕はせっかちな人間なので、人混みとかダメなんですよ。滋賀に来ると優しくなれてる気がします(笑)」
――環境の変化が曲作りに影響したりは?
「今後アルバムを考えてるんですけど、実はそこに大きく影響する曲もあって、どこまで言うか悩んでます(笑)。去年1年間で、かなり曲を作ったんですよ」
――曲を書き溜めていたんですね。
「そうなんですよ。で、今作ってる曲がまさしくそこにテーマを当てていて」
――なるほど。
「勝手に今後のテーマにすると言ったらメンバーに反対されるかもですけど、滋賀の暮らしを歌にするというより、他に満たされるものがあるって大事なことじゃないかなとか、ちょっとややこしいお題に変えて作ろうかなと思っています」
――まずはアルバムが待たれると。
「出したいですね。気持ちを表現すると、自分の場合は"足りない何かがどういうものか探す旅をしていて、その旅の徒然なるところを皆に早く知ってほしい"というのが真っ先に来ますね」
――12月23日(土)には、南堀江knaveでUlulUとのツーマンライブがあります。
「UlulUは個人的に好きなアーティストです。まずボーカルの大滝華代(vo>)さんの歌詞がめちゃくちゃ良い。多分作詞家としてのベクトルが自分と全然違うんです。表現する内容や言葉が、切り取った絵画のようですごく綺麗で、これはなかなかできない表現だなと。作詞家としてもすごいですし、ボーカルがそれを届ける力が抜群で、全ての言葉が立体的なものになって、自分にちゃんと物理的に当たってくるようなライブをされるので、曲を書く身として負けないように頑張りたいなと思うぐらい、刺激をもらっています。大好きなバンドとやれるのが楽しみなので、ぜひとも来ていただきたいです」
――ツーマンは初めてですか?
「対バン自体初めてです。僕はセルフタイトルのアルバム『UlulU(2022年リリース)』の3曲目の『このドアを閉めるまで』が大好きで。2曲目の『3分だけ愛されたい』からの『このドアを閉めるまで』を続けて流れで聴くのがたまりません(笑)」
――ライブもアルバムも、楽しみにしております!
Text by ERI KUBOTA
(2023年12月22日更新)
Single『変身』
配信中
《収録曲》
1. 変身
関西で話題を集めていたバンドの元メンバーを中心に2020年に結成。メンバー全員が会社員。「何かを選ぶために、何かを捨てなくてもいい」という意志のもと、仕事をしながら誰かの心を奮わせる音楽を作る。JUDY AND MARY、Mr.Children、くるり、KIRINJI、フジファブリック、吉澤嘉代子…などの邦楽アーティストをはじめとし、Radiohead などUKロック、海外フュージョン、プログレッシブロック、 Vulfpeckなど現代ファンクやR&B、コンテンポラリージャズなど幅広い音楽をルーツに持ち、それが(夜と)SAMPOの音楽性にも反映されている。2020年7月、1st E.P.「夜と散歩」をリリース。同年8月に初ライブを実施。コロナの影響でいきなりワンマンライブからライブキャリアをスタートすることに。そこからわずか半年後の2021年2月、メンバーの巧みな演奏力とパフォーマンス・表現力、そして根底にある強い想いが、審査員・観客を魅了し"eo Music Try 20/21"でグランプリを受賞。2022年2月に2ndアルバム『はだかの世界』をリリース。そして2023年3月31日に約1年ぶりとなる新曲「春」をリリースし、11月10日に新曲「変身」でメジャーデビュー。
(夜と)SAMPO オフィシャルサイト
http://yorutosampo.com/
チケット発売中 Pコード:256-468
▼12月23日(土) 17:30
南堀江knave
一般チケット-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
U23チケット-2300円(当日要身分証、整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]UlulU/(夜と)SAMPO
※未就学児童は入場不可。小学生は保護者同伴の上1名無料、中学生以上はチケット必要。U23チケットをご購入の方は当日年齢を証明できるものを必ずご持参ください。
※チケットは、インターネットのみで販売。
[問]GREENS■06-6882-1224