ホーム > インタビュー&レポート > “自分に与えられる時間を大事にしてください。 結果は必ず返ってきます” ラッパー・空音と電波少女がリスペクトを 示しあったツーマンライブ。豪華客演も登場! 『空音2MAN LIVE TOUR 2023「Life Teller」』レポート
すっかり気温も下がり、2023年も終わりが見えてきた11月の最終土曜日。Banana Hallのフロアにはヒップホップラバーが集結し、開演前特有の高揚感を漂わせていた。
先に登場したのは、ラップ担当のハシシとNIHA-C、ボタンを押す係&パフォーマーのnicecreamからなるヒップホップユニット・電波少女。勢いよくステージに現れた3人は「東京から来ました、電波少女です! よろしくお願いします!」と挨拶し、のっけから『簒奪者』をパワフルにぶち込んでゆく。ハシシはお立ち台に乗り、一段高いところからフロウを放つ。歌うように滑らかに繰り出されるNIHA-Cのラップは力強く、nicecreamのギターも唸りを上げる。輪郭が際立つサウンドで空気が大きく動き、続けざまに披露された『GXXD MEDICINE』では、メロディアスで広がりのあるトラックに乗せてエフェクティブにフロウを走らせ、会場を瞬く間に巻き込んでいった。
MCではハシシが「お呼ばれいただいて光栄です!」と感謝を述べ、NIHA-Cは「今日は俺たちなりの音楽、ヒップホップを持ってきました。最後まで一緒に楽しんでいってくれますか。身体揺らしていこう」と牽引して、Jinmenusagiをフィーチャーした『Earphone』でフロアをゆらゆら踊らせ、<好きなラッパーの声しか聞こえなーい!>とパンチラインでシンガロング。空音への愛も感じる全力パフォーマンスに魅了されて、ほぼ全員の手が挙がる。
ハシシとNIHA-Cの息の合ったフロウとライミングが心地良い『COMPLEX』は、切なげだけどエモーショナル。曲の後半、NIHA-Cが<Break!>と叫ぶと途端にエネルギーが上昇! 真剣な眼差しでマイクを握りしめるハシシからも、内に秘めた静かな熱が感じられた。続く『NEWTON』ではnicecreamもコーラスに入り、より分厚いサウンドで盛り上げる。
2度目のMCでハシシが「今日呼んでもらえたんで、我々が恩返しできるように頑張りたいと思います」と照れたように笑みを浮かべると、フロアからは温かい拍手が贈られた。NIHA-Cは「(普段関東を拠点に活動しているため)遠くの街にライブで呼んでもらえることは、ありそうでなかなか難しい。認めてくれる人がいることが、ほんとに幸せだと思ってます」と空音に感謝とリスペクトを伝え、ラストチューン『Munchii Bear Cookiis』へ。イントロではnicecreamがステージ端から助走をつけてダッシュし、ステージ中央でバク宙! さらにブレイクダンスをバッチリキメて会場を湧かせ、ハシシとNIHA-Cがメリハリのきいたフロウで大疾走。最後には2人の熱い握手も飛び出した。キャリアに裏打ちされたバイブスで会場全体を掌握し、最大限まで盛り上げた電波少女だった。
空音
続いては空音。軽やかにステージに躍り出て、新作EPに収録の『Rad Shuffle』からライブスタート。シャッフルビートのトラックに乗せて、キレよくステージを動き回りながら、息つくことなくパワフルにフロウを紡ぐ。闘志を宿したような鋭い眼差しで「大阪楽しんでるかおい! 寝てんなよ! 全員声出せよ!」とオーディエンスを煽りまくる。ヒリヒリした空気を纏いながら全身でリズムを表現し、攻めの姿勢で堂々と歌う様子からは、意思の強さが感じられた。
気合いの1曲目を終えて披露されたのは、NHK Eテレ『虹クロ』のOPテーマ『Rough Sketch』。精悍な顔つきで歌いながらも、力が抜けた若者らしい笑顔も見られ、空気が少し和らぐ。よりビートが加速した『B RAGE』では、超絶滑らかな早口ラップで魅了し、さらにギアをアップ! ついてこいよ、と言わんばかりに会場を煽り、疾走感たっぷりの『all done』へ。軽やかなフロウとムーヴ、手の平に吸い付くようなマイクさばき、決してブレない視線、ほとばしる若さ。キレよく動く指先には魔法が宿っているようだ。『GIMME HPN』で温かい空気に包まれた後は、『Boi in luv』でフィーチャリングしたNeVGrNが登場! 2人でスイッチしながら見事にフロウを響かせた。
新作EP『Life Teller』について語り始める。「2ndアルバム『19FACT』と3rdアルバム『TREASURE BOX』はすごく急ぎ足で作っていたんですが、その時はそれが良かった。とにかく次を作りたかった。今回は1年半弱ぐらい時間をかけて作りました。もちろんこれまでの曲もそうやけど、1曲1曲強い思い入れがあって。今日ライブしながら皆に共有できたらというのが1番。皆なりに解釈してほしいし、僕なりに伝えたいメッセージはしっかり伝えるつもりなので、お付き合いください」と本公演への想いを述べて、『Life Teller』に収録の『Old Home』を披露。故郷・尼崎に向けた想いを熱量高く響かせた。
そして「俺はこの曲から始まったんだ」と力強い言葉を添えて『Mr.mind』と『planet tree』を連投する。「今年もこの曲を歌えて最高の気持ちです。歌う時は毎回ちゃんとした意味がある。一緒に新しいポイントを迎えてくれてありがとう」と、自身の出自を歌った『拝啓』では、<Banana Hallが眠りにつく頃 DJ Rinと二人 かき鳴らそう>と歌詞を変えて歌い、これまでの道のりと原点を改めて提示した。
ここからは客演が続々登場。まずは普段から仲が良いクボタカイが呼び込まれる。『拝啓』のトラックに乗せてフリースタイルで自己紹介。空音のことを<盟友だと思ってる俺も>と友情を示し、空音に音楽人生を助けてもらったと紡ぎ出す。<ずっとお前の前で歌いたかったのさ>とのラインに、空音は嬉しそうな表情を浮かべていた。
続いて、クボタカイの盟友で福岡出身のRin音もステージに加わり「もう11月だぜ」と言いながら、3人で作ったサマーチューン『Summer Films』を披露。同世代で新世代のラッパーたちは、楽しそうにくるくるとステージを動き回る。さらにNeVGrNもジョインしたフリースタイルでは、順番に繰り出される滑らかで力強いフロウに会場が興奮! 同世代バイブスを思い切り見せつけ、素晴らしい熱狂を残してステージを後にした。
スペシャルな時間はまだまだ続く。空音が「俺の隣の隣の町には大好きなロックンローラーがいるんですよ」と言うとT-STONEが登場し、空音をフューチャーした『Rock 'n' Roll』をドロップ。これにはオーディエンスも歓喜し、より大きく手が挙がる。「空音!」のコールアンドレスポンスもバッチリ決まり、自身が出演する東京公演に向けたバイブスもしっかり高めたT-STONEだった。
ここで引き上がった熱をもうひとつ高める空音。「皆と同じように、俺も電波少女の大ファンなんです」と目を輝かせて、電波少女の『Munchii Bear Cookiis』をリミックス。「2017年にこの曲を聴いて、大好きな電波少女に出会いました。そしてここまで。やっとリミックスができるぜ」と最大のリスペクトを込めてパワフルに歌い上げた。
2度目のMCでは「ずっとずっと電波少女を聴いて、すっごい救われてました。音楽を始めて良いところは、好きなアーティストとこういう場所で再び音楽を交えて出会えること。皆さんの感情を受け止めてライブできているのが、すごく嬉しいです」と、来場したファンと同じ目線で電波少女への愛を存分に語り、「客演のNeVGrNは同じクルーやし、Rin音くんとクボタカイもめちゃくちゃ付き合い長いし、何よりTくん(T-STONE)も駆けつけてくれて、本当にありがたい限りです」とここまで登場した客演についても感謝を述べる。
そして再びEP『Life Teller』に込めた想いを口にする。「自分が1番納得できるものを作ろうと時間をかけてやりました。これまで色んな人とやってきましたが、今回は1人の人と約1年半以上向き合って作りました。アイデアを豊富に持ってる人、自分ができないことをできる人と一緒にやれるのも音楽の良いところ。色んなことを勉強させてもらってます」と回顧した。また、ライブで直接コミュニケーションが取れる喜びと感謝を何度も伝え、「長い間待たせたけど最高のものができた。自分のやりたいように今日まで生きてこれて良かったとつくづく思います」と満足した表情で、EPの出来に自信を覗かせた。
一気に勢いを増して『You do you』を投下。まくしたてるように早口フロウを叩き込み、ステップを踏んで踊りつつ、「飛んでみようか」とフロアをジャンプで揺らす。さらに着ていた上着を脱ぎ捨て、SUSHIBOYSとのフューチャリングソング『You GARI』、EP収録の『Unstable』を全身全霊で歌い上げ、オーディエンスとの距離をグッと近づけた。
ここでもう1人の客演、kojikojiが登場。披露されるのはもちろん、総再生回数が1.5億回を超える大ヒット曲『Hug』。ジャケット姿のkojikojiは、柔らかな歌声を重ねてハーモニーを作り出す。少しかすれたハイトーンボイスが心地良く、独特の浮遊感で魅了した。
「残り数曲になりました」と言うと会場からは「えー!」と惜しまれる声が上がる。空音は「友達がたくさんいることも嬉しいですが、やっぱり自分が1人でステージに立って自分語りができる時間をいただけることは、人生の色んな局面においてあまりないことだと思います」とこの機会の重要性を説いて、自身の考えを話し始めた。
EPの新曲『Unstable』のリリック<チャンスはタイミング>を引き合いに出して「それは毎日のように痛感します。良いことも悪いことも絶対タイミング」。やりたいことを倍頑張れば、その分見合ったものが返ってくる、今作のEPを作った2年間は頑張る期間だったと振り返った。そして「返ってくるものは試練でも困難でも幸せなことでもいい。喜怒哀楽、どんな感情になることでもいい。そう思うのは歩き続けているから」。淀みなく話す空音の眼差しは真剣で、ひとときも目が離せない。続けて「考える時間を自分のために多く使うことが大事なんです。なぜなら、皆は誰かのために生きてるんじゃないと思うから。僕は産んでくれたおかんのために生きてるわけじゃない。"空音然"として生きていくために、借り物の身体をいただいたと思ってます。皆も与えられる時間を大事にしてください。自分の生涯を僕と楽しんでもらえたら、もっと色んな色のある人生になると思って『Life Teller』を作りました。皆の生活に少しでも色を持たせられれば」と願いを込め、「必ず結果は返ってきます。この人はそんなことを教えてくれました」と述べて、大先輩のBASIと共作した『月ひとつ』を、パッション高く歌い上げた。熱い想いに牽引されたオーディエンスは我先にと手を挙げて応え、会場は素晴らしい一体感に包まれた。
いよいよラストスパート!『Flowline』に続き、最後は『Circle6』でこれ以上ないほどの熱いクライマックスを作り出した。空音は「皆のおかげで(ここに)立ってます。これは冗談抜きです。ありがとう。また会いましょう」と充実感を滲ませて、軽やかにステージを後にした。
すぐさま湧き起こったアンコール。空音は「こんな夜にはこんなチューン。Prod by NEWLY」と紹介して、ビッグアンセム『相棒』を披露。会場のほとんど全員が手を挙げ、一心不乱に身体を揺らす。フリースタイルも交えながら、音楽へのリスペクトと愛情、ラッパーとしての矜持を高らかに打ち立て、「相棒はピース。これが必要。生きてれば絶対会えるので、また帰ってきてください」と拳を突き出してライブを終えた。
こうして『空音2MAN LIVE TOUR 2023「Life Teller」』は大団円で幕を閉じた。EP『Life Teller』の全収録曲と、自身のラッパー人生の中で生み出され、出会ってきた大切な楽曲を全力で披露した空音。『Life Teller』は彼にとって新たなキャリアを刻むポイントになっているという。多くの仲間の愛に溢れた夜を経て、これからも続く彼の道のりが楽しみでならない。
Text by ERI KUBOTA
Photo by Fumiyuki Tobaru
Tsunenori Shimizu
(2023年12月15日更新)
電波少女
1.簒奪者
2.GXXD MEDICINE
3.Earphone
4.COMPLEX
5.NEWTON
6.Munchii Bear Cookiis
空音
1.Rad Shuffle
2.Rough Sketch
3.B RAGE
4.all done
5.GIMME HPN
6.Boi in luv / NeVGrN
7.Old Home
8.Mr.mind
9.planet tree
10.拝啓
11.拝啓 (Freestyle) / クボタカイ
12.Summer Films / Rin音&クボタカイ
13.未発表曲 / Rin音&クボタカイ&NeVGrN
14.Rock 'n' Roll / T-STONE
15.Munchii Bear Cookiis Remix
16.run, around, found
17.You do you
18.You GARI
19.Unstable
20.Hug / kojikoji
21.月ひとつ
22.Flowline
23.Circle6
EN.相棒
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