ホーム > インタビュー&レポート > 「日本人全員が聴いたことがあるような曲がいつか書けるように」 心も体も高ぶる人生の新たなアンセム『アイデンティファイ』から '23年の総括、バンドのスタンス、創作のヒントに今後のビジョン… Penthouse浪岡真太郎(vo&g)が語るインタビュー&動画コメント
僕らはツインボーカルで声も特徴的なので
それさえあればPenthouseらしさは担保される
――今年は初のアルバム『Balcony』のリリース、それに伴う5大都市でのワンマンツアーなど、バンド活動の醍醐味を味わえた日々だったと思いますが、振り返ってどうですか?
「Penthouseは学生の頃からの仲間ということもあって、みんなで合宿に行っているみたいでめちゃめちゃ楽しかったですね。(5大都市の中で)北海道と福岡でライブするのは初めてで不安はあったんですけど、福岡は早々にチケットが売り切れて、当日もお客さんが温まっていて...届いている実感がすごくありました。僕は今の時代にアルバムを出すことに意味があるのかなとも思ったんですけど、いざ出してみると聴いてもらいやすいというか、アルバムを出したこと自体に引きがあると強く感じましたし、節目にもなりますし、本当に出して良かったなと思いました」
――浪岡さんはサブスクやSNSでリスナーを離脱させない構成や音作りなども常に意識していますよね。
「YouTubeにカバー動画を上げて集客しよう、みたいなところから始めたバンドですし、離脱させない、最後まで楽しんでもらう、みたいな目線はやりながら身に付いたところはあるなと思います。いろんな人に聴いてもらえる音楽をやるのが一つの目標だったし、バンドってそういうリアクションがないとしぼんでいってしまうと感じていたので、ちゃんとサステナブルに活動ができるように、いろいろと頭を使って頑張ろうと。それがPenthouseのテーマでもあると僕は思っています。ちょっとずつ結果が出てきたからこそ、今後どういう音楽をしていくのか、メンバー内で話すことは増えてきたかもしれないですね」
――みんなの目の届くところまでようやく来れたからこその、うれしい悩みでもありますね。
「Penthouseは大学の音楽サークル出身で、花形はブラックミュージックではあったんですけど、ハードロックもJ-POPも分け隔てなくオールジャンルで演奏する文化があったので、僕の中でそこまで垣根はないんです。ただ、いろんな人に聴いてもらうにはJ-POPに寄せた方がいいだろうし、僕らはツインボーカルで声も特徴的なので、それさえあればPenthouseらしさは担保されると思っているから、時にはゴスペルぐらい振り切ってみたり...どういう形が一番受け入れてもらいやすいのかを探りつつ、毎回手を変え品を変え(笑)、試しながら今はやっていますね」
Cateenがピアノを弾くとデモとはだいぶイメージが変わるので
そこは毎回作曲する上でも楽しみなところ
――10月に東阪で行われたライブイベント『M3』の大阪・なんばHatch公演を見させてもらいましたが、Bialystocks、Lucky Kilimanjaroとの共演という刺激的な一日で。
「BialystocksもLucky Kilimanjaroも大好きなバンドなので、そういう2組のライブを見ながら自分たちも演奏できたのは、かなり刺激になりました。特にBialystocksの楽曲は作家的な観点で見ても特殊というか、郷愁と柔らかさ、かつ音楽的に尖っているところが同居していてすごいなと思っていたので、打ち上げで菊池剛(Key)さんと話せたのも良かったですね。お互いの曲を褒め合ったりして(笑)」
――『アイデンティファイ』はライブ当日も披露されていましたが、この曲はどういった流れで生まれたんですか?
「元々イントロだけ先にできていて、3~4年前に一度作ろうとしてみたんです。でも、当時はアレンジが煮詰まり切らなくて、ちょっと置いておいた曲なんですけど、いい感じのサビのメロディを思い付いたので、これを組み合わせたら良くなりそうだなと作り始めて。あと、僕らもバンドの規模が大きくなってきて、自分たちの楽器以外の音、今回で言えばホーンを入れられるようになったので、それも相まっていい感じにまとまったと思います」
――冒頭から歌で入るのも耳を引く一つの手段ですけど、今回はその役割をホーンが担って。
「イントロのホーンは印象的なので、そこでつかめればいいなと。アウトロでCateenのピアノが暴れるのも面白いですし。Cateenがピアノを弾くとデモとはだいぶイメージが変わるので、そこは毎回作曲する上でも楽しみなところですね。僕が曲を作りはするんですけど、細かいフレーズはメンバーに任せているので」
――作詞は大原拓真(b)さんとの共作で、響きやメロディへのハマり具合を重視する浪岡さんと、より真意に近いディティールにこだわる大原さん。2人の作詞家がいることによるせめぎ合いがいつもあると。
「今回もそれはありつつ(笑)、僕は韻を踏むことを意識しました。それによってメロディが繰り返していることが分かりやすくなると思ったので、その辺りも聴いてもらいたいポイントではありますね。前作『夏に願いを』('23)でも意識はしたんですけど、あの曲がいろんな人に届いた実感があったので、今回もそれを踏襲してみました」
僕はオンリーワンという言葉があんまり好きじゃなくて
――そして、歌詞の中で絶妙に機能している"オンリーワン"というワード。かつてナンバーワンを目指すことを強いられ疲れ果てた世の人々に、"No1.にならなくてもいい/元々特別なonly one"と投げ掛け心をいやした国民的ヒット曲がありましたが、あれから20年経って初めて、ポップスにおけるオンリーワンの意味を更新するアンサーソングが現れたんじゃないかと思いましたよ。
「僕はオンリーワンという言葉があんまり好きじゃなくて、厳密に言えば、オンリーワンになることだって相当難しいですし、自分ではオンリーワンだと思っていても、全然他にもいたりするわけで。ナンバーワンを目指さなくてもいいけど、何かしら努力や試行錯誤することが大事で、その過程で初めて自分らしさが見えてくるというのが自分なりの考えですね。チャレンジさえしていれば、別にオンリーワンじゃなくていいと思うので」
――オンリーワンがある種の逃げ道に成り得る時代もあったと思いますし、ポップスにおいて一見、肯定的なそういう言葉の役割をひっくり返したり、他にも「わたしらしく生きる」というテンプレな一節に対して果敢に切り込んでいきながら、最終的にはポジティブに着地するのは見事ですね。
「僕がデモを作るときは適当な日本語で歌っているんですけど、この曲における「わたしらしく生きる」がそれで。結構インパクトがあるから、これを生かして歌詞を広げていったのが『アイデンティファイ』でもあるんですよね」
――あと思ったのは、後半に"まだ見えなくても ただただ追いかけ行け"というラインがあることで救われるというか、チャレンジすべきもの、努力の対象がまだ分からなくてもいいんだよと。
「僕の生き方も割とそういうところがあって、目標となるとちょっと難しいことを考えがちで、難しいからうまくいかないこともある。だからって、うまくいかないことに慣れちゃうのも良くない。結局、一日でできることは決まっているので、その日にやるべきことをただただやっていけば、いつかいいことがあるというのが僕の考え方なので、その辺が歌詞ににじみ出ているといいなと思います。SNSで『アイデンティファイ』の反応を見ていても、普段より歌詞について言及している人が多いので」
――そう考えると、音楽を聴く際には歌詞はほぼ見ないと浪岡さんは言っていましたけど、曲を書く上ではやはり重要で。個人的にはその人の人生に残る音楽=歌詞の力だと年々思わされます。特にポップスにおいては。
「そう思います。だから歌詞をちょっとずつ勉強していきたいなと。最近は短歌が歌詞に一番近いと思ったので、現代の歌人の短歌を読むようにしています。そのまま歌詞になったらいいのにと思うような短歌もたくさんあるので」
――そのアプローチは独特ですね。確かに制限された長さのメロディと近いフィーリングかもしれない。
「だからか日本人の歌詞って、洋楽に比べると短歌的な要素が強いと思いました」
――ちょっと気になったことは、浪岡さんは以前、"メンタルで曲を書くタイプではない"と発言していたので、心が動いて曲にせずにはいられない、みたいなことはないのかなと。
「僕は生活の中で曲を書くタイプで、具体的に言うと、一日の決まった時間に30分だけ時間を取って、そこでいいメロディが出るかどうかをギターを弾きながら試してみる、みたいな感じで。作ったときはどうしても良く聴こえるので後で聴き直して、忘れた頃に"やっぱりいいな"と思った曲を形にしていく。そういう意味でも、衝動的に曲が生まれることはないですね。僕にとっては今や音楽=仕事でもあるので安定していい曲を書くことが大事だし、悩みも基本的にない人間なので、そもそも衝動的になれないんですよ...でも、感情はありますよ?(笑) この前だって、初めて行ったサウナがめっちゃ良くてうれしくなりましたから!」
(一同爆笑)
メンバーそれぞれが好きに活動できるのが一番幸せかな
――Penthouseを語る上で、音楽か仕事か、夢か生活かどちらかを選ばなきゃいけない、の二元論ではなく、それを両立しながらここまで活動できるという姿は、一つの勇気の与え方ですよね。
「最初は僕らも実現できるか分からずやっていましたけど、そこが伝わるといいですね。社会に出てからも活動を続けたい人は絶対にいると思うので。その人たちに勇気を与えられて、実際に続けられたら僕らもうれしいです」
――このまま日本武道館、『NHK紅白歌合戦』、みたいなことになったら痛快で。
「そうなったらエモ過ぎますね。いまだに当時の職場のLINEとかにも"Penthouse聴いたよ!"みたいなメッセージが来ますし、元上司がフェスを見に来てくれたり(笑)、ラジオを聴いていたり。ありがたいですね」
――そのうちPenthouseとして一緒に仕事をするようになるかもしれない。
「CMとかやりたいな~。でも、去年まで普通に働いていた身で音楽業界に来て思うのは、何でも期日がギリギリなことが多い(笑)。こんなの元いた会社だったらあり得ないなって」
(一同爆笑)
――ホンマそれ!(笑) 最後にいずれバンドで成し遂げたいこと、浪岡さん自身がやってみたいことはあります?
「僕個人としては、日本人全員が聴いたことがあるような曲がいつか書けるようになりたい。バンドとしても、それを契機に今まで書いてきた曲が陽の目を浴びるといいなって。どんどんライブもして、会場もデカくなっていけば」
――Cateenさんは現在アメリカのニューヨーク在住ですし、働きながら音楽をするパラレルワークの件もそうですけど、異なる活動を並行してやれるのもPenthouseの風通しの良さですね。
「今は働き方もワークライフバランスを問われるぐらいなので、バンドをやるならバンドだけ、というのもおかしいなって。まぁCateenはちょっと自由過ぎる感じもあるんですけどね(笑)。でも、お互いに得るものもきっとあるから。これからも、メンバーそれぞれが好きに活動できるのが一番幸せかなと思いますね」
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2023年12月 5日更新)
Digital Single
『アイデンティファイ』
発売中
ビクターエンタテインメント
ペントハウス…写真左より、角野隼斗[Cateen](pf)、矢野慎太郎(g)、平井辰典(ds)、浪岡真太郎(vo&g)、大島真帆(vo)、大原拓真(b)。R&B/ソウル、ジャズ、ファンク、ゴスペルなど、さまざまな音楽を昇華したオリジナリティ溢れるサウンドを紡ぎ出す、6人組ツイン“リード”ボーカルバンド。大学時代に所属したバンドサークル・東大POMPのOBである現メンバーが浪岡を中心に集まり、’19年6月に活動開始。’21年11月にメジャー1st EP『Living Room』を配信リリースし、iTunes Store R&B/ソウルランキング1位、総合ランキング5位を獲得。’22年1月には、オーディオストリーミングサービスSpotifyにより飛躍が期待される注目の国内新進アーティスト『RADAR: Early Noise 2022』に選出され、4月には東海テレビ・フジテレビ系土ドラ『クロステイル ~探偵教室~』主題歌『流星群』と挿入歌『恋標』を同時に担当。その後も、’23年1月よりフジテレビ系TVアニメ『デジモンゴーストゲーム』エンディング主題歌『Take Me Maybe』を担当、3月末からはTBSドラマストリーム『私がヒモを飼うなんて』主題歌『蜘蛛ノ糸』を書き下ろすなど、これまでに手掛けたタイアップやアーティストへの楽曲提供も多数。同年3月には1stフルアルバム『Balcony』をリリースし、オリコンデイリーアルバムチャートにて7位を獲得。ポップな世界観と音楽的素養の高さにより各方面から注目を集めている。浪岡と大島のソウルフルな男女ボーカルを軸に、“かてぃん”こと角野の卓越した表現力と、強固なリズム隊が生み出すグルーヴにより、都会的で洗練されたサウンドスケープへと誘う。最新曲は’23年10月25日に配信リリースされた『アイデンティファイ』。
Penthouse オフィシャルサイト
https://penthouse-tokyo.com/
「この秋、くるりの『京都音博』のレポートで角野隼斗[Cateen]さんを担当し、世の中にはすげー人もいるもんだと思ったところで舞い込んだ、Penthouseの初取材。ライブを見て、調べれば調べるほど、その実力とポテンシャルに圧倒されること多々。新曲『アイデンティファイ』も当然それを裏切らないクオリティで、今回は歌詞のギミック=「わたしらしく生きる」やオンリーワンの使い方に特に感心しました。“正直、オンリーワンもむずくね?”、 “らしさって何?”という深層心理をすくい上げ、音も言葉も心地良いジェットコースターのような怒濤の展開。それをきっちりポップソングに仕上げるって…そのうち某『関ジャム』とかに出て何か言いそうな気がしてきました(笑)。個人的には、冷静に、淡々と話す浪岡さんが取り乱すことや、“わーい!”とか我を忘れちゃうことはあるのかと興味津々。引き続きインタビューを重ねて掘り下げていきたくなる、魅力的なアーティストでした」