ホーム > インタビュー&レポート > コロナ禍からの揺り戻しに悩んだ2023年、 打破する道を模索しながら進み続けた HONEBONEのふたりがたどり着いた場所
"お前たちはわかりづらい"
光が見えた、意外な一言
――前回のインタビューが2022年3月だったので、今日は約1年9ヶ月ぶりです。ご無沙汰しておりました!お元気でしたか?
KAWAGUCHI「お元気でしたか? に答えるとしたら、2023年は大変な年でしたねぇ」
――大変な年?
KAWAGUCHI「2020年からコロナが本格化したけど、僕らは配信でやっていこうぜ! と割と元気に過ごせていたんです」
――うんうん。それは前回のインタビューでもおっしゃっていましたよね。
KAWAGUCHI「その揺り戻しが今年やってきて、メンバー、スタッフ共に疲れが出てきたんです。そこでライブも少しセーブしていました」
――揺り戻しというのは、配信での発信に頭打ち感があったということでしょうか。
KAWAGUCHI「配信の頭打ち感は、早い段階で感じていました。2022〜23年で全てがコロナ前の状態に戻り始めて、自分たちはどうなんだ? と振り返るタイミングがきたといいますか」
――HONEBONEとしては悩みの中にいたんですね。
KAWAGUCHI「...と僕は思っているけど、EMILYはどう?」
EMILY「そうですね、最初はコロナが来てもやってやる精神でいたけど、知らない間に蝕まれて去年は精神的に元気がありませんでした。大きな失敗をしてライブが怖くなってしまったし。そんな中でも今年は4月と11月にアルバムを2枚出しまして、中でも11月にリリースした『継承』はいろいろあるし好きなことやるわ! という作品にすることができたかなと思っています」
――EMILYさん的には、世の中がコロナ前に戻って行こうとすることに気持ちがついていかなかった?
EMILY「というよりも、コロナ中にがんばりすぎちゃったのかな。できない時にやれることをやって現場に戻ってまたもがいてみたけど、お先真っ暗感は拭えなくて。それでも作品をリリースすることでどうにか自分を保とうとしていました」
KAWAGUCHI「僕らはコミュニケーションをすごく密に取るので、早い段階でEMILYの不調は共有していました。彼女がライブで今までにないようなミスをしてしまっていたのが2022年の後半で、いろんな人に相談してたどり着いた答えとしてはイップス(心の葛藤により、筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼす心理的症状。スポーツや楽器演奏などの集中すべき場面で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ無意識に筋肉の硬化を起こし、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状)なのでは? ということでした。2021年からすごい本数のライブをやっていたので、やりすぎてよくわからない状態になっていたのではないかと」
――2022年の後半から疲れが出ていたとおっしゃいましたが、2023年4月にはフルアルバムの『祝祭』がリリースされているわけで...。苦しさの中でもアルバムを作ろうというマインドになれたのはなぜでしょう?
KAWAGUCHI「苦しさを打破したいという気持ちが大きかったです。ライブには疲労を感じていたけど制作ならじっくり腰を据えられるし、気分転換になるのかなと。ただ、4月にリリースした『祝祭』は本来2022年の秋に出そうとしていたもので、実は11月にリリースした『継承』と2枚組で発表したいと考えていたんです」
――アルバムのジャケットを見ても対なのかな?と思っていましたが、やはりそうでしたか。
KAWAGUCHI「明るいアルバムと暗いアルバムの対にするつもりでした。でも制作していたら、明るい方のアルバムが特に難航してしまって。というのも、無理に明るくしようとしすぎて嘘だらけの作品が一度できあがってしまったという...」
EMILY「ふふふ。偽善者みたいなアルバムね」
KAWAGUCHI「今思えばスランプだったんでしょうね。歌詞に嘘っぽさが溢れていました」
EMILY「声出そうぜ、明日は来るだろうみたいな歌詞で。ライブでもやってみたけど、 "いいこと言ってまっせ感"があったというか。書いている時は確かにそういうことを思っていたし言いたかったはずなんだけど、それも脳みそまでコロナに蝕まれていたんでしょうね」
KAWAGUCHI「陶芸家みたいに、できた作品を割る感じでひっくり返しました」
――11月に出た『継承』よりも、先に出た『祝祭』の方がスランプだったのも意外なお話です。
KAWAGUCHI「明るい世界観を描くよりも暗い世界観を描く方が僕らにとっては得意ですしね。でも『継承』も順調だったとはいえ、決定的な曲に欠けていたところはありました。最終的には2枚とも難航しましたね」
――そもそも2枚組にしようと思ったのはどうしてですか。
KAWAGUCHI「2022年にいろんな人にHONEBONEをもっと広めるためにはどうしたらいいかアドバイスを求めていた時期があって。その時に"お前たちはわかりづらいよ"と言われたことがあったんです。ちゃんと見ればこういうキャラクターで、こういう歌を歌っていて、こういうストーリーがあるというのがわかるけど、パッと見だとハーフの綺麗な女の子が出てきて、MCはおもしろげ、歌は暗い。どう受け止めればいいんだと」
――そ、そうですか? 逆にここまでわかりやすいデュオもいないと思いますけど...。
EMILY「そう言ってくれるのは、一部の変わった方だけですよ」
KAWAGUCHI「ただ自分たちにとってはかなりハッとする意見で、もう少し削ぎ落としてわかりやすくしたいなと思いました。それで、僕たちのある側面とある側面をしっかり分けて作品にしてみたらどうだろうと思いついたところから、2枚組というアイデアが生まれました」
――ということは本来2枚同時に出すことができれば、コンセプト的にはベストだったわけですね。それが1枚ずつ、先に『祝祭』がリリースとなったのは?
KAWGUCHI「もう1枚の完成を待っていたら一生出ないぞと(笑)。僕らはインディーズだからニュースも自分たちで作っていかないといけないので、とにかくリリースをしないと話にならないよねと。じゃあできた方から先に出そうということになりました」
新しくチャレンジしたのは
人から世界観を借りてみること
――『祝祭』のリリースには"コロナ禍を経て日常を取り戻した世の中や、メンバー自身の人生のステージの変化からくる死生観について歌われている"という一文もあって、それはKAWAGUCHIさんにお子さんが誕生したことや、EMILYさんの結婚も反映されているのかなとも受け取りました。
KAWGUCHI「僕は子どもが生まれたことはもちろんですが、近しい人を失ったということも大きかったですね。EMILYは? 結婚、関係ある?」
EMILY「...うーーーん、どうだろう? 『祝祭』は結婚公表後だったので、旦那さんについて書いた曲を入れたのもあるし、多少そういうことを意識して作ったアルバムではありました。ひとりの人間として生も死も、身に起きた結婚も入れ込んでいいのではという感覚はあって。ただ、個人的には結婚してミュージシャンとしてつまんない人間になっちゃったなという悩みはあるんですよ」
――ええっ!?
EMILY「トガりを失ってきているというか、丸みを帯びてきているというか」
――守られて丸くなってしまった?
EMILY「いやもう、守られ過ぎているんじゃないですかね。ひとりの時は生き残らなければ! とか戦うウォーリアだったのに。ハングリーさは変わらないはずだけど、自分が満足しちゃってないか? と思うほどで。ちなみに私、別居婚なんですよ」
――へぇ!
EMILY「これが現状のギリで、もし一緒に住んじゃったらホントどうすんだろ? と思いますね。おばさんみたいなミュージシャンになっちゃうかもと危惧していて。作品に出ちゃいそうで怖いですね」
――HONEBONEの音楽を作る上では、ある程度のトゲは大事だと。
EMILY「トゲは欲しいし、そうでありたいと思うんです。でも本来プロなら、自分がどういう場所に置かれても出したいものを書けた方がいいと思うんですけど、自分はそういうことができるタイプの人間ではないかな。辛い立場に置かれたら辛いいい作品が書けると思っちゃうんですよ」
――前回のインタビューでも「思ったことや感じたことじゃないと書けない」とおっしゃっていましたし。
EMILY「だからこそ嘘は書けないというか、書けたとしても気持ち悪くなっちゃう」
――結婚1年目でそれに気づくのも、早いですねぇ。
EMILY「早かったですね。これ以上結婚生活ダダ漏れの作品は書かないし、もうちょっと自分を厳しい状況に置いていきたいなと思いますけどね」
――とはいえHONEBONEがプライベートを公表したことで、EMILY&KAWAGUCHI夫婦説にノー!を突きつけましたね。
EMILY「うん、それはね! すごくラクになりました! 男女コンビがみんな通る道だと思いますけど」
KAWAGUCHI「公表したことで、そうじゃないとわかったけどそれがさみしいという声もありました」
――みんな夫婦であってほしいと思っていたんでしょうね(笑)。ちなみに『祝祭』の制作やリリースを通してもいろいろな気づきがあったと思うのですが、『継承』に反映できるなと思えたことはありましたか?
KAWAGUCHI「それはなかったかな? 『祝祭』と『継承』はしっかり切り替えができていました。『祝祭』は一旦なかったことにするイメージで、全然違うものを作ろうと決めていました」
――では『継承』に関しては、暗いどういう部分を描こうとしたのでしょう?
KAWAGUCHI「EMILYが日々思っている鬱々としたことを基本にしつつ、逆にそれだけだと嘘になってしまうというか不幸ぶっていてもしょうがないので、視点を広げたいなと思いました。そこで他の人から聞いた話や、自分が経験していないことを盛り込んでみようと」
――おぉっ! HONOBONEとしては新手法ですね!
KAWAGUCHI「いろいろなところからエピソードを集めて、人間のダークな部分や人にいいづらい部分を表現できたらいいなと思っていました」
EMILY「世界観を人から借りてくるイメージですね」
――HONEBONEにとっては世界観を借りるということも、難しいことなのかなと思ってしまうのですが...。
EMILY「借りてきた世界観を自分の経験に似たようものとごっちゃにして、まるで自分の経験のように勘違いするぐらいまで飲み込むというか。最後はまるで自分が経験したことのように思っていました。書いた後は、これ結局誰の話だったっけ? 私の? という感じにもなるほどのめり込んじゃって」
――もはや憑依系女優ですね。
EMILY「あはは! カッコよく言うとそうなるかもしれないですね(笑)。上野樹里さんみたいな? あれ? 私、いじられてる?」
――褒めてます!
EMILY「(笑)うん、でもそれぐらいじゃないと歌えないですね」
――なるほど。『継承』を聞かせていただいて、HONEBONEの大きな変化をまざまざと感じさせていただきました。中でも2曲目の「変身」には度肝抜かれたと言いますか...。あれはご自身の本音ですよね? ダークなトラックに乗せてEMILYさんが、君らが思っていた音楽と違うだろう? やりたいことをやったらこんな音楽ができたよ、とラップするというのは、驚きの一言でした。
EMILY「うんうん、そうですよね」
KAWAGUCHI「この『継承』というアルバムのベースにあるのは、なかなかうまくいかない僕らの現状があって、そこから何か突き抜けていきたいなという思いなんです。「変身」はそういう本音を一番攻撃的に表現している曲ですね」
――聞き始めた瞬間にびっくりさせられたし、説明する暇がないからここでは省略すると曲でおっしゃっているので、インタビューでとことん説明してもらおうと思いました(笑)。
EMILY「あはははは! うんうん」
KAWAGUCHI「この曲の冒頭の歌詞は特にカウンターアタックだし、べろべろばぁ! じゃないけど、映画の『ダークナイト』でジョーカーがバンと登場していろいろやらかしていくイメージなんです。聞いた人にびっくりしてほしいし、なにこれ! と思ってほしいし。HONEBONEを前から知ってくれている人には、あれ? 再生するアーティスト間違えたかな? とも思ってほしい。ただ曲としてはふざけたところから始まるけど、本当になんとか自分を変えたいと思っているということを表現したいと思っていました」
――EMILYさんがラップをしていることも、KAWAGUCHIさんがトラックメイクしていることも、これまでのHONEBONEにはなかった要素じゃないですか。そこは変わっていきたいという願望を表そうと思ったからこそ、取り入れてみようと?
KAWAGUCHI「そうですね。本当に今までやったことがないことをやろうというのも、このアルバムを作る前にふたりで話していたことでした。僕たちはこういう日本語のラップも英語のラップも大好きなので、本当に自分たちが好きだと思う音楽性を一度やってみようかと」
EMILY「うんうん」
――自分たちの好きな音楽を素直に取り入れるという今までにないチャレンジをしてみて、どうでしたか?
EMILY「楽しかったです。今まで使ってこなかった音域の低い声を使ってラップしたり、音楽的楽しさがありました。ライブもトラックを流しながらやるというのは今までと違うスタイルで、まだライブでもいろいろなことができるな楽しいなという発見もあって。もっと上手くなりたいとも思えたし、もっとかっこいい声で言いたいなとも思うし。単純にもっとがんばりたいと思えました」
KAWAGUCHI「僕もめちゃめちゃ楽しかったです。ギターを弾くということが実は結構大変で。録音の工程でいろんなことに気を使わないといけないので、これまでのレコーディングでも苦労してきたんです。それが今回のレコーディングではギターは少なめで、パソコンでトラックを作ることができたのでスピードも上がったし、今後もチャレンジしていきたいなと思っていますね」
これまでの経験や思いを継承しながら
HONEBONEとして変化していきたい
――『継承』には「変身」に関わらず全曲がおふたりのチャレンジが詰まっているとすごく感じたので、本来なら全曲解説いただきたいのですがちょっと時間が足りないので、おふたりそれぞれこのアルバムのカギとなった曲を2曲ずつセレクトいただいてご紹介をお願いすることはできますか?
KAWAGUCHI「いいですね〜。僕が2曲挙げるとしたら、やっぱりひとつは「変身」で、わかりやすく僕らの新しいモードが出ているし、EMILYがラップをしたことはもちろん、EMILYが一番の武器を使っていない...デカい声を張り上げていない・ボーカルの力を全然使っていないのは、HONEBONE的に自殺行為でもあるけど僕的にはおもしろいなと思っています。もうひとつは3曲目の「27 CLUB」ですね。これはEMILY自身の話ではなくて、なんとか有名になって僕も27歳までに死んでやるという若者...実際自分たちの近くにいた人をモデルにしているんです。今まではそういう人のことを外から皮肉って書いていたけども、今回はその人自身になって歌うことで、皮肉もありつつ悲しさも出せたのではという点で新しいことができたかな」
――「変身」はEMILYさんの武器を封印したことが、ボーカリストとしての幅を見せることにもつながりましたね。
KAWAGUCHI「そう捉えてもらえたら、すごくうれしいです」
――EMILYさんは2曲、どうですか?
EMILY「ひとつは、「Reリスタート」という曲で、これは『SURVIVOR』というアルバム入っている「リスタート」に対するアンサーソングです。以前映画の主演(2021年公開/品川ヒロシ監督・脚本の『リスタート』)もやらせてもらって、私の周りの人はEMILYはもしかしたら売れるんじゃないかと思ってくれていたけど、私はうまく飛べなかったわという切ないその後を書いた歌です。でも "それでもやっていく"という濁りのない歌詞で再々スタートを切りますという決意の曲なので、ぜひ聞いてもらえたらなと思います。そしてもうひとつは1曲目の「飛べない」ですね。これはイップスになった時に自分的には絶望してしまったり、ライブを避けたいとまで思った時に書いた曲です。私にとっては音楽活動がキツいと思って書いたけども、誰にとってもキツい時にしんどくなるような曲ではあると思います。それこそデカい声も封印して、消えちゃいそうな声を使って録音したんです。私は暗い気持ちの時にあえて暗い曲を聞くんですけど、そこにフォーカスを当てて作っているので暗い気持ちになりたいときこそ聞いてもらいたい曲ですね」
――かなりEMILYさんの映画主演のその後について赤裸々に綴られている「Reリスタート」は外せないだろうなとは思っていました。映画に出演して、その後マスコミにいろいろと映画も俳優としても取り上げられたりして、その一連のことが終わった後に感じたのはどういったことでしたか?
EMILY「切なかった、の一言ですね。売れないミュージシャンが品川監督の映画の主演に決まったというところまではすごくシンデレラストーリーなんですけどね。蓋を開けると映画自体コロナ中だったこともあってなかなか上手くいかなかったり、本当にいろいろなことがあって、なんで自分の時だけこんなことに! と思いつつすごく悔しくて切なさと悔しさでいっぱいでしたね。映画への出演を経て、ミュージシャンとしてもっと売れたかったというのが正直なところでした」
――思い通りにはいかなかったという負の感情を味わったことで、HONEBONEの作品には生かせることがたくさんあったのでは? とも思ってしまいます。
EMILY「そうですね、そういう還元はありました」
――曲にしたことで、消化することはできましたか?
EMILY「うん。実はこの曲、最初の土台の部分をKAWAGUCHIくんが書いてくれたんですよ」
――そうなんですか? EMILYさんが書かれたのかと。
EMILY「この歌詞が送られてきた時、刺さりすぎて泣いちゃって。泣きながら電話して、いい曲書いてくれたな〜ありがとな〜一生懸命いい曲にしような〜って。結果的に、お客さんにもすごく刺さったみたいで。みんな売れてほしいと思ってくれていたし、その後売れたわけではない私をみんなが見ていてくれたから、一緒に悔しがってくれていたことがよくわかったというか。HONEBONEは私の愚痴の日記みたいな音楽ばかりだから、それに共感できない人は聞いていてもキツいかもしれないけど、そういうところが好きな人が聞いて、共感してくれているだろうなと思うと、外せないですよね」
――KAWAGUCHIさんはどうしてこのエピソードを曲にしようと思えたのでしょう?
KAWAGUCHI「アルバムタイトルの『継承』は中身を作る前に決まっていて、ジャケットも仕上がっていたんです」
――それは『祝祭』と対だったからですか?
KAWAGUCHI「そうなんです。なので、中身を制作している途中で『継承』とはなんだろう? 何を継承するの? という感じで迷っていました。むしろ変化していることを表現している曲の方が多かったし。タイトルと矛盾する感じで進みつつ何を継承するか考え抜いた結果、自分たちの今までの経験や人からもらったものがたくさんあるじゃないかと。それらを持ったまま変化を遂げていくよ、継承していくよと言おうと。その僕らがこれまでもらったものを一番わかりやすい形でストーリーに起こせるのは、EMILYの映画主演の話だったというわけです。あの件で得たもの、掴みかけたチャンスの話、それが一番いいテーマだと思いました」
――なるほど。この『継承』はお話を聞いてきた通り、歌詞では決して明るくない世界観を表現していますが、サウンド面ではどのような方向に持っていきたいと考えていたのでしょうか。
KAWAGUCHI「曲にもよりますけど、全体的にポップでありたいとは思っていました。もちろん人に好かれたいので、あまりどんよりとしすぎないようにしたいというのはありました」
――サウンド面とは少し違いますけど、前回のアルバムあたりからEMILYさんの歌い方にも変化を感じていました。程よく力の抜けた歌い方になっているなというか。
EMILY「うんうんうんうん! まさに、です! 狙い通り! 気張った感じが自分で好きではなかったので、長年それをどうにか抜きたいなと模索してきました。ここ1年ぐらいでボイストレーナーの先生とずっと模索して、なんとか作り上げた歌い方が最近好評で、自分がやりたかったことができるようになってきました」
――それは、どういう表現を狙ってのことなのでしょうか。
EMILY「安心感とか本音を言っているとわかってもらうとか、落ち着きかな。ラップをする時に焦って聞こえるとダサく聞こえるでしょう? HONEBONEは内容も重いことを言いたいので、抜け感があって落ち着いた感じで歌えるとかっこよく聞こえるかなと思って追求しました」
――確かに気張ったラップは聞いていてしんどいかもしれません。
EMILY「ね? そこはレコーディングでも気をつけたことでもありました。伝えたい思いの純度が高いと心拍数も上がったり声が高くなったりするんです。それは意外と伝わらなくて、人に伝えるときはゆっくり丁寧に、低い声、小さい声の方が伝わると思います。一番伝えたいことは大きい声じゃなくていいのでは? というのは、ボーカリストとして発見でしたね」
KAWAGUCHI「EMILYが新しい歌い方を習得したことで、HONEBONEとしてやれることも増えました。元の歌い方だとこんなアルバムにならなかったし、むしろ失敗していたかなとも思います」
――チャレンジの詰まった『継承』をリリースしてみてどうですか?
KAWAGUCHI「思いのほか受け入れてもらっている印象があります。ただ、個人的にはもっと賛否両論が欲しかったなと思っています」
――賛否の否の方がもっと欲しかった?
EMILY「欲しかったね!」
KAWAGUCHI「嫌いという人やついていけないという意見がもっとあるのかなと思っていたんですけど、みなさん優しかったし、そのことで僕らはまだ井戸の中から出られていないということにも気がつきました。否定的な意見がゼロだったわけではないけど、こんなにも否がないか! と。このインタビューを読んだ方から否の意見もいただけたら、すごくうれしいですね」
取材・文/桃井麻依子
(2023年12月20日更新)
Album『継承』
発売中 3000円
LDCH0012
LINDA RECORDS
《収録曲》
01. 飛べない
02. 変身
03. 27 CLUB
04. めんどくさい人間
05. ピエロ
06. 白紙
07. WHY SO SERIOUS?
08. 変な食卓
09. わるいゆめ(継承ver.)
10. Re リスタート
ホネボーン…共に東京・高円寺出身のEMILY(エミリ/Vo)とKAWAGUCHI(カワグチ/Gt)の2人が2014年に結成したフォークデュオ。アコギと歌の生々しいサウンド・歌詞・キャラクターで、全国各地にてライブ活動を展開してきた。2020年にはNHK BSでのレギュラー番組『うたう旅』がスタート、2021年には品川ヒロシ監督映画『リスタート』にEMILYが主演し、HONEBONEとして主題歌を担当した。また読売ジャイアンツ・丸佳浩選手の入場曲として「夜をこえて」を提供するなど、音楽シーンに留まらず活動を続けている。2023年11月4日、彼ら自身最大キャパシティの会場である恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブも盛況のうちに幕を下ろした。
HONEBONE オフィシャルサイト
https://www.honebone.net/