ホーム > インタビュー&レポート > 20周年を折り返した歌窈曲 × 管弦楽の煌めきが凄い 11月30日「一青窈 Symphonic Concert 2023 -Christmas Special-」横浜公演レポート
窓外で裏返る〈MIRAI〉のロゴ看板を見ながら開演を待った。序曲はベチリ(コソボの作曲家)の『スピリット・オブ・トラディション』より『サヴァイヴァル』。栁澤寿男の指揮、バルカン室内管弦楽団の華麗な音色と盛大な拍手で迎えられたヒロインは妖精風の衣装を纏い、「小さい頃、私の夢は......」と詩的な粉を振りまくと、"♪You Can Fly! "と聴衆を誘い込んだ。次の『もらい泣き』が流れると早くも会場から歓声が飛んだ。オケ共演の提案に歓喜し、「参加したい!」と二つ返事で彼女が挑んだ、〈一青窈 Symphonic Concert 2023 -Christmas Special-〉はこうして淀みなく滑り出した。
4曲目『空中ブランコ』では弦楽の路を蝶のように舞っては歌い、一青作品 × 管弦楽の煌びやかな相性ぶりと、オーケストラ編曲(山下康介、萩森英明、志倉知実、海沼みきな)の水準の高さを見事に知らしめた。挾間美帆:作曲の『i2』が描く「洗濯物」や「マンホールの蓋」等の語を耳にしたら、開場前に書店で触れた新刊書の背文字群が電光掲示板の如く脳裡に浮かんだ。そして今年の出来事のさまざまな映像が眼底を流れた。歌窈曲の齎す不思議な連鎖反応/独自の作詞術を改めて体感した一曲だった。
転じて"眠らない街での再起"を誓う『New York, New York』を歌い上げると、デビュー21年目を駆ける彼女は、次の歌をこう紹介した。「私も時々、子育ての最中に自分で自分の曲に涙したりもして......これも、そんな曲の一つです。聴いてください」、それが『耳をすます』だった。キベラスラムの黒人少年やツンザ村の村長、香港のトランスジェンダーや「25時にトー横を彷徨ってるあの娘」にも、思いを馳せる歌詞(森山直太朗:作曲)。その渾身作を、バルカン半島(特に旧ユーゴ)の民族共栄を願って栁澤が設立した管弦楽団との共演で生披露したのだから、彼女の想いも一入だっただろう。地理/歴史/家庭/民族/過去/対立/現在/感情/未来......関係の機微と、日々の彼や此れや......歌窈曲の主題の広さと繊細な表現力を象徴する一曲だろう。
そしてI部の締めは「ここで音楽仲間を呼びましょう」と招いた横浜少年少女合唱団との初共演で『はじめて』を。これも絶妙なマッチングで休憩前の喝采を浴びていた。
20分間の休憩を挟んで再開曲はやはり、コソボの文化大臣も務めた作曲家・ベチリの『スピリット・オブ・トラデション』より『ダンス』。これは栁澤の依頼でベチリが書き下ろした作品、荘厳な民族楽器トゥパンの響きが何とも印象的な楽曲だが演奏後、奏者がその筐体を高々と持ち上げて場内の歓声を誘った。前後半の2曲でベチリの作品世界にすっかり魅せられたじぶんは、帰途の電車内で検索して同楽団のCD『戦場のタクト』をオンライン購入してしまった次第だ。
止まぬ拍手の中、再登場した一青は『僕をみて』『受け入れて』『月天心』とオリジナル3曲を立て続けで歌いきると、文字通りの〈Christmas Special〉であるサプライズ・メドレーの項へと駒を進めた。が、本稿でその正体に触れるのは遠慮しておこう。イヴ前日の12月23日(土)には兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールへと舞台を移し、柴田真郁の指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団との共演を控えているため、最高の贈り物(の中身)は当日まで臥せておくのが礼儀と考えるからだ。とにかく場内騒然の豪華メドレー、その選曲性や秀逸なアレンジ、一青自身の熱唱/熱演ぶりに感心驚愕するのは必至! 『はじめて』の共演も地元の宝塚少年少女合唱団の子らが担う。クリスマスの約束は既定済の方も、貴方自身への贈り物を受け取るようなつもりで是非、西宮公演へ足を運ばれたい。「今年は独りで......」という向きには尚更お薦めだ。
オケ版『ハナミズキ』の余韻が消えぬ中、背後で中高年らしき女性の声が聞こえた。「ヨカッタ、ヨカッタ、今日はホントにありがとね......」、誘ってくれた知人への謝意だろうか。一様に笑顔で出口へ向かう人々の、幸福感を象徴していた。火照りを冷まそうと、じぶんも横浜みなとみらいホールの玄関から外へ出た。ハマ風に吹かれて振り向くと、正面に見上げる〈MIRAI〉の電飾部分が煌めいて映った。歌窈曲 × 管弦楽の芸術的なリボンに包まれた、少し早めの贈り物をもらった気がした。
Text by 末次安里
Photo by フォトスタジオアライ 豊嶋良仁
(2023年12月 8日更新)
【兵庫公演】
チケット発売中 Pコード:250-619
▼12月23日(土) 15:30
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
プラチナチケット-8800円(指定)
プラチナペアチケット-8000円(指定、1名分(2枚発券=16000円))
SSチケット-7800円(指定)
SSペアチケット-7000円(指定、1名分(2枚発券=14000円))
[出演]一青窈
[指揮]柴田真郁
[演奏]兵庫芸術文化センター管弦楽団
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中はインターネットのみでの販売。1人4枚まで。チケット発券は12/16(土)朝10:00以降より可能となります。
[問]夢番地■06-6341-3525