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Elephant Gym (@台湾) インタビュー
国境、人種、国籍、性別、音楽的ジャンルまで
ノーボーダーで奏でられた4th フルアルバム『WORLD』

台湾・高雄出身の張凱翔(テル・チャン/Gt、Pf、Syn)と張凱婷(KT・チャン/Ba、Vo)のチャン兄妹と、涂嘉欽(トゥ・ジアチン/Dr)の3人で2012年に結成されたスリーピース・ロックバンド、Elephant Gym。洗練されたメロディーセンスに加え、特筆すべきはKTの見た目はキュートながら一度演奏が始まるとまるで何かが憑依したかのような圧倒的ベースプレイ…。数々の音楽的武器を携え、アジア各国ではもちろん欧米などでもツアーを重ね、世界的に高評価を得てきた彼ら。昨年念願でもあった『FUJI ROCK FESTIVAL’22』への出演を果たし、フジロック後に開催されたジャパンツアーは追加公演を含め軒並みソールドアウトしたことは記憶に新しい。そんな彼らは、2013年に1st EPをリリースしてから10周年を迎えたことを記念した4th フルアルバム『WORLD』をリリースした。バンドが見据える世界的な活躍はもちろん、さまざまなことに対する決まりきった限界を超えていこうとする精神を反映させた意欲作だ。その新作アルバムについて、そして2024年1月に控えている全国3カ所を巡るジャパンツアーについて、彼らの拠点である台湾とZOOMをつないで話を聞くことができた。

参加ミュージシャンも含め
全員で作り上げるElephant Gymの音楽


――台湾にいるElephant Gymのみなさん、今日はよろしくお願いします!

全員「ハロー! よろしくお願いします」

――4枚目となるフルアルバムの『WORLD』と、この年末から来年にかけて開催されるワールドツアー/ジャパンツアーについてお話を聞きたいのですが、少し遡ったところから質問していけたらと思っています。まず昨年3枚目のアルバム『Dreams』をリリースしたことで得られたこと、次の作品に反映したいと思えたことから伺えますか?

テル「『Dreams』を出す前から、3枚目と4枚目のアルバムに関してはあまり時間をあけずに出すつもりにしていました。そういう形にしたいと思ったのは、今年がバンド結成10周年にあたるということを頭に置いていたからです。僕がKTとトゥにそのアイデアについて話した時は、"いや、そんなの絶対に無理だよ! ストレスが溜まりすぎる!"と言われてしまいました。そもそも僕らは頻繁に作品をリリースするバンドではないからそんなふうに言ったのだと思うけど、やってみたらできましたね」

KT「50人ぐらいのオーケストラによってこれまでリリースしていた曲をリ・アレンジしたものが既に手元にあったのは、大きかったかもしれないです。それらを再録するのは、10周年のアルバムだからこそできることだと思っていました。実際にリリースできたことはとてもうれしいです」

――Elephant Gymとオーケストラの共演といえば、2022年の『FUJI ROCK FESTIVAL』のステージが思い出されます。YouTubeで配信もされたので見た人も多いと思いますが、パフォーマンスはただただ圧巻でした。フジロックへの出演は、みなさんにどんな影響を与えたでしょうか。

トゥ「フジロックに出演することは本当に僕らにとっては重要なことでした。2016年から担当してくれている日本のマネージャーからもフジロックに出演することを目標にしようと言われていたので、実現できたのはうれしかったです。当日のステージではすごく緊張していたけどしっかりパフォーマンスをすることができたし、今までで一番いい演奏ができたのではないかと思っています」

――先ほど、3枚目と4枚目のアルバムはあまり時間をあけずに出す予定だったと伺いましたが、昨年のフジロックへの出演や秋のジャパンツアーの時には4枚目のアルバムの構想はあったのですか?

テル「はい。僕らは世界各地でライブをしてきましたが、パンデミックの影響でそれもできなくなってしまった時期がありました。そういうこともあったので、4枚目のアルバムはワールドツアーとセットにする形でリリースがしたいと思っていたし、元々アルバムの構想を持っていました。常に前もって先のことを考えるようにしています」

――なるほど。今回リリースとなった『WORLD』の制作の出発点を教えてください。

テル「ファーストステップは...日本のマネージャーに、ジャパンツアーをやるのならばいつどこの会場をおさえることができるのか聞くところから始まりました。実は日本が世界の中でも一番会場をおさえることが難しいのです。余裕を見て1年半ほど前からいろいろと手配をしなければならないので、ライブができる会場が決まってからどうアルバムをリリースするかについて話をしていきました」

――世界に目を向けると、もう少し会場は取りやすい?

テル「イエス!」

――意外なお話です。来年1月のジャパンツアーは、これまでElephant Gymがパフォーマンスを行ってきた会場と比べるとグンと規模が大きくなりますね。

トゥ「そうですね。特に東京公演を行うSpotify O-EASTは、日本のロックシーン・インディーズシーンでは重要な会場だと僕らも認識しています」

――会場をおさえた後、作品作りとしてはどんな展開を見せたのでしょう。

テル「アルバム制作は、前もってコンセプトを作り上げるというよりは何か機会を得てそこから始まっていくことがほとんどです。今回で言うと、前作の『Dreams』をリリースした後に、今回のアルバムの1曲目に参加してくれているインド系カナダ人のサーシャ(・ティルパティ)から、一緒に何かやれないかな? とオファーをもらったことが最初のきっかけでした。そしてその後、亀田(誠治)さんとZepp New Taipeiで一緒にライブをしたのですが、それをきっかけに一緒に曲を作りませんか? とオファーをしたのが次のステップでした」

――なるほど、一緒に作品作りに取り組んださまざまなパートナーが人種や性別に囚われていないことから、タイトルの『WORLD』や、作品に国境、人種、国籍、性別、音楽的ジャンルなどの限界を越えていかんとする想いを込めるというコンセプトも導き出されたのですね。

テル「はい、その通りです」

――アルバムのタイトルやコンセプトが見えてきてからは、どんなアルバムにしたいなど思い描いていたことはありましたか?

KT「Elephant Gymは3ピースのインストバンドだと思っていたけれども、これまでリリースしたアルバムでもライブの演奏でも本当にたくさんのミュージシャンが参加してきてくれました。それを考えると、Elephant Gymの音楽とはその人たちもみんな含めたものなのかもしれないと思っているんです。だから今回のアルバム『WORLD』では、"これがElephant Gymです"ということを伝えたいとイメージを膨らませていました」

トゥ「『Dreams』をリリースした後に台湾でライブをしたのですが、会場の内のバラバラの場所にステージを3つ作って、僕ら3人がそれぞれ違うステージに立ってパフォーマンスをしました。お客さんは自由に好きなステージの前に行ってライブを楽しむというものだったのですが、今回のアルバムに収録している「Adventure」という曲はその時の僕の演奏を元にして作っているので、そこはつながっている気がします」

テル「頭の中にいろんなアイデアがあって、実際に出たアルバム以上のものが頭の中では渦巻いていました。それが今回のアルバムをリリースするにあたって、整理されてきちんと形にできたというイメージがあります」

――今回の作品の中でも亀田誠治さんと「Name」という曲を一緒に作れたのは、東京事変に大きな影響を受けてきたと公言してきたみなさんにとってとても大きな出来事だったのでしょうね。彼との制作はどんな様子だったのでしょう?

テル「一緒に作ろうと誘って断られるのが怖かったので、マネージャーには本当に本当に丁寧に尋ねてほしいとお願いしたのが最初のプロセスです(笑)。亀田さんがよくやられている1曲丸々プロデュースをお願いするという方法ではなくて、亀田さんには僕らが準備したインストのデモの上にベースラインを乗せてほしいとお願いしたのが次のステップでした」

KT「ベースを始めた頃に私は東京事変のコピーをしていたということもあって、亀田さんは私のベースヒーローだし、去年のジャパンツアーの時にも亀田さんは見に来てくださって。とてもいい人だったので、一緒に曲を作れることになったのはとてもうれしかったです」

――曲はどんなイメージで?

テル「明確にコンセプトやテーマを設けたというよりは、亀田さんのベースはとてもアイコニックだし、一方でKTのベースもとてもアイコニックなので、違う世代のプレイヤーのベースの音をどうクロスオーバーさせるかということをずっとイメージの中では大切にしていました」

――なるほど。率直に、共演した感想を教えてください。

KT「台湾の人々は私のことはもちろん、亀田さんのこともよく知っているので、とにかくミスしないようにと考えていました。うまくいったと思っています」

――今回のアルバムの中でも、さまざまなミュージシャンがフィーチャーされています。彼らとの曲作りや演奏の中で、面白かったことはありましたか?

テル「「Feather」という楽曲を作ったのですが、これに関しては自分たちがインストのデモを作って台湾のシンガーの?te (whyte)と日本のシンガーのTENDREにわたして、自由にメロディーと歌詞をつけてもらおうという試みでした。これはとてもゲームのような感覚で、何が出てくるのかわからないという点ですごく楽しかったです」

――アーティストに委ねたのですね。

テル「そうです。とはいえ競争をさせたいというわけではなかったので、お互いの楽曲をなるべく聞かないようにしながら自由にやってもらうつもりでいました。ただ。最終的には制作のプロセスの中で、少しだけお互いの楽曲を確認するような機会はありました」

――とても面白い試みだし、サウンド、歌い方、使う言語にもふたりのミュージシャンそれぞれの色が強く出ていて、まるで違う曲のようにも聞こえることはすごく興味深かったです。私個人としては、高雄市管楽団が参加している「Galaxy」「Light」「Ocean in the Night」にはすごく希望を感じられて、世界が開けていくようなイメージを思い浮かべることができてとても好きな3曲でした。

KT「おー! ありがとうございます!」

テル「元々は彼らの方から一緒に何かできませんか? と声をかけてもらって、既存曲のオーケストラアレンジを行ったのが共演のきっかけです」

KT「2020年には50人のオーケストラと一緒に演奏したことがあったのですが、その時すごく楽しかったし、いろんな人たちからもっと曲を作ってくれ、ライブをしてくれという声をもらいました。その翌年の『大港開唱 MEGAPORT FESTIVAL』という台湾の大きなフェスティバルで、今度は私たちから一緒にやろうという話をしたこともありました。そういったことが今回の10周年のアルバムに向けてレコーディングをしようというところへと発展していきました」

――オーケストラアレンジはどのように進んだのでしょう?

テル「既存曲なので、最初は僕ら3人だけでアレンジを作り直して録音して、楽団の作曲者に渡して委ねました」

――そうやってたくさんのアーティストとのコラボレーションがあったうえで、Elephant Gymとしてアルバムを通して挑戦だったことはありましたか?

トゥ「中でもサシャとの曲は、僕らに馴染みのないメロディーだったのですごく難しかったです。最初は長いパートがたくさんあって、その中にあるいろいろないいところや複雑なところ、ドラマチックなところをギュッとまとめていくのは難しかったです。今、世の中で発表されている曲は短いものがいいという傾向にあるけれども、自分たちにとっては曲の長さではなくしっかりとストーリーを伝えるということがとても重要だと思っていました」

KT「私は「Feather」がとても強く印象に残っています。本当に自由に歌って欲しかったので、?teとTENDREが考えてくれたメロディーを、全く変えることなく生かしたいと思っていました。最初にオケもアレンジも決まっていて、それにメロディーを乗せてもらったのですが、最終的に?teの楽曲にはどうしても私のベースと噛み合わない点があって、そこだけ少しアレンジを加えました」

――(取材時は)今アルバムリリース直前ですが、新しく見えてきている景色はありますか?

テル「アルバムを作り終えてから、自分の作品は全然聞いていません(笑)。この後、今まで行ったことがない国も含めたワールドツアーが始まっていくので、まずは12月のベトナムとフィリピン公演に向けての準備をしていきたいなと思っています」

――そのワールドツアーでは、来年1月に日本でも公演が控えています。先ほどお話に出た通り会場の規模は今までよりも大きなものになっていますが、今回の日本公演ではどのようなライブをしたいと考えていますか。

KT「前回のジャパンツアーではミスもあったので、今回のツアーに向けては本当にたくさん練習するということをまず日本のマネージャーに伝えておきたいです(笑)。それと、今回のアルバムに収録している台湾のシンガーのリン・イーラーが参加してくれた「Happy Prince」という曲があるのですが、ジャパンツアーでは彼女がいてくれるわけではないので、私がベースを弾きながら歌う予定です。それをしっかりと演奏するのも、すごく重要なことだと思っています」

――ジャパンツアーの3公演には、象眠舎をゲストホーンセクションに迎えることもアナウンスされています。

テル「フジロックへは高雄市菅楽団と一緒に行って演奏しました。今回もブラスバンドのアレンジがある曲を披露するので、ぜひ日本のホーンセクションと一緒にツアーを回って表現したいと思っていました。そこで、象眠舎にお願いすることになりました」

トゥ「象眠舎のリーダーの小西遼さんとは、台湾で僕らがTENDREと一緒に行ったライブの時に出会いました。彼は英語を話せるのでコミュニケーションが取れるし、音楽を通じて友達を作るのが好きなので、そうやってつながっていきました」

――日本のホーンセクションとのコラボレーション、本当に楽しみです。最後に質問させてください。1月の公演時、ライブ以外に日本で楽しみにしていることはありますか?

トゥ「ジャパンツアー後は、台湾の旧正月に入って休暇シーズンになります。東京のライブが終わったら、少しだけ家族と一緒に日本でゆっくりと過ごしたいなと思っています」

取材・文/桃井麻依子
通訳/吉本翔(WORDS Recordings)




(2023年12月14日更新)


Check

Release

4th Full Album『WORLD』
2023年12月14日(火)配信開始
2023年12月20日(月)CD+DVD発売
2970円
WDSR-006
WORDS Recordings

《CD収録曲》
01. Jhalleyaa feat. Shashaa Tirupati
※CDのみ収録、配信ではShashaa Tirupati feat. Elephant Gymの楽曲としてリリース
02. Feather feat. ?te (壞特)
03. Adventure
04. Flowers
05. Name feat. Seiji Kameda (亀田誠治)
06. Galaxy (orchestra ver.) feat. KCWO(高雄市管樂團)
07. Light (orchestra ver.) feat. KCWO(高雄市管樂團)
08. Ocean in the Night (orchestra ver.) feat. Hom Shen Hao (洪申豪) KCWO(高雄市管樂團)
09. Happy Prince feat. YILE LIN (林以樂)
10. Feather feat. TENDRE

《DVD収録曲(数量限定、日本流通のみ)》
01. Spring Rain
02. Go Through The Night
03. Dreamlike
04. D
05. Ocean In The Night
※2022年11月開催『DREAMS in Japan Tour』恵比寿LIQUIDROOM公演より厳選した5曲のライブ映像を収録

Profile

エレファント ジム=台湾・高雄出身の張凱翔(テル・チャン/Gt、Pf、Syn)と張凱婷(KT・チャン/Ba、Vo)のチャン兄妹と、涂嘉欽(トゥ・ジアチン/Dr)の3人で2012年に結成されたスリーピースバンド。感情的でメロディアスなベースラインを中心に据えながら、優しく包み込むギターやピアノとドラムのアンサンブルで洗練された楽曲構成のセンスや高いテクニックを見せつける。初期はスリーピースのバンドサウンドによるインストゥルメンタルを基調としながらも、現在はジャンルや音楽的枠組みを超過し、自ら歌を歌うことや多様なアーティストとのコラボレーション、さまざまな楽器を取り入れることで幅広い音楽性を体現している。台湾では既に代表的なバンドとなっている一方で、世界各国にて音源がリリースされツアーを実施。日本では2018年に『SYNCHRONICITY ‘18』への出演以降、ワンマンツアーを開催するなどコンスタントに来日を果たしている。中でも昨年出演を果たした『FUJI ROCK FESTIVAL ’22』ではRED MARQUEEのステージで圧倒的なパフォーマンスとKTの可愛らしい日本語でのMCも話題となった。

Elephant Gym オフィシャルサイト
https://www.wordsrecordings.com/elephant-gym


Live

Elephant Gym The “WORLD” Tour

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:253-102
▼1月25日(木) 19:00
BIGCAT
オールスタンディング-5800円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]象眠舎
※未就学児童は入場不可。小学生以上は有料。
※販売期間中はインターネットのみでの販売。1IDで1回のみ4枚まで購入可。
[問]SMASH WEST■06-6535-5569

【愛知公演】
▼1月27日(土) ボトムライン
【東京公演】
▼1月28日(日) Spotify O-EAST

チケット情報はこちら