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「ポップスはめちゃくちゃ人とつながれる」
黒子首が目指した音楽と信じた美学
躍進の高純度ポップアルバム『dig saw』を語る!
堀胃あげは(vo&g)インタビュー&動画コメント

 数値化できない何とも不思議な歌声の引力、さまざまなベクトルのポップソングに潜む確かな純度。10月25日にリリースされた黒子首(ほくろっくび)のメジャー2ndアルバム『dig saw』には、TVアニメ『鴨乃橋ロンの禁断推理』エンディング主題歌『リップシンク』や、TVドラマ『DIY!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』オープニング主題歌『カナヅチ』といったタイアップ曲ほか全10曲を収録。“曲を作ることは生きること”と自負する堀胃あげは(vo&g)が中心となって作り出す楽曲の数々には、今後の躍進を期待せずにはいられない。11月26日(日)大阪・心斎橋JANUSにて開催される発売記念ワンマンライブを前に、ソングライターとしてのスタンスと美学、バンド形態でポップスという大海原で勝負する覚悟を、堀胃あげはが語るインタビュー。“誰にでも分かる言葉で、誰にも言えないことが言いたい”。黒子首なりのやり方で、目指せシーンの頂を――まばゆき道の途中をここに。



自分自身を説明するのが一番難しい


――昨年のメジャーデビュー以降、リリースや初の東名阪ワンマンツアーを経験して、自分一人の部屋から生まれた音楽がどんどん世に響いていく過程はどうです?

「楽しいです。ライブだとバンドの音の中で歌うとき、一人じゃ出せなかったエネルギーというか、その場でしか出ない感情がより大きくなるのを感じるし、あと、自分がこんなに明るい人間だったんだと気付きました(笑)。自分で殻に閉じこもってただけなんだなって」

――1stアルバム『ペンシルロケット』('22)では、とにかくやりたいことをとことん自由にやってみた。そこから自分たちが本当に何をしたいのか、強みなのかを掘り下げたのが、今回の2ndアルバム『dig saw』で。



「『dig saw』というタイトルだけに、自分たちを客観的に見られるようになるまでディグる=掘り下げる過程が長かったんですけど...大衆的になれば聴いてもらえる範囲は広がるけど、浅く広くなってしまうならやりたくない。ポップスの中でどう個性を出していくのか、どれだけ自分たちを表現できるのかというところでの、"明るさ"の研究というか。バンドが最初からやってきた"ちょっと暗くておしゃれ"みたいな要素も、もっと強化していけば武器になると思うし、明るさをどう見せればありふれたものにならないかのバランスが、今回で何となく分かった気がします」

――明るさを際立たせるためには闇も要る。それが感情をあえて抑えて歌った『もぐら』(M-10)だったり、ポップスを追求しながら自分たちなりのやり方を模索するのは、簡単にはいかない作業ですよね。

「バンドの話だけじゃなくて、自分自身を説明するのが一番難しいんじゃないかと思っていて。そこにめちゃくちゃ執着して、"自分とは何者なのか?"をここまで考えなきゃいけない職業って、あんまりないかもなって。まぁ死ぬまでその答えが出なかったとしても、その過程が面白いのはありますけど」

――めっちゃ大人な意見(笑)。答えが見つからないかもしれないと分かっている時点で、もう答えに到達しているとも思います。よく夢とか好きなものがないと言う人がいますけど、そもそも全員が見つけられるものではないと気付けたら、生き方も変わりますもんね。

「ちょうどこの前、実家に帰って帰りに新幹線の駅まで弟に車で送ってもらったときも、"最近の悩みは?"と聞いたら、"何がしたいのかが分からんことかな"って言ってました(笑)」

――だからこそ今、好きなもの、夢中になるものがあるだけでも、幸せな人生ですよね。


普遍的な感情を常に残しておきたい


――今作ではポップスというみんなが聴けるものを目指しながらも、物語のきっかけとなる視点はめちゃくちゃ独特で。さっき話に出た『もぐら』とか『カナヅチ』(M-9)も定番のモチーフでは全くないし、新宿でネズミを見たときに書こうと思ったという(笑)『Odd Eye』(M-8)もしかりで。



「ありふれたキーワードで音楽を作ることに疲れたというか...あとは、物理的に忙しいけど心が暇なのかな? "何か面白いテーマはないかな?"とずっと探していて、"ジャンケンだ!"とピンときたのが『Guu』(M-5)だったり」

――『Guu』はバンド自体のことも連想されつつ、スネアの抜けなど音にもすごくこだわった一曲だと。ただ、'23年にジャンケンを歌にする人はかなり珍しいですけど(笑)。

「確かに(笑)。"これは広がりそうだな"と思うものを見つけると楽しくなって、つい膨らませちゃうんですよね...」

――取り上げる題材がある世代特有じゃないのが、黒子首が老若男女に支持されるゆえんかもしれないですね。

「その瞬間の感情ももちろん大事だけど、普遍的な感情を常に残しておきたいのはありますね。昔は割と直接的な表現だったり、単純に歌詞が読みづらい曲も結構あって。自分のLINEを見返してもそうですけど、数年前の友達とのやりとりを見てたら、"うわ、自分おもんな。寒いこと言ってんな~!"みたいな(笑)。そういうことがなるべくないように、いつスクロールして見返しても"自分ってやっぱりセンスあるな"と思えるような曲だったらいいですよね」

――数年前のLINEを見返せるなら、心だけじゃなくて物理的にも暇なのかもしれん(笑)。

「アハハ!(笑) 会話ならまだいいけど歌詞は残っちゃうから、より時間をかけて後悔のないものを作りたいのはあります。それで説明くさくならないようには気を付けてますけど」

――ロックバンドなら、自分の思いの丈を叫ぶだけでもある種の美しさがありますけど、ポップスとなると、等身大かつ大衆をも感動させるのは至難の業ですよね。

「自分を楽しませたいゲーム性的な意味で、ポップスという縛りを欲してるのかもしれないけど、明るくてポップだなと思っている曲を聴いて泣く人がいたり、その逆をライブで見ると面白いなと思う。自分が曲を世に出していく中で分かったのは、ポップスはめちゃくちゃ人とつながれる。やっぱり自分はポップスがやりたいと今は思いますね」


久々にスタジオに入って、3人で音を合わせて...ちょっと感動しましたね


――いろんなものを勝手に背負って過剰にポップになっていくのはメジャーではあり得ることですけど、あまりにキャッチー過ぎてセルアウトしてしまったのかとメンバーに心配されたのが(笑)『言わせない』(M-4)という。

「元々、"メロディも歌詞も、もうちょっとポップになったら、より人に聴いてもらえると思う"とメンバーの2人が自分を引き上げてくれたんですけど、そこからさらに自分は覚悟したというか。自分がポップスを好きだったことにも気付けたし、より洗練していきたい一心で作った『言わせない』が、まさか2人にそこまで心配をかけるとは...。 "やけくそになったのかと思った!"って言われましたから(笑)。でも、その3時間後にまたドラムのそい(=田中そい光)から、"堀胃さんがどれくらいの覚悟だったか、自分の方が分かってなかった"って電話がかかってきて...そこでスイッチが入って、アルバム全体の本気度が増したと思いますね」

――中でも、『リップシンク』(M-1)はとにかく時間がかかったそうですね。



「『リップシンク』は今回の曲の中で1~2番目にできた曲なんですけど、メロディがシンプルな分どんな洋服も着せられたからこそ、一旦エレクトロになってしまった時期もあって(笑)。そのアレンジも自分は好きなんですけど、これだけバンドにも当てはまるような内容なら、3人の音に立ち返ってもいいなと思って。このときは久々にスタジオに入って、3人で音を合わせて...ちょっと感動しましたね。その後は、完成するまでもめにもめましたけど(笑)」

――結果どの曲にも、あげはさんがモットーとしている、"誰にでも分かる言葉で、誰にも言えないことが言いたい"という筋が通ったアルバムになっていますね。

「ありがとうございます。言い回しや組み合わせで工夫する方が、難しい言葉を使うより曲作りとしては楽しくて」

――例えば『ばっどどりぃむ純喫茶』(M-2)の、"なんてことないTシャツも 君が飛ばしたパスタソースで 世界でたった一枚のシャツになります"というフレーズも、マイナスからプラスへのジャンプ力がすごいなと思いました。みんなが思い浮かべられるけど、こういう描き方をした人はいただろうかと。


曲を作ることがやっぱり一番好き


――黒子首の曲は言葉の乗せ方も特徴的で、字面からは想像がつかないような"ため"がありますよね。

「今回は特に同じ言葉を繰り返すとか...普通の会話だと"2回言ったぞこいつ"となるようなことも(笑)、『Odd Eye』なら"Odd Eye tonight"と2回言うことで決意をすごく感じるというか、自分の中でそしゃくしてる雰囲気がメロディに乗ると生まれることに気付いて。今後もいっぱいこういうふうに遊んでいくと思います」

――今作の中ではストレートな曲かもしれないですけど、個人的には『faraway eyes』(M-7)のように感情を込めて歌われた曲に、一番鳥肌が立ちました。

「うれしいです。この曲は自分でも泣きそうになりながら録ったので、声の震えまできれいに入ってると思います」

――最近、あげはさんがX(旧Twitter)で、"曲を作ることは生きること"だとつぶやいていましたけど、音楽活動の中でもとりわけ充実感があるのが作曲だと。

「ライブはライブで、違う脳みその回路が"ぶわぁ~!"となる感じがいいんですけど、曲を作ることがやっぱり一番好きなんだと思います。それがつらいときもあるけど(笑)。今作で手札が増えたような感じはしますね」

――2作目にしてチャレンジングでポップに前進できたアルバムになりましたが、他にエピソードがある曲は?

「『タイムレスマシン』(M-6)の歌詞を書くのは楽しかったです。"トリケラトプス"とか突拍子もない言葉を突然入れてみたりして(笑)。アイデアは小さなことでもメモするタイプなんですけど、人と一緒にいるときにいちいち"ちょっと待って!"とか言ってたら多分嫌われちゃうんで、できないこともあります。芸人さんも、芸を思いついた途端にメモったりして、デートを止めたことがきっかけで離婚することもあると聞いたんで(笑)。他で言うと、『もぐら』ができたきっかけは、空気階段の鈴木もぐらさんです(笑)。人間の方から入って、動物のもぐらの生態についての本を買ってきて読んで。タイトルを決めた後にそのものについて詳しくなるのも楽しいですね」

――この曲の大サビ前でロックオペラ調になっていくアレンジはなぜこのように?

「その一つ手前の歌詞の余韻を延ばしたいのと、荒波にのまれながらも戦っている様子、そうしてるうちに光が差し込んでくる感じを表現したくて。最初はがっつりギターを入れようという話をしてたんですけど、賛美歌のようにも聴こえる曲だし、今まで黒子首がやってきた泥くささをなるべく神秘的に、明るめに出してあげるようなアレンジがいいんじゃないかと。だからコーラスやメロトロン・フルートを入れて、より光成分を増やしてみました」


どの曲にも絶対に本心が入ってる


――アルバムタイトルの『dig saw』は、掘り下げる"dig"+"saw"は地層の層でもあるし、自分たちが見てきたものだと。本当は『地層』にしたかったらしいですけど、せっかくこれだけキャッチーなアルバムを作ったのに、タイトルが一番キャッチーじゃなくなる(笑)。ジャケットのために作られたジオラマもすごいですよね。

「ほとんどのパーツが食べられる素材でできているケーキで、人形や埋められているモチーフだけ樹脂粘土で作られてるんです。実物は40~50cm四方ぐらいあって、初めて見たときは本当に感動しました」

――黒子首って、さまざまなベクトルの曲があっても、根底にピュアさを感じるのは何なんでしょう。

「どの曲にも絶対に本心が入ってるんで、チームのボスにも"お前は正直過ぎるんだよ"って言われます(笑)。うそをつくのが面倒くさいというか、後から処理しないといけないのは自分なので」

――つじつまを合わせるためのうそがまた必要になってきますもんね。

「そうなんです。だから面倒くさがりなだけかもしれないです(笑)」

――そして、リリース記念ワンマンライブが、まずは11月26日(日)大阪・心斎橋JANUSにて行われます。

「前回の大阪ワンマンは演奏することに必死で、楽しかったんですけど、今回はもっとちゃんとお客さんを取り込みたいなと。アルバム的にも、曲の見せ方でいろいろと面白い仕組みが作れそうなので」

――ライブの反響で曲作りも変わるとなれば、黒子首の今後においても大事な要素ですね。

「そうです、お客さんの反応をかなりダイレクトに受け取る3人なんで(笑)」

――アハハ!(笑) お客さん次第で黒子首の方向性が。

「かじを取れますよ!(笑) このアルバムが完成したとき、自分たちの持っているものをちゃんと研いで並べられたのがうれしくて、何回も聴いちゃいました。メンバーの音を改めて聴いて、"こんな仕掛けを作ってくれてたんや"といろいろ気付くこともできて、信頼度も上がる日々です。お客さんとは音楽でずっとつながっていたいと思うからこそ、伝えたいことは音楽の中に全部入れている派なんですけど、それをキャッチしてもらいつつ、ライブではシンプルに楽しんでもらえれば。人と一緒に来るのもいいかもしれないですよ」

――その心は?

「黒子首の曲を聴きながらお互いを見ると、かわいく見えたりカッコよく見えたりするタイミングがあります(笑)」

――マジか、そんな作用があったんや(笑)。

「キューピッドになります!(笑)」

Text by 奥"ボウイ"昌史




(2023年11月20日更新)


Check

Movie

取材&ライブに向けて有言実行!?
堀胃あげは(vo&g)の動画コメント!

Release

地層をケーキで表したジャケも秀逸
タイアップ2曲を含む2ndアルバム!

 
Album
『dig saw』
【初回生産限定盤グッズ付】
発売中 4000円
トイズファクトリー
TFCC-81045
※封入特典…アクリルキーホルダー

【通常盤】
発売中 3000円
トイズファクトリー
TFCC-81046

<収録曲>
01. リップシンク
02. ばっどどりぃむ純喫茶
03. 無問題
04. 言わせない
05. Guu
06. タイムレスマシン
07. faraway eyes
08. Odd Eye
09. カナヅチ
10. もぐら

Profile

写真左から、みと(b)、堀胃あげは(vo&g)、田中そい光(ds)。’18年結成。聴きやすいポップさを前面に出しながら、豊かな音楽的背景を具現化したサウンドを奏でるスリーピースバンド。’21年7月に初の全国流通盤である1stアルバム『骨格』をリリース。’22年2月にデジタルシングル『やさしい怪物 feat. 泣き虫』でメジャーデビュー。同年8月に発売したデジタルEP『ぼやぁ~じゅ』収録曲が全国ラジオ各局のパワープレイを獲得するなど着実に成長を続け、10月に満を持してメジャー1stアルバム『ペンシルロケット』を発表。’23年に入ると、日本テレビ『バズリズム02』新春恒例企画“これがバズるぞ2023”で25位にランクイン。また、アルバム『ペンシルロケット』が『第15回CDショップ大賞2023』入賞作品<青>に選出されるなど、耳の早い音楽リスナーから熱い注目を集めている。7月にデジタルシングル『カナヅチ』、10月25日に2ndフルアルバム『dig saw』をリリース。

黒子首 オフィシャルサイト
https://www.hockrockb.black/

Live

アルバムのリリース記念ライブ
まずは大阪でのワンマンが開催!

 
【大阪公演】
『「dig saw」発売記念ワンマンライブ』
チケット発売中
※販売期間中はインターネット販売のみ。
▼11月26日(日)17:00
心斎橋JANUS
スタンディング4000円
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら

 

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ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「僕が昔よく取材していたアーティストが、黒子首の現レコーディングディレクター兼ボイストレーナーという縁でうわさを聞いてはいたのですが、今回でついに邂逅。初めてライブを見た際もバンド形態でこの音楽性というのが意外でしたが、『dig saw』を聴いて、会って話して、想像以上のポテンシャルにワクワクしました。ポップスって流行のコード進行や音色の引用に、時に少々のあざとさも感じたりするもんですが、黒子首のポップスは音楽を信じて歌ってるというか、信頼できるピュアネスを感じるのです。あげはさんと話した印象もまさにそれで、歌声同様人柄も何とも言えない魅力があって、音と人の両輪を兼ね備えた黒子首の行く末が、より楽しみになりましたよ。リリースに伴うライブは謎に大阪だけ発表されてますが(笑)、関西圏の方はこのラッキーを存分に受け入れて心斎橋JANUSにぜひお越しください。今作の10曲がセットリストに加わるとなると、ライブの内容もジャンプアップすること間違いなしです!」