ホーム > インタビュー&レポート > “今自分だけが書けることに視点を置いて、 お守りのように歌を伝えたい” しがらみからの脱却をありのまま歌う Aill、初のインタビュー
ストリートライブの場に立って、"自分でいいんだ!"と解放された
--Aillさんは尼崎出身で、ストリートライブから活動を開始されたそうですが、いつ頃始められたんですか?
「高校3年生の頃です。中学を卒業してすぐに介護職で働き出して、その時友達に"お前歌上手いらしいやん。何かやろうや"と言われて。私めちゃくちゃシャイで、カラオケに行っても、めっちゃ仲良い友達の前でしか歌わなかったんですよ。でも噂が回りに回ってやる方向にいったんですけど、結局タイミングが合わずできなくて。"買ったマイクとアンプどうしよう。もう自分でやるか!"となって、多趣味だったお兄ちゃんとやることにして。誕生日が同じなので"1024"というユニット名でやってました」
--10月24日ですか?!おめでとうございます!(取材日が誕生日付近)
「めっちゃ恥ずかしいことになってる(笑)。ありがとうございます!」
--兄妹ユニットだったんですね。活動期間はどのくらいですか?
「16~17歳の約1年間でした。それが表に立とうと思ったほんとのキッカケで。お兄ちゃんはギターボーカルで、私はボーカルで、阪神尼崎駅で歌ってました(笑)」
--ストリートで歌った時はどんな感覚でしたか?
「めちゃくちゃ新しい感覚になりました。幼少期から、人と喋ると"どう思われるかな"というのがすごく強くて、それがしんどかったんですね。でも表に立てば複数人いるから的が大きくなるじゃないですか。"誰も何も気にしなくていい、自分でいいんだ!"とすごく感じましたね」
--歌を歌うのは好きだったんですか?
「好きでした」
--どんな少女時代を過ごされていましたか?
「私は4人兄弟の1番下で、家の中では皆で漫才したり、何やかんや楽しいことが好きだったんですけど、外では人と関わるのがすごく苦手で」
--内弁慶だったんですね。
「ほんとにそうで。クラスでもヤンキーグループ、明るいグループ、勉強が好きな人たちのどこにも属さない感じ。本も好きですし、ヤンキーグループの子とも仲が良かった。でもずっと一緒に居るのはちょっと、みたいな。結局家族で遊ぶのが一番楽でした」
--歌が上手いという自覚はなかったんですか?
「全くなかったですね。家では歌ったりしてたけど、漫才みたいな感じだったので。でも"ほんとにやってみたら?"とお兄ちゃんに言われたのもあって、やり始めました」
--その後の動きはどんな感じでしたか?
「尼崎はレゲエが盛んな街なんですけど、ストリートを始めた時はそのことも知らなくて、J-POPのカバーを歌ってて。私が当時働いてた居酒屋のお客さんにレゲエのライブDVDをもらったんですよ。そこからブラックミュージックを辿るようになって、改めて『天使にラブ・ソングを』を音楽映画として観た時に、ローリン・ヒルにめちゃくちゃ憧れて。歌にも興味が出て、専門学校に入りたいと親に話したんですよ。中卒だったので専門学校と高等部が一緒になってる学校に入って、そこから3年間音楽の勉強をしましたね」
--専門学校に行かれてから曲作りを始めたんですか?
「そうです。学校の曲作りの授業でオリジナルを作ってからですね。環境は整っていたので、ギターで曲作りをして、先生の力を借りてレコーディングして。オリジナルを2曲だけ持って、あとはカバーで補って15分のステージをやっていました」
クリエイティブ集団・Soulflexとの出会いが活動の幅を広げていった
--2015年にSoulflexのMori Zentaroさん全面プロデュースのもと、1st EP『I'll be Aill』をリリースされました。タイトルから"シンガーとしてやるんだ"という決意を感じますね。
「そうですね。それこそ今年9月のツアーにコーラスで参加させてもらった、SoulflexのZINくんが当時出ていたクラブシーンのライブで最初に出会って。すごく優しくて気さくで、"Aillっていうの?めっちゃ良かったよ。音源あるから聴いて"みたいな。"こんな私にまでCDもらえるんやブルブル(感動)"みたいな感じから始まったんですけど。そこからコーラスで呼んでもらったりするようになりました」
--なるほど。
「自分もSoulflexの皆さんに感化されて、生音源でライブをやってみたいという欲が出て。ある日、紹介で来てくれたギターの子がライブ当日に飛んじゃったんですよ。その時対バンで出てたHISAくん(Gt.)が"やったるわ"と言ってくれて。そこから2年ぐらい、HISAくんと啓太郎くん(K-106/Alt sax.)の3人でよく活動してたんですよ。そこで自ずと出会ったのが、Zentaro Moriさん(以下、Zenさん)やKYOtaroくん、ZINくんの界隈。まだ配信リリースをしたことがなかったので、Zenさんを紹介してもらって、既存曲をアレンジする形で配信して。一緒にやっていくうちに楽しくなって、"じゃあ曲作らへん?"、"お願いします!"みたいな感じで始まりました」
--今もお付き合いが続いてるのが素敵ですね。
「本当にありがたいです。『I'll be Aill』はここからがスタートという感じで、全てにおいて初めての経験で、本当にワクワクした最初の1枚でした」
--当時はどんな感じでプロデュースをしてもらったんですか。
「私その時インディア・アリーがすごく好きで、土っぽい感じをテーマに、インディア・アリーみたいに1枚の布をドレスにして、アコースティックライブをやったりしてて。Zenさんの家には図書館みたいにたくさんCDがあって、"Aillはこういうの良いと思うな。こんなんもあるねん"と教えてくれて。Zenさん自身も楽しんでくれてる感覚もあって、2人で決めていった感じではありました」
YARD VIBES BANDで得た、人と音楽を作り上げる経験
--その後2020年にソロでデジタルシングル『Restoration』を出すまでは、2016年に結成されたレゲエバンド・YARD VIBES BANDでボーカルをされていますね。
「『I'll be Aill』が出たのでワンマンライブをやったんですけど、制作面ですごく悩んで。"自分が弾ける範囲のギターではもう無理や"と悶々としてた時に、MusicproducerをしてるGeG(変態紳士クラブ)からTwitter(現X)で、"Aillとバンドしたい。レゲエバンド組もうや"とDMが来て。集まった7人のメンバーはほぼ初対面の人ばかりで、ほんとにゼロからの始まりでした」
--GeGさんがメンバーを集められたんですね。
「そうです。レゲエバンドとして女性ボーカルで売っていこうという感じでしたね。今一緒に制作をしてくれてるTyaPaTii(Gt.)もメンバーの1人で、そしてドラマーのShowは私の主人になり(笑)」
--旦那さんと運命の出会いが!
「"あかんやろ"って、めっちゃ怒られました(笑)」
--2017年にはYARD VIBES BANDでEP『7COLORS』を出されていますね。
「"早速レコーディングするぞ! 曲を作らない意味はない"と言って、皆で急いで作りました。梅田CLUB QUATTROでイベントをやったり、すごく活発に活動してましたね」
--今は活動は?
「私が妊娠したのと、皆それぞれの活動で忙しいタイミングが重なって、解散はしてないんですけど、活動の機会は減りましたね。去年の自分のワンマンで久しぶりに集結しました」
--YARD VIBES BANDでの経験が、ソロの活動に活きていることはありますか?
「バンドって会話が必然的に多くなるじゃないですか。私は人との会話が不得意だと思っているので、"自分の要望をいつ言えばいいんやろう"とか、自分の中の葛藤はありました。でも皆さんプロフェッショナルで信頼していて、流れるように自然と曲になっていく様子を目の当たりにして、"こうしたらこういう形になっていくんや"とものすごく参考になりました」
--流れるような制作過程というのは?
「制作チームがスタジオでセッションして、それがオケになって上がってきて、私のフロウを乗せるというやり方で、スピード感がすごく早かったですね。私1人で作ろうと思うと、どんな音にするかイメージから考えるけど、それを皆で出し合えたらこんなにも早くできるんだって。それはすごくソロにも活きましたね」
"自分と音楽"に向き合い続けた、再構築の時間
--そこから3年経った2020年に、KKJ(コカジ)さんプロデュースのシングル『Restoration』で5年ぶりにAillとしての活動を再構築されたということですが、どのように構築を試みたんですか?
「まず子供が生まれて、名もなきミュージシャンだし、"子供が生まれたら主婦にならないといけない"みたいな、一般的な意識から脱却するのにすごく時間がかかったんですよね」
--きっと色々言われますよね。
「すごく言われますね。普段あまり会わないくらいの人に"自分、子供おるらしいやん。音楽辞めんねやろ?"みたいに軽く言われたり。当然親にも言われますし。でも"音楽をやりたい"という気持ちと"これからどうなっていくんだろう"という気持ちで、悶々としていて。人のことが羨ましかったり、自分をコントロールできない時期もありました。"そもそも自分にとって音楽って何だろう"と考えるキッカケにはすごくなったと思います。子供が生まれて3か月の頃はまだYARD VIBES BANDをやっていたので、ライブもあったんですけど、制作面で行き詰まって。"自分と音楽"というものに向き合うと後悔が出てきたり、現状と比べてしまって、"今はできないな"となった時期が2〜3年ありました」
--しんどかったですね。
「出産前は、主人が正社員にならないと結婚できないとか、生活面でもゼロからのスタートで。引っ越し先が縁もゆかりもない場所で、周りに友達もいなけりゃ、実家から2時間半ぐらいかかる距離で、身体の中に子供はいるけど、見えてない何かを守っている漠然とした気持ちで、すごく不安で。それが音楽に繋がるのかどうかも、あやしかったんですよ。"どうせやれないだろうな"、"一般的に考えたらそんなお母さん嫌だろうな"と考えちゃって。 自分で選んだ環境なんですけど、SNSを見たらいつも通り音楽をやってる皆がいて。SNSを全部消して、自分で自分を守らないと、ほんとに立っていられなくて。子供が生まれて忙しくなってからも、"難しいかな"みたいな葛藤があり。その時主人が紹介してくれたビートメーカーが、KKJくんだったんですよ。自信もないし、喪失から始まる感じだったけど、"自分のペースでやったらいいから、待ってるよ"と音源を送ってくれて。その年から一緒にやってくれましたね。ほんとに音楽のあり方を再構築する感じでした」
--気持ちが決まったんですね。
「それまで迷ってたんですけど、"もう絶対やる。売れる"と思いました(笑)。2020年は決意が固まった年でしたね」
--ご自分と音楽について、かなり向き合われた。
「これまでの道も自分が選んできたけど、選んでもらってきたみたいな感覚があって。"自分はこういうものが歌いたい"という意思があやふやだったなと、その時期に思ったんですよ。楽しいだけでやってきて、それも正解だと思いますけど、自分の中ではそれ以上のものが作れないというか。私は音楽の才能に長けているわけでも知識があるわけでもない、超一般人なんですけど、自分だけが書けるものや、自分の環境で今書けることにちゃんと視点を置いて伝えていったらいいんだと思って。"やりたいけど、子どもがいてできないかもしれない"みたいな繊細な部分って、全く通じない部分じゃないと思うんですね。同じ境遇の人に向けてのお守りみたいな立ち位置で、音楽をやっていけたらなと思います」
日々の葛藤を受け入れ、音楽に昇華することで、誰かの救いになれば
--基本的に曲は実体験を書いているんですか?
「そうです。自分の中の葛藤とかですね」
--再構築後、それをどのように届けたいという気持ちで『Restoration』をレコーディングされましたか?
「レコーディングはどちらかといえば苦手で。一生ものだからこそ意気込んでしまうので本当に時間がかかりますね。でも"それがAillなんだ"って。否定的じゃなくて、"それが私"と受け入れる。1つ1つ気にしちゃうのも私だし。"もう着飾れない、ほんとに素で勝負だ!"みたいな感じですね」
--『Restoration』以降はコンスタントに楽曲を出されていますね。『Bias』(2020年9月リリース)は先入観からの解放を描いていて。
「学生時代からずっと介護で働きながら音楽をやっていて、結婚しても介護の仕事をして、それってすごく自分の日常で。"あの人がどうやこうや"と悪口や愚痴を言う現場に、当然私もいる。そこで感じる悶々とした気持ちが、全部曲に出ています。今作の『Floating』の『MIRROR(M-1)』でも、"人は鏡"というか。"ああ、また言ってるな"と思うんですけど、"でも私もそこにおる当事者の1人やしな"みたいな。そういう日常なんやなと受け入れるし、それがダメとか言ってるんじゃない」
--モヤモヤすることもあるけど、そんな日々を受け入れて、それを音楽で昇華すると。
「"聴いて"とはおこがましくて言えなくて。だけど何かで知って聴いてくれた時に、"あの人、あんなこと思ってたやんな"みたいに処理してくれたらいいなというか。それも1つのエゴですけど、曲がお守りになってくれたらなと思います」
--ちなみに職場には、活動のことは?
「言ってて、応援もしてくださってます」
聴いてくださった方も、ちょっと楽だなと思える曲を作っていきたい
--今作『Floating』はTyaPaTiiさんがプロデュースされています。どんなキッカケで制作が始まったんですか?
「元々YARD VIBES BANDを一緒にやっていたのもあって、ずっと繋がってはいたんですよ。で、KKJくんとやり始めた時に、"お前またやりだしたんか"と気にかけてくれて。去年のワンマンでYARD VIBES BANDで集まった時、改めてがっつりメンバー1人1人と喋る時間ができて。TyaPaTiiも自主制作してるし、R&Bやブラックミュージックでまた一緒にやれるんじゃない?みたいな感じで、自然と制作が始まりました」
--では『Floating』には、そこから作った曲が入ってるんですね。
「全曲そうですね」
--今作には、Aillさんの価値観や影響を受けたものが如実に反映されているのと、身軽に自由になっていきたい、という曲が多いなと思いました。伝えたいメッセージやテーマはありましたか?
「そもそも私自身、すごくしがらみもあるし、偏見も多かったので、そこをどう砕いていくか、生きやすい自分をどう選択していくかという部分で、聴いてくださった皆さんもちょっと楽だなと思えるような曲を作っていきたいというのは、大元のコンセプトにありました。サウンド面では自分のルーツを辿ろうというので、TyaPaTiiとも話し合って、レゲエやR&B、ネオ・ソウルを入れ込もうという方向性的に決まりましたね。あとは、"Aillもう書いちゃいなよ!"、"書いちゃいます!"みたいな感じで、一気に書き上げました(笑)」
--1曲目の『MIRROR』は、先ほど"人は鏡"とお話いただきました。
「職場でどうのこうのありますけど、"自分もその中の1人"というのがキーというか。ああだこうだ言ってるけど、俯瞰的に見て、"人って鏡よなー"と言ってる自分もそこにいる。でもそういうのがあるからこそ、前を見れる。それを曲にできたらなと思いました」
--介護の現場はヘヴィだし、コミュニティが狭いように思うので、仕方ない部分もありそうですが......。
「ほんとに。波のある仕事ですし、ある日突然利用者さんにすごく心を持っていかれたり、気が病んだりします。私は在宅介護なので結構個人プレーなんですけど、スタッフが集まった時は"やっと共感してもらえる人がいる"みたいなマインドなんですよ。それはそうあるべきだし、そこで救われる部分もあるんですけどね」
--溜め込まないためにも、吐き出すのは大切ですよね。それは誰にでも当てはまることだなと思います。歌詞を書く時はスラスラいけるものですか?
「まず、テーマを決めるのにすごく時間がかかるんですよ。リリック自体は日頃の小さなことを書き溜めてたりして、それをパズルのように組み合わせます。『MIRROR』はテーマが明確だったので、もうぶわーっと書けました(笑)」
--歌い方の部分で、<会話ずっと阿呆みたい>が"hold me tight"に聞こえたんです。
「嬉しいです! ありがとうございます!」
--意識はされてないんですよね?
「標準語や関西弁の使い分けは意識してなくて。ぶわーっと書いて、それを訂正していく感じです。あと『MIRROR』の歌詞で着飾るのも何か嘘やなと思って、結構ありのまま綴った形です」
--メロディーへの言葉の乗せ方はどのように調整していくんですか。
「メロディー優先です。まずオケがあって、私はメロディーだけを2〜3テイク録るんです。そこでリリックを乗せていきます。"ここは語尾が変だな"という部分は調節していって。ほんとにパズルやなと思います」
強い女性像を描いた1曲
--『Sorry Not Sorry(M-2)』はすごく軽快ですね。個人的に好きな曲です。
「ありがとうございます! この曲はめっちゃグルーヴに悩まされました。自分の曲で今までこんなにアップテンポで明るい曲がなかったので、1番悩んだかもしれない」
--悩んだのは歌い方ですか?
「そうですね。小さい"ッ"とか、跳ねる音を使わないと、このリズムには乗れないなと。TyaPaTiiもブラックミュージックが好きなので、2人で"グルーヴを立てていこう"と、本当にああだこうだ言いながら作った曲でした。レコーディング中に"ちょっと待って~"と芋虫になったりして(笑)」
--SNSで呟いておられましたね。難産だったんですね。
「曲を録るのはすごく難産でした」
--キャッチーなメロディーだけど、歌詞はインパクトがあって。
「それも1つの解放というか」
--英詞と日本語詞を単語レベルで混ぜていらっしゃいますね。
「私は英語が得意な方じゃないので、変に着飾っても自分で意味がわからなくなっちゃうかなと。ただ、英語はリズムが日本語と全然違うので、グルーヴを良くするために、"ここは英語でいきたい"というところは英詞を乗せました」
--完成した時の喜びは?
「達成感がえげつなかったですね」
--今回の制作でインスピレーションを受けたアーティストさんはいらっしゃいますか?
「ネオ・ソウルのエリカ・バドゥや、ローリン・ヒルが好きなんですけど、この曲に関しては、リファレンスがリゾさんでした。めっちゃ軽快でリズムがあってグルーヴしてて、何も恐れてないサウンドが、私にはすごく印象的で。それをイメージして作りました」
--この曲で一番言いたかったことは?
「これも実体験なんですけど、昔の恋愛を情景が見えるようにわかりやすく書いたんです。"縛られるものや人間関係、しがらみや呪いから脱出していこうぜ!"みたいな。謝る気もないし、"私は私やから"みたいに、結構強気です」
--強い女性という感じですね。
「イメージが伝わってて嬉しいです」
伝えたかった前向きな姿勢
--続いて『Infinity feat.ZERO(M-3)』。ZEROさんをフィーチャリングしたきっかけは?
「ZEROくんとは家族ぐるみでプライベートでも仲良くさせてもらってて。そもそも主人が制作してるアーティストさんで、家によく来るので仲良くなり。彼の作る曲はどれも、"苦しいけど共に頑張っていこう"みたいな曲なんですよ。それがZEROくんの良いところ。彼の繊細さが表れている。だから、この曲をZEROくんとやりたいと自分でオファーしました」
--ZEROさんパートのリリックはZEROさんが?
「彼が書いてくれました。"自分愛"というテーマで、もし書けるなら書いてほしいですと言ったら、快くやってくれました」
--この曲にはAillさんの人生観が出ていますよね。<苦楽はいつもfifty-fifty>や<思考だけでは産めない>、あとは<India Arie Video>が特にそうかなと。
「そうです。もうまんま出てますね(笑)」
--"Videoに諭された"とありますが、聴いたのはいつ頃でしたか?
「学生時代です。洋楽をよく聴くようになった時、90年代のR&B、LAやアメリカ系のR&Bってギラギラしてて、聴く時にパワーが要る感じがして。でも、ナチュラルという言い方が合っているかわからないけど、インディア・アリーを和訳して聴いた時に、"海外の人でもこういう感覚があるんだ。私だけじゃないんだ"と思わされて。『Video』を聴いてから、"自分とは?"みたいな課題と向き合うようになりましたね」
--『Video』には、"ありのままでOK、自分を愛して"というメッセージが込められていますね。Aillさんの歌詞には関西弁も多くて、それはAillさんらしさなのかなと思いましたが、ご自身ではいかがですか?
「歌詞を飾ってもうたら、もうやる意味ないやんと思うので。自分の中では"歌詞を書いた時点で関西弁なら、これは関西弁でいこう"みたいな基準があります」
--なるほど。<思考だけでは産めない>というリリックも印象的でした。
「私ほんとに、石橋叩いて渡っちゃうんですよ。勝手に煮詰まって目まいするぐらい、心のストレスが体に出るんですよね。今まで構えてたところを乗り越えなあかんみたいな局面が来た時に、"私いつも考えすぎなんかな"って。やってみた時の感覚はその時にしかわからないのに、それを前借りのように、"こうなったら、ああなったら"みたいに、自分で荷物を増やしてるというか。ライブも生ですし、この曲では"思考だけじゃないよ"と言いたかったんです」
--考えすぎると動けなくなっちゃいますよね。
「頭でっかちになっちゃいますよね」
--動くことを大事にされている。
「今はそうですね」
--そして<苦楽はいつもfifty-fifty>ということは、良いことも悪いことも半分ずつだよという価値観を持ってらっしゃると。
「一見子供ができて、100ハッピーに見えると思うんです。当然そうなんですけど、その裏側にもワンオペだったりが付き物で、苦楽が一緒に動いてるものだなって。その歌詞がふわっと出てきてくれました」
--最後のZEROさんと2人で歌っておられるところは、"共に進んでいこう"というメッセージですか。
「そうですね。これだけうじうじ言ってるし、"もうダメだ"とか言いながら生きてるんですけど、やっぱり前は向きたいよねって。その姿勢がZEROくんと同じだったので、そこを出せれたらなと思っていて。結果うまく出せたなと思います」
着飾らず、自分らしさを求めて、それを形にできた作品
--最後の『dilute(M-4)』はカップルのお別れの曲ですね。
「子供を生むまで、恋愛の曲を書くのがほんとに嫌だったんですよ。大きく言えば"愛"なんですけど、時系列が見えたりするのが生々しくて、曲にできなくて。けど子供が生まれて落ち着いた時に、"失恋の経験も大まかに言ったら愛のストーリーだし、頑なにやらないことに、何でそんなにこだわってたんだろう"と思ったのが、脱却というか。情景が見えるほどのリアルさを出したかった曲ですね。今回初トライです」
--初めて具体性をもって恋愛の曲を書いたんですね。やってみてどうでした?
「浄化されました(笑)。未練があるとかじゃなくて、当時の自分の悶々とした気持ちが、上に上がっていきました(笑)」
--Aillさんは愛を歌いたいんですね。
「愛って角度を変えてみたらすごいエゴだったりするけど、何100通りあるじゃないですか、それを1曲1曲、私のフィルターを通して形にするのが楽しくて。音楽をやる意味の1つかなと思います」
--改めて『Floating』はどんな1枚になりましたか。
「これまでの作品は"やるぞ、再構築じゃい!"みたいな感じだったんですけど、今回はほんとに自分がやりたいことを詰め込めましたた。着飾らず、自分らしさを求めて、それを形にできた作品ですね」
--これからも自分らしく飾らずに歌っていきたいと。すごく良い顔をしておられますね。
「ありがとうございます。嬉しいです」
--今後のライブの予定は?
「今ライブスタイルで悩んでる部分があって。一旦人数を減らして、元のシンプルな位置に戻そうと漠然と思っていて。ワンマンの時は派手にやりたいですけど、一旦ミニマムでコンスタントに動けたらなとは思っています ※12月3日(日)にあびこbeat inでライブが決定」
Text by 久保田 瑛理
(2023年11月29日更新)
【収録曲】
1.MIRROR
2.Sorry Not Sorry
3.Infinity(feat.ZERO)
4.dilute
https://linkco.re/srdHevzy
兵庫県尼崎市出身。ストリートライブから活動を始め、自身のルーツであるR&B、ネオ・ソウル、レゲエ、POPSそれぞれの特性を巧みに行き来し、ジャンルを超えて人々の心を魅了し続けている。2015年5月、Zentaro Mori(from soulflex)全面プロデュースのもと1st EP『I'll be Aill』をリリース。ワンマンライブもソールドアウトで無事成功をおさめ、2016年に総勢7人のレゲエバンド・YARDVIBESBAND(ヤーバイスバンド)を結成、すぐに梅田クラブクアトロでのライブを果たし、2017年『colors』をリリース。2021年6月にはnamscafeでスタジオライブ『Gravity』をYouTubeで公開。2022年7月には7年ぶりのワンマンライブを無事におさめ、2023年9月にTyaPaTii(from Breaking Atoms)全プロデュースのもと4曲入りのEP『Floating』をデジタル配信中。
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