ホーム > インタビュー&レポート > 井上竜馬、藤井怜央、寺口宣明が弾き語り 夏の余韻を歌声に閉じ込めた 『夏の終わりのハーモニー』ライブレポート
今年の夏は猛暑だった。だけど終わるとなると寂しさが訪れる。イベントタイトルからそんなことを思いつつ、会場のMusic Club JANUSへと急ぐ。暦の上では夏の終わりだが、とはいえまだまだ残暑は厳しい(この記事が出る頃には涼しくなり始めているだろう)。
この日のJANUSは前方が着席、後方が立ち見というスタイル。ステージにはレトロなシェードランプと絨毯が置かれ、まるで誰かのおうちにお邪魔したようだ。チケットはソールドアウト。パンパンになった会場で、オーディエンスは期待感を高めつつ、今か今かと開演の時を待っていた。
トップバッターで登場したのは、大阪での弾き語りは2~3回目だという藤井怜央。「こんばんは、Omoinotakeのボーカル、怜央です」と挨拶しピアノを奏で始める。1曲目は、彼の故郷である島根県松江市のNHK松江放送局 開局90周年記念イメージソングとなった『オーダーメイド』。透明感のある歌声があっという間に会場を満たす。近距離で浴びる藤井の歌声の迫力と美しさに、のっけから圧倒された。空気を震わせるビブラートには思わず鳥肌が立つ。何と贅沢な時間だ。
続いては『幸せ』を披露。バンドサウンドももちろん本当に素晴らしいのだが、弾き語りだとメロディーラインの良さと藤井の浄化パワーのあるボーカルがより一層際立つ。目を閉じて歌う藤井の表情も幸せそうで、心がやわらかくなる。
MCでは「平日の夜にようこそ。たくさんお集まりいただきありがとうございます」と挨拶。共演の2人について「竜馬くんとは去年の10月に新潟でツアーに呼んでもらって初めましてだった」と出会いを回顧。井上とは同い年の藤井。同い年でも仲良くなるのに時間がかかると話す藤井だが「打ち上げでめちゃくちゃ仲良くなって、今はすっかりタメ口で喋らせてもらってます」と笑顔。「宣明くんは今日が初めましてだけど、竜馬くんの反省を活かして、一応年下だし仲良くなるまで時間かかるタイムやめようと思って、言っていいのかな、2人だいぶ......」とお酒を飲んでいることを言いかけると「やめろー!」と関係者席で見ていた井上からヤジが飛ぶ(笑)。3人でライブ前に話す時間を持てたということで、仲良くなれた様子。「今のところリラックスできているかなと。インスタライブぐらいの感じでいこうかなと思います」と肩の力を抜いて『Bitter Sweet』を腹の底から歌い上げ、夏にぴったりの『空蝉』を投下。淡く切ないグッドメロディが1音ずつ細胞に染み渡るようで、ただただ酔いしれる。さらに7月リリースの新曲で、TVドラマ『彼女たちの犯罪』主題歌の『渦幕』を、何とバンドよりも早く、弾き語りで初披露。低めのピアノと振り絞るようなハイトーンボイスがまさにドラマティックでカッコ良い。
同じく初めて弾き語りでの披露となる、2021年のメジャーデビューEP『EVERBLUE』に収録の銀杏BOYZのカバー『漂流教室』では、背後からたちのぼるスモークと照明が、夢の中にいるような雰囲気を醸し出す。集中して歌い終わると「良い曲だな~! 銀杏BOYZだよなやっぱりな」とキッズの一面をのぞかせた。
極上の時間も残りわずか。至極のラブソング『心音』では、じんわりとあたたかくなる歌声が丸く柔らかなサウンドスケープを描き出す。ふっと上がる高音の素晴らしさは涙が出るほど琴線に触れる。その声と空間全てを全身で受け止め、味わうオーディエンス。ラストは『EVERBLUE』。壮大かつ疾走感のあるサウンドでクラップが発生。高い表現力と力強いボーカルで魅了した30分。藤井は「最後まで楽しみましょう!」と充実の表情を浮かべてステージを去っていった。
2番手はIvy to Fraudulent Gameの寺口宣明。先ほど藤井にお酒を飲んでいたことを暴露された寺口は、登場するなりガッツボーズ。アコギを軽くつま弾きながら「こんばんは! 平日なのにありがとうございます! 楽しんでますか? 俺はもう裏で楽しんでるので」と笑いを誘う。そのまま『Heart room』へ。伸びやかで甘い歌声が柔らかく会場に溶けてゆく。歌い終えると「酔っ払ってんな。泣きそうだな」と感情の高ぶりをあらわに。「俺弾き語りでこんなたくさんの人に聴いてもらったことなくて。酒飲んでて良かったかもしんないな」と話す。ほんの少し顔も赤いようだ。続く『ゴミ』では、歌いながら「フー! セクシィ!」と自分自身でガヤを入れる。客席のクラップに支えられてギターレスでアカペラで歌う場面もあり、泳ぐように気持ち良いグルーヴを響かせた。
心底嬉しそうな笑みを浮かべてMCへ。「怜央くんとは初めましてなんですよね。竜馬くんとは10年ぐらい一緒なんですけど、2人(井上と藤井)は同い年ということで。でもここまでくるとあまり年は関係ないなと思ってて。だから俺、ウサギ組の時にゾウ組の人に全然敬語使わなかった」と幼稚園時代の話を持ち出し「長い人類で見たら皆同い年。100歳も1歳も変わんないと思う」と持論を展開してお茶目な一面を見せる。
ほわほわと楽しい空気で満たしたと思えば一転、『脈拍にくれ』では笑顔を封印し、アダルトかつシリアスな雰囲気でパワフルに歌唱、生っぽいギターのバッキングでこれまでとは違う印象を与える。このギャップにやられた人も多いのではないだろうか。そして「平日の真ん中、真っ平らな日。皆でここに集まって平らな日をボコボコにして帰りたいと思います」と独特のトークを展開して『sunday afternoon』を軽やかに奏でる。くるくる変わる表情は見ていて飽きない。
9月から始まる弾き語りツアーで会場限定発売するCDに収録の『ひとり』を初披露した後、「改めて呼んでくれてありがとうございます。バンドの方もカッコ良いんですよ。そっちもよろしくお願いします」と述べて、歌詞にインパクトのある『傾き者』を囁くように吐き出すように歌い、ボーカル力の幅広さを見せつけて客席を釘付けにする。ラストは「そろそろ時間なので帰ります。ありがとうございました。すげえ楽しかったです」と微笑んで『この春に君がいる』で締め括る。光と闇が同居し、楽曲の本質が表情に出るのが寺口だ。息遣いや声の強弱、仕草や目線。寺口を構成する全てで楽曲に入り込み、世界観を作り上げているように見えた。後半、思い切りハイトーンボイスで感情をむき出しにし、ギターレスで力を込めて歌い上げる。お茶目なキャラとボーカリストとしての実力をしっかりと提示した40分のライブだった。
トリはSHE'Sの井上竜馬。テーブルに置かれたお酒と水のうち、お酒に手を伸ばそう......とする小芝居をしてひと笑いを起こした井上は「やりますか」と気合い十分。まずはアコギを持って『グッド・ウェディング』を伸びやかに奏でる。途中「ちょっと歌ってみようか!」とコール&レスポンス。井上の歌声はクリーンで自由で、ひと声が大きく存在感がある。一瞬で場を作り上げてしまうのはさすがだ。
続いてはピアノの前に座り「平日の夜にお集まりいただきありがとうございます。いきなりでてきて酒ひと口飲んで、気持ち悪いなあ(笑)」と自虐(?)しながら、お酒をまたひと口注入。流暢な英語詞を伸びやかに響かせてルーカス・グラハムのカバー曲『Love Someone』を披露。
そして「(曲を)フルでやる予定やったんですけど、色々やりたくなりました。何やろうかな。ほんまに決めてなくて。でも色々やりたくなってしまった」と言って、たくさん楽曲を聴かせてくれることに。『Spell On Me』の1番をしっとりとピアノで歌い上げ、「何かやってほしいのあるかな」とつぶやくと客席から『幸せ』とリクエストが飛ぶ。井上は「『幸せ』って曲、Omoinotakeにもあるよね。これ話さして」と笑顔でOmoinotakeの同曲がアニメ『ホリミヤ』のOPテーマになっていることを話す。「オモタケの曲聴くついでに『ホリミヤ』見てみよかと思ったら、どハマりしてしもうて。あれヤバいで。胸キュンキュンしすぎて死んでしまいそうになった。あんな恋愛したかったでな、高校生の時に。いつからこうなってしまったんや」と言いながら、SHE'Sの『幸せ』の1番を優しいタッチで歌い上げた。
ここからは寺口・藤井とのコラボタイム。昨年SHE'Sの対バンツアーにゲストとして出演したIvy to Fraudulent GameとOmoinotakeが、それぞれアンコールでSHE'Sと一緒に演奏した楽曲を聴かせてくれるという。まずは寺口がお酒片手に登場。上手と下手を間違えるという酔っ払いらしいボケも交えつつ進行。「いけるか大阪!」と客席を煽る寺口に「違う違う、バラードにいけるかはいらんのよ」と止める井上。さらにキラキラした笑顔で「今からやる曲ね、時間が4分23秒なの。俺、4月23日生まれなの。ラブソングなの。意識しすぎ!」と1人喜ぶ寺口に「俺は女の子が好きだ!」と冷静にツッコミ。息ぴったりの掛け合いには会場も爆笑。そして歌われたのはSHE'Sの『White』。少し低めの寺口の歌声とみずみずしい井上の歌声が広がり、本当に気持ち良い。サビで重なる2人の美しいハーモニーにはうっとりと酔いしれた。最後のハモリは2人目を合わせてフィニッシュ。客席からは割れんばかりの拍手が贈られた。
「あと3曲くらいやりてー!」と叫んでステージを去る寺口に代わり、お次は藤井がステージに登場。藤井は「2人のコラボめっちゃ良かった。ハードルめっちゃ上がったわ」とやる気を見せて「いけるか大阪ー!」と煽ると、すかさず井上が「もっかいバラードやねん(笑)」とツッコむ。藤井とは、SHE'Sの『Chained』を披露。前に放たれる力強い藤井の歌声に負けじと重なる井上の圧倒的なハーモニー。寺口とのハーモニーとはまた違う雰囲気で、パワフルに突き出る2人のビブラートは目が覚めるようなエネルギーに溢れ、本当に素晴らしかった。
「どうすかほんまにあの2人。歌うますぎやろほんま」と言いつつ、時間を気にして「あと10分もある!」と井上。『Blowing in the Wind』をグルーヴィに歌い、楽しい空気で満たして会場をひとつにした。関係者席では、そんな様子を2人並んで見守る藤井と寺口の姿が見られた。
最後のMCでは、「皆さんお酒はよく飲んでますか?」と良い顔を見せる。「お金払ってきてるのに酔っ払いで申し訳ないです。でも歌えてるレベルで良かったかな(笑)」と笑う。弾き語りだからこそのラフさもファンにとっては嬉しいものだ。そして「あの2人はいつでも素晴らしい歌をパフォーマンスをバンドでもやってて。弾き語りというレアな場ではあるんですけど、初めて対バンで見て、気になるなこの人良かったなと思ったら、ぜひバンドのライブも見に行ってみてください。彼らは5倍増し10倍増しでカッコ良くやってるので」と述べ「俺は音楽のことをお守りやと思ってて、そんなお守りが皆さんの中でどんどん増えていきますようにと願いを込めて」と大切そうに『Amulet』を紡いで本編を終えた。
惜しみない拍手はそのままアンコールを求めるクラップに変化。先に井上が登場し「せっかくなんで3人でやろうと思います!」の言葉で、寺口と藤井もステージに再登場。客席ももちろん大歓喜。お酒が入ってすっかりへろへろの寺口は「すげえ楽しかったっす!」と笑顔。ちなみに藤井はお酒はやめたそうだ。
最後はイベントタイトルと同名曲の、井上陽水と安全地帯の『夏の終わりのハーモニー』をカバー。寺口はもともと1人で歌おうとしていたそうだが、トリを担った井上が2人に声を掛けて「やろう」となったそう。1986年にリリースされた楽曲で、寺口は「2001年生まれのスタッフはこの曲を知らなかった」、藤井も「知らなかった」と話す。だが井上が「通ってきた音楽だってもちろん違うし、世代によっても違うし」と話したように、どんな違いがあっても繋がれるのが音楽の良いところ。「俺が玉置浩二さんやればいいんやっけ?(井上)」「俺が井上陽水さん(藤井)」と、モノマネをしながら歌い出す2人に「怜央くんは怜央くんのままでいい!」と寺口のツッコミが入り、わちゃわちゃ仲良くなった3人で『夏の終わりのハーモニー』を贅沢に響かせた。これぞ綺麗な終わり方。
こうして、素晴らしい余韻を残して終了した『夏の終わりのハーモニー』。ぜひ来年も開催してほしい、そう願うほど素敵なライブイベントだった。
Text by ERI KUBOTA
(2023年10月12日更新)
『夏の終わりのハーモニー』
2023.8.30 Wed at 心斎橋JANUS
[出演]井上竜馬 (SHE'S)/寺口宣明 (Ivy to Fraudulent Game)/藤井怜央 (Omoinotake)
藤井怜央
01. オーダーメイド
02. 幸せ
03. Bitter Sweet
04. 空蝉
05. 渦幕
06. 漂流教室(銀杏BOYZカバー)
07. 心音
08. EVERBLUE
寺口宣明
01. Heart room
02. ゴミ
03. 脈拍にくれ
04. sunday afternoon
05. ひとり
06. 傾き者
07. この春に君がいる
井上竜馬
01. グッド・ウェディング
02. ミッドナイトワゴン
03. Love Someone(カバー)
04. Spell On Me
05. 幸せ
06. White(w/寺口宣明)
07. Chained(w/藤井怜央)
08. Blowing in the Wind
09. Amulet
EN. 夏の終わりのハーモニー
SHE’S Tour 2023 “Shepherd”
【大阪公演】
チケット発売中 Pコード:244-968
▼12月10日(日) 17:30
Zepp Osaka Bayside
1Fスタンディング-4950円(整理番号付、ドリンク代別途要)
※未就学児入場不可/小学生以上有料。
※再入場不可/撮影・危険・迷惑行為禁止。
※客席を含む会場の映像・写真が公開されることがあります。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は12/3(日)朝10:00以降となります。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400
reGretGirl presents LOVE × CALL TOUR 2023
チケット発売中 Pコード:244-907
▼10月27日(金) 19:00
なんばHatch
スタンディング-4400円(整理番号付、ドリンク代別途要) 2F指定席-4400円(ドリンク代別途要)
[ゲスト]SHE’S
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は10/20(金)朝10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
Ivy to Fraudulent Game Presents “揺れる“tour
【兵庫公演】
チケット発売中 Pコード:249-230
▼10月15日(日) 17:30
神戸 太陽と虎
一般-3900円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-1900円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]FOMARE
※未就学児童は入場不可。学割チケットは学生証をお持ちの全ての方が対象となります。年齢は関係無く中学生・高校生・高等専門学校生・専門学生・短大・大学生・大学院生が対象(公演日当日に学生である必要あり)。学割チケットをご購入の方は公演日当日、学生証・身分証明書のご提示が必要となります。ご提示いただけない場合は一般チケットとの差額分をお支払いいただきます。お客様都合でのチケットの払い戻しは致しかねます。予めご了承ください。
※販売期間中は、インターネット(PC・スマートフォン)のみで販売。1人4枚まで。チケットは、10/12(木)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224
【京都公演】
チケット発売中 Pコード:249-230
▼10月28日(土) 17:30
KYOTO MUSE
一般-3900円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-1900円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
[ゲスト]moon drop
※未就学児童は入場不可。学割チケットは学生証をお持ちの全ての方が対象となります。年齢は関係無く中学生・高校生・高等専門学校生・専門学生・短大・大学生・大学院生が対象(公演日当日に学生である必要あり)。学割チケットをご購入の方は公演日当日、学生証・身分証明書のご提示が必要となります。ご提示いただけない場合は一般チケットとの差額分をお支払いいただきます。お客様都合でのチケットの払い戻しは致しかねます。予めご了承ください。
※販売期間中は、インターネット(PC・スマートフォン)のみで販売。1人4枚まで。チケットは、10/25(水)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224
【大阪公演】
チケット発売中 Pコード:249-230
▼2024年1月21日(日) 18:00
BIGCAT
一般-3900円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学割-1900円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
※未就学児童は入場不可。学割チケットは学生証をお持ちの全ての方が対象となります。年齢は関係無く中学生・高校生・高等専門学校生・専門学生・短大・大学生・大学院生が対象(公演日当日に学生である必要あり)。学割チケットをご購入の方は公演日当日、学生証・身分証明書のご提示が必要となります。ご提示いただけない場合は一般チケットとの差額分をお支払いいただきます。お客様都合でのチケットの払い戻しは致しかねます。予めご了承ください。
※販売期間中は、インターネット(PC・スマートフォン)のみで販売。1人4枚まで。チケットは、1/18(木)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224
SHE’S
http://she-s.info/
Omoinotake
https://omoinotake.com/
Ivy to Fraudulent Game
http://www.ivytofraudulentgame.com/