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ソロアーティストとして初のライブツアー目前
FUKUSHIGE MARI、少し早めの
2023年プレイバックとこれからのこと

FUKUSHIGE MARI、シンガーソングライターであり、映像音楽の作曲家であり、音楽プロデューサーであり、キーボーディストとしても活躍――ゲスの極み⼄⼥のキーボードのちゃん MARI だと言えば、「あぁ!」と膝を打つ読者も多いのではないだろうか。彼女がバンドというものから少し離れ、自ら曲作りを行うプロジェクトは本名でもある「FUKUSHIGE MARI」の名義で活動を行い始めてから4年、11月には自身の生まれ故郷の鹿児島を含めた全国3ヶ所で初めてのライブツアーを行うことがアナウンスされている。そのツアーを前に、FUKUSHIGE MARIとしてもちゃんMARIとしても自分の中にある豊かな音楽表現と、高い音楽技術をいかんなく発揮しながら、「いつ休んでいるのでしょう?」と聞きたくなるほど日々音楽に向き合っている彼女の、現在地とこれからの未来に向かう先が知りたくて、Zoomでのインタビューを敢行。たっぷり1時間丁寧に自分の思いを語り、音楽と音楽を通して人とコミュニケーションを図ることを愛してやまない女性の姿がそこにあった。

自分自身が心から驚いた
日本アカデミー賞優秀音楽賞


――FUKUSHIGE MARIさん、ソロとしてぴあ関西版WEBに初登場です。今日はよろしくお願いします!

「よろしくお願いします」

――ようやく気持ちのよい季節になりましたけど、最近はどんな日々を過ごしていらっしゃいますか?

「この後のソロツアーに向けて準備をしている真っ最中です。初めてひとりでライブをすることもいろいろなことがかなり不慣れなので、準備を入念にやっていまして。自分はどうしたいんだろうと、判断して決定していかないといけないことの多さに戸惑っています」

――決めることとしては、どういったことがあるのでしょうか。

「セットリストやバンドメンバーに関することはもちろん、例えば物販グッズに何を作ろうとか、もっと言うと、まずどこでライブをするかも自分で決められるんです。それは、すごくいいことだと思っていて。だけど、いろいろ決断をしなきゃならないということに責任を感じています(笑)」

――後にもそのツアーについてじっくりお話を聞こうと思っているのですが、会場のお話が出たので...まずご自身としてはどういう会場を選ばれたんでしょうか。

「お客さん全員の顔が見えるところがいいな、すごく小さなところでやりたいと思いました。FUKUSHIGE MARIとして初めてのライブなので、小さいところから始めていきたいという思いもあるんです」

――ひとりひとりに曲を届けようとすると、サイズ感は小さい方がいい?

「大きい会場も楽しいけど、集団としてのお客さんという感覚にはなるかもしれないですね。逆に小さい会場だと、そのライブの空気をより感じ取りやすい。ステージの上は本当に私ひとりなので、もしかしたらその場でセットリストが変わっていくこともあるかもしれません。お客さんとどんどんコミュニケーションを取りながら流れも作っていく感じで。バンドだとそういうことは難しい分、ソロだと自由度は増しますね」

――その分、決めないといけないこともやらなきゃいけないこともひとりの肩に乗っかるという...。今日はFUKUSHIGE MARIさんにお話を聞くうえで、ご本人としての活動が本当に多岐っているので⼀旦現状の活動を確認というか、今どんな活動をされています? をお聞きしたいなと思っています。まず、最初に始められたバンド・Crimsonの活動に関して、現在は?

「今は活動していないですねぇ。ふわ~っとした状態で置いてあるというか。メンバーがやろうかというムードになれば、動き出す感じと言いますか」

――ふわっとした状態で置いてあるって、なんかいいですね。そして2つ目としてはゲスの極み乙女がありますが、この秋から春にかけての動きというと?

「今ちょうどアルバムの制作中です。あとライブは、年末にフェスへの出演が決まっています」

――その予定を聞くだけでも、すでにお忙しそうです。

「ゲスはみんな忙しいバンドで、それぞれのやりたいことをやりつつもみんなで集まった時にうわ~楽しいね~みたいなのが、すごくいいバンドだと思っているんです。それぞれ濃度の違いはあると思うんですけど、結成した時からずっとそういうスタンスですね」

――ご自身としてすごく当たり前のものとしてある、と。

「パーマネントのバンドという意識はかなり強いとは思います、私は」

――そして豪華メンバー勢揃いのiki orchestraの活動はいかがですか?

「中村達也さんとReiちゃんとひなっち(日向秀和)さんと私の4人で始めたんですが、そもそも途中で他のメンバーが⼊っても自由に出入りできるようなバンドにしようという話でした。なので今、私としては少し離れている状況ですね。ただ、また思いついた時にはすっとやるかもしれません」

――なるほど。そしてインストバンド・ichikoroですが。

「このバンドもメンバーがすごく忙しくて。ただ、多分来年あたりライブをやると思いますよ。ありそうな気配がしています」

――気配(笑)。そしてFUKUSHIGE MARI、ソロとしてのお話を伺えたらと。今年はソロとしての動きが活発だったのかなと思います。ご自身のアーティストとしての活動に加えてプロデュース業、映画・ドラマの劇伴奏制作と、FUKUSHIGE MARIとしてだけでも活動内容が実に幅広い。

「そうですね、自分で曲を作るプロジェクトは、全てFUKUSHIGE MARI名義にしようと思っていて。その中でまず映画音楽のお話をいただきまして、去年の春ぐらいはその制作で忙しくしていたんですが、今年はドラマの音楽もやらせていただきました」

――その今年に入ってからのFUKUSHIGE MARIとしての活動を振り返っていただきたいのですが、まず年明け、先ほどお話にも出た映画『⽉の満ち⽋け』の劇中音楽で日本アカデミー賞を受賞したことがニュースにもなりました。劇伴制作は初めてだったということですが、その制作はいかがでしたか?

「すごく楽しかったですね。もしかしたら向いているかもしれないとも思いました」

――ほー! そう思えたのはどういうところで?

「劇伴は、普通の歌もより短い曲が多いんですね。自分の傾向として曲が最後まで完成できないという悩みがたまにあって。3分、4分の曲を作ろうとすると、すごく時間がかかるなと思っていた時があったんですけど、劇伴だとそこをあまり深く考えなくてもよかったんです。それと、歌ものではなく楽器がメインである音楽が必要とされることが多いので、自分ひとりで完結できることもいいなと思いました」

――自分ひとりで完結できるというと?

「楽器の編成にもよるとは思いますけど、例えばピアノとちょっと声と、シンセだったら自分でもできるし、そういう編成であれば自分だけで完結できるんです。映画音楽もドラマもいろんな楽器の人にも協⼒していただいたので、その⼒ももちろんあります。でもこれまで自分が勉強してきてできることの中でうまくやれるのかなという感じがしているんです。もちろん映像音楽を専門にやっているわけではないので、⾜りないところや勉強しなければならないところはいっぱいありますけど、自分がバンドをやってきたからこそやれることもあると思っているんです。あとは、私自身いろんな音楽が好きなので、同じく幅広い音楽を求められた時にそのどれも楽しんで作ることができたので、向いてるのかなと思えました」

――ミュージシャンとして自分自⾝の音楽を制作するというのは、自由に作れることが魅力だと思うんですけど、一方で劇伴となるとある程度の縛りやテーマがあると思います。そういう劇伴の制作はどのように依頼されるものなのでしょうか。

「映画とドラマでも違ったのですが、映画は最初から最後まである程度映像がある状態で、それを見ることができました。そこに対して必要な音楽の時間がしっかり決まっていて、曲を合わせていくような感じでした」

――映像があるから、視覚からもいろいろ想像できますね。

「そうですね。ただ時間だけはきっちりしないといけない。一方でドラマは映像がなくて」

――ドラマはスタッフのみなさんギリギリで進⾏されているというイメージはあります。

「ただ今回の『こっち向いてよ向井くん』は漫画が原作だったので、脚本が手元に届くまでは漫画を読み込んで世界観を自分なりに解釈して臨みました。ドラマの制作の方々にこういう感じでいってみようと思うんですけどとお話してみたり、作った曲をお渡ししてみてそこからイメージを擦り合わせていくこともありました」

――同じ映像音楽の制作とはいえ、スタートもやり⽅も同じではないんですね。

「うん、そうでしたね」

――そんな初めての劇伴制作で、日本アカデミー賞を受賞したということは、自信につながったのでは? といます。歴史ある賞が手元に舞い込んできた感想はどうでしょう?

「最初、本当びっくりして。まさかそんな、初めて携わった映画音楽で賞をいただけるとは思っていなかったので、私でいいのかなという気持ちもありました。でも本当にありがたかったですね」

――ちなみに、映像の音楽を手掛けたいという思いはあったんですか?

「なんとなくやりたいとは思っていました。でも、自分にそういうお話が来るとは少しも考えていなかったですね」

――じゃあ実際にお話が来て、手がけて賞をもらうところまで来ると自分の思いもやり⽅も間違ってないんだなという指標にもなったのではないですか。

「はい。ただ、映像の音楽はもっといろんなアプローチの仕⽅があると思うから、またお話いただけたらちょっと違う⽅法でもやってみたいなと思うところもありますね」



FUKUSHIGE MARIの弾き語りは
おそらく"ピアノが強いライブ"になる


――日本アカデミー賞を受賞後、FUKUSHIGE MARI名義でデジタルシングル「dancing like a swallow」をリリースされましたけど、これは2019年以降、久々! という感じでした。2019年にリリースされた前作のEP『JAPANESE ONNA』では、どのような手応えを感じられていたのでしょうか。

「なんでもっと早く出さなかったんだ! と思ったのが⼀番でしたね」

――と、言いますと?

「できた音楽を、本当に⼤丈夫かなとか考え込む期間が長すぎたなと思うんです。それよりも、できたよっていろんな人に聞いてもらう方がよかったんだろうなと思いました。実際リリースしたら、ダイレクトな反応がたくさん返ってきて。こんなにいいと言ってもらえるなら、早く出しておけばよかったと思ったんです」

――温め損だった、と。

「はい。こういう曲がいいと思って作ってから時間が経ってしまったことで、自分の中でどんどん熱が下がっていっちゃうから、あんまりよくないのかなと思いました」

――じゃあ、この春の「dancing like a swallow」に関しては、できてすぐに出せた感じですか?

「(下を向いてフルフルと首を横に振る)」

――あはははは!

「コロナの期間中も曲をずっと作っていたんです。アルバムを出したいと言っても、レコード会社とのタイミングが合わずに2年ぐらい経ってしまって、そうこうしているうちに映画音楽のお話が進んだので、自分の作品に手がつけられなくなってしまったという4年でした」

――なるほど。それらが落ち着いたタイミングで「dancing like a swallow」のリリースの時が来たということだったんですね。リリースしてみてどうでしたか? やっぱりもっと早く出せばよかったと思ったのか、これはこれでいいタイミングだと思えたのか。

「タイミング的にはよかったのかなと思います。この曲は家族や友達、置いてきてしまった記憶など自分の生まれて育ってきた街の大事なものをテーマに書いた曲なんですね。アカデミー賞をいただいてたくさんの人によかったねって言ってもらえる時に出せたことで、ある意味恩返しができたのかなと思っているんです。だからこそ流れとしてはよかったのかな」

――ちなみにFUKUSHIGE MARIとして、個人としてはどういったことを歌っていきたいとかどういったことを表現したいとか、音楽を制作するにあたっての思い、またはテーマやコンセプトみたいなものはあるでしょうか。

「...うーん...実はあまりないんですよ(笑)。ないんですけど、私の曲を聞いた人からは、私小説みたいな感じだねとか、情景が浮かぶねと言ってもらっています。前作の『JAPANESE ONNA』に関しては、実際あったことではないけれど本当にあったことのように書きたいと思って歌詞を書きました。その思いが伝わっていたのはうれしかったです」

――ふむふむ。やっぱりバンドで音を作るのとソロで音を作るのは、作業的にも全然違うのでしょうか。

「ひとりだとやっぱり大体出てくるものが予想できちゃって、えーんって思う時あります」

――(笑)! FUKUSHIGEさんの活動がミュージシャンとしてかなり広いので、どうアイデアや脳内をつかいわけているの? ということが全く予想できないんですよね。

「"こうしよう"というのはあまり考えていなくて、⼀緒にやる人との関わりの中で自分はこういうふうにしていこうと自然と湧いてくる感じといいますか。その分、ひとりで作るとひとりでちゃんと完結できるんですよね」

――それはライブに関しても同じ考え⽅ですか?

「うん、そうだと思います。ライブは今回ひとりでやるんですけど、タイトルを『ピアノと声』にした理由としては、弾き語りではあるんですけど...私がやるとピアノが強い弾き語りになるだろうなと思うんです。だから正直言うと弾き語りライブだよともあまり言いたくなくて。単純に音楽として楽しんでほしいなと思っています」

――ピアノの強い弾き語りになるというのは、「弾き語り」という言葉に柔らかくて優しいものといいうようなイメージがあるからですか?

「弾き語りって、歌がよくなるようにピアノとかギターを弾くんだと思うんです。私の場合弾き語りのアレンジがそうはなっていなくて。通常、弾き語りだと何かコードを弾いて、アルペジオで弾いて、その上に歌が乗っているよというイメージなんですけど、多分それとは違うものになるので、『ピアノと声』というタイトルになりました」

――今準備進めていて、気持ちはどうですか?

「うーん、ムズムズしますね」

――あははは! ムズムズというと?

「いろんな気持ちが混ざっていて、楽しみだけど本当に受け⼊れてくれるかなという気持ちもありますし、フタを開けてみてお客さんが来てくれなかったらどうしようと思っています」

――とはいえ、FUKUSHIGEさんとしてはものすごいライブの場数を踏んできていらっしゃるわけじゃないですか。それでもひとりは、別ですか?

「うん、緊張しますよね(笑)」

――先ほど会場もご自分で選ばれたということでしたけど、1ヶ所⽬は地元・鹿児島のたんすの肥やしという会場です。こちらにはどうやって辿り着いたのでしょう?

「ここは古道具屋さんなんです。店主が高校の時の友達で、地元に帰った時に遊びにいったことがあって、その時にすごくいい空間だなと思ったのでここでライブさせてよとお願いしました。外から⾒たら古⺠家みたいな感じで、でも中は自分たちの手で改装してあって、すごくおもしろいスペースだなと」

――そして続く東京公演は、早稲田奉仕園スコットホール講堂です。こちらは?

「前に凛として時雨のTKさんのアコースティックライブを⼀緒にやらせていただいて。その時に教会で演奏するのがすごくいいなと思ったんです。なので、そういった場所に近い会場を選びました。やっぱり天然のリバーブがすごいのと、薄暗い感じもすごくよくて、この会場を選びました」

――最終公演の兵庫は、グッゲンハイム邸です。

「グッゲンハイム邸は、ロケーションがもう最高ですよね。以前ライブをしたんですが、公演後にぼんやりできる時間があったんです。その時にも絶対またここでやりたいと思ったのが、今回叶います」

――なるほど。今回のライブをどういう時間にしたいなとか、思い描いていることはありますか?

「本当にみなさんお忙しいと思うんです。そんな中でもゆっくりしてもらえたらいいなと思っているんです。この時間はいろんなことを⼀瞬でも忘れてもらって、はーってなってもらえたらと思います」

――このライブが終われば、FUKUSHIGE MARI としてのお忙しい活動に⼀区切りという感じもあるのかなと思うのですが、この後に考えていることなどはありますか?

「まだアルバムを作れていないので、これは本当に完成させたいなと思っているんです。曲はアルバムが作れるほどの数がすでにあるんですけど、やっぱり作った時から時間が経ってしまって、結局これは本当にいいのかなと思い始めたりしちゃっていて。それでもアレンジはこっちがいいかなとか、未熟だった歌詞を再考したりしていたら...一生終わらないですねぇ」

――確かに! いつまでも考え続けられそうです。

「ホントそう! だからこそどこかで区切って完成させて、みなさんにお披露⽬したいですね」

――その際はまたツアーを期待しちゃいます。

「ですよね! 今度はバンドがいいですね」

――みんなでいろんなことを決められますし(笑)。

「そうですね。やっぱりバンドが好きなんですよね。バンドはもちろんだけど、人と何かやるということがそもそも好きなんです。⼀緒にやる人によって全く違うものになるのが本当におもしろくて。でもソロもバンドもお互いいい相互作用があるんです。多分、両方一生やっていくことになるんだろうな。ずっと続けていきたいなと思いますね」

Text by 桃井麻依子




(2023年10月31日更新)


Check

Release

Digital Single
「dancing like a swallow」配信中
ワーナーミュージック

Digital EP
『JAPANESE ONNA』配信中
ワーナーミュージック

《収録曲》
1. 沈丁花、 低く
2. night dancer
3. スプーンの庭
4. CITY5 DRUNK
6. ⾵と彼は誰
7. yellow green

Live

『FUKUSHIGE MARI ピアノと声 ツアー 2023』

【鹿児島公演】
▼11月5日(日) たんすの肥やし
【東京公演】
▼11月11日(土) 早稲田奉仕園 スコットホール

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:252-922
▼11月24日(金) 19:00
旧グッゲンハイム邸
全自由-4000円
※小学生以上チケット必要。
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。1人4枚まで。発券は11/17(金)10:00以降となります。
[問]セブンスインフォメーション■03-6457-7669

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