ホーム > インタビュー&レポート > ジャニスの○○と○○シリーズ MONO NO AWARE×betcover!!のツーマンライブレポート
看護婦になりたかった
『壁』での強烈な歌詞フレーズでも、超絶なセッションが押し寄せてくる。ヤナセのソロプロジェクトである為、鍵盤のロマンチック安田始め演奏メンバー4人はサポートであるのだが、完全にバンドのグルーヴ...。この一丸感は一体何なのだろうか...。とにかく魅入るしかない。
気付くと早いもので中盤に差し掛かっている。そこでの『フラメンコ』、『炎天の日』と新曲2曲かましてくるのにも驚いた。当たり前だが、初めて聴く音、初めて聴く言葉だが、何の違和感もなく酔いしれる。逆に初めて聴く曲だからこそ、真剣に耳を傾けて、音も言葉も一切聴き逃したくないとなってしまう。小説の様ななんて書くと陳腐な表現になってしまうが、ヤナセの歌詞は独特の物語であり、どこか魅力的な朗読を聴いている様な感覚にもなる。特に舞台上真っ暗になり、ヤナセにだけライトが当たり歌う様は、怪しげな朗読会に迷い込んだみたいな不思議な気分になった。
『超人』ではギターが唸りをあげて、ドラムと鍵盤が叩きこまれる。速くて、ノイジーで、性急で、何と言っても『やめて』と繰り返し歌われる終盤の鬼気迫り方がエグすぎた...。どんどん演奏も激しくなり、怒涛のセッションに突入するが、『やめて』という言葉だけで、この表現力は何なんだ...。ヤナセは観客に背を向け、ギター・ベース・鍵盤と全員がドラムに向かって音を鳴らしまくる。一瞬、静寂というか沈黙になり、また轟音が迫って来るが、全体的に言えるのは、歌は静かに聴かせていくという事。
ラストナンバー『卵』。曲の終わりが見えてきたところで、『ありがとう。betcover!!でした』と丁寧な手の動きで御礼と別れを優雅に伝えたと思いきや、魂の叫び...。そのままヤナセは指揮者の如く、ドラムソロを導いていく。全員で音を鳴らし始めても、ヤナセはギターを弾きながら、そのギターを指揮棒の如く、全員の音を導いていく。最後は手で指揮をして〆られる。何か訳わからなくて、とにかく凄かったという謎の興奮状態になるのだが、それが最狂の表現だと想っていて、この先攻betcover!!は、まさしくそうだった。こんな風にペンペン草が一本も生えていない状態で、後攻にバトンタッチされる対バンが大好きである。こうして後攻MONO NO AWAREにバトンが渡された。
脳と心の興奮をDJ DAWAが流す坂本慎太郎『幽霊の気分 Cornelius Mix』が沈めてくれる。幻想的な青白い照明に舞台上が包まれる中、ドラム一発決まり、始まる『かむかもしかもにどもかも!』。betcover!!同様、鉄壁のグルーヴだが、そんな簡単に書いているものの、ここまで鉄壁のグルーヴが普通に続く対バンは中々無い。改めて凄く貴重な戦いを目撃できているなと興奮し直す。『生麦生米生卵』の歌い出しで歓声が起きる。早口言葉であり言葉遊びでもあるのだが、こんなに興奮するのは何なんだろう。そういや先攻betcover!!から、ずっと同じ様な事を考えているなと思いつつ、だからこそ素晴らしき対バンなのだなと感慨にふける。それにしても、グラサン姿の玉置周啓は外タレのロックスターにしか見えないし、1曲終わる毎のシャウトも堪らない。そのまま躍動感のある速いギターで『ゾッコン』へ。『ああ僕は君にゾッコンだ!』という歌い出しから、どうしようもなく高揚してしまう。ポップでキャッチ―なのにソリッドなのが、MONO NO AWAREなのかなんて考えながらも、とにかく気持ち良い。その気持ち良さは、めくるめく展開を聴かせてくれる『孤独になってみたい』でも健在で、ただただ揺れて踊るのみ。一瞬、暗転になり、玉置が少し話し出す。betcover!!を『かっこいいバンドです。凄まじいバンドでしたね』と言いきり、天才率いるスーパーテクニシャン集団という様な言葉で短く言い表したのも潔かったし、何よりもとてつもない敬意を感じた。ほぼNO MCのbetcover!!と比べると少しは喋るものの、ほとんどMCが無い2組は全く無駄が無くて格好良い。
今年5月にリリースされた『およげ!たいやきくん』。48年前に発表された国民的大ヒット曲のカバーだが、ゆらゆら揺れるトリップ感が凄く心地良いし、48年前の楽曲が我流にアップデートされている事が何よりも絶妙である。betcover!!と同じく、こちらも気付くと中盤に差し掛かっていた。共に50分という持ち時間が本当に短く感じる。『味見』、『幽霊船』では、よりストイックなストロングスタイルを感じさせてくる音を鳴らしまくっており、そのグルーヴィンさに自然に観客も手をあげて、より踊り出している。
ステップがバラバラなままだがグッとくるグルーヴ
そんな歌詞の通りでノリ方や踊り方なんて本当にどうでもよくて、兎にも角にもグッとくるグルーヴ。
漫談や講談では無いが、話芸のグルーヴを感じさせる玉置特有のMC。終盤では、唯一誰でもが観れる花火が有料になって、すなわち祭が有料になってなんて事を喋り、花火は誰でもが無料で観ていいものではないかという夏の曲がありますなんて喋る。どこか煙に巻かれる喋りだが、その流れから歌われた『ブーゲンビリア』での『花びらじゃない花火が上がっていた』という歌詞が未だに印象に残り過ぎたままである。メッセージが無いわけでは無いのに、必要以上にメッセージを感じさせない。でも歌心がありすぎる...、そんなところがMONO NO AWAREの中毒性に繋がるなんて脳内解釈をしていたら、『風の向きが変わって』が歌われた。ひんやりとさせるクールな歌声であり、真っ直ぐな良い曲。誰もが、この歌から、それぞれの風景を思い浮かばせる。風情があって情緒溢れる歌が、さり気なく自然に歌われるのが、これまた素敵。
こんなに良いライブをしていて、こんなに良い歌を歌っていたら、ちょっとくらい良いMCをしても誰も文句を言わないのに、betcover!!へのリスペクトと観客への感謝を伝えた後に、不意に両手人差し指を立てて高く上げて『ウェーイ!!』なんておちょける。照れ隠しというか、そんな全くかっこつけない姿を見せてくれるからこそ、こちらも心から楽しめて、心から信頼が出来る。ラストナンバーは、リズム・ビートが跳ねて気持ち良い『東京』。
ふるさとは帰る場所ではないんだ
この歌詞が緩やかに童謡みたいに歌われたのには、沁みて沁みて沁みて沁みた...。そして、最早ミニマムビートみたいな演奏には踊らされるしかない。アンコールナンバーは『水が湧いた』。『街はお祭り状態』という歌詞の如く、お囃子ビートで思わずトランス状態に陥る...。玉置筆頭にメンバー全員がスティックを持ち、一斉にドラムを叩きまくる。まさにライブハウスはお祭り状態...。そして、終わる...。『かっけぇ...』なんて言葉を柄にも無く呟いてしまうくらいに粋であった。
DJ DAWAのDJで火照った心身を落ち着かせながら、ひとり呆然と立ち尽くして余韻に浸る。MONO NO AWARE とbetcover!!と心斎橋JANUSは...お祭り状態であった、まさに。大満足な表情で帰る大勢の観客を眺めながら、何とも言えない気持ちになる。素晴らしき真夏の宴に立ち会えた事が心から嬉しい。
Text by 鈴木淳史
Photo by ヨシモリユウナ
(2023年9月 4日更新)
ジャニスの○○と○○シリーズ
MONO NO AWARE×betcover!!
2023.8.10 Thu 心斎橋JANUS
[出演]MONO NO AWARE/betcover!!/DJ DAWA
betcover!!
01. あいどる
02. 狐
03. 幽靈
04. 壁
05. 母船
06. フラメンコ※新曲
07. 炎天の日※新曲
08. 超人
09. 卵
MONO NO AWARE
01. かむかもしかもにどもかも!
02. ゾッコン
03. 孤独になってみたい
04. およげ!たいやきくん
05. 味見
06. 幽霊船
07. ブーゲンビリア
08. 風の向きが変わって
09. 東京