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アルバム『HELL-SEE』を再現。熱気と高揚止まぬ夜。
syrup16g Tour 20th Anniversary「Live Hell-See」
ライブレポート

6月28日(水)、大阪・なんばHatchにて『syrup16g Tour 20th Anniversary「Live Hell-See」』が行われた。6月1日の東京・豊洲PITを皮切りに、7月13日(木)の福岡DRUM LOGOSまで(本来のファイナルは京都磔磔だったが、五十嵐隆(vo&g)のコロナ罹患により振替えられたため)全国10箇所を廻った本ツアーは、2003年にリリースされたアルバム『HELL-SEE』の20周年を記念したものだ。今回ぴあ関西版WEBでは、ツアー5本目となった大阪公演の模様をレポートする。

平日の夜。開演間際のなんばHatchに観客が続々と吸い込まれていく。中には仕事終わりとおぼしきスーツ姿の人も散見された。入場する前には、入口の手前に設置された液晶ビジョンに表示された公演情報を皆大切そうにスマホにおさめていく。その様子からも、やはりこのライブはファンにとって特別なのだということが伝わってきた。2F席まで埋まった会場の空気は静かで落ち着いているものの、開演時間が近づくにつれて隠しきれない高揚感が漏れ出していた。

1996年に結成され、2002年に日本コロムビアからメジャーデビューしたsyrup16g。2003年3月19日にリリースされた『HELL-SEE』は累計4枚目、メジャー3枚目のアルバムだ。ハイスピードな制作ペースで出されたメジャー1stアルバム『coup d'Etat』、2ndアルバム『delayed』に次いでシングルの制作に入るも、結果的に「15曲入りのシングル」が完成。『HELL-SEE』は1,500円というシングル価格のフルアルバムとしてリリースされた。その後2010年に再販され、今年3月には2枚組の12インチアナログレコードも発売された。

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開演時間になり会場が暗転すると、歓迎の拍手が沸き起こり、3本のスポットライトが無人のステージに置かれたそれぞれの楽器をドラマティックに浮かび上がらせる。メンバーが登場し、五十嵐のいる上手側から照らす強いライトがコントラストを作り出し、ここからの展開に期待感を添える。

ライブ本編とダブルアンコールで構成された今回の公演。まずは『HELL-SEE』の収録曲がアルバムの曲順通りに演奏された。五十嵐のギターが鳴り響き、アルバムの幕を開ける『イエロウ』が会場を満たす。五十嵐の気怠げで鋭くも柔らかい歌声、キタダマキ(b)と中畑大樹(ds)の繰り出す安定感抜群のビート。長年のキャリアに裏打ちされた演奏力でフロアを釘付けにする。暗めに落とされた照明はサウンドの波にどっぷりと浸る集中力を高めてくれた。観客は各々体を揺らしながら、拳を突き上げながら、じっとステージを見つめながら強靭なサウンドを全身で受け止める。1音も聞き逃すまいと、この瞬間を噛み締めているように感じられた。

淡々と、しかし激しく熱を帯びて次々に演奏される楽曲たち。『末期症状』ではループする歪みギターリフにえぐられるようなビート、五十嵐のシャウトがゾクゾクと五感を刺激した。

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MCではフロアから「がっちゃんおめでとー!」と五十嵐の50歳の誕生日を祝う声が飛ぶ(ツアー初日の6月1日に)。中畑が立ち上がって「はーい! よく来た!」と観客に向かって手を振る。2023年初の来阪ということで、「あけましておめでとうございます」と遅ればせながらの挨拶をしたあとは、「20年前のアルバムやってるんですけど、20年前も聞いてたって人います?」と尋ねるとたくさんの手が上がり「うわ~」と言いながらも、ふふふと嬉しそうに笑みを浮かべるメンバー。

そして『ローラーメット』から再び『HELL-SEE』の世界へと連れていかれる。MCで少し空気がほぐれたフロアはより思い思いに体を揺らす。高揚感はさらに高まり、1曲終えるごとに贈られる歓声と拍手は長く大きくなっていった。柔らかな浮遊感に包まれた『(This is not just)Song for me』、アルバム折り返しとなるラブソング『月になって』、涙腺が崩壊した人も多い『ex.人間』、激しく点滅するバックライトにトランスしそうになった『正常』とアルバム中盤の楽曲を紡いでゆく。途中、ふいに五十嵐が「あっ!こんなところに良いタオル!」と新作グッズのタオルで汗を拭き、「わぁ、ふかふか~!」と和ませる場面もあった。

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2度目のMCでは「楽しいねえ」と中畑。その言葉には観客も大歓声&大拍手。そして「ありがとう」と続け、「ありがとうって人にいうと"本当に思ってないでしょ"と言われる時期があって。表すの簡単だけど伝えるの難しい。伝わってたらいいなと思います」と丁寧に感謝の気持ちを述べる。

五十嵐の叫びが突き刺さった『もったいない』、ヒリヒリした『Everseen』、名曲『シーツ』を経て、曲前に「お待たせしました」と一言添えられたのは『吐く血』。3人の放つアンサンブルに酔いしれている。そしていよいよ本編ラスト。「終わりまーす。やったー15曲やった。お疲れ様でした」と五十嵐が言って『パレード』をプレイ。穏やかな表情でギターを高らかに美しく奏で、「明日も生きたい」という希望を歌い上げると、割れんばかりの拍手と余韻が会場を包み込んだ。

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本編を終えて一旦ステージを去ったメンバーをアンコールを求めるクラップが呼び戻す。各会場によって異なるセットリストが組まれていたアンコールパート。大阪公演では、2022年に東京・新木場でのライブで披露された12曲(全曲新曲)をブラッシュアップし、さらに新曲を追加して1枚のアルバムにおさめた『Les Misé blue』から、『In My Hearts Again』、『深緑のMorning glow』、タイトル曲の『Les Misé blue』が披露された。

そして惜しみない拍手が贈られたダブルアンコールでは、『HELL-SEE』の次にリリースされたメジャー4枚目のアルバム『Mouth to Mouse』に収録された『I.N.M』、『変態』、そして2008年にリリースされたセルフタイトルアルバムから『scene through』を披露して、濃密なライブを終了した。

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トリプルアンコールを求めるクラップが起こるほどの熱量に包まれたなんばHatch。公演終了のアナウンスが流れると、クラップは賞賛の拍手へと変わり、観客は皆満足そうな表情を浮かべて帰路についた。

この20年間で音楽業界をめぐる環境は様変わりした。20年前レコードショップに『HELL-SEE』が並んだ時のこと、CDデッキに入れて再生した時のこと、彼らの歩んできた道のりを思い出しながらライブを楽しんだ人も多いのではないだろうか。もちろん最近になってファンになったという人もいるだろう。この日の観客の熱視線がとにかく印象的だったことが、レポートを書いた今も思い出される。syrup16gの音楽がそれぞれの心にまたひとつ深く刻まれた夜だった。

Text by ERI KUBOTA
Photo by Yuki Kawamoto




(2023年7月21日更新)


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Set List

syrup16g Tour 20th Anniversary「Live Hell-See」
2023.6.28 Wed at なんばHatch

01. イエロウ
02. 不眠症
03. Hell-See
04. 末期症状
05. ローラーメット
06. I'm劣性
07. (This is not just)Song for me
08. 月になって
09. ex.人間
10. 正常
11. もったいない
12. Everseen
13. シーツ
14. 吐く血
15. パレード

EN1. In My Hearts Again
EN2. 深緑のMorning glow
EN3. Les Mise blue

WE1. I.N.M
WE2. 変態
WE3. scene through

Live

「KINOSHITA NIGHT 2023 ~木下理樹生誕祭・SHIGONOSEKAI~」
9月16日(土)一般発売 Pコード:248-901
▼10月15日(日) 18:00
Zepp DiverCity(TOKYO)
1Fスタンディング-5000円
2F指定席-5500円
[出演]ART-SCHOOL/syrup16g/他
※ドリンク代別途必要。3歳以上はチケット必要。
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。1人4枚まで。

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