ホーム > インタビュー&レポート > パソコン音楽クラブ インタビュー “こっちだって異星人”。自由に想像する紙一重の物語
――昨年の夏、『FINE LINE』にも収められているデジタルシングル『KICK&GO』の話をお聞きした時、『KICK&GO』のような外向きの曲をもういくつか作り、今春にニューアルバムを!ということでしたが、そのとおりに。
西山「『KICK&GO』に関しては、シンプルにドライブさせていく感じや外向きの感じに加えて、作家仕事(クライアントワーク)みたいなものとアーティストとしての自分たちの音楽をどう融合するか?みたいなことを話した記憶があるんですけど、一曲というシンプルな部分から今回は13曲のアルバムなので、もうちょっと複雑に、どういうものにするか?っていうコンセプトを考える流れがあったんですよね」
――そのコンセプトは"宇宙人のいる生活"。
西山「自分たちが作家仕事でやってきたポップな音楽とかと、(アーティストとして)クラブやライブでやる音楽はちょっと離れてはいて、でも両方が自分たちにあるなって思うようになって、その二つをアルバムに入れたいってなった時に、どっちから見てもどっちかが異物っぽく見えるから、それをポジティブにとらえる作品にしてみようって......。で、その異物感は、メタファーとしてポップなアイコンの宇宙人で取り入れてみたんですよね。それは"宇宙人みたいな人"とか言うのをいい意味としてとらえる感じで。で、今回は、『KICK&GO』とかの序盤の曲はわりとポップで、そこからダンスミュージック的な展開になり空間がゆがんじゃって、最後に残ったものと取り残された自分みたいな......」
柴田「......私小説性というか」
西山「急に難しい言葉(笑)。ま、そんな流れで作ってみようっていう感じでした」
――そんな13曲は一枚として絶妙のバランスです。そしてどこか懐かしい。
柴田「今回参考にしようと思ったのは映画なんです。最初はもっと映画みたいに物語が明確にあって、映像を想起させるようにって思ったんですけど、それをやっちゃうと収拾するのが難しいなっていうので、もうちょっと音楽に比重を置いて、音楽でいろんな遊び方をしようってなって。それで、1997、8年ぐらいに、コーネリアスが『FANTASMA』、電気グルーヴが『A』、海外だとベックが『ミッドナイト・ヴァルチャーズ 』を出してるんですけど、あの頃の作品を改めて聴くと、SEとかナレーションとかの要素でつないでるのがよくわかって、これはヒントになるかもって。それ(を取り入れたの)がたぶん懐かしい感じになってると思います。今はそういうギミックを使う人が少ないんです。なぜかというとサブスクでは曲単位で聴くので、あまり流れを意識して作らなくてもいいというか。でも、2000年代ぐらいまではCDが音楽の主なメディアだったと思うので、その分アルバムの重要さがあって、そこで時間の流れをどうコントロールするかに比重が置かれていたと思うんですよ。今回はそういう当時の音楽に、編集という部分で結構影響を受けてますね」
西山「数は少ないんですけど、最近のアルバムでもそういう感じで作ってあるものがあって、参考にしたのはPUNPEEさんの『MODERN TIMES』というアルバム。ヒップホップなのでもっと声は多いんですけど、最初の曲は、おそらくおじいちゃんになったPUNPEEさんが、"わしの若い頃は"っていうナレーションから入り、途中にも最後にもナレーションが。イロモノに聴こえかねないことを、すごくおしゃれにやってて、かなり難しいことをしてるなと思いました。こういうのは最近本当に少ない」
柴田「たぶんコーネリアスとかは、当時ヒップホップから影響を受けて、スキットというかナレーションを入れてると思うんですけど、逆にPUNPEEさんは正当派(ヒップホップ)を洗練させていって、今すごい高みで作られてるんだなって感じますね」
――なるほど。たしかに『FINE LINE』はアルバム1枚として勝手にストーリーを妄想できました。
西山「最初はもうちょっと説明的だったんですよ。たとえば、1曲目の『Prologue』に出てくる声の男の子が宇宙人と遭遇して、変なものを作り出すようになるみたいな物語を考えてたんですけど、聴く人が自由に想像する余地があった方がアルバムとして、音楽として楽しいなって思ったので、もう少しフワッとさせて、聴く人それぞれが物語を考えられる具合にできたらなって」
――当初はもっとセリフが入る予定だったんですか?
西山「セリフをもう少し入れる予定だったし、7曲目の『Omitnak』の小里さん(小里誠 a.k.a Francis)の声(ナレーション)は、この曲の上ではなくて別トラックで単体で出して、BGMは別で1曲......みたいな感じでやってたんですけど、くどいな!って。音楽が置いてかれる感じもあって、架空のサントラみたいになっちゃうような」
柴田「今回はもっと自分たちの人生というかを出せたらって、メタファーとして宇宙人を選んだ経緯があるので、あまりフィクションになり過ぎないようにするの(加減)はどこだろう?とか、ラジオドラマとか企画盤みたいにならない温度感を探るのに苦労しました」
――その宇宙人は、CDジャケットにもいわゆる!な姿で登場。かわいいです(笑)。
西山「これはアートディレクターのとんだ林蘭さんが考えてくれて。やっぱり僕たちだともう少し抽象的にしちゃうんですよ、たぶん。わかりにくいキャラクターとか......」
柴田「......宇宙人っていいながら、(見た目は)普通の人とか(笑)」
西山「音楽にいろいろな解釈の余地があってわかりにくいかな?......音楽だけ聴くとあっち行ったりこっち行ったりするように聴こえるんじゃないか?っていう不安があったんです。だから(とんだ林蘭に)相談した時にこういうデザインを出してくれて、これくらいストレートなものの方がバランスいいなと思ったんです」
柴田「とっつきやすい」
西山「でも、向こう(宇宙人)から見たら僕らが宇宙人で......」
柴田「こっちだって異星人。『FINE LINE』は紙一重って意味なんです」
――そうですね。聴いているうちに曲は宇宙人視点に思えてきました。
柴田「いろんな見方があるっていうのがうれしいですね」
西山「一応、自分たちのこうだ!っていうのはあって、コントロールもしようとはしてるんですけど、今までよりも解釈の余地がずっと広く、聴く人が決めるものを作りたいって思ったんでうれしいです」
――さて、6曲目の『Dog Fight』をはじめ、今回もお二人の曲には、ん?と思わせる心地いい引っ掛かりがありますが、少しだけでも種明かしをしてもらえますか?
西山「『Dog Fight』の話をすると、これは柴田くんが作った曲で、僕はミックスとかの音周りをやったんですけど、聴いてて思ったのはこれってバロック......なんかクラシックの作り方なんですよね」
柴田「近代のクラシックみたいな?」
西山「その音の並べ方をしていて、本来はピアノや弦楽でやることをイヌの鳴き声で"ワワワワン"ってやってるから、ポップだし変に聴こえるんだけど、たぶん(イヌの鳴き声の代わりに)ピアノでやったら結構きれいだと思います。そういうのを作れるこの人(柴田)はすごい珍しいタイプ。ダンスミュージックもポップもクラシックもできるってなかなかいないので。僕はこの曲、めっちゃいいなって思ってます」
柴田「『Dog Fight』なら、楽器要素としてのイヌの声とアフリカっぽいリズムの組み合わせがあったり、ほかにもポップとブレイクビーツとか、どの曲にも何かしらいろいろな音楽のエッセンスやジャンルの組み合わせが施されてて、そういう組み合わせっていうのがカギかなって。たとえばロックだったら、普通は明確に、俺はローリング・ストーンズみたいなのをやりたいんだ!ってバーンッていくと思うんですけど、そうじゃなくてリズムだけビートルズで、ほかは違うものみたいな。一見、むちゃくちゃな組み合わせをやるのが自分たちの特徴で、今回は特にそれが多かったかなって思いますね」
西山「そういう音楽的ジャンルもごっちゃになってる"チャンポンさ"が、"宇宙人のいる生活"っていうコンセプトと曲単位でもリンクしてるかなと思います」
柴田「組み合わせ自体も"未知との遭遇"っていう」
――ところで、曲を作る時の分担や作業フローはどんな感じですか?
柴田「どちらかが最初にデモみたいなものを持ってきて、それを聴いて、じゃこれで進めてみましょう!って音をある程度まで入れ合って、その間にどちらかが......今回は西山さんの方が多いんですけど......歌って、その後に編曲を進めて最終のミックスを西山家でやるっていう流れが多いですね。ラリーして進めるみたいな」
――ラリーの始まりは双方からなんですね。
西山「やることは全部お互いできるんで。ただ(二人で)続けてきて、得意なこと、不得意なことがわかるので、こっちがやった方がいいよねっていうのはあって。今回はアルバム全体のコンセプトとか大まかな方向とか、設計図は僕が書いて、(曲を)並べていくってなったら、ここにはこういう曲があった方がいいなってわかるから、こういう曲を作ってほしいですって作ってもらって入れるという。さっきの『Dog Fight』みたいに僕は作れない曲もあるんで」
柴田「でも、僕は作っても音の整理ができないってことがめっちゃあって、(西山に)整理してもらうっていう。それは本当にミクロな得意、不得意をお互いに把握してるから、すごくうまくいってるんだと思いますね」
西山「どっちかというと僕が某作曲家状態(笑)」
――あ、懐かしいゴーストライター事件(笑)。いやいや、夫婦のような相互補完だと思います。ちなみに今回は豪華なボーカリスト陣が参加していますが、それらの曲はゲストを想定して作ったんですか? 曲と声がとても合っているなと......。
西山「曲、音楽ありきですね」
柴田「40~50%ぐらいできたら、それを投げてお願いして、歌ってもらえるようならデモをもらったりして、それから本レコーディングに入って、そのあとに編曲をさらに詰めていくという」
西山「なんとなく歌える段階でオファーするから、ボーカルが入ることでちょっとイメージが変わってくるので」
――ゲストとやり取りをしてさらに調整するうちに意外な展開になったりも?
柴田「chelmico との曲(『PUMP! feat.chelmico』)がそうですね。Aメロのラップ部分の作詞をchelmicoに頼んだんですけれども、その最初に"ドーン"っていう歌詞がきて......。ほかにも"未知のパーティー"とか、僕たちだと入れない直接的な言葉が入ったのがすごい驚きでした。実はアルバムの完成1か月ぐらい前、なんかまとまりがないって話になって、どうしよう?ってなったんですけど、僕たちは難しく考え過ぎちゃって......音のコンセプトとか、こうやりたいとか......どんどん視野が狭くなっていた時に、歌詞を見直したら"ドーン"、"未知のパーティー"って。この言葉がヒントになって中盤でのパーティゾーン的なところを楽しい感じにしてみようって進められるようになったんです」
――ボーカルに関していうと12曲目の『Terminal』はお二人が担当。自身を表す詞が短くて簡潔なのが印象的でした。
西山「そこはやっぱり自分たちで歌うから、できるだけしゃべりたくない。恥かしいんで(笑)。自分らになった瞬間、めっちゃしゃべるじゃん!ってなるのは......」
柴田「めっちゃ歌われてもね......って(笑)」
西山「あと、このタイミング(12曲目)なら歌詞の量はいらないかなっていう判断も。これもしゃべり過ぎると解釈の余地がなくなるから、最低限でみんなに想像してもらった方がいいなって」
――この『Terminal』はせつないのに、どこかキラッとしたものがありますよね。
柴田「最後に速くなりますしね」
――あ、それで光りみたいなものを感じたんですかね。でも、すべての曲において、どこかしらにキラッとしたものが......。1年半ぐらい前に大阪から上京されましたよね。もしかして東京がすごく楽しいとか(笑)?
柴田「(笑)」
西山「いやいや。一番闇があって、すごくメンタルが落ち込んでる時に作ってるんで(笑)。『See-Voice』の時より全然しんどいです。元気にならないといけないから、元気な音楽を作るっていう」
――反動?
西山「反動......僕はちょっとあった」
柴田「カンフル剤というか」
西山「(しんどいというのは)義務感とかの嫌な意味じゃなくて、こうしていった方が楽しい人生になるんじゃないかなっていう、なんとなくの期待があったので、それをこう音楽にしてみたいなっていう、そういう(ストイックな)モードだったんでしょうね」
――『Terminal』に続く最後の曲『Day After Day feat. Mei Takahashi (LAUSBUB)』はそんな思いを反映していそうですね。
西山「これが今回のアルバムで一番言いたかったことというか、根本のテーマで。毎日、特にいいこともないので、小さな変化であるとか、友達に会った時に友達が変なこと言ってたなとか、そういうのも含め、それが新しい刺激というか、楽しいと思える感覚の方がいいんじゃないかなって。そういう刺激の受け取り方をする一日ってこんな感じじゃないのかなっていうアルバムを作ってみようと思ったんですよ」
柴田「ゴール地点は同じなんですけど、chelmicoの "ドーン"っていうので、ナビが別ルートを表示したみたいな感じになってますね(笑)」
西山「当初の自分の計画とは違う方向で、でも最後にはゴールに行きつくような感じに修正して」
柴田「高速で行こうと思ったら下道やん! でもこれもおもろいな......みたいな(笑)」
――さて、『FINE LINE』をライブで体感できるクラブツアーとワンマンライブが間もなく。クラブツアーは全国5か所で、6月2日(金)の京都公演から。ワンマンライブは6月30日(⾦)の大阪公演と7月8日(⼟)の東京公演です。
西山「クラブツアーはクラブというダンスしたり、お酒を飲んだり、しゃべったり......集中して見るライブハウスとは音楽との距離感が違ってちょっと離れていてもいいっていう場所なので、そこにアルバムの曲をフィットさせるアレンジで、曲と曲もスムーズにつなげるのも意識してやりたいなって思ってます」
柴田「ワンマンライブは大阪も東京もゲストボーカルの方を迎えてやります。僕たちの楽器演奏や、映像とか照明の演出も入れて、アルバムの世界観を落とし込めるようにライブを作り上げたいですね」
――クラブツアーとワンマンライブでは違う内容になりそうですね。
柴田「クラブツアー自体も各会場で違うと思います」
西山「箱(会場)に合わせて演出も変えるし、僕たちの持ち時間も違うと思うので、全公演が違いますね。クラブツアーは自分のペースでたっぷり踊って、ワンマンの方はガッと見て聴いて楽しんでもらえたらなって思います」
Text by 服田昌子
(2023年5月31日更新)
4th Album『FINE LINE』
【生産限定特別仕様盤】
3500円(税込) PSCM005
※透明スリーブケース+28Pブックレット+ロゴステッカー+オリジナルステッカー封入
【通常盤】
2750円(税込) PSCM006
※CDジュエルケース+16Pブックレット
《収録曲》
01. Prologue
02. PUMP! feat.chelmico
03. Ch.XXXX
04. It’s(Not)Ordinary feat.MICO(GIRLS FIGHT CLUB)
05. KICK&GO feat.HAYASHI AOZORA
06. Dog Fight
07. Omitnak
08. Sport Cut
09. UFO-mie (Album Mix) feat.The Hair Kid(Milk Talk)
10. Phase-Shift(skit)
11. Playback
12. Terminal
13. Day After Day feat. Mei Takahashi(LAUSBUB)
https://ultravybe.lnk.to/fineline
2015年結成のDTMユニット。メンバーは大阪出身の柴田碧と西山真登。 往年のハードウェアシンセサイザー・音源モジュールを用いて音楽を制作している。 他アーティスト作品への参加やリミックス制作も多数手がけており、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソング、TVドラマ「電影少女- VIDEOGIRL AI 2018 -」の劇伴制作、アニメ「ポケットモンスター」のEDテーマ制作など数多くの作品も担当。ライブも精力的に行っており、「FUJI ROCK FESTIVAL'22」への出演も話題に。2018年に初の全国流通盤となる1stアルバム「DREAM WALK」をリリース。2019年発表の2ndアルバム「Night Flow」は第12回CDショップ大賞2020に入賞。2021年10月には3rdアルバム「See-Voice」をリリースし、2022年7月には自身初のデジタルシングル「KICK&GO(feat.林青空)」を、11月には「SIGN(feat.藤井隆)」をリリース。2023年はトラック集「DEPOT」シリーズを1・2月に、4thアルバム「FINE LINE」を5月10日に発表した。
パソコン音楽クラブ オフィシャルサイト
https://www.pasoconongaku.club/