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「生活の中から生まれる音楽しか書けない」
日々の思いをエッセイのように綴った全7曲
初のソロアルバム『AMIYAMUMA』ができるまで
accobinインタビュー

バンド・チャットモンチーを完結した後、accobinこと福岡晃子は人生の大きな大きな転換期をいくつも迎えていたという。どんなことが起こっていたのかということについてはこの後に続くインタビューを読んでいただきたいと思うのだが、ともすれば悩んだり立ち止まったりするその転換期において、彼女は波にスーッと乗っていくように伸びやかに進む先を決め、そして真摯に音楽に向き合っていたのだと知った。そしてバンドを完結させてから3年半という長い時間を経て、初となるソロアルバム『AMIYAMUMA(アミヤムマ)』が世に放たれた。アルバム制作にそんな長い時間がかかったのは、「途中で何度も迷って、止まって、 考え直してということを数えきれないほど繰り返したから。自分にとって音楽を作ることは一体何なのか、それについて考える時間が必要だった」という。アルバムに収録されたのは、accobinの“今”はもちろん、心に描いていること、徳島での暮らしまでを耳で感じることができるカラフルな全7曲。心軽く、それでいて地に足ついた日々を送っているのだということがヒシヒシ感じられたアルバムについて、たっぷりと話をしてもらった。

わざわざ意識しなくても私の中に音楽はちゃんとある


――accobinとして初のソロアルバム『AMIYAMUMA』についてお話を聞くにあたって、チャットモンチーを完結してからの動きについてまずお聞きしたいと思っています。チャットモンチーに一区切りがついてから、アルバム制作を始めるまではどう過ごされていたのでしょう。

バンドが2018年の夏に完結したあと、作詞作曲やプロデュースなどソロのお仕事を少し始めていました。正直燃え尽き症候群じゃないけど、いい完結を迎えてバンドを終えることができたので少しゆっくりもしていましたね。その後2019年には事務所もレーベルも出て、フリーランスとして楽曲提供もしていたので、なんとなく創作意欲も満足している状態でした。そんな感じで順調に仕事も増えてきて、何か自分の基準になるような作品が欲しいなと考えていたんです。それはやっぱりアルバムがあるといいのかなぁと思い始めていた頃に妊娠がわかって。

――おぉっ!

そう(笑)。それを機にしばらく子育てに専念するかと思っていたら世界にコロナがやってきたんですよ。ちょうど出産した頃がコロナのピークで、外にも出られないし仕事もなくなるし、自分がやっているイベントスペース「OLUYO」でのイベントも全部飛ぶしで、何もなくなって東京にいる意味すらもわからなくなってきていた2020年の夏に、産後はじめて徳島に里帰りしたんですね。自分とはこれまで縁が薄かったある海辺の町に行ってみたらすごくよくて、急にここいいかも! って思っちゃって。次の日には役場に「空き家ありませんかね? 」って電話して、その翌々月ぐらいには引っ越してましたね。

――移住ってとにかく熟考して...っていう人も多い中で、すごくスピーディーな展開ですね。

そうなんですよ。仕事もリモートに切り替わってたし、いけるかなっていうのもあって思い切って。ホンマに一気にその辺で変わりました。今だからわかるんですけど、東京にいる時は常に前傾姿勢になっていて、何かに挑戦していないといる意味がないと思っていながら暮らしてたところがあったんですよ。

――それは何にそう思わされていたんでしょうか。

いろいろあると思うけど、一番はバンドあってこその自分が東京に出てきたので、好きなことを仕事にしているんだから常に楽しんでいないといけないし、常に新しいことをやり続けて楽しいを持続したいとか、新曲を出すなら何かしら挑戦していないとファンの人にも誠実じゃないと思っていたのもあると思います。だからこそずーっと前傾姿勢だった。東京にいた時は常にバンドのことを考えているのが当たり前だったけど、今は生活の中でずーっと音楽が地で鳴っていて、特に意識して考えなくてもちゃんとここにある...音楽が血の中にあるんやなっていうことに気がついたから、普通に生活しているだけでも自分が好きな音とか好きな音楽を意識できるもんだなとわかったんです。

――今お話されている姿を見ていると、バンド完結、結婚、移住、出産と次々とやって来る転機にしなやかに乗っかっていかれた様が目に浮かびます。

ふふふ。とはいえ、慣れない土地に移住してイチから生活していかないといけないから、なかなかアルバム制作に着手できなくて。ここでの生活に慣れるまで1~2年、その間にちょっとずつ制作しようかなって作業を進めてはいました。今回のアルバム7曲入っているんですけど、全部並行して少しずつ作り始めていたんです。でもどうしても歌が入れられなくて。

――意外です。それはなぜ?

自分が歌うっていうイメージがまずなかったのと、だからといって誰かに歌ってもらうのもなんかピンとこなくて。最初は全部インストでいこうと思っていたけど、それだとなんだか曲の決め手に欠けていて、やっぱり歌が必要なんだ! とわかりました。でも自分で歌う? どうする? と迷っていたら2年ぐらい経っちゃった。そんな歌えない~って悩んでいた時に、「OLUYO」に来てくれたミュージシャンの友達と話すとすごく勇気をもらえたんです。話す度になるほど~って背中を押してもらっていましたね。

――その背中を押してもらったのは、どなたからのどんな言葉か覚えていますか?

そうですね。LOSTAGEの五味(岳久)さんに「歌をどうやって歌ったらいいのかわからん」って話をしたら、めちゃくちゃシンプルに「いや、歌いたいから歌うんやろ」って言われて。

――うわっ。

でしょ? うわ~って思って(笑)。そうなんやけど、五味兄さんにそう言われると思ってなかったんですよ。ホンマにそうやなって思った分、私はまだ決意がないというか、まだ歌いたくないってことなんやなって思えたりもしました。その後、group_inouのimaiさんに会って、imaiさんがソロになった時の話を聞いたんです。

――へー!

imaiさんはソロになった時、本当にお客さんがいなかったって言ってて。でも本当に少ない時に、「これからなんでもできるやん!」って大興奮したらしいんですね。それを聞いたら、ホンマにそうやなって思ったんですよ。imaiさんもgroup_inouっていう看板があって、そこから出たから、ある意味私と一緒で。私もチャットモンチーっていうでっかい看板を取って、また動き出すとしたら「どんなアルバム出すんやろって」思われるだろうなとか、チャットモンチーのファンを悲しませたくないとか、そういうことを考えていたのかもってわかったんです。

――それも当たり前のことにも感じますけど...。

そう。でもimaiさんの言葉を聞いて、もういっか、考えすぎなくて! ってそう思えました。すごく自分の血肉になってくれた心強い言葉でした。

――相談したことで、自分が歌うことに納得できましたか?

いや、それでも最初はなかなかって感じで。ギリギリまでできなかったんですよ。なんだったんだろうね? 今まではえっちゃん(橋本絵莉子)が歌うこと前提で歌詞を書いていたんですけど、ある種責任を逃れているところがあったのかもしれません。だからこそ冒険したことも書けたけど、自分で歌うとなった時に、それは全てイコール私になっていないとダメなんだなって。演じることができないんです。超自分じゃないといけないって。

――超自分!

そう。そうなったら、私って歌いたいことあったっけな? 自分の声で何か発信することが必要なのかな? っていうのもあって。その覚悟はなかったけど、imaiさんの「これからなんでもできるやん!」っていう言葉も残っていて、それを常に思い出してはいました。

――悩みながら書いて、また悩んで、人に話して進んで、また悩んでを繰り返したと。

そうですね。一度レコーディングをした後、「OLUYO」で(七尾)旅人さんにライブをしてもらったんですけど、それを見たらこないだ録音したわたしの歌はなんか違うなってレコーディングをし直したり。歌と向き合うというか自分と向き合うというか、いろんな人の影響を受けてどんどん修正していきました。

――なんかストイックに自分と向き合う修行僧みたいですねぇ。

あはは、修行僧! 曖昧にモヤっとさせていた部分が、自分が作るとなるとそれ相応の責任を負わないといけない分、もっと自分と向き合うことが必要なんだなと思いました。



子どもが初めて話した言葉が「アミヤムマ」


――今回のアルバムは「生まれて初めて」というテーマを掲げて制作されたと伺っているのですが、なぜそういうテーマに行き着いたのでしょう?

このアルバムを作る時に、結構最初の段階でタイトルを決めたんです。

――最初にタイトル!

はい。この「アミヤムマ」っていうのが、うちの子どもが初めて発した言葉らしきものだったんですよ。

――へー! かわいらしいですね。

意味もないと思うし、いまだになんのことを言っていたのかわからないんですけど、初めての発語をタイトルにしたいなぁと思って。なんかその音を聞いた時に、生まれて初めてって、なんでもいいんだって思えたんです。何もないところに初めてのものを出すだけだから、出すだけでいいんだって。私もこのアルバムで初めてソロアーティストとして曲を出すし、自分的にはいろいろな挑戦をしている曲ばかりで、そういうのも「初めてやしなぁ」って多めに見てもらおうかなって(笑)。そんな淡い期待もあって、タイトルは「アミヤムマ」、テーマは「生まれて初めて」と決めました。

――タイトルとテーマはどのタイミングで出てきたのでしょう?

7曲をこういう曲にしようって固める頃にはこのテーマがいいかなって思っていました。子どもの発した言葉らしき言葉みたいに、私の音楽もこんな風にあらねばっていう概念を一度無くして、自分の中でこれがいいと思う音楽を出したいなって。

――7曲通して聞かせていただいて、カラフルで軽やかな暮らしをされている中で生まれた曲たちなんだなということを強く感じました。福岡さんの日々が見えてくる、と言ったらいいんでしょうか...。

ありがとうございます。このアルバムが出るにあたって「生活の中から生まれた音です」っていうコメントも出させてもらっているのですが、歌詞の言葉選びや音の作り方に関しても、生活の中から生まれて来るものしか書けなかったというのがあります。チャット時代とは全然違う方向性になったと思っていて。チャットモンチーの時が小説を書いていたとしたら、ソロは完全にエッセイっていう感じですね。

――それ、すごくわかりやすいです。ソロはよりパーソナルなことを表現されているというか。ちなみにご本人的に収録曲の中でも、すごく核になったなと思える曲はありますか?

それだとYouTubeに先行で出した「Heart Beats」ですね。これが一番最初にできた曲で、完成した時にいけるかもって思ったのと、身近な人に聞いてもらった時に「この曲をソロのデビュー曲として出すの、相当トガってる」って言われたんですよ。なんか全然曲始まらんし、長いし。今の時代早めにサビがくるのが主流なのに、こんな時代にこの曲は5分半ぐらいあるんですよ。それを「トガってる」って言われるのは、私の地は変わらんのやなと思って。それがすごく勇気になりました。このまま行ってもロックンローラー扱いしてもらえるかなって(笑)。

――「Heart Beats」は鼓動の音やお子さんの笑い声などを取り入れられていて、生命を感じたのと同時に、福岡さんがお母さんになったんだという変化もすごく感じられる1曲でした。アルバムを通して生活や暮らしが感じられたのはそういう音にも大きな要因があったのかなと思うのですが、他にも日々の中の音をサンプリングされて使われたとかはあったんですか?

そうですね、「Moment」っていうインストの曲は家から歩いて5分の海の音を録音して使っていたり、「New Rain」も家の前で雨の音を録りました。「Heart Beats」の鼓動の音は、妊娠中のお腹の音です。他にもちょこちょこありますね。

――そういう音のサンプリングは、チャット時代にも取り入れていたことですか?

やってはいたけど、多くはなかったです。サンプリングするために録ろうとは思ってなかったかな。今は常にボイスレコーダーを持ち歩いて、気づいたら録るようにはしていて。使えるかなというよりは、「残したいな」という感じ。近所の友達と喋っているのを録っていたり、そういう空気感を入れたいという気持ちです。

――この『AMIYAMUMA』はデジタルでのリリースと、カセットテープでのリリースですよね。最近ではレコードでのリリースは増えてきたように感じていますが、レコードではなくカセットというのは驚きました。

実はめちゃ単純で、自分がカセットを買うようになったから(笑)。

――あ、なるほど。

レコードも好きなんですけど、子どもがいるとあまり増やせないし管理も難しくて。でもカセットは丈夫だし見た目も可愛いし。まぁ、自分が買うからですね。レトロな音が好きでDTMで作っていてもちょっと古い感じのするシンセの音が好きだから、カセットにも合うんじゃないかなって。カセットを再生してもらうと、デジタルの音源とは違う感じで聴いてもらえると思います。

――さらにZINEまで作られていて、リリース内容盛りだくさんですね。

ZINEは全部の歌詞を載せてあるのと、今回のアルバムを作るにあたっての気持ちを書いたコラムとか、主に徳島に移住してからの写真が入っています。あと、四国ってお遍路さんの文化が根付いているんですけど皆さん御朱印帳みたいなものを持ち歩いていて、お寺に行ったらハンコをもらったりするんです。そのアレンジで、ライブに来てくれた人にハンコ押しますみたいなものも作ったりしました。スタッフクレジットも、その人がどういう人か手書きで示したりなんかして。関係性もわかってもらえるかな。見てて楽しんでもらえるものを意識して作りました。

――リスナー側もaccobinとはどんなアーティストなのかということもよく知ることができる素敵な試みですよね。そしてライブをはじめ、この後の動きというのは...。

音楽活動を全てひとりでやり始めて気がついたんですけど、リリースとツアーを同時に進めるの、無理やなと。

――あはははは! 通常はスタッフさんたちにお任せしたりできるところですもんね。

これ、プロの皆さんにお願いしてたからできたんやなと。だからとりあえず出して、出してからツアーについて考えることしかできなくて。だからカセットの発送とかも全部終わってから改めてできる場所探しからスタートする感じですね。

――今長い年月を費やした作品が、(この取材日時点では)発売直前になりましたが率直な感想を教えてください。

自分の中だけで曲が完成した時は、たとえイマイチやなって言われたとしても「どう思われてもいいや」っていう気持ちが大きかったんです。自分が好きなものが作れたしって。でも関わってくれたスタッフやアーティストの手によって、曲がどんどん素敵になっていく様を見ていると「やっぱりいいな」ってどんどん自信が出てきたので、出すからにはいいって言ってもらいたいなって気持ちもあるし、自分で何回聞いても「めっちゃ好きなアルバムができたな」っていうのがあるんです。きっと思いの外いいと思うので聞いてください!

取材・文/桃井麻依子




(2023年5月25日更新)


Check

Release

1st Album『AMIYAMUMA』
デジタル&カセットテープ発売中
2500円(税込)  ※カセットのみ完全生産限定
ACBN-2305
OLUYO

《収録曲》
1. Change
2. after clap
3. Marble
4. Moment
5. ジャムと納豆
6. New Rain
7. Heart Beats

ZINE『ACCOZINE#1』
500円(税込)

OLUYO店頭&オンラインショップで販売
https://oluyo2016.wixsite.com/tokushima/shop

Profile

アッコビン…福岡晃子・徳島県徳島市出身、イベントスペース「OLUYO」社長、作詞作曲家、演奏家。2002年より3ピースバンド・チャットモンチーのメンバーとして活動し、その活動と並行して2016年地元の徳島にイベントスペース「OLUYO」を開設。2018年にチャットモンチーを完結させた後2020年徳島に完全移住を果たし、多彩な音楽活動を続けながら、「OLUYO」で毎月開催されるさまざまなイベントを企画・開催している。現在所属しているバンドは、今年結成10周年を迎える親子向けバンド・くもゆき、小籔千豊が率いる吉本新喜劇ィズ、Base Ball Bear小出祐介によるプロジェクト・マテリアルクラブなど。その他アーティストやバンドのプロデュース、作詞・作曲を手掛ける。また、アパレルブランド「STINGRAY」の広報を担当するなど、幅広く活動中。徳島移住後の2021年に開設されたYouTubeチャンネル『accobin_福岡晃子』では日々の暮らしについて、音楽制作の舞台裏などを発信し続けている。

accobin オフィシャルサイト
https://accobin.tumblr.com/