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“音楽を頑張れば頑張るほど、自分が自分になる”
今本当にやりたい音楽を、純度高く生み出す決意
YeYeインタビュー

3月29日、シンガーソングライターのYeYeが、2022年9月に配信リリースされたアルバム『はみ出て!』をアナログ盤&カセットテープで、2021年7月にリリースされたミニアルバム『おとな』をカセットテープで同時発売する。今回ぴあ関西版WEBでは、最近のYeYeの近況や、妊娠・出産を経て変化した音楽への向き合い方、アナログ盤やカセットテープの思い入れについて、13年のキャリアを重ねてきた視点もふまえて、幅広く語ってもらった。彼女の最新の現在地を知れるインタビューになったのではないだろうか。4月7日には、親交の深い大阪堀江のFLAKE RECORDSでインストアライブが行われる。今年に入り「自分の1番好きな音が明確になった」と語る彼女の歌声に、ぜひ近づいてみてほしい。

「ミュージシャン」と「おかん」の割合とバランス


――まず近況からお伺いしたいのですが、昨年9月にアルバム『はみ出て!』をリリースされてからは結構ライブをされていたんですよね。

「リリースライブもありつつ、呼んでいただくライブもたくさんあって。全部バンドセットじゃなく、呼ばれたイベントは1人で出ることも多くて。『はみ出て!』は基本バンドアレンジなので、それを1人用の解釈でライブするのが結構勉強になったというか、楽しかったですね」

――11月25日にはKYOTO MUSEでリリース記念ワンマンライブも大成功で終えられて。インスタでも想いの溢れる投稿をされていましたね。

「『はみ出て!』は結構自分の中でやったことのないことを詰め込んだというか、プロデューサーの方に入ってもらったり、新しいことをしたので結構色々な想いがありました」

――お子さんが産まれて環境もだいぶ変わったと思いますが、最近のYeYeさんはどんな感じで日々を過ごしていらっしゃいますか。

「最近はですね、明日息子が5歳になるんですけど」

――おめでとうございます!

「ありがとうございます。産まれた当初は、"寝る、おっぱいやる、風呂入れる、食べる"みたいなシンプルさ故に、まだある意味自分の動きで生活のリズムを作れたんです。でもやっぱり産後で体力がなくて、何をやるにも"まず寝たい"みたいな状態で。それでも、音楽をやってない自分が自分でなくなる感じがすごくしたので、マネージャーに息子を2時間預けて、その間に1曲作るみたいな感じでした。前々作の『30』(2020年3月リリース)というアルバムは、息子が0歳の時に作って。2~3歳の時はもう少し子どもを優先して、自分の音楽を前に突き出したいという気持ちを出さないように遠慮してたんですけど、去年『はみ出て!』を作った時は、子どものバランスを見つつ、自分の中で前よりもはみ出てみようかなという気持ちが結構あって。とは言え息子もまだ4歳で、自分のやりたいことと抱き合わせられるようになってきたものの、バランスを取るのに苦労して」

――そうですよね。

「何が正解やったのかわからないんですけど、出力度が"おかん100、ミュージシャン100"だったら、"おかん100"を常に保ち続けるために音楽の出力度を70~80ぐらいで止めてたんですよ。これ以上いくと自分の体力が子どもに間に合わないというラインがあったので。でも『はみ出て!』を作った時は、どっちもMAX100にしてみた感じがありましたね」

――まさにはみ出したんですね。

「そうです、溢れました」

――以前はもし音楽を100にしていたら、20~30は無理をしてる感じがあったんですか。

「もしそこで音楽100にしてしまったら、子どもを見きれない。しかも2人暮らしなので、1人では見きれないなって。子どもの命を守るのがまずは第一優先なので」

――おかんが100から下がることはないですもんね。

「そうそう。おかんが100から下がることはないので。徐々に子どもが大きくなってきて、それこそオムツが外れたり、自分でお水を入れるようになったり、ちょっとずつの成長はあるんですけども」

――インスタで、何も言わずに機材の合間を縫ってキッチンに食器を運ぶ息子さんの様子をアップされていましたね。

「子どもと親という立場ですけど、結構共同生活してるみたいな感覚もあるので。1人の人間として見ているというか。もし逆の立場やったら、1番通る通路に荷物置かれてたらキレそうになるけど、何も言わへんくてすごいなって。日々学ぶことが多いですね」

――きっとお母さんの姿を見て、大事なことだと察してるんでしょうね。

「そうなんですかね、そうだとありがたいです」

――曲作り中は、息子さんはどうされてるんですか?

「赤ちゃんの時はまだ保育園に行ってなかったのでマネージャーに見てもらってたんですけど、今は保育園に行ってる間に曲を書いてます。だから日中ですね」

――家事もやって、大変じゃないですか。

「まあでも自分の生活のことなので。力を抜ける時はちょっと抜いてます。とにかく2人とも機嫌良くいれる状態を常に保とう、ということを目指して頑張っております」

――息子さんは音楽に興味を持ったりされているんですか。

「音楽の機材を置いてる部屋があるんですけど、触ってみたいと言って触ったり、あとこれは私は全く関与してないんですけど、ヒカキンさんのYouTubeが大好きで、いつの間にかボイパをできるようになってて」

――え、すごいですね!

「普通に私には出せない音も出したりしてて、音楽好きなのかなという感じはあります」

――一緒に音楽ができたら嬉しいですか?

「いや、息子には息子が好きなことをしてほしいので、全然興味を持たなくてもいいし、私は音楽が好きなので、自分が好きな音楽を息子が好きというのは嬉しいですけど、一緒にやるとなったらちょっと無理かもしれないですね(笑)」

――無理かもしれない。

「ミュージシャンの時はミュージシャンの自分なので、息子は息子でやってくださいって思うかも(笑)」

――なるほど。ミュージシャンでおかんのYeYeさんだけど、ミュージシャンとおかんは切り離してるというか、分けている?

「そうですね、分けてるかも。ミュージシャンの自分は自分だけで守りたいみたいな想いが強いかもしれないです」



「純度100」で自分がやりたい音楽をできていたか


――『はみ出て!』は昨年9月、『おとな』は2021年7月リリースで、少し時間が経ちましたが、今それぞれの作品をどのように見られていますか。

「『おとな』に関しては、完全にコロナ禍に作った曲ばかりで、バンドに身を委ねていた自分がやっぱり孤独なものだったと気づかされた時のアルバムというか。原点に返るとまではいかないけど、それと同時に、1人で音楽をやる良さや楽しさをもう1度思い出せてくれた作品でした」

――BASIさんや江﨑文武(WONK)さん、川辺素(ミツメ)さんとのコラボ曲が収録されていましたね。

「『おとな』は曲を点で捉えていたというか、曲が集まった時に1つの形ができたので、短編をいっぱい集めた感覚で。『はみ出て!』はすごく壮大な、見えないところにダイブしに行く感覚があったなって、今振り返ると思います」

――そこは結構サウンドにも表れていますね。

「そうですね。音数も『おとな』の方はすごくミニマムな感じだったり」

――ライブで楽曲が成長するとよく言いますが、時間が経って、曲の印象が作曲当初と変わることはありますか。

「どうでしょう。昔のアルバムの場合は、そのギャップが結構激しかったなと感じることが多かったんですけど、ある程度年齢も重ねてきて、今作るアルバムは無意識ですが、結構ライブまで見据えて曲を作るようになってるので、ギャップはあまりないですかね」

――『はみ出て!』は完成して約半年ですが、まだフレッシュですか?

「多分私は人よりせっかちなところがあると思うんですけど、もう結構飽きてて(笑)。すでに次を見据えてます。最初にiPhoneにさくっと録音して作るところから数えると、ミックスやマスタリング、レコーディングの工程で、それぞれすごい回数を聞いてるんですよ。リリースライブと共に完成した感覚もあったし、バンドでリリースライブをするのも、コロナが明けて、妊娠出産を経てだいぶ空いていたので、形にして実現できたという達成感だけで、もう良かったみたいな感じがあって。もちろん引き続きライブでは『はみ出て!』の曲もやってるんですけどね」

――今はどんなモードですか。

「今まで、自分がやりたい音楽や作りたい音楽が途切れたことがなくて。"次はこういうアルバムを作りたい"というアイデアが常にあったんですけど、リリースライブが全部終わって、去年の年末か今年の頭ぐらいから、アイデアはいっぱいあるものの、『はみ出て!』の次に出すアルバムはどういうものがいいのか、わからない状態が続いたんです。でも、自分の中で過去を内省したり、"本当に自分がやりたい音楽って何だろう"と考えて。1番最初に出したアルバム(『朝を開けだして、夜をとじるまで』、2011年リリース)は、自分が作りたくて作った作品というか、曲を聞いてくれたレーベルから声がかかって、まとめて出した感じで。そこから2作目からレーベルをかえて二人三脚で、自分以外の人が"良い"と言ってくれるものを受け入れてきて。それも勉強になったし、楽しかったんですけど、そもそも純度100で自分がやりたい音楽をできてたかなって」

――ほう。

「活動を振り返るとずっと楽しいんですけど、そういう側面で言うとできていなかったなと。だから次は、周りにどう思われてもいいから、自分のためだけに音楽を作ろうって。そういうスイッチが2月ぐらいから入って、今はそっちに心が持っていかれてるので、"そうだ、レコード出るんだった"という(笑)」

――そういえばそうだったと(笑)。『はみ出て!』の楽曲の歌詞からは、自分の感情や気持ちをありのまま大事にするという精神性を感じていて、内容もシンプルになっていたので、やりたいことに向かっているんだと感じていましたが、純度100ではなかったということなんですね。

「今おっしゃっていただいた通り、歌詞の面だけで言うと、多分どんどん純度100になっているんです。でもそれを乗せる音楽で見ると、結構色んな人の力を借りていて。作るのは全部自分だし、皆で作ることが楽しかったのも事実なんですけど、"そもそも私がやりたかった音楽ってどんなのやったろう?"と思ったら、自分が1番弾いてて楽しいなと思うのは、リビングですごくちっちゃい声とちっちゃいギターで弾いてるここ(口の周り)の空間。ここでやってる時が、1番自分の好きな音楽だなと思い出したんです」

――なるほど。

「今は"ここ"をパッケージングして、色んな人に聞いてもらいたいという想いがすごく強くて。デビューした20歳ぐらいの時は"ふわ~"みたいな歌い方だったんですけど、どんどん声の出し方もわかってきて。それこそ『素っ頓狂 feat. BIM』(M-1)は結構声を張り上げて、"(私の音楽)聞いて聞いて"みたいな感じになってたんですけど、今は"別に聞いてくれへんでいいから、ちょっとこの辺寄ってきて"みたいなモードになったというか」

――距離的には近くなんですね。

「色々経て、すごく良い意味で、今めちゃくちゃ内に向いてるというか。"今からは内に向くので、私の内を見てくださいね"って、ちゃんと自分主体で考えられてる感覚があります」



隠キャの自分も、陽キャの自分も、全て自分


――それは『はみ出て!』でやり切った感覚もあったりするんですか。

「私って元々すごく出無精というか、自分から誰かに"お茶しよう"とか全く言わないんです。逆にずっと誘ってくれる友達がありがたいんですけど、ものすごく家に引きこもる陰キャで、本当に家が好きで。人と関わったり、人のライブにも滅多に行かない内向きタイプなんですよ。でもそれがどうしたのか、去年の『はみ出て!』の時は、人とコミュニケーションを取るのがすごく楽しくなって。ライブもよく見に行ったし、"自分も年を取ったらこんなに外に出るようになったんや"と思って、ずっとテンション高かったんですけど、全てを出しきった後に"あれ、何か疲れてる"と思って(笑)」

――(笑)。

「"そっか、私って元々めちゃくちゃ引きこもりやった"と思い出した瞬間、今まですごく陽キャのふりして頑張って曲を作っていたけど、本当に何周もして、色んなところを経て、自分で自分を認めた感覚があるなと。多分もう少し若かったら、"陰キャの自分なんて"と不安要素と捉えていたと思うんですけど、今、ちゃんと2023年にこの思考になれて、腑に落ちた感じがあって。自分のどんな部分も認められるようになったというか」

――自分の中には陰キャだけではなく陽キャの部分もあって、それも認めつつ、でも本来はこうだった、というところに立った感じなんですね。

「自分の1番居心地良い場所はここだったということを、何周もして再確認できた感じです」

――では、次は本当に1人で音楽を作ろうと。

「基本的には自分1人でやりつつ、でもその感覚を分かってくれるYeYeバンドのベーシストのじゅんじゅん(浜田淳)さんと、サウンドエンジニアとしてずっとお世話になってる吉岡さんが色々相談に乗ってくれたり、私のわがままも受け入れてくれるので、その2人の力もお借りして。でも、本来あるべきだった自分の意思を1番大切にします。今までこの2人に"これは良くないんちゃう"と言われたら、"良くないかも"ってすごく不安に思ってたんですよ。でも、今は自分が良いと思ったらそう思えてる感覚が強いです。不安にならなくなったというか」

――自分の意見に自信を持っている。

「そうですね、そんな感じです。ずっと平和でいたいし、今までは関わる人数が増えれば増えるほど、自分が調整役に回っていて。表に立って皆を引っ張る親方でありつつも、結局皆の意見を全部細かに拾い上げて、"じゃあこれに自分の意見を足して、これを解釈してこうしましょう"みたいな。ものすごく細かい目で見すぎてたんですけど、今は良い意味で"自分の塊だけを見れば、それでいいじゃないか"と思えています」

――『はみ出て!』の楽曲を聞いていると、YeYeさんの人生観が達観しているというか、悟りの境地に入ってきたなという感じをすごく受けました。

「嬉しいです」

――『リマインド』の<この人生にさからったところで矛盾しかないのだから>という歌詞は、色々経てきた人だから言える言葉ですよね。

「元々"何でこんなに生かされてるんだろう"みたいなことを考えるのが昔から好きで。どれだけあがくような状況になったり、思い通りにいかへんと思ったとしても、自分自身に"もう1回ここに立ち直れよ"という意味も込めて、『リマインド』というタイトルをつけたところはあるので、『リマインド』の歌詞は結構これからの自分や、次の作品全てに繋がる感じはあります」

――ミュージシャンとしてのターニングポイントはどこだと思われますか。

「いっぱいありますけど、やっぱり1番のビッグイベントは出産してお母さんというポジションになったことです。よく"子どものために仕事頑張れる"と聞くんですけど、私はその感覚はちょっと違って。子どものために頑張れてるというより、音楽の仕事を頑張れば頑張るほど、すごく自分が自分になって、それで子どもに余裕を持って接することができるんです。例えばライブの後ってめちゃくちゃ疲れてるんですけど、音楽が栄養になって、すごく満たされてる。そんな自分の方が、毎日四六時中子どもと一緒にいる時の自分よりも、子どもとすごく良い感じで接することができるんです。つまり自分が好きなことをめちゃくちゃ頑張れば、子どもにもすごく良い顔ができるし、良いコミュニケーションが取れるなというのは、すごく大きな気づきでした」

――音楽で自分が満たされるんですね。

「そうですね。子どもが産まれた時は、ずっと音楽をやってきたし、たったの2年間ぐらい子供だけを見てゆっくりしようかなと思ってたんです。そしたらもう2~3か月ぐらいで自分が自分ではなくなる感覚になって、そこから意地でも曲を作るみたいな感じでしたね」

――本当にミュージシャンが天職なんですね。

「ありがたいです、頑張ります(笑)」



音楽を体験する、その不便さが好き


――今回アナログ盤とカセットテープがリリースされるということで、レコードとカセットテープへの思い入れがあれば聞きたいなと思いますが、いかがですか。

「どっちも大好きです。私はあまりコレクター気質ではなかったんですけど、近所に好きなリサイクルショップがあって、そこにたまに行くと、カセットプレイヤー1個持ってるのにもう1個買っちゃって。今、カセット再生機が家に4つぐらいあるんです(笑)」

――そうなんですね。

「カセットデッキの見た目にすごく心を持っていかれるというか。自分の曲をカセットで聞いてみたかったし、本当に初めて自分の意思で買った音楽は、『美少女戦士セーラームーン』のカセットだったので。だから、カセットで出せるのはめちゃくちゃ嬉しいです」

――カセットを出すのは初めてですか。

「初めてです」

――お兄さんが3人いらっしゃるということで、お兄さん方もカセットテープに親しんだ世代ですよね。

「当時はそうですね。うちの兄たちは30台後半~40代なんですけど、レコードはちょっと違うけど、カセットがあまりにも当たり前の時代すぎて、その世代の人は新しいものに未来を感じるイメージがあって。それこそガジェットや最新のiPhoneが好きやったり。多分私みたいに、"ぎりぎりカセットやったけど基本CDだった"という人の方が、カセットを逆に新しいものとして捉えてる印象があります」

――私もお兄さんと同世代なので、新しいオーディオに対する感覚はわかりますね。

「兄たちと遊びで一緒にバンドをやったりしてる時もあったんですけど、最終的に音楽の道に進んだのは私だけだったので、ある意味音楽を1番聞いてるのは末っ子の私なのかなという感じはあります」

――レコードに関してはどうですか? 今まで7インチも出してこられていますが。

「7インチは何回か出させてもらったんですけど、大きい盤で出すのは初めてです。私、今は結構極端な聞き方が多いというか、最初ストリーミングやラジオで聞いて良いなと思ったらアルバムで買っていたのが、完全にレコードで買うようになったので、レコードで出せるのは嬉しいです。"この音楽はレコードで聞きたい"となったら、ちゃんと1曲目から針を落として聞こうって、いつも思っています」

――CDよりレコードの方が、音質が良く聞こえると言いますね。

「この間ウルフルズの『大阪ストラット』のカバー動画を上げたんですけど、あの曲は昔から聞きまくってたし、ウルフルズなんて当たり前のようにずっと耳に入ってきてたんですけど、急に気になり出して。中古で『大阪ストラット』のレコードを発見して、初めてレコードで聞いた時に、mp3では聞こえてこない音がバシバシ入ってきて。レコードは違う角度からの再現ができるんだと思って、めちゃくちゃ感動しました」

――『はみ出て!』も盤になった時にはCDとは違う聞こえ方をするということですよね。

「はい。もちろん針やプレイヤー、スピーカーなどの環境によって聞こえ方が全然違うと思うんですけど、盤を持っていって針を落とすという行為自体、すごく音楽に体が向いていて尊いなって。今って全部マルチタスクでしがちですけど、音楽を体験するその不便さが私は好きですね」

――A面が終わったらB面にひっくり返さないとダメですもんね。A面B面のこだわりを持ってらっしゃるアーティストの方もいらっしゃいますが、YeYeさんはどうですか。『はみ出て!』は全10曲収録で、5曲目までがA面、6曲目からB面になっていますが。

「本当は繋げたい曲があったんですけど、今回録音の長さの関係でカセットかレコードのどっちかはできないとなって。でもそれはそれで、レコードでしかない良さかなと思ってます」

――発売が楽しみですか。

「楽しみです。ジャケを描いてくださったnico itoさんのイラストもすごく好きなので、大きい盤でできあがるのは本当に楽しみです」

――7インチの大きさも可愛くて素敵ですが、12インチは飾りたくなりますね。

「ちょっとしたポスターみたいな感じになりますよね」

――カセットもあの小ささがまた可愛くて。

「音のピッチの頼りなさみたいなのも(笑)」

――今後については、先ほどお話にもあったように次の曲作りを始めてらっしゃるんですか。

「そうです。気持ちの変化でエレキギターを新しいのにしたいなと思って。巡りに巡って結局人から譲ってもらうことになって。ギターを変えた瞬間、今までエフェクターや機材に全く興味なかったのに、突然機材欲が湧き出してきて。今まではギターの音作りもドラムのリッキー(senoo ricky)さんがやってくれたぐらい、本当に興味なかったんですよ。"そもそもそういうものに興味を持つ前に、己の技術とセンスを磨け"と自分で自分に制限をかけてたんです。あとは、自分が好きなものを好きだと言える自信がついた部分にも繋がるのか、自分で自分が好きな音がようやくわかってきた感覚があって。そこから機材沼のように、寝ても冷めてもの字のごとく、毎日YouTubeと楽器屋さんのサイトの往復をしてます(笑)。今までは"自分はこの音は嫌い"というのはわかってたんですけど、"これが好きだ"という1番大事な部分が、人生で初めてわかった感じです」

――それを今追求してるんですね。

「機材を手に入れたら、1分半ぐらいのちょっとした曲を作ってみたりという感じです」

――自分の好きな音で、好きな曲を、好きな形で、純度100で出していく。

「Bondee(メタバースSNS)ってやってますか?最近周りでじわじわ流行ってて。メタバースの中で自分の部屋を作るんですよ。自分の好きな家具を選んで、好きな色を塗って。今、そういう感覚です。メタバースにいると、普段着では着ないようなわけのわからへん格好、ピチピチのタンクトップにすごいズボンで、野球の硬いヘルメットかぶって、耳にお花のイヤリングつけるみたいな、Bondeeの中だから叶う格好をして。でももしかしたら、本当は皆なりたいと思ってる自分の姿なのかなと思ったら、すごく不思議な気持ちになってきて。"自分ってこうなりたい"と確認できる場所になってます。自分が好きなように好きなだけ突っ込む感じを、次の曲でも表現しようという感じがあります」

――何だか新しいフェーズに入った感じがありますね。

「今までのアルバムもずっと新しかったし、毎回発見があるんですけど、発見が発掘されればされるほど、色んな角度の自分を受け入れられて、武器も引き出しも増えて。心の余裕も全然変わってきて、どんどん生きるのが楽になってます」

――やっぱり好きなことをやるのが1番なんですね。

「それに尽きるんだなって」

――私も気づかされました。ありがとうございます。次の作品の発表も楽しみにしております!

Text by ERI KUBOTA




(2023年3月28日更新)


Check

Release

『はみ出て!』

【アナログ盤】3850円(税込)
【カセットテープ】2200円(税込)

《収録曲》
『はみ出て!』アナログ盤/カセットテープ
[A面]
1. 素っ頓狂 feat. BIM
2. 確かな午後
3. 水面に、アイス(W/Ginger Root)
4. Look Around
5. L.A.
[B面]
1. 皆誰かの大事
2. どれも美しい
3. 余計ななぐさめ
4. リマインド
5. 蝉は呼吸する

『おとな』

《収録曲》
『おとな』カセットテープ
[A面]
1. 祈り
2. YeYe X BASI / おとな
3. Young Forest
[B面]
1. YeYe X 川辺素 / No Longer
2. アフターザムービー
3. Innocent
4. YeYe X Ayatake Ezaki / 家を買う

Profile

2011年『朝を開けだして、夜をとじるまで』にてデビュー。同作は作詞作曲は勿論、全ての楽器の演奏までをセルフ・プロデュースで行い、翌年のCDショップ大賞でニューブラッド賞を受賞。2013年2ndアルバム『HUE CIRCLE』、2016年3rdアルバム『ひと』をリリース。2017年リリースの4thアル バム『MOTTAINAI』に収録された楽曲「ゆらゆら」のMVが現在(2022年9月)までに1,200万回を超える再生回数を記録し、国内はもとより海外からも非常に高い評価を獲得。2020年に5枚目となるアルバム『30』をリリース後、 2021年には江﨑文武(WONK)とのコラボ曲「家を買う」を皮切りに、ミツメのヴォーカル川辺素とのデュエット曲「No Longer」、サウンドプロデュースにTENDREを迎えラッパーのBASIをフィーチャーした「おとな」(同曲のMVには人 気ダンサーyurinasiaが出演し、大きな話題に)を立て続けにリリース。2022年は、BIMをフィーチャーした「素っ頓狂 feat. BIM」と、そのtofubeatsによるリミックス、ハマ・オカモトやmabanuaらが参加した「確かな午後」をリリースし、7月には二度目となるフジロック・フェスティバルにも出演。8月には、米の人気アーティストGinger Rootとのコラボ曲「水面に、アイス」が世界中から大きな反響と話題を集め、9月21日にはそれらの楽曲を収録したニュー・アルバム『はみ出て!』をリリース。2023年3月29日には、『はみ出て!』のアナログレコードとカセットテープ、『おとな』のカセットテープをリリースする。

YeYe オフィシャルサイト
https://yeye.me/