ホーム > インタビュー&レポート > yahyel、5年間に及ぶ“音楽的殴り合い”から生まれた最高傑作 「美談として捉えられたら間違いなくそれは間違っている」
「5年間の混沌が音や歌詞にあらわれている」
――2023年の音楽シーン......いや、クリエイティブアートとしても最高到達点のひとつと言える作品だと思います。yahyelとしても「これはすごいものができたぞ」という実感があったのではないですか。
池貝「毎回、ベストを尽くして前回を更新しようとしているので自分たちもすごく嬉しいのですが、今回のアルバムはおっしゃるように『すごいものになった』という感覚があります。作品として形になるまで5年くらいかかり、その過程でバンド内の人間関係など紆余曲折がありましたから。これは過信でもなんでもなく、『これだけ時間をかけていれば良いものになるだろう』という必然的な感覚があったというか。それほどこの5年は重かったんです」
篠田「ガイ(池貝)が時間的な話をしていましたが、確かに良いアルバムができあがるときって、関わっている人たちの"なにか"が意識せずとも刻印されるものがあって。それが出ているものが、良いレコード、良いアルバムな気がするんです。今回は、後から振り返ると『刻み込まれてしまったな』という気がしています。それは自分たちが5年間、すったもんだして苦しんだということが大きいです」
――具体的に、おっしゃっている時間と人間関係は作品としてどのようにあらわれていますか。
池貝「『Four』という曲の前後の雰囲気の違いですね。そこまでの曲の流れは、時間と人間関係が如実に出ています。みなさんもこの数年、自分の生活環境でいろいろあったはず。僕らはバンドの中で年齢のフェーズが変わり、人生のフェーズも変化した。それにともなうように、社会から受ける影響も各々に違いが出て、それが火種になったりしました。音楽ってある種、ショービズ的なアートと捉えられている部分もあると思う。それでもなにかを本気で作ろうとすると、4人それぞれ、全員と向き合わなきゃいけないときがある。『みんななにを考えているのか』というフィードバックを繰り返していくうちに、5年間の混沌へとつながりました。その影響が音や歌詞にも出ています」
篠田「だからこそ、時間に解決してもらったところが大きいですね。逆に、5年かかったのですが形が見えてきたのはこの1年から1年半くらい。そこまで煮詰まらなくて。ガイから人間関係の話もありましたが、メンバーが会ったり、会ってなかったりの時期もあって。でもyahyelから離れて作業をしているとき、あらためてyahyelとの向き合い方、今回の作品との向き合い方が分かっていきました。まさに時間に解決してもらったという言葉が適している気がします」
――作品として「CULT」=崇拝・狂信から始まり、「kyokou」=虚構に落とし込む流れがまた毒があっておもしろいです。
池貝「流れという意味ではどちらかというと『Love』と『Cult』がひとつの対比を作っていますね。僕の観点ですけど、ここ数年は盲信の時代だった。いろんな物事に対して空虚に感じられたことが作品のスタート地点。Love=愛も同様にそれくらい、いや、もしかしたらより主観的で空虚なものなのかもしれない。それがアルバムの大きなテーマにもなっています。『kyokou』という曲は『Love』までの結論を出して、『じゃあ愛情ってなんなんだろう』とあらためて考えさせるものになった。現在の時代のなかで『じゃあ、自分はなにが失われていないのか』と残っているものを数えることで、自分のなかにあるものを探し出したというか」
――この数年、確かに失うものがたくさんありましたからね。
池貝「そういう作業を自分でやったとき、やっと正直になれる世界を見つけられた。それが『kyokou』という曲のイメージです。単純なラブソングにも聴こえるのはめくらましで、そこに至るまでの時間への思いが詰まっています」
――ただ、Love=愛を空虚なものとして捉えるのってかなり厳しい視点を持っていらっしゃいますね。
池貝「確かに厳しいかもしれないですね。でも結局、それでも愛は残るか残らないかでしかない。それがこのアルバムにおける愛情の定義なのかなって今は考えています。だからこそ『Love』と言いながら、愛やLoveという言葉を使っていない。『愛情ってすばらしい』という観点は、人が生きていくためにはすごく重要なポジティビティではある。だけど形のないものでもあるし、自分が愛だと思っているものって、人にとってはカルトに見えることもある。そういう観点をちゃんと自覚していないと、他人とフェアな会話はできないんじゃないかなって。それがここ数年の世の中の流れに対して思っていること。まあ、そうやって愛情を定義するのって、結構苦しいプロセスですけどね」
篠田「あと、先ほど我々に起きたすれ違いの話が出ましたが、20代中盤から30代に変わり、それぞれの人生もすれ違っていくなかで、一緒にいられなかったり、一緒に作品を作れない時期があった。それでも歩み寄ってyahyelとして一緒にいること、残ることを選んだ。そうやってできあがったこの作品が、我々なりの愛の形かもしれません。それがガイの言う『残っているものが愛』ということ。Loveの対義語ってHateではなく、『無関心』『一緒にいないこと』だと考えているので、だからこそ一緒にいたり、一緒に営んだりしてなにかを作るということができたのは、大きな意味でのLoveじゃないかなって」
――逆に言えば、「Love」だけが残ったと考えられる気がします。じゃあ今後は「Love」を変化させて作品を作っていくことになるのか。もしかするとそれが失われた瞬間、yahyelは終わってしまうんじゃないかって。
篠田「まさにそうですよね。偶然ですけど、今回の作品には今の自分たちのことが刻印できてしまった。逆にまたケンカをして一緒にいることができなくなるかもしれない。ただ、だからこそ美しいなって思っています。今の時点では、我々4人が寄り添った瞬間をレコードという形で残せたから。もちろんそれって、何事にも言えますけど絶対に続いていくとは限らない。とにかく2022年から2023年にかけては、それが残せた自負があります」
「音楽ってヤンキーのケンカに近い作業が必要」
池貝「音作りの面でもそれがあらわれていますね。シンプルに説明すると、ケンカして残ったものが音になっているんですけど(笑)。でも、だからこそ全員の要素がある。全員が自分の要素を持ち寄って、全力で総合格闘のトーナメントをして『お前の拳、強ぇな』とやっていった感じ」
――なるほど。
池貝「音楽って良い、悪いじゃないからこそ決着がつかないというか。実はヤンキーのケンカに近い作業が必要なんです。そもそも音楽って闘争じゃないから。認め合えるまで、そのために全力で殴り合わなきゃいけない。ケンカなんて本当はしないほうがいいですけどね。僕の場合はソングライターだから『曲は絶対にこうじゃないと嫌だ』という意見があり、でもほかのメンバーは『バンドってこういうふうに音楽を作っていくべきじゃん』『今の自分はこういう音楽を聴いている』とか。それぞれ相容れない要素がぐわーって押し寄せてきた。各々のことをこういう風に解釈できるかな?......って感じで作っていきました」
篠田「これまでと圧倒的に違いがあったのは、音を作るプロセス。前2作までだとシンガーソングライターとしてのガイがいて、彼が持つビジョンがそこにあり、そこに対してみんなでいろんなものを当てはめていった。そこから発展して各々、自分がここに属して音楽を作る意味などを考えたなかで、ケンカしたり、モメたりして。『自分はこの音が作れるから、こうしたい』『こういうものが良いと思う』を持ち寄りつつ、各々の想像力が超えたものを作品として作れるかどうかという。その間のプロセスのデザインというところで、すったもんだがありました」
――おふたりの話を聞いていて思ったんですけど......、そんなにモメていたんですか(笑)。
池貝「ハハハ(笑)。分かりやすい話、同じ空間にいれないという感じでしたから。こうやってアルバムが出たことで美談になったり、『バンドってそういうもの』と捉えたりする方がいるだろうけど、そう言われると僕は間違いなく「はぁ?」ってムカつくと思います(笑)」
篠田「2019年にメンバーがひとり抜けて、5人から4人になる過程のなかでいろいろ組み替えていって。同時期『そろそろサードアルバムも作っていかなきゃね』という動きが重なり、自然とすれ違っていきました。もともとプライベートで遊ぶというより、一緒にいるときは曲やライブを作ることがメインになるから。その作業をしていく中で、みんなが真面目に、真剣に音楽と向き合い、否応なくヒートアップしていきました」
池貝「逆説的に言えば、真摯に向き合っていることであれば、どういうプロセスにおいても本来はそれくらいのことが必要だと思うんです。社会的な議論であっても、恋愛においても。今ってすごく単純に濾過されちゃっているだけじゃないかなって。問題解決のプロセスがあまりにも美化されすぎている気がするから」
「そんじょそこらの客商売とは話が違う」
――ただそういう過程を踏んだからこそ、『yahyel"Loves&Cults"Album release tour』で表現されるライブって、これまでとはまた違うものがあるのかなって。
池貝「音楽的にすごく変わっているはず。とても肉体的になっている、つまりバンドっぽくなっている。たとえばすごく分かりやすいところでは、これまで映像をやっていた山田健人がギターを弾く要素もあったり。生で音楽を演奏することへの考え方が僕らの中でも変わってきたので、その点で明確な違いが見せられる。あと精神的な強度が違います。5年間もケンカして、酸いも甘いも分かった4人がここまでの強度の作品を演奏するというのは、申し訳ないですけどそんじょそこらの客商売とは話が違う」
――ハハハハ(笑)。
池貝「そういう爆発力は間違いなく出るんじゃないかな。ミルが先ほども話していたように、音楽や表現することに真摯に向き合ったというのは結果的にあったから。そういうパワーはライブでも絶対に感じてもらえるはず」
篠田「我々はこれまでバンドとして演奏することにそこまで固執していなかった。プレイヤーらしきプレイヤーはドラムの大井一彌だけだったんですよね。あとはみんなプレイヤーを意識していなかった。ただ今回はそれぞれがプレイヤーであることを引き受けているんです。それってyahyelとしてすごく新鮮なこと。これまでのライブって、いつどこでやっても同じクオリティが出せる状態でセットを組んでいた。今回のツアーはそうじゃなくて、有機性があるというか。上ブレする可能性も、下ブレする可能性もある。いろんなリスクをはらんでいることによる緊張感がライブに生まれる。だから全3公演、すべて違った熱量が放たれると思います」
取材・文:田辺ユウキ
(2023年3月16日更新)
Album『Loves & Cults』
発売中
《収録曲》
01. Cult
02. Karma
03. Highway
04. ID
05. Mine
06. Sheep
07. Slow
08. Eve
09. Four
10. Love
11. kyokou
https://linkco.re/cgy6pRfX
【愛知公演】
チケット発売中 Pコード:236-937
▼3月22日(水) 19:30
名古屋クラブクアトロ
スタンディング-4500円(整理番号付・別途ドリンク代必要)
スタンディングU-23割チケット-2200円(整理番号付・別途ドリンク代必要)
※「U-23割チケットについて」 23歳までであれば購入できるチケットです。23歳の方は購入可能となります。当日入場時に身分証明書の提示をお願いします。確認できなかった場合、前売料金との差額\2,300を頂く場合もございます。 U-23チケットの当日券はございません。(先行/一般のみ)枚数に限りがございます、売り切れ次第販売終了となります。未就学児童は入場不可。公演に関する注意事項等の詳細は、ジェイルハウスHPにてご確認ください。
※チケットは、1人4枚まで。
[問]ジェイルハウス■052-936-6041
チケット発売中 Pコード:238-284
▼3月23日(木) 19:30
梅田クラブクアトロ
スタンディング-4500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
スタンディング(U-23)-2200円(整理番号付、ドリンク代別途要、身分証明書要提示)
※未就学児童は入場不可、小学生以上はチケット必要。【U-23チケット】
※23歳までであれば購入できるチケットです。
※23歳の方は購入可能となります。
※当日入場時に身分証明書の提示をお願いします。確認できなかった場合、前売料金との差額\2,300を頂く場合もございます。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
【東京公演】
チケット発売中 Pコード:237-102
▼4月5日(水) 19:30
WWW X
スタンディング-4500円
スタンディングU-23割チケット-2200円(23歳まで対象/公演当日要身分証明書)
※未就学児童は入場不可。小学生以上はチケット必要。ドリンク代別途必要。
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭での受付はなし。1人4枚まで。
[問]スマッシュ■03-3444-6751