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bonobos、解散前ラストとなる大阪公演ライブレポート

bonobosが22年に及ぶ活動にピリオドを打つことを発表してから約1年。3月3日、ついにやってきた大阪での最後のライブ@BIGCAT。当日を迎えるまでは、「曲によっては過去のライブを思い出したりして涙腺が緩む瞬間があるのかも」などと思いもしたけれど、ライブ後の率直な感想としては過去を振り返る瞬間はほぼなかった。それぐらい、大阪最後の夜のbonobosはバキバキに冴えていて、めちゃくちゃにカッコよかった。bonobosは今が最高。まぎれもなくその通りだった大阪の夜を記録する。

会場のBIGCATは建物の4階にあり、そこへ続く階段におびただしい数の人たちが列をなしていた。開演が近づく頃は場内はもうみっしりと人、人、人。灯火管制下のようなコロナ禍、こんなにもお客さんがぎっしりのライブハウスは久しぶりすぎる。場内が暗くなりさんざめくような拍手の中聴こえてきたのは『Super Adieu』。期待を煽るようでもあり、はたまたクールダウンさせる効果もあるように聴こえるから不思議だ。まだ暗い中にメンバーが登場し、ドラムのカウントから始まった1曲目は『GOLD』。いきなり"ありがとうさよなら 更に言うと愛してる"なんて始まり方をするとは。"悲しむことなど何もない"という詞の一節。本当にそうなんだろう。"忘れた物をとりに戻るように またいつかここで逢おう"という詞にもいちいちグッときてしまうけれど、なんという晴れやかなさよならの始まりだろう。歌い終えた蔡忠浩(vo&g)が「ようこそ!」と呼びかける。途切れない拍手に田中佑司のキーボードがそっと入り込んだ『Late Summer Dawn』はジャジーでリラクシン。キーボードが曲に差し色のように鮮やかなアクセントをつける。ドラムも気持ちいい。いつものライブのようで、演奏も歌もひときわ洗練されている。

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『Cruisin'Cruisin'』でフロアのお客さんはそれぞれ思い思いに揺れる。思い思いでふぞろいなのが人間の営みそのもので、いい。『グッドナイト』ではこっくりとしたオレンジ色の照明が青に変わる。ぐっとかみしめるようにスローで、冬の夜の暖かな室内を思わせる夜想曲。つくづく、バラエティに富んだ曲を聴かせてくれる。まだ4曲目だというのに1曲1曲贅沢な心地よさを味わっている。「改めましてbonobosです」という挨拶には瞬時に大歓声&大拍手が。最後のライブだし、声出し解禁だしでフロアも当然沸くに決まっている。なのに「うるさいっ」「静かにしろ。おじさんが喋っとる」と蔡。そんな照れ隠しもありつつ、久しぶりのBIGCATにガッツポーズして見せる。

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ここから先はゲストの小西遼(sax)と三上貴大(tp)が加わった7人でのステージ。お客さんの声援に、「久しぶりだね、この声を聞くの」と小池龍平(g)が喜ぶが、そのコメントを蔡が華麗にスルー。それを森本夏子(b)が蔡にツッコむもあえなく撃沈。面白い。7人での『Not LOVE』から『POETRY&FLOWERS』、『東京気象組曲』は、なんというか違う次元に足を踏み入れてしまったような感覚。ある意味桃源郷。めくるめく音楽饗。日本語、英語、韓国語で混ざり合った『Not LOVE』の歌詞のように、コンテンポラリージャズもエレクトロもファンクもブレイクビーツも、R&B、レゲエも混ざり合い、なにか新しい音楽が形作られていくのを体感するような瞬間の連続。煌びやかな音色、目の前でくるくると場面が移り変わる映像を見るように次々に変わるテンポ、リズム。心地よい揺れ。疾走感。何もかもを忘れさせるようでありながら、強烈に何かを焼き付けるような音楽。ノスタルジックの「ノ」の字もなくて、あるのは最新鋭で尖っていて、グルービーで代わりの効かないbonobosという音楽。場内の照明が一気に明るくなり、『THANK YOU FOR THE MUSIC(Nui)』。みんなイントロでわかっている。天に向かって伸びる手。アウトロで炸裂する小西のソロに場内は沸きまくり、そのまま(たぶん)予定外のメンバー紹介へとなだれ込んでしまう。梅本浩亘(ds)は蔡から「ビートマスター」と紹介され、森本からは「最高のドラマー。大阪の宝」と。その森本は蔡から「低音番長」と紹介される。この時に蔡が話したがっていたBスポット治療については、YouTubeのbonobos公式チャンネルで公開されている『ラストライブ前トーク(zoom)配信』でたっぷり語られているのでそちらをどうぞ。

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流れ星の軌跡のような照明がきれいな『永久彗星短歌水』。『電波塔』はオーソドックスなレゲエ、ダブ。『アルペジオ』ではフリーキーなようで流麗なサックスに、蔡のボーカルが踊るようにして絡んでいく。歌詞の言葉が持つ音感そのものが心地いい。『YES』から『おかえり矮星ちゃん』への破壊的に美しい流れも圧巻。『YES』という曲は聴いていると何か駆り立てられるものを覚えるし、『おかえり矮星ちゃん』は文字通り宇宙に放り出されたような解放的な浮遊感を覚える。生の場ではより音楽の自由度が高いのか、即興のようなプレイはこの先どんな展開が待っているのか予測がつかないからこそ心躍る。フロアオリエンテッドというのか、肉感的でありスペイシーでもあり、ロックで、そこに歌心も感じる。なんでもありなのに手垢にまみれていない新鮮さ、生々しさがあるのもbonobosの音楽の魅力だ。

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本編最後の曲『あの言葉、あの光』を前に、改めて「本当に長い間ありがとうございました」と一言。オリジナルメンバーは蔡と森本だけで、20年以上もやっていると思い通りにいかないことの方が多かったという話も交えつつ、蔡は「僕個人で言えば今日のステージに立っている7人で、満足感のある達成感のある音を鳴らせている」と。そして、bonobosを全国的なバンドへと押し上げた曲は『THANK YOU FOR THE MUSIC』に違いないけれど、関西ではその曲よりも先にFM802で『あの言葉、あの光』がヘビーローテーションになっていたと話し、当時歌詞を書くのに苦戦したエピソードも披露。森本はカラオケに行くと必ず歌う一番得意な歌が『あの言葉、あの光』なのだという。深煎り珈琲のような苦味とまろやかさを内包したギターの音色がどこまでも暖かい。「ここ10年ぐらいで一番コンディションがいい」とMCで話していた通り、蔡の歌声はとてもなめらかでタフ。今の装いで鳴らされる"ありふれた言葉にうたうMagicさ"という詞の一節に、バンドとしてアップデートを続けてきたここまでの道のりを重ねたくなる。曲中、改めてメンバー紹介。梅本の「ひろのぶ」という名前を今更言い直すなど笑いもはさみつつ、ひたすらに心地よい時間は刻々と終わりに近づいてゆく。

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どんどん大きく&テンポアップする手拍子に応えて5人が再びステージへ。アンコールは、イントロの音の重なりがプリズムを通した光を想起させる『三月のプリズム』から、駆け上がるような『うつくしいひとたち』へ。森本が「『うつくしいひとたち』はこの5人で一番最初に録音した曲」とグッとくる思い出話を披露。いい雰囲気になった直後に、小池と蔡の記憶が曖昧すぎて話がかみあわなくなるのもご一興。大阪最後の夜も残すところあと1曲。「ほんとに最後の曲です」と『グッドモーニング・マイ・ユニコーン』を。"いつだって汗をかき歌おう"、"そうやって美しく生きよう"の"いつだって"、"そうやって"でフロアを埋めた人たちは手を上げ、拳を握って歌う。声が出せて、歌えるライブで本当によかった。この夜のフィナーレを飾る曲であると同時に、これから新しい道へ踏み出すメンバーとリスナー双方へ向けたファンファーレのように演奏も歌も高らかに鳴り響く。なんてすがすがしいお別れ。大きく手を振ってステージを後にしたメンバーが、土砂降りの雨音のように大きな拍手に応えもう一度ステージに現れ、最後は満面の笑みでお客さんと記念撮影をした。

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本当に最後の日比谷野外音楽堂でのライブは、達成率が200%を越えたクラウドファンディングのおかげもあり当日生配信され、後に編集されたものがアーカイブとして残され、パッケージ作品も作られる。この日1曲目に演奏した『GOLD』に「すてきな場所を見つけてすてきな人に会えたら もう僕のことなんか忘れてもいいよ」という歌詞がある。素敵な音楽は世界中に数えきれないほどあふれているし、宇宙に散らばった星の数ほどあるその音楽の中でbonobosに出会ったこと、選びとったことはひとつの奇跡。この先も素敵な芸術に出会っていくけれど、この奇跡はそう簡単には忘れないし揺るがない。22年間、作品を編むたびに大きく深く変化し進化を遂げてきたbonobos。デビュー当時のゆるっとした佇まいから今この瞬間までの深化の過程は思いがけない冒険の連続で、彼らの楽曲同様に到底先の展開は予測できなかった。だからこそかけがえのない存在でもあった。前出の『ラストライブ前トーク(zoom)配信』で森本は、「大阪と日比谷のライブはそれぞれセットリストも違う。それぞれのストーリーがあるから」と話していた。大阪公演の模様はbonobosの公式インスタグラムにアーカイブが残されているが、メンバーの前にも私たち観客ひとりひとりの前にも光り輝く道がすーっと伸びているのが見えるような晴れがましいラストライブだった。素晴らしい22年間をありがとう。

Text by 梶原有紀子
Photo by 池永侑身




bonobosのラストライブ、3/5(日)日比谷野音でのワンマン公演「bonobos.jp」の映像全編を多くの方に届けるべく、当日YouTubeにて無料生配信&さらに後日、編集版をYouTubeで公開、さらにパッケージ作品として完全版(メイキング付)も制作。bonobosの音楽を未来とあなたの手元に残すプロジェクト。

クラウドファウンディング
https://ubgoe.com/projects/297

日比谷野外音楽堂配信アーカイブ(3/12まで)

(2023年3月 8日更新)


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Set List

bonobos LAST LIVE「bonobos. jp」
2023.3.3 Fri at BIGCAT

01. GOLD
02. Late Summer Dawn
03. Cruisin’Cruisin’
04. グッドナイト
05. Not LOVE
06. POETRY&FLOWERS
07. 東京気象組曲
08. THANK YOU FOR THE MUSIC
09. 永久彗星短歌水
10. 電波塔
11. アルペジオ
12. YES
13. おかえり矮星ちゃん
14. あの言葉、あの光
En1. 三月のプリズム
En2. うつくしいひとたち
En3. グッドモーニング・マイ・ユニコーン

オフィシャルサイト