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胸にスッと入り込む歌声とメロディーとタイムレスで深みのある
音楽性。それらがかけ合わさった楽曲で2022年にシーンに登場した
ロックユニット。良質で色褪せることを知らない楽曲を生む
Benlouインタビュー

ロッキング・オン主催のバンドオーディション「RO JACK for COUNTDOWN JAPAN 20/21」で優勝に輝いたバンド、アオノオトシゴでボーカルを務めていた仙田和輝(vo)と、The Cigavettesでの活動を経てくるりやエレファントカシマシ、そして現在は銀杏BOYZのサポートギタリストとして活躍する山本幹宗(g) により2022年に誕生したばかりのBenlou(ベンルー)。昨年より配信リリースされていた『Ripple Mark』(M-6)、『ミラージュ』(M-3)、『路地裏』(M-5)を含む1st EP『煙』が2月1日にデジタルリリースされた。初めて耳にするのに初めてじゃないような親密感のあるメロディーと、透明感のある歌声。それらは心地よく耳に滑り込み、曲ごとに違った物語へとリスナーを連れて行ってくれる。脇を固めるミュージシャンの顔ぶれもすごい。屋敷豪太(ds)、くるりの佐藤征史(b)を筆頭に、米津玄師や宇多田ヒカルの作品でも知られるミックスエンジニアの小森雅仁らが参加。ビートルズをはじめ幅広い音楽に深く精通する山本の手腕と、ソフトな手触りの中にたしかな歌唱力を持つ仙田のコンビが生み出す楽曲は、色褪せることを知らない。この先に生まれる楽曲も、この2人が作るものならそうであるに違いないと、EP『煙』を聴くたびにその信頼感は強くなる。ぴあ関西版WEB初登場となる2人のインタビューをお楽しみください。


いくつかのプロジェクトが進行している中で、現れた大本命が仙田くん



――二人はいつ頃どんなふうに出会ったんですか?

仙田和輝「最初の出会いは2020年の秋ですね。その頃、僕はアオノオトシゴというバンドのボーカルをやっていまして」

山本幹宗「パンクバンドね」

仙田「いや、パンクではないですね(笑)。そのバンドでCDを作る時にプロデューサーとして幹宗さんを紹介していただいたのが初めての出会いですね。僕はバンドのソングライティングをしていたんですけど、バンドとは別のプロジェクトで曲を作ってみないかと、お誘いを受けまして。2021年の夏とか秋ぐらいから一緒にやり取りしながら曲を作り始めたのがきっかけで、そこからBenlouが始動しました」

――山本さんは仙田さんのどこに一番惹かれました?

山本「いい曲を書くなあっていうのと、いい歌を歌うし、可能性を感じたというか、すごくなりそうだなと思って。仙田くんが言ったことをもうちょっとほどくと、出会った時に活動していたバンドのサウンドとは違うサウンドアプローチのイメージが浮かんだから、"どういうふうになるかわかんないけど1曲作ってみない?"って。やってみたらそれがBenlouになっていったんですね」

――今回の『煙』で聴けるような楽曲に合うんじゃないかというひらめきがあった?

山本「そうですね。良さそうだなって」

――仙田さんはバンドの他にソロで弾き語りもしてましたよね?

仙田「そうですね。バンドがお休みだった時に一人で弾き語りでライブバーなどをめぐったりして。打ち込みで曲を作ったりしましたね」

山本「それ聴かせてよ。その音源出そうよ(笑)」

仙田「ええ?いえいえいえ(笑)」

――山本さんはバンド、The Cigavettesで活躍されその後くるりや銀杏BOYZなどのサポートギタリスト、プロデュースなどされていますが、さかのぼって最初の音楽との出会いは?

山本「家に弦の張ってないアコースティックギターがあって、中学1年の時に親に弦を張ってもらってちょっと練習したら弾けるようになったんですね。それで、"これはプロになれるぞ"、プロになれたら学校の勉強なんて必要ないじゃんと思って、勉学をおろそかにするいい理由を見つけたなと(笑)。実際プロになれたから良かったですけど、なんてリスキーなことをしたんだと思って」

仙田「アハハ」

――(笑)バンド時代の作品はUKロックやガレージロックの色が濃かったように思いますが。

山本「そうですね。いわゆる洋楽というものしか聴いてなかったんで、作る曲もそうなってましたね。他にも聴いてたらまた違った感じの曲になってたと思うんですけど。

――将来を決めるきっかけになった音楽との出会いや、影響を受けてきたものも、洋楽の方が多いですか?

山本「その時々にテレビで流れてた曲とか、例えばスピッツとかも聴いてかっこいいなって思ってましたけど、自分が一生懸命バンドをやるようになったのは、ビートルズとかダムドとか、バズコックスとかELOとかサイモン&ガーファンクルとか。全部ジャンルもバラバラですが(笑)」

――はい、見事に。

山本「そういうものからの影響が大きいと思います。ギターを始めた時に近所の名物ギターおじさんみたいな人から"これを聴け"ってベンチャーズとか渡されたり、ある時クラスの友達が高速道路のサービスエリアで売ってるようなビートルズのコンピレーション盤を貸してくれたんですよ。イギリス国旗とかがジャケットになってるようなCD、あるじゃないですか?」

――正規のベストアルバムじゃないやつですね。ビートルズじゃないけどうちにもあります(笑)。

山本「1曲目が『ツイスト&シャウト』でひっくり返るような衝撃を、いやひっくり返りこそしなかったもののすごいかっこいいなと思って10回連続で聴いてました」

――そういう出会いがあってバンドを組み、サポートやプロデュースがあり。Benlouというご自身がメインになる活動はバンド以来になりますか?

山本「いえ、2020年ぐらいからまたバンドをやり始めて、その流れでBenlouがありますね」

―−2020年というと、仙田さんと出会った年ですか。

山本「その時期にライブサポートとかたくさんやっていたのが、コロナでツアーが飛んで全部なくなって。3月の時点で、翌年の春まで埋まってたスケジュールが一旦全部白紙になっちゃって。かみさんの実家でねぎ育てるか、曲作るかどっちかで悩んだ末、曲を作る方を選びました(笑)」

仙田「そのくだりは知りませんでしたね(笑)」

――中嶋イッキュウ(tricot)さんと組んだ好芻(スース)が始まったのもその時期ですか?

山本「そうですね。それも2020年の途中ぐらいから始まって、もう一個ぐらい何かできそうだなって思ってたところへ大本命が現れて。天使の歌声を持つ男が、歌いながら現れたので(笑)」

仙田「あはは(笑)」

――アオノオトシゴでも仙田さんのボーカルの持つ若々しさとか青さは大きな魅力の一つでした。Benlouの曲に出会って感じたのは、その仙田さんのボーカルの青さがきらめくような瑞々しさに変換されてる気がして。周りの音やアレンジで仙田さんの声の持つ魅力が増幅されたり、その結果歌声の持つ表情が多彩になっていってる気がしました。

仙田「たしかに僕の声を取り巻くサウンドの違いって本当に大きいなと思っていて。僕もBenlouを始めてみて思ったのが、自分から出てくる歌とか曲が、こんなに違うスタイルでも似合うんだなって。そういう驚きというか発見がありました」

――仙田さんと音楽との最初の出会いはどんな感じでしたか?

仙田「もともと幼少期から両親の影響もあって90年代の邦楽ポップスをずーっと聴いていて。出かける時も車の中で親がかける色んな曲を聴いたりして、本当によく邦楽ポップスを聴いて育ちましたね。高校受験の勉強をする時には、幼少期から聴いてたそれらのCDを引っ張り出して聴きながら勉強してたんですけど、当時はなんとなく聴いてたものが、ちょっと歳を重ねて改めて聴いてみたら違った良さを発見したというかすごく感動を覚えて。そこで自分もバンドをやりたいっていう強い衝撃があって。特にスピッツを聴いた時が一番原体験というか。一番大きなきっかけでしたね」

――そうなんですね。

仙田「もともとクラシックピアノを習っていたので、高校に入ったら軽音部に入って絶対バンドをやろうって決めて。コピバンとかやっていくうちに自分の中でもフッとメロデイが浮かんできたりして。この浮かんできたものがどこまで通用するのか試してみたいなっていう想いが出てきて(笑)。そこからオリジナルバンドを組んで、今ではそれがBenlouに繋がっていますね」

――ちなみに最初にコピーしたのは?

仙田「高校の時にDOESの『曇天』のドラムを叩いたのが僕の初めてのコピーバンドでした(笑)」

――えっ、仙田さんドラムだったんですか?しかもDOESとはちょっと意外な。

仙田「はい。僕その時はドラムだったんです。DOESは一緒に組んだ軽音部の友達が決めてて。僕自身は歌もその頃からすごく好きだったんでボーカルをやりたかったんですけど、みんなもうベース買ったわとか、ギター買ったとか言ってきて。"ドラマーいないね。じゃあお前ドラムやったら?"っていう消去法でドラム担当になりました(笑)。そこからドラムスクールに通い始めてドラムも習得して、高校時代は、3分の2ぐらいはずっとドラムを叩いてました。歌も歌わずに」

――歌いたい!っていう欲求は?

仙田「ずっとありましたね。うちで歌ったり、すきあらばドラムでコーラス入れてみたりして"俺も歌いたいぞ"みたいなアピールをしたり」

山本「知らなかったなー」

仙田「その頃の高校生の軽音部はみんなDOESでした」



歌詞を書く上で影響を受けたのは松本隆さん、松任谷由実さん、
スピッツの草野マサムネさん、山下達郎さん


――Benlouが去年から始まって楽曲に対していろんな嬉しいリアクションが届いていると思いますが、いかがですか?

仙田「友達とかからも、新しさと今再評価されてるシティポップ的な懐かしいテイストが共存してるのがいいね、みたい声をチラホラいただいてて、そこは素直に嬉しい限りですし励みになりますね」

――EP『煙』の話も聴かせてください。今まで配信で1曲ずつ聴けてたのがこうして6曲まとまって聴けると、シティポップや歌謡曲的なものもありつつ、ファンクなどいろんな味や色が混ざっていて、"Benlouってこういう音楽をやる人たち"と簡単に括れない面白さがあって。決めつけようとするとそれこそ煙に巻かれるような感覚がありました。

仙田「(笑)」

――今回の『煙』を作る上で、こういうものにしようというようなイメージは何かありましたか?

山本「特にないですね。仙田くんにまず曲を出してもらって、そこからいい曲を選んで作っていくっていう感じで。あまりにも偏ってくると"もうちょっとこういうのもやろうか"っていうかもしれないけど、いろんな音楽があるので、その時の気分でテンポだったりコード感だったり変えていったりしていて。基本的には仙田くんにザーッと作ってもらって、そこから自分がチョイスして編曲していくって感じですね」

――仙田さんが山本さんに渡すデモはどんな感じのものですか?

仙田「リズムとコードと歌メロまでを仕上げて、それを幹宗さんに渡してます。最初は結構頑張って作り込んだものを渡してたんですけど、そこまでしなくて大丈夫だと言われましたね(笑)」

――山本さんとしては、こっちに投げてくればいいと?

山本「メロディーとコード感だけのザックリしたものの方が作りやすいですし、味付けは任せてくれよ、と。」

仙田「素材調達は僕がして、それを幹宗さんが美味しく味付けする」

山本「どこからどこまでを誰がやるとかも、決まっているものでもないんですけど、今作に於いては、仙田くんがデモを作ってきて、その後は僕がああだこうだと詞曲を書き直しながら完成させていきましたね」

――ソロではなく一緒にやっている醍醐味というか、仙田さんが投げたものが思いもよらない形、展開になって仙田さんの元に返ってきて、そこにまたアイディアが加わって曲が誕生していく...のも一つの音楽の魔法なのかなと思いますが。

仙田「そうですね。結構僕も、自分の手癖に頼ってどんどん似たようなものになってたりするので、そこにぐいっと一味加えるというか、幹宗さんが良い方向転換してくれます」

――タイトル曲の『煙』の作詞は二人の名前が並んでいますがどうやって作っていかれました?

山本「これは最初に仙田くんがつらっと全部書いて、サビの歌詞を残して僕が書き足しましたね。サビは仙田くんなので、幸せにならないっていうオチが決まっているのにそこに向かって頑張って一生懸命ペンを走らせるっていう。そうやって歌詞は完成させていきました(笑)」

――こういう世界観がいいんじゃないかな、みたいに?

山本「こうした方がいいんじゃないかって話をして、そのやりとりを何度かしてるうちに、この曲は歌詞も共作になっていきましたね(笑)」

――『フェイク』(M-4)のアレンジも2人のクレジットになってますね。

山本「『フェイク』のアレンジはもともと仙田くんが作り込んでたデモが面白くて。最近なかなか聴かないようなシーケンスのシンセサイザーのフレーズが入ってて、90年代のVシネマのサウンドトラックみたいにすごく勇ましいハードロックファンク、シンセメタルみたいなのに近かったんですよ。面白いなと思って採用しました」

仙田「90年代っぽさが好きだったんでしょうね。それがそのまんま出てきたようなデモだったと思います」

――ファンキーでもあり、様々なエッセンスの絶妙な混ざり具合が面白い曲だなと思います。

仙田「もう絶対に僕の中から出てこないエッセンスをたくさん纏って(曲が)返ってくるのが面白くもあり楽しくあり、創作する上でのモチベーションというか」

――仙田さんは、歌詞を書く上で自分が影響を受けているなと思う人はいますか?

仙田「作詞家さんでいうと松本隆さん、松任谷由実さん、スピッツの草野マサムネさん、山下達郎さんあたりの作品は結構感動して影響を受けた部分があるかなって思いますね」

――今上がった四人は、他の方と何が違うんでしょうね?

仙田「今上げた方々には、すごく情景描写の鮮やかさ、美しさが共通してあるなって僕は勝手に思っていて。自分も曲を作ったり詞を書いたりするときに、自分の中にある情景とかイメージを音にしたいなと思いながら作っていて。そういうイメージとか情景を切り口にして作っていく上で、さっきあげた方々の作品は特に響くものがありました」

――仙田さんの歌声は柔らかく心地よくて、でも歌詞に綴られている情景は幸せなものばかりじゃなかったりして。歌詞の中にあるちくっとする苦さみたいなものが後まで残って、また聴きたいなと思うフックになっているような気もします。

仙田「僕自身がもともと思いっきり明るいタイプでもないし、"行くぞー!おー!"みたいなのも出そうと思っても出せなくて。内省的というか、ちょっとこう何かを懐古するようなというか、そういう翳りみたいなものはあるような気がしますね。自分の性格なんですかね。自分の中にある世界をじーっと見つめるのが好きみたいな、そういう性分も相まってそういうものが出てきているんじゃないかなって」

山本「その内省的な部分って、僕は最初から分かってたわけじゃないけど、これからいろいろ作っていく中でどうなっていくんだろうなとは思いますね。今はまだ"仙田くんのデモ、暗い曲が多いよね"ぐらいの感じですね」

――Benlouの曲には暗さはないですね。

山本「そうなるように努めてるかもしれないですね。もともとのデモは暗い感じのも多くて、それをいい感じのチルっぽい感じにしていくというか。うまくコード感を変えたりアレンジでいい感じにしていくっていうのはありますね。中にはズドーンと暗いのもあったりするんで」(笑)

――山本さんは様々なプロジェクトも並行してやられてますが、Benlouではこういうことをしたいとか、Benlouだからできることなどはありますか?

山本「今やっているような曲はBenlouだからできるんですよね。はっきりと"これがやりたい"って始めたことは他も含めて一個もなくて、Benlouは仙田くんと一緒にやろう。こういうのがやりたいというのはなくて、好きなように作っていって曲が溜まってくれば"こういう音楽なんだ"っていう枠組みはできてくると思う。必然性みたいなものはまだわからないですね。もちろんいいものができているのは間違いないし、自分は一生懸命自分の仕事をやるだけ。自分が一生懸命やることに関しては100%じゃないですか」

――"こういう音楽がやりたい"ではなく、"この人とだったら何か面白いことができるんじゃないか"と。

山本「それのもうちょっとライトな感じで始まってます。仙田くんとは運命的な出会いだと思いますよ?(笑)。ただ簡単にそれを言ってしまうのもベタすぎるというか。実際今回もいいものができているし、さらに今作ってる曲もどんどんいいものが出来上がってきているので楽しみにしていて欲しいですね」

――Benlouの音に懐かしさを感じるリスナーもいれば、Benlouが音楽の入り口になる人もいて、それだけ聞き手を選ばない間口の広さが魅力でもあると思います。これからBenlouに出会う人にメッセージをいただけますか。

仙田「そういう間口を選ばないところも良いなと思ってもらえたり、愛していただけたら嬉しいですし、聴けば聴くほど味が出るところも楽しんでいただきつつ、とにかくいいものを残していきたいと言う一心でやっていますので、ぜひ今後とも応援していただけたらと思います!」

山本「3月11日に東京でBenlouの初ライブをします。この先関西でもライブをやるのでぜひ遊びにきてください」

Text by 梶原有紀子




(2023年2月15日更新)


Check

Release

EP『煙』
配信中

《収録曲》
01. 深部感覚
02. 煙
03. ミラージュ
03. フェイク
05. 路地裏
06. Ripple Mark

https://benlou.lnk.to/kemuri

Profile

ベンルー…くるり、エレファントカシマシ、そして現在は銀杏BOYZのサポートギタリストを務める他、様々なアーティストのサウンドプロデューサーとして活躍する山本幹宗(g)と、期待の新星として評価される実績を持つ4ピースバンド「アオノオトシゴ」のヴォーカルを務めていた仙田和輝(vo)からなる新星ユニット。胸にすっと入り込む心地よい歌声と、世代を超えて届くキャッチーなメロディーが魅力。タイムレスなサウンドを詰め込んだキャリア初のEPが2月にデジタルリリースされた。

Benlou オフィシャルサイト
https://www.benlou.jp/


Live

「好芻×Benlou Night Market vol.1」
日程:3月11日(土)
会場:下北沢 近道(旧 下北沢ガレージ)
時間:開場18:00 開演18:30
料金:前売3500円(税込)/ドリンク代別途600円
問い合わせ先:ハンズオン・エンタテインメント info@handson.gr.jp