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菅原圭インタビュー
「やらないで後悔したくない。だからずっと全力でやらないと」

2020年頃からネット上で自曲投稿を始めると、各種SNSやストリーミングサービスで多くのフォロワーを獲得し、Spotifyが活躍を期待する次世代アーティストとして「RADAR: Early Noise 2022」にも選出される。そんな今注目のシンガーソングライターが、菅原圭だ。ぴあ関西版WEB初登場となる今回は、2022年12月14日リリースの1stデジタルアルバム「round trip」や音楽制作のスタイルについてはもちろん、実像を伏せて活動する謎多きプロフィールについても話を聞かせてもらった。果たして菅原圭とは……。

――最初はプロフィールについて教えてください。まず音楽に興味を持つようになったきっかけは何ですか?

「小学校の国語の授業なんかで音読ってあるじゃないですか。そういう声を出すことが好きで、声優やナレーションに興味を持ったんですけど、そこから歌うのって楽しい、音楽が好きだなってなって。中学あたりからすごく歌に興味を持つようになりました。お家でも歌ってましたね」

――当時、憧れたアイドルやミュージシャンはいましたか?

「かわいいものが大好きで、お姫様とかアイドルっていいなって思うことはありましたけど、特に誰というのは......あ! 今思い出したんですけどアニメの『魔法の天使クリィミーマミ』は今でも(主題歌が)歌えるくらい好きでしたね。あと『満月をさがして』っていうアニメにもめちゃめちゃ憧れてました」

――興味がアニメから歌・音楽へとつながっていったんですね。でもさらに音楽制作に傾倒していった理由は?

「音楽を作ろうって思ったのは高校卒業間際だったんですけど、本当は誰か曲を作れる人とユニットを組んだり、バンドにボーカルとして入れてもらったりするのをイメージしてたんです。でも、もしその人たちが菅原圭以外のボーカルに一目ぼれとかして、やっぱりこっちのボーカルがいいんだよな。菅原はクビ!って言われたら怖いなって。そう考えると、取り柄がボーカルだけって不安だなと思って、音楽を続けるためにも幅広く活動するためにも、曲が作れた方がいいというので作り始めたんです。で、曲を作るということは楽器が弾けないと!と思ったんですよ。でも楽器はまったく弾けなくて、自分で弾いてボーカルをのせるっていう曲作りがすぐにできないから、焦りをめちゃめちゃ感じて。でも音楽理論もわからないし右も左もわからない不安な時に、自分ができることを考えたらメロディラインを作ることと歌詞を作ることだったんで、アカペラで歌って録音してパソコンで一曲にして、それを編曲できる人にお願いしてっていう作り方になったんです」

――今もそのスタイルですか?

「今もです。楽器は三日坊主みたいな(笑)。だからピアノもギターも弾けないし......というか、曲を作ってる時にうしろで楽器がどういう風に鳴ってるのがいいのか?って悩むって人が周りに多いんですけど、それが私にはなくて。メロディラインしか鳴ってないし、そもそもアカペラの状態でしか曲がわからない。なので伴奏を付けてもらうと、こんなに世界が広がるんだ!って感じがして、それが楽しくていろんな方に編曲をお願いしてますね。この人にお願いしたら菅原はこういう感じにしてもらえるし、あの人ならひと味違う面を見せてくれるとか。だからこういう作り方でもいいのかもって思います」

――楽器や理論を学んでいなくてもちゃんとアレンジができるほどのメロディと歌詞が作れることが逆にすごい気がします。

「友だちには、普通は曲を作る時、例えばこのメロディラインに、この音が来たら不協和音でつながり的におかしい!とかが出てきて、気持ち悪かったり覚えにくかったりするけど、菅原の場合はそれがないから、無意識にコード進行がわかってるんじゃない?って言われました。でも身に覚えがなくて。身に覚えがないからこそ難しいなってなりましたね。どこまでわかってるんだ、私は?って(笑)。みんなからは、逆に菅原が編曲した曲がどうなるか聴いてみたいってよく言われます」

――確かに(笑)。では次に、音楽を世に発表するようになったきっかけを教えてください。

「音楽を仕事にするんだったら、菅原圭はどういう曲を作ってて、どういう歌を歌っててっていう(のを伝える)ところから始めなきゃいけないんだって思って。そこからインターネットに発表し始めました」

――曲作りを始めた時から音楽を仕事にするって決めていたんですね。

「音楽で生活したいと思ってました。高校で進路を決める時、親に進学してほしいって言われたので、言うことを聞いたんです。学生だからこそ音楽が続けられるとも思ったから。でも学生だからこそ時間がないんですよね。学費とか定期代とか自分で払ってたし、音楽制作にもお金がかかるんで、当時はバイトを掛け持ちしてて、勉強もしてってなると寝る時間もなくて。でもバイトで稼げる金額も知れてるから、これじゃ曲を作れない!ってなって。その時、定期的に(曲を)出さないと私は忘れ去られてしまうなって思ったんです。年に1回とかだったら、なんでこの人をフォローしたんだっけ?って忘れられるんだろうなって思ったし、入学金とかを親に借りてもいなかったんで、心置きなく退学して音楽をやろう!ってなりました」

――苦労人だったんですね。そして潔い決断もすごい。

「なんか......(音楽を)やらないと嫌なおばあちゃんになるなって。(やらなかったら)自分がおばあちゃんになった時、成功した人を見て、あの時こうしてれば私もこういう道があったかもしれないのにって愚痴をこぼすと思うんですよ。それに、もし私がその(音楽をやらない)ルートを歩んだら将来自分の子どもに、挑戦してみたらいいじゃん!とか、当たって砕けたらいいじゃん!って言わずに、どうせできないんだからやめといたら?とか言うと思うから」

――なるほど。

「人生は1回じゃないですか。だから中退して失敗できるのもその時しかないと思ったんですよね。仕事はいろいろあるし、年を取ってもアルバイトで生活はしていけるって考えたら、別に死にやせん!って。だけど、馬車馬みたいにバイトして大学に行って、寝る時間がなくて、それでも音楽で食べていくっていう気力を保てるのは何年間だろう?って考えたら、若いうちじゃないとできないなと。だから、自分はもうダメだって、本当にお金が底をついて、才能ないな、チャンスは巡ってこないんだなってなるまでやってみよう!ってなりました」

――肝が据わってますね。では、ここからは1stデジタルアルバム「round trip」の話へ。同作は、過去に配信リリースした曲から選んだ9曲と新録の1曲を収録。これまでの集大成的作品ですが、こうなったのはなぜでしょう?

「初心者なのでこれまでマスタリングという過程を省いてる曲が多くて、リスナーさんや視聴者さんのTwitterで、"菅原の曲、ループで聴くと急に音が大きくなったり小さくなったりして、びっくりするんだよね"っていうのをちらほら見かけてたんです。じゃ、アルバムとして聴きやすいようにしちゃおう!って。だから今回は音量差が激しくなくなったと思います(笑)」

――ファン還元的な理由があったんですね。ファンだけでなく、ご自身も今回のアルバムで過去の曲と向き合うことになったと思いますが、どんなことを感じましたか?

「感じたことは......もっと曲を作るの頑張ろう!って思いました(笑)。初期衝動というか付け焼き刃というか、いきなり作って無理やり形にした曲も多かったので、このアルバム以降もっと頑張って、菅原らしさもブラッシュアップして成長できたらなって思いました。歌い方は特にそうですね。今はレコーディングする時にディレクターさんに付いてもらってるんですけど、古い曲は自宅で一人で録ってるんです。前は全部が聴きどころだと思っていたから、全部全力で歌ってたんですよね。そうすると1曲でもうお腹いっぱいになっちゃう。でも今はディレクターさんに、強弱はこうした方がいいとか、後半に盛り上がり持っていきたいよねとか言っていただくことで、曲としてもアルバムトータルでも、かみ締めて聴けるようなものになってるんじゃないかなと思います」

――向上しているんですね。

「優れてないから人一倍頑張んなきゃって......アルバイトで面接は合格するけど、仕事ができないから頑張んなきゃいけないタイプなんです(笑)。やる気はあるけど、2回、3回と失敗して、メモってまた何回かやって、ゆっくりできるようになるんで。でも、本当にこのアルバムを作って学ぶことだらけでした。例えば曲間は何秒空けなきゃいけないとか、今まで考えたこともなかったことを知るのは楽しいです」

――謙虚ですね。ちなみに先ほどボーカルの話が出たので個人的な感想を話すと、菅原さんは人気の理由であるせつない歌声以外にも、いろいろな表現ができて器用だなと感じました。マルチクリエーターの春野さんを迎えた5曲目の「celeste feat. 春野」では力強い一面も。

「(『celeste feat. 春野』は)ずっと春野さんに編曲をお願いしたくて、3曲程書いた中で選んでもらった曲です。元々友人でもあるけど、アーティストとしてもリスペクトしていたので、春野ファンが聴いたときに彼の新しい一面を引き出せていたら嬉しいなと思って作りました。春野さんのボーカルが生きるキーを探って作ってるので、逆に私にとっても新鮮なものになってるのかもしれません」

――その「celeste」は"踊り方を知る"という言葉のリフレインも印象的。歌詞はキャッチコピーを先に考えて書くとか。

「はい。キャッチコピーを考えます。自分の中で物語的なものがあって、それをもっと散文的にすることで、みんなに当てはまるような歌詞になればなって思ってますね。心当たりがあると、もっとその人に寄り添った曲になるじゃないですか。そういうのをイメージして書いてます」

――キャッチコピーと曲名は結構違うんですか?

「まったく違います。曲名は何でもいいと思ってるタイプなんで(笑)。だからリリースの時はいつも困るんですよ。菅原さん、曲名ってまだ決まらないですか?って聞かれて、曲名どうしよう!みたいな。いつも抽象的なものしか......(浮かばない)。歌詞には自分の物語とか言いたいこととか、いろいろ詰まってるんでキャッチコピーも長いんですよね」

――例えば?

「『celeste』はそれこそ(歌詞にある)『靴ズレが熱いFriday』です。曲名のあとに~が付くサブタイトルみたいになっちゃうんですよね。それって見た目にも少し違うなと思って。だから、もうちょっとコンパクトにしたいんですけどね。女子高生が、『靴フラ』聴いた?とか言う感じだと、もうバンド名じゃん!ってなっちゃうから(笑)。それより、『celeste』聴いた?の方が言いやすいだろうし」

――その「celeste」の"靴ズレが熱い"もですが、最後の曲「カミレ」の"言葉の水膨れ"というフレーズも耳に残ります。生活の中の言葉の使い方が秀逸ですし、歌詞は語感もいいですね。韻を踏む部分もあります。

「『カミレ』のラスサビの"割れてるのに光った豆電球"の韻を踏んでるところは、もうめちゃめちゃ頑張りましたね」

――ヒップホップも聴くんですか?

「クリエイターの友だちに韻を踏んだ曲作ってみたいって言ったら、ヒプノシスマイクとか最近はラブライブ!でラップが入る曲があるから、そこから入ったらいいんじゃない?って言われて、聴かせていただいております」

――韻にしろ語感にしろ、ボーカルを楽器的にもとらえていますか?

「かもしれないです。でも声が何か?とかは考えたことなかったですね。自分の声はメモ的なイメージしかなくて、歌詞は覚えてないけどメロディラインは覚えてるっていう風にしよう!みたいな意識はありました」

――一方、歌詞の内容となるとハッピーな曲がないのはなぜ?

「書けないのかもしれない。失恋したとか、実らなかったとか、逃したとか、結果的にダメだったみたいな曲が多いですね。何かに気づくっていうことが多いんだと思います。あの時ああだった、こうだったみたいな感じ。それは自分が振り返るタイプだからかもしれないです。人と会った帰り道とかに、自分のことばかり話しちゃったな。もっと相手の話を聞けたらよかったのに!とか、あの時、声をかけられたのは相談したいことがあったのかも?とか、いつも反省しがちなので」

――実体験がベースなんですね。

「ほぼほぼ体験がもとですね。友だちとの会話がもとっていうこともあります」

――ではいいことが増えたらハッピーな曲もできそうですね。

「そう思いたい。そう思いたいですよね(笑)!」

――では期待が膨らむ今後のことを。現在は新作に向けて曲作りに励んでいる感じですか?

「ずっと月に3曲か4曲は提出しているんで、ストックも20曲ぐらいはありますね。この状況がいつ終わるかわからないんで、作ってなきゃ不安なんです。作っていられる状況とか、ここに立たせてもらえる状況が、いつまで続くかわからないから、あの時に曲を出しておけば!とか、やらないで後悔したくないんです。だからずっと全力でやらないと。今は(SNSなどの)フォロワーさんがいてくれて興味を持ってくれる人も多いと思うんですけど、その状態と自分がみずみずしい状態はずっと続かないじゃないですか。今は菅原らしさがみんなにとって新しくて刺激的だから聴いてもらえるけど、でもずっとここにいちゃダメじゃないですか。どんどんどんどん成長しなきゃ!っていうのがあるから、ずっと曲を作ってます。もう今作ってるデモは初期とはだいぶ曲調とかが変わってきてますね」

――考え方も成長もすばらしい。

「前まではいっぱいいっぱいだったんで、デモを出してスタッフの方に、こうしてみたら?とか意見をもらうと、私一人じゃやっぱりダメだとか、認めてもらえないんだとか思って、もう傷つけないで!っていう気持ちにもなってたんですけど、続けていくうえで素直に受け止めなきゃいけないことって絶対あるじゃないですか。だからそうできるように、もうどんどん曲を作ろう!と思って。受け止めるのは難しいんですけど、嫌だと思うより素直に受け止めて次のステップに進んだ方が心も楽だなってなりました。すいません。生意気なことばっかり言って」

――重ね重ねすばらしいです! そして今後の活躍がとても楽しみ。では最後に今後の目標や、やりたいことを教えてください。

「今までは曲作りに集中してきたんで、グッズ制作とか配信ライブとかをやりたいなと。楽曲リリース以外の楽しみを作りたい。そういうところでファンの方に貢献できればと思います。個人的にも菅原圭として形に残るものがないので、そういうものが欲しいですね。そしてそこにリソースを割く余裕を持てる自分に成長できたらなと思います」

Text by 服田昌子




(2022年12月23日更新)


Check

Release

2020年より現在までにリリースしてきた、菅原圭による作詞作曲の楽曲から選りすぐった9曲と新曲『lien』を収録したBEST ALBUM

1st digital Album『round trip』
発売中
https://linkk.la/round_trip

《収録曲》
01. lien
02. レモネード
03. シトラス
04. カーテン
05. celeste feat.春野
06. ミラ
07. シーサイド
08. フライミ
09. ライムライト
10. カミレ [エスエス製薬 ハイチオールCMソング]

Profile

すがわらけい…一度聴いたら忘れられない中毒性の高いエモーショナル・ボイスや、中性的かつ感傷的な歌声とせつなさをまとったハイトーンが特徴的で、作詞・作曲も自身で行うアーティスト。ほろ苦い繊細な言葉で紡がれる歌詞や、心の奥底の琴線に触れるメロディラインによって、多くのリスナーをとりこにし、圧倒的“見つけてしまった感”とインターネット上で注目を集めている。2020年11月に初の配信シングル「フライミ feat. PSYQUI」をリリースして以降、YouTubeやストリーミングサービスを中心に続々とオリジナル曲を発表。2022年1月にはSpotifyが選ぶ2022年に活躍を期待する次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2022」に選出。オトナとコドモの狭間で揺れ動きながら“いまの時代”を赤裸々に浮き彫りにし、感度の高いティーンやアンテナを張ったミュージックラバーを魅了中。

菅原圭 オフィシャルサイト
https://kei-sugawara.jp/