ラスト10分の衝撃と情熱。
「ジェットセイヤ+YUGO. VS Rei」
3人のセッションで見た、アートと音楽のぶつかり合い
『CONTORT SESSION』レポート
「こんなイベント見たことない……」余韻に浸りながら、そんな言葉が胸に湧いてきた。8月29日(月)、イラストレーター・YUGO.とgo!go!vanillasのドラマー・ジェットセイヤ(以下、セイヤ)によるセッションイベント『CONTORT SESSION』 が心斎橋Music Club JANUSで行われた。『CONTORT SESSION』は、YUGO.とセイヤのユニット名であり、イベント名でもある。事前打ち合わせは一切なしで、セイヤの叩くドラムに合わせてYUGO.がライブペイントを行う。本人たちもオーディエンスもどうなるかわからない、超生モノのイベントだ。セイヤの提案で2018年下北沢GARAGEで行われた初回以降、ライブハウスでの開催は通算3度目、昨年のYUGO.個展のレセプションで行われたものを入れると5度目の開催となる。これまでは2人で活動をしていたが、今回初めてシンガー・ソングライター/ギタリストのReiをゲストに迎えた。開催に向けたインタビューでYUGO.は「正解のないものをやり続けている」と話していたが、良い意味で予想不可能な、最高に痺れる唯一無二の夜となった。今回はその模様をレポートしよう。
定刻になり、セイヤとYUGO.がステージに登場。軽くオープニングトークを行った。「皆さんお越しいただきありがとうございます。今日は夏の最後の思い出作りということで、良い汗かいて酒飲んで、未成年の人はコーラ飲んで、楽しんでいきましょう!」とセイヤ。YUGO.は「まずはReiちゃんがソロライブをして、その後に僕たちもう一度セッションしに戻ってくるんで」と挨拶し、一旦ハケる。「ゲストを呼ぶなら真っ先に浮かんだのがRei」というほどReiの音楽が好きで、プライベートでもReiと仲が良いYUGO.とセイヤ。一体、どんな化学反応が起きるのだろうか。
ステージが暗転した状態で、Reiが黒と赤のチャイナ服を着て登場した。アコギを持つ姿がもう抜群にカッコ良い。静かにギターの弦をはじくと、張りのある低音が鳴り響いた。初期の楽曲『my mama』をエッジーに歌い上げる。正直、1音目からノックアウトされた。ギター1本なのに、何だこの迫力は! もちろんフロアはのっけからクラップの嵐。何というパワフルさ、何という歌声の鋭さ、美しさ、カッコ良さ。続けて勢いよく『JUMP』をドロップし、会場の熱をまたひとつ引き上げた。

MCでは2人との関係性を話す。「ジェッセくんとはお友達になってからしばらく経つんですが、ゆっくり音楽での交流をはかるのは初めてで、誘ってもらえたのは嬉しかったです。YUGO.くんとの出会いは昨年東京での個展に行かせていただいた時だったんですけど、FM802のイラストを描いているのを知っていたし、私のライブに遊びに来てくれたりもしたので、今日は特殊なセッションでドキドキしています。多分2人も、お客さんである皆さんにもがっつりセッションに参加してほしいという気持ちがあると思うので、心を寄せあって皆でセッションできたらいいなと思います」と述べ、4月にリリースされたコラボアルバム『QUILT』に収録の、長岡亮介とのコラボ曲『Don't Mind Baby』を披露。音源はカントリーの要素もある軽快で可愛らしい1曲だが、弾き語りアレンジはまた一味違い、深いアコギの音に引き込まれる。惚れ惚れするようなギターテクニックにも、客席は釘付けになっていた。

「セッションをさせてもらうと、人と交流することは自分にとって生きていく上ですごく大切なことなんだと実感します。大きい意味で言うと、セッションは人と手を繋いだりお話したり、同じ空間でご飯を食べたりすることにも通じると思うので、このコロナ禍においてはタイムリーだし、よりいっそう必要なことだなと」と話し、コロナ禍で「孤独を抱きしめながら心細く思っていた時期にできた曲」として、テレビ朝日『あざとくて何が悪いの?』のOPにもなっている『Lonely Dance Club』を披露。突き刺さるような高音の歌声とアーバンなメロディが、圧倒的な声量でこちらに迫ってくる。ギターソロでは見事な指さばきを見せ、会場は大盛り上がり。本当に1人で出しているとは思えないサウンドだ。彼女の演奏には本能を刺激される。
思わずツイストしたくなるロカビリー風の『Route246』を経て、ギブソンのフライングVに持ち替え、ラストは『What Do You Want?』をドロップ。往年の海外のギタリストよろしく轟音でギターをかき鳴らし、フロアを熱狂させる。外タレのライブを見に来たのかと思うほど、全身から放たれるパワーと押し寄せる音の波に完全にやられてしまった。YUGO.が「あんなにカッコ良くギターを弾く女の子を見たことない」と言っていたが、本当にそうだ。この存在感と迫力、百聞は一見にしかず。最高にエッジーでクールなライブだった。

次はいよいよセイヤとYUGO.のライブペインティング。ステージに高さ約2m弱 × 幅3mほど(筆者の目測)のキャンバスが運び込まれる。ステージとの境界線には、YUGO.が展示で使用したり、作品のモチーフとしてもよく登場するイエローの立入禁止テープが張られていた。セイヤのドラムはステージ上手にセット。2人が登場すると、早速セイヤはスタンバイ。YUGO.もステージ中央でポスカを手に取る。やや緊張したような面持ちだ。

セイヤがのっけからドカドカと激しめのビートを繰り出す。そしてすぐさまYUGO.もキャンバスに筆を走らせ始める。「考える間もなくドラムに引っ張られて描いてゆく」と話していた意味が、この瞬間に理解できた。リズムやビートで私たちが自然と体を揺らされるのと同様に、否が応でも手を動かされるのだろう。YUGO.が最初に描いたのはハートだった。そのハートがパンクにひび割れてゆき、周辺にパンクロックスタイルの男性やタバコなど、YUGO.らしいモチーフが描かれていく。

だんだんビートが激しくなると同時に筆のスピードもアップ。インタビューで「どうなっても自分は彼のリズムについていって、絵を描くことをルールにしている」と語っていたYUGO.。セイヤのビートには波があり、パターンを変えながら緩急をつけたパートが順番にやってくるようだった。やがて、「ワオー!」「アオ!」と叫んだり、歌を歌ったり、アグレッシブなパフォーマンスへと変化。これには見ているこちらも高揚した。ビートが激しくなるにつれてYUGO.のストロークも速く大きくなり、筆致もぐちゃぐちゃに。衝動に任せるかのように描いた文字に×を重ねたり、黒く塗りつぶしてゆく。横向きの女の子やレンガの壁、足などが、画面をどんどん埋めてゆく。客席は自由に体を揺らしつつ、その様子をじっと見守る。

タムで一定のリズムを刻みながら「Fire!!」と叫び、立ち上がったセイヤ。ピンスポが当たり、お祭りのようなリズムに合わせてオーディエンスもクラップで参加する。ドラムの前に掛かっていた「OPEN」の金属の板を叩いたり、ビートを刻みながらも片手でポスカを拾い上げ、タムに落書き(?)をしたり、グラサンを飛ばすほど頭を振ったりと、セイヤらしい激しいパフォーマンスを繰り広げる。
開始から約30分でキャンバスの約8割ほどが埋まった。セイヤの繰り出す一打が、より激しく、力強くなる。oiコールを叫びながら、体を左右に振って激しく叩く。

するとここでReiが登場! フライングVのギター音がうねるように響きわたり、音圧と勢いがぐっと増大した。ここからラストへ向けての10分は、本当にすごかった。セイヤのドラムとReiのギターの親和性の高さはすさまじく、次々に飛び出すギターリフやフレーズに絡み合う激しいビートが脳天を撃ち抜く。YUGO.も勢いづいて、ずっと空いていた左下のスペースには、フライングVとReiの似顔絵が描かれていった。
Reiがセイヤに近づき、「スネアだけ」「次、タム」とセイヤに指示を出す。遊びながらものすごいグルーヴを生み出していくReiとセイヤ。それに感化されるYUGO.のペイント。まさに音楽とアートの融合だ。こんな光景見たことない。やがてセッションは最高潮の盛り上がりを見せ、Reiが「Thank you!」と歌い終えたところで、ライブペイントもフィニッシュを迎えた。

完成したペイントは、Reiの胸元からピンク色の光が全体に放たれひとつになる、まさにこのセッションの様子を表したような絵だった。終演後によく見てみると、キャンバスにはセイヤとYUGO.の姿も描かれていて、3人のエネルギーが集結するように描かれていた。それを理解した時、ちょっと鳥肌が立った。
「ありがとうございました。最高の時間を一緒に共有できて感謝します。またやろう。超最高」とセイヤ。YUGO.は充実感をにじませた表情で「床汚さないっていう約束でやったんですけど、後で掃除します(笑)。すいませんでした」と謙虚に挨拶。

完成したペイントは写真撮影OK(「#CONTORTSESSION」付きで各SNSで投稿されている)とのことで、余韻に浸りながらステージの写真を撮って帰るファンたちが大勢いた。
また、後ろからは見えていなかったが、ステージには大量のポスカの残骸、空瓶、Supremeのビニールのショッパーが転がっていた。これはYUGO.が展示の際に使う演出だ。ライブペイントを完成させたのみならず、ステージ自体を展示空間にしてしまった。これは彼の狙いだろうか。
今回の『CONTORT SESSION』は本当にすさまじかった。予想を超えた展開の連続に大興奮だった。次回はいつ、どんな形で行われるのか。go!go!vanillasは9月24日(土)に大阪城ホール公演を終え、ニューアルバム「FLOWERS」のリリースと全国ツアーを発表。Reiも年内には大阪に来ると約束していた12月26日(月)にビルボードライブ大阪公園が発表されている。3人の個々の活動はもちろん、次回の『CONTORT SESSION』を楽しみにしていよう。
Text by ERI KUBOTA
(2022年11月 7日更新)
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