大阪の電気街から苗場に到達した“天邪鬼”は
三途の川を引き返し身体的音楽で新章へ
パソコン音楽クラブインタビュー
80~90年代に現役だったシンセサイザーや音源モジュールを駆使したサウンドで、深夜の「フジロックフェスティバル'22」に入場規制をかけた大阪出身の2人組・パソコン音楽クラブ。そんな今注目の彼らを8月某日にキャッチし、謎めいたプロフィールや7月27日にリリースした初デジタルシングル「KICK&GO(feat.林青空)」などについて話を聞いた。2人の出発点、古い機材に魅了される理由、駆け抜ける新曲に隠されたギミック……読めばますます“パ音”が気になるはず。
――まずは先日出演された「フジロックフェスティバル'22」の感想を聞かせてください。
柴田「いや~、楽しかったですね!」
西山「音もよくてお客さんと同じか、それ以上に自分が盛り上がったし、店もいっぱいで普通にお祭りに来た子ども状態でした(笑)」
柴田「まさかフジロックに出られるとは思ってなかったので夢のような時間というか。いい意味で現実味がなくて、それが印象的でした」
――セットリストは「北酒場」、「海鳴り」、「ポケモンしりとり」など幅広かったようですね。
西山「やりたい曲が多くて」
柴田「お世話になってる方がかかわってる曲とかね」
西山「思い入れのある曲をやれたのがうれしかったですね。いくつか活動の転機になった曲があるんですけど、それが全部できたかなと思います」
――そして深夜にもかかわらず入場規制が。
柴田「ありがたいですね。みんなきっとクタクタだったと思うんですけど踊ってくださって。ありがとうございます!を連呼しました(笑)」
西山「燃え尽きないかって心配してたんですけど、そんなこともなく来年以降も出られるようにもっと頑張りたいと思いましたね」
――お疲れ様でした。ではここからはプロフィールについて。高校生の時にバンドを組んでいたんですよね。昔からプロミュージシャン志望だったんですか?
西山・柴田「全然、全然(笑)!」
柴田「そうならこんな名前でやってないと思います(笑)」
西山「もともと僕がギターをやってて、柴田君がキーボードをやってて。ま、すぐ解散したんですけどバンドはメンバーが5、6人いて、大人数でやるのは自分たちに向いてないなって。音楽性の違いとかより、単純に人と一緒に曲を作るのって難しいじゃないですか。だから1人でやってもよかったんですけど、1人は寂しかったんでしょうね(笑)。2人ぐらいがちょうどいいなって。で、その頃には柴田君と仲よくなってて、柴田君がおもしろいらしいですよって仕入れてきたのが、今はもうないんですけど、大阪の日本橋にあるソフマップのクリエイターズランドに中古の音源モジュールだとかシンセサイザーが安く売られてて、5000円ぐらいから買えるっていう(情報)。それで1万円を握りしめて2人で買いに行ってみようと。で、買って家で触ったらこんな音は鳴らしたことないな、聴いたことないなって思って。平成初期とか昭和後期でさんざん聴かれた音だとは思うんですけど、僕らにはすごく新鮮に聴こえたんです」
柴田「そういう楽器自体も新鮮」
西山「で、それを使って作った曲をどっかにアップロードしたいねって」
柴田「サウンドクラウドにアップロードして」
西山「その時は2人で作った曲というより、それぞれに作った曲を上げようよって部活みたいな感じでした。で、サウンドクラウドのアカウント名をどうしようか?ってなって、今やってる活動そのまんまにしようって。パソコンで音楽を作ってて、部活っぽいからクラブだしって」
――でユニット名も、パソコン音楽クラブに(笑)。しかし新鮮な響きとは言え、当時はロックバンドをやる同世代が多かったはず。そっちは選ばなかったんですね。
西山「あ。たぶん人と同じことをしたくない気持ちが強かったんだと思います。ま、今もそうですけど、これ(古い機材)で作ってる同世代っていないなっていう逆張りもあったと思うんですよね。みんながやってない音ってかっこいいよね!っていう、若者だからのロック性というか(笑)。今はもっと単純に音そのものが好きっていうのが強いですけどね」
――柴田さんはどうですか?
柴田「僕はもともとキーボードをやっていたのでシンセサイザーも好きで、最初はやってみようぜ!っていうノリで作り始めたんです。あと、ああいう音を使うタイミングって……」
西山「……確かにバンドだと、ああいう音を曲に入れたいですって言ってもなかなか通らない(笑)」
柴田「存在感が強いんですよね(笑)」
西山「アンサンブルだと邪魔な時もあるし、でっかい音源モジュールを持ってこられたら、なんだこいつ!ってなる(笑)」
――そんな風には見えないですが内面がバンドマンよりある意味ロックだったんですね(笑)。
西山「ま、若者特有の尖りはあったと思います(笑)」
柴田「すっかり丸くなってしまって(笑)」
――でも今も秘めたものがあるのでは?
西山「なんだろう……音楽性的にもどういうことをやっているのかがわかりにくくしたいというか、わかられたくない!みたいな気持ちがたぶんある(笑)。だからいろんなことをやりたいなって」
柴田「天邪鬼。シンプルに天邪鬼(笑)」
西山「説明しやすい感じに思われたくないというか、何やってるかわかんないなって思われるのが好きというか。だから、いつもすごく取材しづらいだろうなって思いながらインタビューを受けてます(笑)」
柴田「だけど謎の統一感はあると思います。ただ言語化しにくいというか、人間の多面性をずっと見せ続けてる(笑)」
西山「怖いですよね、多重人格みたいで(笑)」
柴田「多重人格だけど行動に一貫性はある。みんなでプロファイリングしてほしいです(笑)」
――多面性はありますが、常に2人には明確な共通の見解がありそうですよね。
西山「自分ららしい曲にしたいなっていうのはあって、でもそのらしいっていうのが何かいまだ言語化できず……」
柴田「……手探り。そこは機材のことにもつながってて。昔の機材を使う方って少ないので、どう調べても正規の使い方が出てこないんですよ。ソフトウェアとかだと、ジャンル名とソフトウェアの名前で検索すると(使い方が)出てくるんですけど、それが出てこない分、機材は使い方から手探りになって、そこからどんな音色を選んで、どういったものを作るか?っていうのと、自分は何をしたいんだ?っていうのをずっと手探りし続けてる。だから耳なじみのない曲ができるのかなってなんとなく思ってます」
――しかし、正しい使い方が不明とは(笑)。
西山「シンセサイザーとかのハードってそういうことが多いんですよね。例えばアシッドハウスの303(ローランド TB-303)っていうシンセサイザーは、今でこそテクノやハウスの世界でみんなが知ってる超有名機材なんですけど、もとはバンドの練習用のベースとして売り出されたもので、でも全然ベースの音じゃないんです。ビヨビヨビヨっていう音なんです(笑)。だけどそれを誰かがローランドが想定してない使い方で使い始めて、今ではスタンダードな機材になってる。そういうところが好きですね、シンセサイザーは。どういう使い方をしてもいい。もしギターを普通に弾かずに変な所だけ触ってるみたいなことをすると実験音楽になっちゃうけど、シンセサイザーは全然何してもいい」
――実は、メーカーはユーザーに機材の有効的な使用方法の発見を託していたとか?
柴田「いや、単純に機材が安売りされてて、それを良く分からず使っているうちに、何か聞いたこと無いものができたんじゃないのかなと思います。」
西山「でもそういう勘違いみたいなことを意図的にいっぱいできたのはおもしろいなって思いますね。シンセサイザーの使い方もそうだけど、今ってYouTubeで調べると音楽の作り方がかなり詳細にわかるから、いい時代だなとも思うんですけど、同時に勘違いが生まれにくいなって。作り方もそうだし、音楽の理解も変なフィルターが入ることでその人にしか作れない音楽ができるんで、そういうことができたらいいなって思います」
――勘違いや変なフィルターの重なりに無限の可能性があるんですね。
柴田「シンセサイザーの語源は合成(Synthesize)なんで」
――興味深いです。では次に7月27日リリースのデジタルシングル「KICK&GO(feat.林青空)」の話を。かなり軽快でポップな今作は2019年に手掛けられたアニメ「ポケットモンスター」のエンディングテーマ「ポケモンしりとり」にも似た振り切れ方。なので、ほかの曲と比べると……。
柴田「落差が(笑)」
西山「情緒不安定な人みたい(笑)」
――ひょっとして3rdアルバム「See-Voice」の反動ですか?
柴田「そうです。前回のアルバム『See-Voice』は内省的というか、自分の心に向き合おうっていう内容だったんですけど、ずっとそれをやってたら本当に暗いグループになるし、パソコン音楽クラブって名前で心の機微がどうのこうのって……って思えて(笑)。あと普通に楽しい音楽をやりたいなって。『See-Voice』を作って暗い部分というか、そういうところは一旦出し切ったんで、無理せず今の自分がどういうものをやりたいかに正直になるべきだなって。で、作り始めたらあんな感じに(笑)」
西山「僕はさっきの話につながるんですけど、1作目(1stアルバム『DREAM WALK』)、2作目(2ndアルバム『Night Flow』)、3作目(『See-Voice』)って同じ方向性の延長線上でやってきた感じがあって、その流れで客観的に(パソコン音楽クラブは)こういうアーティストだよね!っていうのができてきたかなって思って。でも今までやってきたクライアントワークには結構ポップな曲があって、自分たちとしては実はそういうものも好きなんですよね。だからこの今のタイミングで、またちょっと逆に舵を切ったらおもしろいなって。根本的な部分で自分たちのやりたいことは変わらないのでその辺を大事にしながら、今回は音楽的にちょっとこれまでと違って聴こえると思うんですけど、(ポップな曲を)やってもいいかなって。やっぱ天邪鬼ですね(笑)」
――なるほど。ちなみに旧公式HPにある「See-Voice」特設ページの「制作を振り返って」を読み、ちゃんと自分で見て感じた風景を曲に落とし込んでいる人たちなのだなと思ったのですが、それゆえにこれまでと異なる性質の「KICK&GO(feat.林青空)」はどんな景色を見て作ったのかな?と不思議でした。
柴田「それ(『See-Voice』)までは風景描写的なものが中心になってて、曲にどう空気感を落とし込むかみたいなのがテーマでしたね」
西山「今回切り替えたのはまさにそこですね。アルバム3作では風景や心情の描写をリンクさせてきたんです。ビジュアルイメージみたいな景色があって、それを気持ちのメタファーにするみたいなのがあったんですけど、今回はそうじゃなく、自分はこれからこうしたいです!みたいなポジティブなモチベーションや、自分が今考えていることを音楽で表現したいって思って。音楽を聴いて気持ちが高揚したりする、影響を与える系の曲を一回作ってみたいなと」
柴田「アルバムを出すにつれ、自分をめっちゃ俯瞰で見る癖がついてたんです」
西山「自分の内面とか気持ちとかを」
柴田「でも今回はちゃんと自分自身が体験する音楽というか、俯瞰でものを見ないっていうか」
西山「身体的な音楽というか。そういう感じを音楽にするっていうのはなかったなって思ったんで、やってみようと」
柴田「『See-Voice』みたいなのをやってると彼岸の世界になるけど、三途の川を渡るのはまだ早いって(笑)」
――渡らなくてよかったです(笑)。今、身体的な音楽という言葉が出ましたが、三三七拍子のリズムを曲に取り入れたのは、日本人の本能に訴えかけるものだからですか?
柴田「と思いきや……単純に三三七拍子やん!って思っただけなんですよね(笑)。三三七拍子っておもしろくないですか? 何やこれ!って(笑)」
西山「でも日本人ってあのリズムが……」
柴田「……しっくりくるんですよね(笑)」
西山「あんまかっこいいリズムでもないけど」
柴田「ひょうきんなんですよね」
西山「バンバンバンっていうあの頭拍にアタックがいくのが高揚するなって。テンションが上がるというか。三三七拍子を使ってる日本の曲っていっぱいあるんです。アイドルの曲とか」
柴田「アニソンとか」
西山「ボーカルのラインとかを三三七拍子にはめてて、クラップも入れたりとかして盛り上がるっていうのが多い。だから(『KICK&GO(feat.林青空)』は)そうじゃなくてキックが三三七拍子でメロディは普通に歌ってます。そういう曲はあまりないから作ってみたいなって。よく聴くと三三七拍子っていう」
――サブリミナル効果のよう。そう言えば、西山さんは伝わらなさそうと前置きしつつ、K-POPの影響があるとツイートしていましたが、これもよく聴いたらわかる感じですか?
西山「言葉では説明が難しいんですけど、K-POPってメロディラインの子音が立ってて声が打楽器みたいで。日本語みたいな譜割りじゃなく、もっとアタッキーなダバダバダバダバってラップみたいなところがメロディラインにいっぱい入ってる。それを僕はボーカルがグルーヴを作ってるなって感じるんですけど、今回はそういうのを書いてみたいなって思いました。なのでボーカルラインは今までの曲と比べると、はるかにアタッキーです。今回はいわゆるK-POP的なサウンドテクスチャーとかデザインはしてないんですけど、その構造とか子音の使い方はちょっと試してみたいなって思って作りましたね」
――K-POPの影響はそういう部分にあったんですね。さて、最後は今後のことを。どんな活動を予定していますか?
西山「今回みたいな路線をしばらくやりたいなって。今年は“変なポップス”みたいなのをあと1、2曲出して、それらを収録したアルバムを来年の春とかに出せたらなと思ってます。それ(先行のシングル)がアルバムに入った時に、また違った聴こえ方になるようにできたらいいなって今作りながらいろいろ計画中です。ライブに関してはまた公式HPやSNSで近日中にいくつか発表することになると思います」
柴田「まずはアルバムを作りたいので、来年のリリースに向けてって感じですね」
――3年後、5年後といった長期的な展望は?
西山「1年に1枚はアルバムを出したいですね。それで何年後かに振り返った時、いろんなことをやってるけど一貫性があるなって思われたい。『KICK&GO(feat.林青空)』とかのポップな路線もやって、そういうアルバムも出せるかなと思うんですけど、じゃあその次は何をするのか?とか、全体を見ても意外性があったり変なアーティストだなって思われる面があったりしたら楽しいし、そのなかで『ポケモンしりとり』みたいに子どもさんに聴いてもらったり、逆にもっと年上の人だったり、いろんな世代の人に興味を持ってもらえたらいいなと思います」
Text by 服田昌子
(2022年8月23日更新)
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