41年ぶりに歌手活動を再開しソロ歌手デビューから3年――
多くの愛すべきキャンディーズ・ナンバーで全国7都市を巡る
ライブハウスツアーを開催中の、伊藤蘭インタビュー
キャンディーズの解散から41年が経った2019年、ソロ歌手としてデビューした伊藤蘭。森雪之丞、井上陽水・みりん、布袋寅泰、トータス松本ら錚々たる作り手から楽曲提供も受け、ソロ歌手としてその作品群が高く評価をされている。そして伊藤は現在、全国7都市を巡るライブハウスツアー「伊藤 蘭コンサート・ツアー2022 ~Touch this moment & surely Candies!~」を実施中。最新曲からキャンディーズの曲までバラエティに富んだセットリストで構成されている、同公演。今回はそんな伊藤に、音楽活動の魅力などについて話を聞いた。
――8月20日に横浜公演、27日に名古屋公演を終えられましたが、ライブの感触はいかがでしたか。
久しぶりのステージだったこともあり、すごく緊張しています。ステージに上がる前も、手のひらに「人」という字を書いて飲み込んだりしましたから(笑)。横浜公演では、ライブの途中までは思うように体が動かない感じでした。ただライブハウスなのでお客様との距離感も近く、みなさんの顔が見えたときに緊張が解けてきました。
――今回の『Touch this moment』というツアータイトルについてはどのように捉えていらっしゃいますか。
2020年以降、新型コロナの影響で決まっていたライブも中止や延期が続きました。ライブという貴重な時間が一度は失われたからこそ、あらためて「みなさんと一緒に大事な時間を過ごしたい」という思いもあり、このタイトルになりました。ここまでの2公演でも、1曲、1曲、すべての時間が大切なモーメント(瞬間)になっています。
――ソロ歌手としてのデビューは、まさにコロナ禍直前の2019年でしたね。伊藤さんはキャンディーズ解散後、ずっと役者として活動していらっしゃいましたし、歌の世界へ飛び出したのは大きな決断だったんじゃないですか。
「果たして自分はその世界で受け入れてもらえるだろうか」という不安がありました。41年ぶりの歌手活動でしたし、その数字の重みを感じていました。そもそも、40年以上のブランクがあって音楽を始める人って少ないですし。
――41年も空いたのは、その間は役者業に徹したいという気持ちだったのでしょうか。
お芝居をやっているなかで歌う場面などを望まれることはありましたが、ソロの歌手として楽曲をリリースするのは自分でも「まさか」という気持ちでした。41年間、よぎりもしなかったです。ファンでいてくださる方々も「ソロの歌手として本格的に活動する」とは予想していなかったのではないでしょうか。
――ソロ歌手デビューから3年が経ちましたが、あらためて音楽活動はいかがですか。
芝居は、演じるキャラクターに自分から近寄っていくイメージです。音楽とはまたアプローチが違うような気がします。作詞などの創作活動は、個人が感じる想いを曲ににじませることが出来、表現の仕方としても好きです。自分に似合っている世界観は、いわゆるポップスだと思っています。
――伊藤さんの作詞曲には共通点があって、「愛して恋してManhattan」(2021年)、「名前のないChristmas Song」(2021年)、「ミモザのときめき」(2019年)、「女なら」(2019年)のなかにはいずれも「旅」に関連する言葉があるんですよね。伊藤さんがおっしゃる「世界観」のなかには、「どこかへ行きたいという願望」があるのかなって。
本当ですね(笑)。気づかなかったけど、でも確かにいつもいろんな場所で新しいことをやりたいと考えているかもしれません。違う自分に出会ってみたいし、新しい自分を見つけたい。だから、そういう願望は間違いなくあると思います。そもそも役者という仕事って、いろんな人物になりきれるじゃないですか。いろんな自分に出会えるので、それが楽しくて続けているんです。そういう考え方が作詞曲にもあらわれている気がします。
――あと意欲的に創作をおこなっている人が、ご家族含めてまわりにたくさんいるから、それが刺激になって「新しい自分を見つけたい」という気持ちにもなっているんじゃないですか。
家族も同業ですが、刺激をもらうというより、彼らからは作品を観させてもらう喜びでいっぱいです。「おもしろいなあ、よくこんな作品ができあがるな」って。楽しさばかり受け取っています。だから誰かから刺激を受けて作品をつくることはあまりないのですが、ただ私は純粋になにかの作業に没頭することがものすごく好きなんです。歌詞を書いたり、役をつくりあげていったり、そういう作業が純粋に楽しいですね。
――伊藤さんはこれまで、錚々たるミュージシャンの方々ともお仕事をご一緒してらっしゃいますね。そのなかには、2022年をもって芸能界を引退される吉田拓郎さんもいらっしゃいます。キャンディーズ時代、拓郎さんが作曲された「やさしい悪魔」(1977年)を歌っていらっしゃいましたね。拓郎さんとのお仕事は大きな影響があったんじゃないですか?
拓郎さんは当時、とても気さくに接して下さった記憶があります。レコーディングでは、その場でご自身の靴の音を入れてくださいました。私たちも拓郎さんのファンでしたし。本当はもっともっと歌い続けてほしかったけど、また違った形で音楽活動を続けて下さるものと信じています。これからも拓郎さんの曲を聴き続けるのは、間違いありません。
――今回のツアーでは、伊藤さんはキャンディーズの曲も歌われますよね。キャンディーズの曲をカバーする方は多いですが、本当の意味で「歌い継ぐ人」って現在は伊藤さんしかいないと思うんです。そういう点で使命感みたいなものを持っていらっしゃったりしますか。
そんなに大それたようには受け止めていませんが、ただ、当時のスタッフのみなさんが渾身の思いでキャンディーズの曲を制作してくださったという事実もあります。すべて色あせない曲ばかりですし、私が歌えるチャンスがあるなら歌い続けて、みなさんに喜んでもらおうって。でも、足りない部分はやっぱり感じますね。
――あえて伺いたいのですが、足りない部分とはどういうところですか。
もちろんハーモニーもそうですし、ユニゾンの厚みがほしかったり。そういう部分はコーラスの方に支えてもらっています。でも時々、ふと二人の存在感が恋しくなりますね。そういうところかな...。ただ当時のスタッフが、格好良いサウンドに仕上げてくれているから、できるだけ長くそういう楽曲を皆さんに聴いてもらって、作品が残っていってほしいです。
――大阪公演など今後のステージでも、かつての曲と今の表現が融合して特別な空間ができあがりそうですね。
横浜公演後「これはかなり濃密なツアーになるぞ」と感じました。もっともっと集中力も高まって、パワフルなステージになっていきそうです。一つひとつのステージを大切にし、今後の芸能活動50周年も見据えながらライブをやっていきたいです。
――ソロ歌手としての今後の展望も楽しみです。
ソロ歌手としての経験値は圧倒的少ないですから、できるだけ場数も踏んでいきたいですし、作詞面でも自分が好きな世界観をあらわしていきたいです。そうやって少しずつ、自分の好きな音楽を作り続けていこうと思います。

Text by 田辺ユウキ
Photo by 吉原朱美、近藤みどり
(2022年8月31日更新)
Check