USツアー・パンデミックを経て、ついに完成したフルアルバム paranoid voidインタビュー
大阪を拠点に国内外で活動するインストゥルメンタルバンド「paranoid void」が、8月26日(金)に約2年ぶりとなるセカンドフルアルバムをリリースする。今夏はイギリスの老舗音楽フェス「ArcTanGent2022」への出演、それにともなう初のイギリスツアーも控えているとのこと。メンバーのMEGURI(Guitar)・YU-KI(Bass)・MIPOW(Drums)に、今作のアルバムへの思いや海外ツアーに関する話を聞いた。
「travels in my universe、私が存在するあらゆる世界」をコンセプトに
11の異なる世界を描いた楽曲を収録
――まずは2年ぶりの音源ということで、今作『travels in my universe』のコンセプトを教えてください。
MEGURI(g) :2020年の年明けからすぐ1ヶ月間アメリカツアーに行ったんですけど、帰国してすぐコロナ禍が始まったんです。なんかもう世界が一変しすぎて、アメリカツアーの帰りの飛行機に乗って分岐した世界の方に来ちゃったみたいな感覚になったんですよね。これは私だけじゃなくてメンバー3人ともなんですけど。で、「自分って、今いる現実世界だけじゃなくてありとあらゆる世界に存在してるんじゃないか」って話になって。じゃあ「自分が存在するあらゆる世界」をテーマに、それぞれの世界を表現する曲たちを収録したアルバムを作ろうとなりました。
――最近はシングルリリースするアーティストが多いですが、あえてフルアルバムにこだわったということですか?
MEGURI :そうですね。今話したようなコンセプトを表現するには、シングル単位ではなくフルアルバムとして構築するのがベストだと思いました。
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――かなりコンセプチュアルなアルバムだということですね。
YU-KI(b) :今回のアルバムのテーマはさまざまな世界への旅だけど、現実逃避のための旅ってわけじゃないんです。曲たちを聴きながら自分の今・過去・未来・未来になったかもしれない世界、自分にまつわるさまざまな世界に思いを馳せて、聞き終わった時に、長旅を終えて戻ってきた現実を、新たな旅を始めるような気持ちで生きていけたらって思ってます。
MIPOW(ds) :アルバムを聞く人にもその感覚を共有してもらえたら嬉しいですね。
YU-KI :そうですね。生活の中で言葉にはできない感情になることってたくさんあるじゃないですか。そういうものはすぐに通り過ぎて日々の中で忘れていってしまうけど、本や映画や音楽がきっかけに「ああ、自分もこの感情になったことがある」って自分の感情に再び出会うことがある。そんなふうに、「自分はどこかでこの気持ちになったことがある」「言葉にできないけれどこの情景を知っている」って、私たちの曲をトリガーにして、意識してなかった自分の感情と再び出会ってくれたらいいなと思います。同時に、私たちの曲を聴いて「自分以外にもそういう感情になる人がいる」って思う人がいたとき、その人が世界のどこにいても、私たちの曲が私たちとリスナーをつなぐ窓口になってくれる気がする。そんなアルバムにしたかったんです。
“paranoid voidの音像”をどう打ち出すか、あらためて考えた
――既存のparanoid voidらしさはありつつも、前作以前とはサウンド面でかなり変化が見受けられますよね。この変化は意図したものだったんですか?
YU-KI :サブスクであらゆる音楽が並列で聞かれる時代なので、私たちの音像をどう打ち出すかあらためて考えましたね。サブスクで私たちの音楽に偶然出会ってくれたリスナーが、特定のジャンルに私たちをカテゴライズするよりも先に、バンドの個性を感じてもらうにはどうしたらいいか、曲作りの段階でフレーズごとのサウンドの作り方から考えたりもしました。あと、一番大きい違いは、前作までは三人で演奏していることにこだわって作っていましたが、そのこだわりはライブにとっておいて、音源では音源でしかできない表現をする方がおもしろいかなと考えられるようになりました。だから以前よりも各パートのフレーズだけでなく、空間についても考えるようになりました。
MEGURI :あとはメンバーそれぞれの機材の変化も大きいと思います。私の場合はエフェクターをいろいろ買い足したことで、主に空間系の音作りがかなり自由にできるようになりました。今作はシンセっぽく聞こえる音がけっこう入ってるんですけど、だいたいはギターで出してます。
MIPOW :私は数年前からサンプリングパッドを使ってはいたんですが、今回キックトリガーを導入しました。生ドラムでは出せないような質感・音域や効果音的な使い方もできるようになって、表現の幅が広がったと思います。
YU-KI :ベースに関しては、エフェクターよりも電源まわりを新調してサウンド自体の質をあげる方向で考えました。それとは別に、一番大きな変化はmoogとmicro Freakっていうシンセを使い始めたことです。低音パートという立ち位置は同じですが、エレベよりも低い音域が出せたり、そもそもの音の表情が弦の振動とは全く違って、今まで思い描いてたけどうまく表現できなかった空間感も出せるようになったと思います。
――曲の作り方やブラッシュアップの仕方にも変化があったんでしょうか?
MEGURI :ありましたね。今まで以上に曲を作り始める前段階でのイメージ固めの工程を大事にしました。
YU-KI :曲ごとにムードボードを作って、イメージとなる写真や映像などを共有して全員が共通の絵を頭に浮かべながら制作を進められるようにしました。その上で、DTMである程度曲の方向性がわかるデモをつくってから、それぞれの楽器で弾いてみながら音色を決めたり構成を調整したりしていきました。
MEGURI :うん、曲に対する理解度をメンバー間で並列化して、1音1音に対して全員がちゃんとわかって出している状態を目指したよね。
――音の配置や空間感へのこだわりも感じました。
YU-KI :楽曲を聴いた人が、どんな空間にいるように感じるのがその曲にとってベストな表現なのかを、三人でかなりしっかり相談しながら作りました。ジャンル問わずいろんなアーティストの音楽を聞いて、音の立体感や空間の広がりが曲の景色をどう変えるのか、自分たちなりにいろいろ研究してみたりもしました。
――今作は3人の楽器以外の音もいろいろと使われていますよね?
MEGURI :そうですね。例えば水滴が落ちる音とかカギのジャラジャラ鳴らす音とかカメラのシャッター音とかを録って、その音をサンプリングしたりしてました。ピアノが入っている曲もあるんですけど、これはゆうきさんが弾いたのをマイクで録音しましたね。
MIPOW :生ドラムではなくあえて打ち込み音を使ってるところもありますね。人間が叩いてる演奏感みたいなのを感じられない方がかっこよく聞こえると思ったセクションとかはそうしてます。
構想から完成まで2年、トライ&エラーの末にできたアルバム
――制作やレコーディングは今までと比べていかがでしたか? けっこうスムーズに……?
MEGURI :いや、めっちゃくちゃ時間かかりましたね。制作はトライ&エラーのひたすら繰り返しという感じで……。
MIPOW :2020年に一度レコーディングしてマスタリングまで終わってリリースしようとしてたんですよ。でも納得がいかなくて一度全てなかったことに……(笑)。
YU-KI :そう、そこから新しく曲も作って、すでに作っていた曲もリアレンジしてプリプロを録ったりして、ようやく今年に入ってからレコーディングを始めました。
――ってことは、構想から完成まで2年近くかけた作品ってことですか?
YU-KI :そうなんです。アメリカツアーを経験したことや、冒頭でメグリさんが言ってたように2020年のパンデミックで世界の在り方や生きることへの考え方が地球規模で変わったような感覚があって、それまで作りかけていた曲と私たちの感覚がマッチしなくなって。それで曲を作り替えたのもあるし、ライブができない期間で機材を増やしていったことで、技術的な側面でも「もっとこうできるんじゃないか、もっとこうした方がおもしろいんじゃないか」って掘り始めたら2年かかってましたね。
――なるほど……。アルバムを聴いて、ライブでどう演奏するのかかなり気になりました!
MEGURI :今作に限らず過去曲もなんですが、ライブはライブアレンジをかなりしています。特に今作は、ライブならではの世界観の作り方・生で聴くからこそ感じられるダイナミクスみたいなものがある曲たちなので、音源との違いをも含めて楽しんでもらえると思います。
MIPOW :9月・10月に東京と大阪でリリースツーマンがあるので、ぜひライブに来ていただいて確認してください!
コロナ禍を経て、ニューアルアルバムをたずさえ再び海外へ
――そして、来月にはイギリスツアーを行うんですよね。
MEGURI :はい、イギリスのブリストルで開催される「ArcTanGent 2022」に出演し、UKツアーもします。ロンドン・ブライトン・ブリストル・マンチェスター・カーディフの5つの街のベニューに行く予定です。
――どういった経緯で決定したのですか?
MEGURI :2020年頭に行ったアメリカツアーの最中に、ArcTanGentのエージェントの方からオファーがあり、2020年への出演が決まったんです。でもコロナで延期になってしまって、さらに2021年も延期になって、今年ようやく開催されて私たちもようやくイギリスに行けるっていう。
――新しいアルバムとともに満を辞してのイギリスツアーというわけですね。
YU-KI :まさにそうですね。アメリカツアーは、言語や文化が違っても私たちの曲を通してお客さんと私たちが一つの場を共有しているっていう実感を確信できるものだったので、また海外にいけるのがほんとに嬉しいですね。コロナ禍を経ての初の海外ツアーだし、イギリスのお客さんとどんな空間を共有できるのか楽しみです!
MEGURI :今作は、アメリカツアー後に一変した世界のなかで私たちが感じたこと・私たちが見てきたものを表現したアルバムなんですよね。だからそのアルバムの曲たちをまた海外に出ていって披露できるのは、ある意味で伏線回収というか、ストーリーがようやく繋がった感じがします。
(2022年7月26日更新)
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