「“楽しそうなことやってんな、行ってみようぜ!”
って思える存在になれたら一番嬉しい!」
楽器で歌いロックの初期衝動を鳴らす!
SPECIAL OTHERSインタビュー
2006年のメジャーデビューから15周年を迎えたSPECIAL OTHERS(スペアザ)。そのアニバーサリーの締めくくりとして届いた8枚目となるオリジナル・ニューアルバム『Anniversary』。インストバンドだが、意外にも純粋にインストゥルメンタルの曲のみで構成されたアルバムは今作が初めてだという。ロックをテーマに音色や音質の細部にまでこだわってレコーディングされ、楽器が奏でる歌や音楽を体感する喜びを存分に感じさせてくれる。今回は、芹澤“REMI”優真(key)と柳下“DAYO”武史(g)にインタビュー。8月から開催されるアルバムのリリースツアーを前に、今すぐにでもスペアザのライブに行きたくなる発言の数々! レコーディングの裏話から高校時代の友達同士で結成され現在まで続くメンバーの幸福な結びつきまで和やかに話してくれた。
テーマはロック!
初期衝動的な音楽を自然と求めて
――今回のアルバム『Anniversary』はどのように制作されたんですか?
柳下“DAYO”武史(g)「(コロナ禍で)ライブの数が減って時間もたくさんあったので。作曲活動だけじゃなくて、機材で遊んだり研究したりする時間が以前より増えたんです。今まで見過ごした部分をスタジオで再確認しながら作業してました。例えば、電源ケーブルだったり、タップだったり…」
――それによって音質もけっこう変わりますか?
芹澤“REMI”優真(key)「電源ケーブルを一本変えるだけで劇的に音が変わるんです。ギターアンプが変わるよりも変化します」
柳下「メンバーで音を比較したりしてたので、映像に撮ってたらYouTubeで公開できたなって(笑)。それはすごいプラスになりましたね。電源だけじゃなく、いろんな機材のことを詳しく深堀りできたので」
――ちなみに、今作のテーマというのは?
芹澤「テーマはロックです。カート・コバーンやオアシスのリアム・ギャラガーにいくつになってもずっと憧れているんです(笑)。俺、カート・コバーンの15コ上なんですよ。カート・コバーンが亡くなったのが27歳で、俺は今、42なんで。でも、背中を追っかけていますね」
――そういうロックに対する思いが再燃したんですか?
芹澤「というか、ロックが自分の中でずっと燻ってたので。俺らの音楽ではないから、表現しちゃいけないんじゃないかとか。自分らは違うスタイルを打ち出してきたから、止めてたところあるんですけど…。いや、違う、キーボードだからロックをやっちゃいけないなんてことはないし。キーボードが歪んじゃいけないなんてこともないし。自分が今出したい音はロックだと思って。だったら、ディストーションのファズのエフェクターに鍵盤をつないで、ロックな音を出して自分で表現すればいいじゃないかと。アティテュードも含めて」
――そんな思いはメンバー全員で共有されて?
芹澤「そうですね。自然となんですけど、コロナ禍で(メンバー)みんなの聴く音がシンプルなロックの方にいって。けっこう複雑な音楽を聴いてた時期もあったので、その反動というか…、ロック的な、初期衝動的な音楽を自然と求めるような時期だった。無意識でレッドツェッペリンやビートルズを聴いてたんですけど、他のメンバーも同じような時期に聴いてたりしてて」
――SPECIAL OTHERSの根っこにあるのはそういうロックだったんですね?
芹澤「ああ、でも根っこにあるのはJ-POPじゃないですかね。思春期の多感な時期に聴いてたのは90年代中頃のTMネットワークだったり、ユニコーンだったり、L'Arc~en~Cielだったり、その後、ハイスタ(Hi-STANDARD)とかメロコアのブームがきて、ビースティ・ボーイズやレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンを聴くようになる手前のJ-POP」
――なるほどね。
芹澤「日本の音楽ってAメロがあってBメロがあってサビがあって、最後に大サビくるみたいな、枠組みがしっかりしている曲が多くて。俺たち、そのメソッドを使うことが多いというか、ほぼそれなんですけど。アメリカとか洋楽のヒット曲はサビとAの区別がわかりづらい曲が多かったりして。お互いの良いところをとってJ-POPの枠組みに落としてるみたいな手法が多いですね。その根っこにあるJ-POP気質みたいなものがわかりやすいものに昇華させていくんですよね」
――だからこそSPECIAL OTHERSの音楽には親しみやすさがあるのかも。
芹澤「そうですね。みんなで盛り上がるのが好きだから。作法がわかってない人間をはじくような、知ってる度合いでヒエラルキーができるっていうようなのが、俺はめちゃくちゃ嫌いで。知ってる人も知らない人も、知らなかろうが知ってようが、楽しかろうが悲しかろうが、ライブに来てみんなで盛り上がれたらいいよねって。だから音にしてもライブにしても、全てにおいて、いちげんさん大歓迎なんですよね。だから何も気にせずあなたなりの、あなたの姿で、あなたの踊り方でいてくれれば、それが俺は一番嬉しい」
――それはバンド始めた当初から?
芹澤「(メンバー)みんなそう思ってると思います。バンド名にも現れてる。“SPECIAL OTHERS=特別な他人”っていうのも、全員のことっていう意味なんで」
――話は戻りますが、今回テーマがロックだったということですが、それで何を表現したかったんですか?
芹澤「イギリスとかのUKロックのカッコいいところを表現したかったですね。あと、野外フェスで、お昼の一発目に大好きな外タレが来てて、遠くから、ギャーンってギターが鳴り出したら、ウワーってみんなで走って寄っていく感じあるじゃないですか。コロナ禍になってあまり観れなかった、ああいう光景を頭の中で想像しながら、そういう音を鳴らしたいなぁ~と思ってましたね。それが、表題曲の『Anniversary』(M-8)のイメージですかね。この曲はVOXっていうイギリスのギターアンプを使ってます。それこそオアシスが使ってるような」
柳下「アンプは曲によっていろいろ使い分けてるんですけど、『Anniversary』は一番ロックを意識した曲かな。『Taimelapse』(M-5)とかも個人的にはけっこうロック的なギターのアプローチはしてます」
――4曲目の『Yagi & Ryoto2』は、イントロからどこか1960~70年代のロックを彷彿とさせるような音色です。
柳下「ああ、それはドラムの録音が、まさに当時の録音方法を模した感じでやったので。マイク3本で録音する、ビートルズとかのエンジニアがやってたような手法で録ったんです」
芹澤「ツェッペリンもそうだね」
柳下「当時はトラック数が足りなかったから、いたしかたなくそういう少ない本数で録ってたっていうのもあるんですけど。それをあえて真似して。今回4本で録ったんですけど。そうやって録ると、ちょっとレトロな雰囲気になったりするので。そのへんが、60,70年代の感じにさせたのかもしれない」
――個人的にはそういう音色にロックを感じました。
柳下「へー、なるほど!」
芹澤「確かに、こういう音像ってロックですよね」
――あの時代の代表的なロックバンドのドアーズなんかもキーボードが特徴的ですよね。
芹澤「キーボードとかはまさしくあの世代の考え方を、今回のアルバムには思いっきり再現しています。ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)とかが使ってるファズっていう、歪みのエフェクターがあるんですけど、ファズ自体は今もギタリストは使うんですけど、それをキーボードにつなぐっていうのは、今の人はしないんですよ。昔はピンクフロイドとか、プログレの人たちは使ってたんですけど。70年代のディープ・パープルのジョン・ロードもオルガンに歪みを加えるエフェクターを使ってて。本来はギターに使うものをキーボードにもガンガンに使ってるんです」
――それで芹澤さんのキーボードの音は歪んだ音色になってるんですね。
芹澤「そうですそうです! 70年代のビンテージのアンプを使ったりしてるので」
柳下「ドラムの話に戻ると、そのちょっと古いスタイルの録音方法で録ったのがこの『Yagi & Ryota 2』と『DECO』(M-7)と『Session 317』(M-11)ですね。本当は『DECO』だけをその録音方法で録る予定だったんですけど、その音がかっこよかったから、急遽レコーディングの当日にあとの2曲が新たに生まれました。本来は9曲入りのアルバムだったんです」
――その3曲の雰囲気にはクラシックロックが持つ深みも表現されているようで引き込まれます。そういうものがSPECIAL OTHERSの根っこにはあるのかなと感じたんです。
芹澤「確かに、好きですね。あのへんの思想や思考を含めて。自分たちの生まれた街も決して上流階級の街じゃないというか…」
柳下「労働者の街。横浜の鶴見というところで。今のNHKの朝ドラ(『ちむどんどん』)の舞台にもなってて。けっこういろんな人が集まる所で。昔から、外国人もたくさんいたし。いろんな人種の方と接することが多かったので。そういうのも自分たちの人格形成に影響してたのかなって思いますね」
芹澤「ロックってそういう街で生まれることが多いじゃないですか」
楽器の音に耳を澄ますような音楽
歌だと思って楽器で表現してる
――最後の『Session317』は純粋にセッションでレコーディングされたんですか?
芹澤「そうですね。コードもキーも何も決めずに、3月17日に即興でセッションしたんですよ。語弊があるかもしれないけど、何にも無い状態でキーボードもギターもどっちもが音を出そうとしてるって不自由じゃないですか。でも、不自由だからこそカルチャーとか面白いものが生まれてくるなと。楽器が買えないから、レコードプレイヤー2個を楽器として使ってそれをこすったらヒップホップが生まれたわけで…。でもそれは不自由なひとたちが自分たちをいかに楽しませるかっていう発想から生まれたものですよね。もちろん俺らは楽器が買えないほどじゃなく、幸せに過ごしてるけど。そういうところから生まれるものって強いんじゃないかな。それを総じてロックと呼んでも面白いんじゃないかなって」
柳下「実は、(アルバムの中に)歌が一曲も入ってないのは初めてなんです。今まで歌やコーラス的なものが入ってる曲が一曲は入ってたんですけど。今回は一切なくて純粋なインストゥルメンタルアルバムになりました。最近、ギターソロを飛ばしちゃうみたいな話題が上がってますけど。そういう方にこそ聴いてほしいアルバムですね」
芹澤「(スペアザの作品は)現代の風潮と逆光してますね。今って、15秒の動画で喜怒哀楽を感じるじゃないですか? なんなら起承転結をそこで感じるっていう。世の中に対して、俺らの9分の曲がどこまで集中力を持たせらるか(笑)」
柳下「最後の『Session 317』はほんっとにその場でなんの打ち合わせもせずに録った曲なので、細かいミスだったりも入ってるし、不協和音になっちゃったりするんですけど、そう言うのも全部そのままいれてるので、そういうところも聴いてみると意外な発見があって面白く聴けるんじゃないかなと]
――ライブでもやるんですか?
芹澤「完コピは無理だけど、セッションはいつも(ライブで)やってるので。『Session317』は、3月17日(録音日)のセッションはこうでしたっていう。だから、ライブをする日のセッションになります。今まで俺らのことをよく知らなかった人も、“どんなもんなのかな?”って思って聴いてほしいですよね。それでもし気に入ってもらえたら、ライブに遊びにきてほしいし、こんな音楽聴いたことがないっていう人も全員大歓迎してるんで、待ってます! 俺は、音楽って、(演奏している場所に)“みんな行ってみようぜ!”って思わせることができたら勝ちだなって。勝ち負けじゃないですけど…。それが一番理想の形かなって思ってて。“楽しそうなことやってんな、行ってみようぜ!”って思える存在になれたら一番嬉しいですね」
柳下「自分的に裏テーマがあって。こういうインストゥルメンタルを聴いて、みんな楽器をやってほしいなって思ってて。自分もやる側になって楽器って楽しい!ってなってくれたら、世の中がスゲ~平和になるんじゃないかな。良い世界が待ってるんじゃないかなって」
芹澤「楽器をやる人が増えたら、俺らの音楽を好きになってくれる人が増える気がしますね。楽器の音に耳を澄ますような音楽でもあると思うので。歌と同じぐらい楽器の音色に親しみを持ってもらえるような作品になってたらいいなと思いますね」
柳下「我々は歌だと思って楽器で表現しているんで」
音楽が好きで、友達と一緒にやってるだけ
続けられない理由がひとつも無い
――今作は音楽を体感する喜びを改めて感じさせてくれました!
芹澤「やっぱりそういうのが大事ですよね。結局、シンプルなことが一番幸せなんだって、コロナも気づかせてくれました」
――不自由になったからこそ大切なものを再発見したというかも。
芹澤「そうですよね。みんな欲張り過ぎて、自由なのに逆に不自由になってたんじゃないかなって。(コロナ禍以前は)飽和してたというか、便利を追求し過ぎて不自由になってたんじゃないかな。そっから解放されたいってみんな思ってる部分があると思うんですよね」
――今年はライブも活発化してますね。
芹澤「めちゃくちゃ増えましたね。ようやく、俺らの夏が帰ってきたみたいな(笑)。こんなにちゃんとフェスとか出るのは3年ぶりぐらいじゃないかな…」
――リリースツアーが8月11日(木・祝)からスタートしますね。
柳下「コロナ禍でもライブはやってたんですけど、これだけ数が多いのは久しぶりかもしれないですね。やっぱり(自分たちの)原点はライブにあるので、ぜひ遊びに来てください!」
――デビュー15周年が素晴らしいのはもちろんですが、このバンドが結成されてからもう27年なんですね。
柳下「そうなんです。でもそれを言うと迫力があり過ぎてあまり言いたくない(笑)。結成27年の重さがすごくて」
――SPECIAL OTHERSが高校時代の友達同士で結成されて、今までずっと続いている一番の秘訣は?
芹澤「逆に言うと、友達と一緒にやってるだけなのに続かない理由がないんですよね。音楽が好きで、ただ音楽を鳴らして…、こんな幸せな生活は無いんで。続けられない理由がひとつも無いって感じです。それは死ぬまで…(笑)」
Text by エイミー野中
(2022年6月30日更新)
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