「定番の曲や懐かしい曲に新曲を混ぜた構成で、馬場俊英って
これだよね!っていうイメージがあるものを観てもらえたら」
3年半振り通算16枚目のオリジナルアルバム『Q&A』をリリースし
2年ぶりの東名阪ホールツアーを開催! 馬場俊英インタビュー
2020年にデビュー25周年を迎えながら、コロナ禍の影響でコンサート活動の縮小が余儀なくされたこの2年。その間も、音楽活動は休むことなく、2021年は『マンスリーミュージックショー』と題して3月から12月まで10ヶ月連続のシングルリリース企画や、配信番組など新たなチャレンジを精力的に行ってきた。そして、2022年は待望のニューアルバム『Q&A』が5月11日にリリースされて、2年振りとなる東名阪ホールツアー『HERE IS MY ANSWER』が開催中。ツアータイトルには「全ての答えはここ=LIVEにある」という想いが込められており、今だからこそ届けたいオールタイムからの選曲でベスト・オブ・馬場俊英を!との意気込みで臨む。今回のインタビューではニューアルバム『Q&A』に至るまでの制作秘話も含めて、真摯に笑顔で語ってくれた。
今まであまり書いてないようなことも歌に
自分が作りたいものを自由に作るという考え方で
――2020年にデビュー25周年を迎えた時はどのような心境でしたか。
「デビューした頃は、こんなに長く音楽活動を継続していられるなんて想像してなかったので。50代になっても変わらずにギターを弾いて歌を歌って暮らしてるなんて本当にいろんな出会いに恵まれて続けてこられたなと。25周年のコンサートを予定していたんですけど、その開催が叶わずに、なかなか難しい大変な時期でしたが…。コンサートができない間は、また次の一歩を踏み出すときがきたら、それはどんなイメージでどんなものを目指して行くのか…、そういうことを考える時間にもなりましたね」
――その間も新たな楽曲作りはされていたんですね。
「コンサート活動と並行している時はこういう風に歌おう、こんなふうに語りかけようとか、ライブで歌う姿をイメージして作ることが多いんですけど、自分が歌い難いような曲でも作ってみたり、今まであまり書いてないようなことも歌にしたりして、自分が作りたいものを自由に作るという考え方で作っていました」
――そういうプロセスを経て完成したのが今回のニューアルバム『Q&A』なんですね。
「そうですね。この2年間は多くの方にとっていろいろ変化があって、それにどうやって対処していこうかってみんな考えたと思うんですね。仕事も私生活も含めて、これを機会に生き方をいろいろ見直した人が多いみたいで。僕もこれからのことを考えた時にいろんな問いかけから曲が完成したことが多かったことから、このアルバムタイトルにしました」
――馬場さんの歌声もやさしさが増したように感じました。
「意識してなにか変えたということもないんですけどね。自然にそうなったんですかね…今回はライブで歌うことを想定せずに作ったので、歌い難かった曲もあるんですが(笑)。いつもは割と歌いやすさみたいなことを考えるけど、今回は作る方に重きを置いていたので。それでちょっと変わったところはあるかもしれないですね」
――今作では『天気雨』(M-3)という斎藤誠さんのカバー曲も歌ってらっしゃいます。
「この曲が好きだったのはもちろんですが、こういうボーカルスタイルの曲が自分で作れなかったので。斎藤誠さんのこの曲で、自分がやりたかった歌い方が自分なりにできるなと思って今回収録したんです。どうしてももっと上に行きたくなるんですけど、この曲は中低音を上手く使って歌っているので。ボーカリストとしてちょっと新しい感じになっています。今までとはちょっと違ったタイプかもしれないですね」
『世界のみなさんこんにちは』は今までありそうで無かったテーマ
50代の男性の新しい恋について歌っている
――1曲目の『桜新町』は馬場さんご自身の経験から生まれた一曲ですか?
「これはもう本当に私小説みたいな世界観で。自分の生活にあったことを基本にして歌にしました。いろいろ思い出のある街なんです。一曲目はすごく悩んだんですよね。何から始まればいいんだろうと思って…。この曲はシンガーソングライターっぽくてよかったんじゃないかな」
――個人的に『飛行機雲』(M-2)にはとても引き込まれました。
「これは自分のこととも言えるし、そうでもないとも言えるんですけど。やっぱり、常に裏腹な気持ちって抱えてるというか。ものすごい未来に対してポジティブに考えて、次の一歩にすごい意欲的な時もあれば、この時の流れから少し外れたいというような…、誰もが、“もしも”の世界観を持ってると思うんですね。僕にもそういうことがあるんですよね。そういう心情を率直に書いた曲です。なんというか、虚しさや無力感みたいなものですかね…。(考えながら)難しそうだなって思っちゃう時ってたくさんあると思うんですよ。でも、まだどこか諦めてないところもあって」
――『ひぐらしの歌』(M-8)もご自身のことを投影されているのかなと。カナカナと鳴いているのが馬場さんでしょうか?
「はい、そうですね。コロナ禍でいろんな問題山積の中で、どうしようかな…どうしたもんかな…って、“カナ”というのがモチーフになって(笑)。“カナカナカナカナ”で、ひぐらしだなと。この曲はコロナ禍の距離感というものがテーマになっていて。自分自身といつもライブに来てくださるファンの方、そんなところからスタートして作っていきました」
――この曲調を聴いていて、80年代ポップスを思い出したのですが、カルチャークラブ(『Karma Chameleon』)へのオマージュのようで。
「はい。それは途中で気づいて(笑)。イントロにハーモニカを入れたのはそこに寄せようと思ってアレンジしました」
――『APOLLO』(M-11)に出てくる“君と僕”はどんな関係なのですか。
「この曲の“君と僕”は聴いた方のスタンスでいいかなと思ってるんですが。自分自身でもいいでしょうし…、まあ身近にいる大事な存在で。お子さんでも、パートナーでもいいでしょうね」
――タイトルを“APOLLO”にしたのは何かきっかけがあって?
「それは最初、タイトルが無いまま曲を作り終えてしまって。タイトルをどうしよう?と思って考えてたんです。この歌で一番言いたかったフレーズが、“次の一歩がどんな一歩でも、そこから始まるんだ”っていう部分だったんですけど。車に乗りながら録音した曲を聴いていて、“次の一歩がどんな一歩でも…”という歌詞を聴きながら、“この一歩は小さな一歩だけれど、人類にとっては大きな一歩だ”っていう言葉を思い出して。あ、これは“APOLLO”っていうタイトルでもいいなあって思いながら、ガソリンスタンドに停まったんですよ。そこが、たまたま出光アポロステーションだったんです。あ、“アポロに来た!”と思って(笑)。ちょっと誰かに伝えたいぐらいだったんですけど(笑)。これはもうアポロだなと、間違いない!と思って」
――そんなエピソードがあったとは! この曲も応援ソングだと思いますが、なんだかロマンを感じるタイトルですね。アポロは人類初の月面着陸を成し遂げたロケットですよね。
「ああ、感じますね~。やっぱり人の願いみたいなものとか、未来とかスケールの大きさも感じるし…。人は小さな存在ですけど、想いは無限大というかね」
――ラストの『世界のみなさんこんにちは』(M-12)はすごくハッピーな家族の物語が描かれています。
「これは自分の中では、今までありそうで無かったテーマで。50代の男性の新しい恋について歌っています。男性の作品って少年性みたいなところからなかなか抜けられなくて、いつまでも変わらない少年の気持ちみたいなものが出てくるんですが。50代とかのスタンスからの恋愛みたいなものにチャレンジしたんです。登場人物が何人かいて、それぞれのエピソードが絡みあって進んでいくっていうのを4分ぐらいの世界観で歌ってみたいなと思って作りました」
――『ケムシのうた』(M-5)はちょっと歌謡曲っぽい雰囲気ですね。
「こういう曲はあまりなかったかもしれませんね…。これを作った時は自分で感動があって、割と納得がいく曲に仕上がっています。特にイントロのギターが80年代のエッセンスがすごいあって。ギタリストの斎藤誠さんとアレンジをしてくださった五十嵐宏治さんが、“これが沢田研二みたいでいいんだよ”って(笑)。キャッチーな80's歌謡っぽいところがありますね。ライブでも盛り上がる曲です」
――KANさんとのコラボ曲『スマホになりたい』(M-9)の世界観も今までないような一曲かなと感じましたが。
「そうですね。『スマホになりたい』はKANさんに歌詞からメロディ、アレンジまですべてお付き合いいただいて。一緒に作っていったんです。なので、KANさんのセンスがふんだんに反映されていてポップに仕上がりました。自分だけでは絶対に作ってない感じなんですけど(笑)。(こういう曲を)作りたくないわけじゃなくて。ファンの人がたぶん望んでないかなとか(笑)、自己規制をして、やめちゃうものってたくさんあるんですよ。今回は、KANさんがご一緒なので、KANさんが書かれたふうにみせかけて、実は僕が書いた言葉やフレーズもあったりするんですけど。いいチャンスだったんですよね(笑)。KANさんの懐に入り楽しませていただきました。」
――そうなんですね(笑)。そういう意味でも今までにない馬場さんの表情が楽しめる一枚になっていますね。全体的に今作は70~80年代のポップ感やシティポップに近いようなサウンドやアレンジのように感じましたが。
「そうですね。僕もまさに70年代の音楽を中心に聴いてきて、そこがベースになっているので。意識せずともそういうところが基本にあって。コロナ禍だからこそ明るいものにしたいっていうのがあったんでしょうね。(昨年)毎月新曲を届けるという企画をやって。その頃は、すごい不安の中で過ごしている方がたくさんいたと思うんですね。で、当時はやっぱりすごく明るいものを出したいと思っていたので。(今作の)サウンド面はすごくポップになってますね。本能的にそうしたんですかね…」
いろんな楽器の音色を曲ごとにほどこして
リラックスして楽しんでもらえるサウンドに
――今回のツアー『HERE IS MY ANSWER』が5月15日からスタートしていますが(※インタビューは5月18日に行われた)、初日を終えてどのような手応えでしたか。
「僕らもいろんな気持ちで臨んだコンサートだったんですけども、お客さんもやっぱり並々ならぬ思いを持って来てくれているんだなということが伝わってきました。(声が出せなくて)拍手が唯一の表現手段なので、すごい一生懸命拍手をしてくれるんです。次の曲に行きたいんだけど、(拍手がやむのを)待ってるみたいな感じで。そういうことが何回もあって…。(こっちも)ひとつひとつのライブを大事にしていかないといけないなと思ったし、ツアーを再スタートできてよかったなと思います。引き続き感染対策をして、制限されていることもありますが、なんとかライブ活動を軌道に乗せて、以前のような形に少しでも近づけていけたらいいなと思っています」
――今回のステージはどんなバンドセットになりますか。
「今回は私がギターとボーカルで、ピアノ、ベース、もうひとりギターの4人でやっています。アコースティックの時もあれば、バンド風のサウンドもあって。グランドピアノもあれば、昔のエレクトリックピアノや古いビンテージのオルガン、アナログシンセとかいろんな楽器の音色を曲ごとにほどこしてシンプルな色を楽しんでもらえるようなアレンジで。じっくり座ってリラックスして楽しんでもらえることをイメージしたサウンドになっています」
――ちなみにドラムはいないんですか?
「今回ドラムはいないんですけど、不思議とビートが聴こえてくる演奏になっているんです。ドラム無しでベースを弾くのはすごく難しいんですけど、グルーヴをちゃんと出して、ギターとの兼ね合いでリズムがすごい感じられるアレンジになっています。70年代のジェームス・テイラーとキャロル・キングがふたりでやってるみたいな感じです。でも、賑やかな演奏もあって、お客さんが立ち上がって一緒に盛り上がれる曲もあるんですけどね。アナログ感満載だけど今風です」
――今回のツアーは新作が出た直後なので、新曲中心かと思いきや、オールタイムベストな選曲なんですね。
「ニューアルバムの曲もたくさんやりたいんですけど、まだまだ会場に来れない方も多くて、新曲ばかりで構成してやると、ライブに来れない方が疎外感を感じて、ライブに行かないことが距離を生んでしまうかもしれないなと思って。あまり先走らずに、定番の曲や懐かしい曲に新曲を混ぜた構成にしています」
――新曲も披露しつつ、馬場さんの原点を感じさせてくれるライブになりそうですね。
「そうですね、馬場俊英ってなんなのということを、改めて感じてもらえるようなライブにしたくて、『HERE IS MY ANSWER』というツアータイトルしたんです。原点に戻って、馬場俊英ってこれだよね!っていうイメージがあるものを観てもらえたらなと思っています。そもそも何がしたくて音楽活動をやっていて、何が魅力で、こんなふうにやっているのか、自分なりに届けたい、そんな時間を作れたらと。コロナ禍で生活環境がいろいろ変化して苦労されてる方もいらっしゃると思うんですけども、都合がつけば、ぜひ足を運んでもらって、音楽を楽しんで力を持って帰ってほしいなと思っています」
Text by エイミー野中
(2022年6月 2日更新)
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