“自分自身の光りかた”を探す旅がはじまる。
リーガルリリーのコンセプトツアー『Light Trap Trip』
初日ライブレポート
4月23日(土)京都・磔磔にて、スリーピースバンド・リーガルリリーのツアー『Light Trap Trip』が幕を開けた。本ツアーは、2022年1月にリリースされた2ndアルバム『Cとし生けるもの』の世界観をより深く表現するために、アルバム収録曲『セイントアンガー』の歌詞から“光”というキーワードにフォーカス。“光” を軸に、リーガルリリーの楽曲が持つ様々なテーマに向き合うコンセプトツアーだ。“Light Trap”とは“誘虫灯”のこと。2019年の東名阪ワンマンツアー『羽化する』から続くストーリーでもある。光に誘われて虫たちが集まるように、“羽化した”リーガルリリーと観客が会場に集い、自分自身の“光りかた”を探す旅。バンド史上最大規模の全国13カ所で行われる。なお、本ツアーの世界観を伝えるため、リーガルリリーは初のライブ音源『Regallily Live “Lumen”』を配信限定リリース中。4月18日から毎週月曜に1曲ずつ、全5曲が配信されている。今回ぴあ関西版WEBでは、『Light Trap Trip』ツアー初日の模様をレポートする。磔磔でどんな光が響いたのか。特別な夜を、ネタバレなしの可能な範囲でお届けしよう。
一歩足を踏み入れると、そこは森の中の「Light Trap」
京都・磔磔は今年5月15日に築105年を迎える老舗ライブハウス。元酒蔵だった木造建築の佇まいは独特で、重厚な歴史を感じさせる。会場内の壁にはこれまで開催された大物ミュージシャンのウェルカムボードが飾られ、ステージ背後の壁にはツタが張り巡らされている。ライブには、ハコの持つ力も大いに作用すると思うのだが、磔磔は特にその力が強いと感じる。ステージが低く熱がこもるため、たとえば背の低い人だと決して見やすいハコとは言えないが、音が良くて距離が近い分、磔磔で見たライブは必ず記憶に残る気がする。MCで海(b)が「磔磔のドキュメンタリーを見たことがあるんですけど、こんなに素敵なライブハウスがあるんだと思ってずっと出たかったので、本当に今日ここで初日を迎えられて嬉しいです!」と笑顔で話していたが、ミュージシャンにとっても磔磔は特別なものを感じるのかもしれない。
前置きが長くなった。ツアー初日のこの日、チケットはソールドアウト。会場に入ると、『Light Trap Trip』ツアーの特別な演出で、いつものライブハウスとは明らかに違う空間が広がっていた。加えて初日ならではの緊張感が漂う。満員御礼で集まったオーディエンスも、どこか期待と不安が入り混じった表情を浮かべていた。何となく“最高の夜になりそうだ”と感じ、静かに開演の時を待った。
定刻になり、メンバーが登場する。磔磔の楽屋は2階にあるため、メンバーはフロア後方にある階段からオーディエンスの間を通ってステージに向かう。いわゆるプロレス入場だ。歓迎の拍手に迎えられた3人は、それぞれ楽器を持ってスタンバイ。
セットリストは“光”を軸にした楽曲で構成された。『Cとし生けるもの』に収録の12曲と、新旧織り交ぜた楽曲たち。詳細にレポートしたいところだが、直接会場に足を運んだ人だけが楽しめる演出が多数あること、そして、これから“光りかた”を探しに来る人たちに当日のドキドキを味わってほしいため、セットリストは伏せることにする。『Cとし生けるもの』の曲のみ、アルバム収録順でお伝えしよう。少しでも『Light Trap Trip』の雰囲気を感じ取ってもらえると幸いだ。
『たたかわないらいおん』のイントロでは、たかはしほのか(vo&g)のギターソロが鋭く鳴り響いた。海とゆきやま(ds)がジョインし、サウンドに厚みを増す。磔磔の天井を突き抜けていきそうなたかはしの高い歌声はなめらかで力強く、まっすぐに前を見て歌う姿に、フロアも応えて拳を上げた。
本ツアーのテーマ曲になっている『セイントアンガー』。曲前のMCで、たかはしは「今回はコンセプトツアーということで、たくさんの光をセットリストに散りばめていて。光の見えかたは人それぞれだと思うんですけど、その時の心の濃度で光りかたも変わっていくと思います」「光って、私は響くという言葉が合うのかなと思います。いろんな場所に響き渡る。“それぞれの光りかたの光っていうのは私たちなんだよ”という曲をやります」と語った。クリアな歌声と疾走感のあるロックサウンドが会場を満たし、<みんな光りかた探していた>という、このコンセプトツアーの核になった歌詞が響く。オーディエンスは体を揺らしながらも、“自分はどんな光りかたを探しているのだろう”、と自問しながら曲を聴いていたのではないだろうか。何も考えず、ただ音に身を任せて楽しむのもライブの醍醐味だが、コンセプトがあると意識して何かを見つけたり、受け取ろうとしたりする。メンバーも“伝えたい”という強い想いから、一層魂を込めて演奏しているように感じられた。そのエネルギーで熱量が高まり、一体感は最高潮に。力強さの中に、柔らかくてあたたかい、開かれたものを感じたステージングだった。
たかはしが「『惑星トラッシュ!』」と叫ぶと、オーディエンスは歓喜の拳をアップ。たかはしの高音ボーカルと海の美しいコーラスワーク、トランスしそうなほどエモーショナルなリズム隊の演奏で、ものすごい没入感に包まれる。フロアは無心になって体を揺らす。歌詞の影響もあるだろうか、まるで全員で一緒に宇宙旅行に出たような5分間だった。
『教室のドアの向こう』では、「高校生の時に1番だけ作って、大人になってから付け足した曲があります」とたかはしが曲紹介。1番はたかはしの弾き語りで進み、2番は3人でプレイ。最初はたかはし1人で作った楽曲が、メンバーと出会い現在のリーガルリリーで完成した、そんなバンドの歴史とリンクしているように感じられた。
東京のJR中央線と同じオレンジのライトがステージを照らした『中央線』では、会場の勢いがさらに加速。そして『東京』では、リーガルリリーの激しさとダークさを表現した。<闇に撃ち放つ 僕の照明弾>の歌詞を体現するかのような眩しい閃光の照明で、目の前の景色が止まった錯覚に陥る。一心不乱に楽器を鳴らす海とゆきやま。ステージから放たれる轟音に意識が持っていかれそうになった。曲が終わると爆発的なパフォーマンスに釘付けになったフロアから、大きな拍手が贈られた。
切ない歌声が哀愁を感じさせた『きれいなおと』、ゆきやまが大きくスティックを振りかぶり、豊穣なリズムをはじき出したメロディアスな『風にとどけ』、キラキラとした疾走感でパワフルに駆け抜けた『ほしのなみだ』。どの曲も情緒豊かで、感情にダイレクトに訴えかける。躍動感と生命力をたっぷりと孕んだステージングを見せつけた。
たかはしがカッティングでギターをかき鳴らすイントロから始まり、一気に加速度を増した『9mmの花』。短めの曲だが、思いっきり力を込めるように3人とも下を向いて激しくプレイ。サビでは客席も溜め込んだパワーを発散させるように大きく体を揺らす。
『アルケミラ』では、ディープな世界に導いてゆく。暗いグリーンの照明に背景のツタが相まってジャングルのような雰囲気に。やがて爆音と高音で満たされた3人のアンサンブルには、えも言われぬ迫力があった。<おやすみ世界>という歌詞により、恍惚状態で異世界に引っ張られる。このトリップ感はすごかった。
アルバムの最後に収録されている『Candy』は、たかはしの丸い歌声が全身に溶けるように染み渡る。未来を想起させる歌詞で、彼女たちや私たちが向かう方向を指し示してくれているような気持ちになった。
終始、幻想的で濃厚なパフォーマンスを提示していた3人だが、アンコールのMCでは「今日からライブ衣装変わったんですよ。ちょっと京都っぽくないですかね?」(たかはし)、「かわいいからお披露目したいっていうだけなんですよ」(海)、「(笑顔で見守る)」(ゆきやま)と、ほんわかゆるいトークを繰り広げた。本当に、演奏中とのギャップに驚かされる。
こうして『Light Trap Trip』ツアー初日は大団円を迎えた。リーガルリリーというバンドが持つ光と影、魅力、センス、演奏力、生命力が惜しみなく発揮されたライブ。3人から溢れ出すコントラスト、楽曲の世界観を存分に彩り引き立てる照明演出、歴史ある空間にうまれる光、そして光を探しに来た観客たち。全てがこの日のライブを作り上げていた。
メモを取る手が思わず止まるほど、引き込まれる瞬間が何度もあった。ライブの中で、旅をしている開放感や泥臭さ、人間臭さを感じた。終演後、しばらく放心状態になってしまうほどの余韻を残してくれたリーガルリリー。会場を出ていく来場者は、この空間で感じた音や光、想いを噛みしめるように、あるいは反芻するように、大切に抱えて持ち帰るように、ゆっくりとした足取りで現実に戻っていった。
磔磔を皮切りに7月まで続く『Light Trap Trip』ツアー。今、リーガルリリーから発信されているコンテンツは全て、このツアーをより深く感じ取るためのものだと言っても過言ではない。それらを享受してからライブに行く方が、光を探す旅の行程は濃いものになるかもしれないと、個人的には思う。なんにせよ、“アルバムを伝えたい、届けたい”という強い想いと、彼女たちの現在地を目撃してほしい。魅惑的な“Light Trap”に思い切って飛び込んでみてはいかがだろう。
Text by ERI KUBOTA
(2022年5月13日更新)
Check