音楽の絆で結ばれた野口五郎との初コラボアルバムを携え
心揺さぶるツアーヘ
岩崎宏美インタビュー
47年もの長きに渡り日本歌謡界の第一線を走り続ける岩崎宏美と、彼女同様に10代から活躍し多数のヒット曲を持つ野口五郎がタッグを組んだアルバム『Eternal Voices』が、5月13日(金)に発売される。圧倒的な歌唱力を誇る2人が初めてコラボレーションしたこの作品に注目が集まるのは当然だが、同作発売の翌日、5月14日(土)から幕を開ける全国ツアー「2022プレミアムコンサート~Eternal Voices~」も話題に。そこで、リリースとツアーを目前に控え多忙を極める岩崎をキャッチし、アルバム制作の裏側やツアーの見どころなどについて話を聞いた。
――『Eternal Voices』は野口五郎さんとの初コラボレーションアルバムですが、制作はいかがでしたか?
「このアルバムは五郎さんがディレクターをしてくださいました。4月25日でデビュー47周年だったんですが、これまでディレクターからここの部分はこうやって歌ってくださいっていうような指示はあまりなかったんですよ。ここは音程が甘かったですというので歌い直すことはありましたけれど。だから(詳細なディレクションを受けたのは)初めてで、あ、こうやってやるんだって思いながら、すごく新鮮な思いで歌いました」
――では新発見や初体験がありそうですね。
「ありましたね。私は合唱団出身なので、どちらかと言うと清く正しくっていう歌い方なんです。それにラジオ番組で“うたのおばさん”として知られた歌手の方で、『スター誕生!』(オーディション番組)の審査員だった松田トシ先生からずっと歌を習ってきて、当時からブレス、つまり息継ぎはあまり音を立てないようにって教わってきたんですけれど、今作でカバーした『ワインレッドの心』(1983年リリースの安全地帯の曲)のレコーディングの時は、もっとブレスが聴こえるようにしてくださいって言われたんです。でも今までやってないものを急にやれって言われても!って(笑)。ハァッ(ブレスの音)ってすごく大変でした。ここでもブレスするの?っていうようなところまで細かくブレスを入れなさいって言われて、自分の歌が少しずつ変わっていったのが驚きでしたね」
――さて『Eternal Voices』には野口さんとのデュエット曲『好きだなんて言えなかった』も収録。野口さんのハイトーンが響きます。
「音域は同じくらいというか、五郎さんの方が広いんですよね。そもそもこの曲のきっかけは2年前の暮れに何十年ぶりくらいで五郎さんに再会してカーペンターズの『スーパースター』を一緒に歌ったこと。その時、2番のフレーズを(野口が)私と同じキーの高い音で歌ったんですよ。だいたい男性はキーを下げて歌うんですけれど、そのままのキーで、え、どこから出てるの?っていうような(笑)。まずはそこから始まっているんで……(ハイトーンが響く)」
――その高音とマッチする岩崎さんの落ち着いた歌声がすばらしい。どんな風に録られたんですか?
「『好きだなんて言えなかった』は五郎さんと初めてコラボした曲だったので、最初、私もどうやって歌っていいか、ちょっと悩んでいたんですけれど、私のパートを録る時に、ぶりっ子して歌ってくださいって言われたの。私、63年生きてきて、ぶりっ子して歌ったことが一度もないんですよ。私の中にぶりっ子の存在がなかったから、ぶりっ子?って思って、結構ドキドキしちゃって(笑)。フリルのワンピースとかもあまり着ないで育ったから、ぶりっ子っていう言葉が強烈でした。でも、そうやって戸惑うところが欲しかったみたいです。ま、松井五郎さんから『好きだなんて言えなかった』の歌詞が届いた段階ですでに、なんて歌詞ができちゃったんだ!って戸惑ったんですけれどね。でもそのうえにレコーディングでぶりっ子してって言われたのは、頭を2回はたかれたみたいな感じでしたよね(笑)」
――詞は恋心が再燃するかなりドラマチックな内容ですもんね。
「ドキドキして歌ってもらいたかったらしいです。歌詞を見て改めてドキドキする時の感覚をちゃんともう一回……(取り戻す)そして曲を聴いて今までないぶりっ子で歌うという」
――なるほど。以前ある音楽番組で、岩崎さんが昔の自分と闘って悩んでいた話をされていて、それに対して野口さんが初心には戻るけど闘わなくてもいいというようなことを言っていたのを思い出しました。今回も闘わず初心に戻ることを目指されたんですかね。
「そうですね。でも、年配の歌い手さんはみんな(過去の自分との闘いに)悩んでいると思いますよ。普通は(年齢を重ねると)ホルモンのバランスとかで声って高い音が出なくなって音域が下がるんですけれど、野口五郎に関しては……あの人、昔のままの音域で歌っているので、それ(昔の自分)は関係ないって思ってるみたいなんですよ。関係なくはないだろう!って(笑)」
――野口さんは特殊なんですね(笑)。
「特殊だと思います。あの人、オタクだから(笑)。ギターもだし、20代で建てた家にスタジオを作った人ですから。音楽オタクなんですよ。だから最近、私、使えるオタクって呼んでますもん(笑)」
――できるオタクですね(笑)。
「本当に学ぶところがたくさんあります。あと(野口は)非常にデリケートで、だからそれだけ(繊細に)音が聴こえてるのかなって思いますね。あ、五郎さんはA型で私はB型なんですけれど、私の言うこと一つひとつに傷つくことがあるみたいです。だからこれ以上、五郎さんを傷つけないように仲良く頑張りたいと思います(笑)」
――ツアー中、何事もないといいですね(笑)。
「ケンカしないようにね(笑)。ま、でも47年前から知ってますからね。幼なじみみたいなもん。たぶん家族より(付き合いは)長い(笑)」
――そんな2人が共演する今年のツアーが間もなく。昨年は東名阪で公演がありましたが、どんな思い出が?
「初日の名古屋のことだったんですけれど……。野口五郎っていう人はアイドルだったし、私も世に出た時はアイドルだったかもしれないですけれど、私はこういう(サバサバした)性格なので、今、ファンの人たちはすごくフレンドリー。岩崎宏美親衛隊っていうのもあるんですけれど、あ、お疲れ!って、うちの若い衆みたいな感じで(笑)。でも五郎さんのファンの方たちはあの頃と同じポジション。五郎さんのことは別格なんでしょうね。で、名古屋のコンサートでも、私たちへの拍手がすごく温かくて感動しましたね。帰りの名古屋駅でもファンの方がいっぱいいて、この光景って昔あったなっていう。10代の時って(騒ぎにならないように)普通に改札口を通らないで地下から出るとかあったんですけれど、その頃を思い出しました」
――すごいエピソード。
「(野口のファンは)その当時のままの気持ちなんですよね。だから五郎さんはファンの人たちが(ホームに集まって)怪我しないように、新幹線に乗り込んでも(姿が見えない)デッキの奥に行くんですよ。私は席にすぐ行ってバイバイとかやってるんですけれどね(笑)」
――ファンのキャラクターが全然違うんですね。
「うちのファンの人たちは、“I♥宏美”って書いたTシャツを着て鉢巻をしてるんですけれど、そうしたら五郎さんのファンの方たちも“I♥野口”って書いたTシャツを着ていて。うちのTシャツは白色だけど五郎さんのは緑色で、色違いでファンの方が作られたみたい。ファン同士が仲良くなっていて、すごくうれしかったですね」
――では次に『Eternal Voices』を携える今年のコンサートのことも。昨年よりパワーアップする点はありますか?
「石川県の金沢と東京に関してはオーケストラとの公演になるんですよ。すごいプロジェクトになってきたなって(笑)。東京は東京フィルハーモニー交響楽団、石川県はオーケストラ・アンサンブル金沢です」
――豪華ですね。ちなみにMCも気になります。と言うのも野口さんはバラエティ番組の「カックラキン大放送!!」でも活躍されていて、おもしろい人というイメージが。
「あ、刑事ゴロンボ(野口のコント)ね(笑)。めちゃくちゃおもしろいですよ。ずっとおやじギャグだもん(笑)」
――でも岩崎さんも似たイメージです。すみません!
「ま、私も普通じゃないかもしれない(笑)。MCはね、去年うちの妹が東京の公演を見に来た時、第一部のしゃべりは『カックラキン』みたいだったって言ってました(笑)」
(スタッフ「昨日、ラジオ大阪の番組に出たんですけれど、番組パーソナリティの原田年晴さんは、NGKよりおもしろいと言ってました」)
――NGKってなんばグランド花月ですよね。芸人さんよりおもしろい⁉ 野口さんとの掛け合いも楽しみです。
「でも、2人には筒美京平さんにたくさん曲を書いていただいているということと、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の初演メンバーだったという共通点もあって、音楽の絆もすごく強いので、歌ってる時もすごいですから」
――コンサートには「レ・ミゼラブル」のコーナーもあるとお聞きしました。
「(出演時は)五郎さんはマリウス役で、私はファンテーヌ役だったんですけれど、ジャン・バルジャンの歌も、エポニーヌの歌も歌います。去年は違ったので、そういう意味では『レ・ミゼラブル』のコーナーはちょっとバージョンアップしてますね。30分ぐらい歌だけで何もしゃべらないです」
――MCとの落差があって感情が揺さぶられそうです。
「そうそう、いつもコンサートに来てくれるお友達がいるんですけれど、(昨年の公演終了後は)みんなのテンションが異常に上がってたんですよ。なんでそんなに上がってんの?っていうくらい。でも、歌い手としての宏美の格がまた上がったって褒めてくれるから、じゃあいいんだって思って(笑)」
――それを聞くとツアーがますます楽しみになります。では最後に、関西の方が多いと思いますが記事を読んでいる方にメッセージを。
「関西の方のお笑いのハードルは高いと思いますが、認めていただけるような楽しいステージにして参りたいと思います(笑)。そして歌はじっくりと。野口五郎・岩崎宏美なら知ってるじゃなく、2人の本当の生の歌声に触れていただきたいので、ぜひ会場に足を運んでください」
Text by 服田昌子
Photo by 河西沙織
(2022年5月10日更新)
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